4話:人形遣い
『それはディセリーヌが接続するガータ・ウァイがリオンに変更されたため、そのプロトックオールの影響を受けているからだ』
…はい?もっとわかりやすく教えてよ、ググレーン。
ボクは白目むいてたディセリーヌが、とりあえず大丈夫だったのかどうか知りたいだけなんだけど?
そして早く寝たいんだけど。
『簡単に説明すると、ディセリーヌがリオンに従うことに決めた、ということだ』
ディセリーヌがリオンに従うことに決めた?
…それって何か関係があるの?
『リオンに従うという事は、魔王ダムリアードの配下を離れることを意味する。ディセリーヌの解釈は違うようだが。いずれにせよ他の魔将の反発は必至だ』
そういうことになるよね。それってトラブルの予感しかしないんだけど…。
何とか変えることはできないの?
『外部からの強制によりガータ・ウァイを変更することはできない。だが良いこともある。リオンに従っているため、ディセリーヌはリオン自身の規範や常識の影響を強く受けるようになった。リオンが持つ人族の常識や価値観をディセリーヌは出来るだけ守ろうとしている。無意味に人族を害することはないと思われる』
うぐぐぐ。た、確かにディセリーヌが暴れないのはいいことだけど…。
リオンの常識や価値観は、姉のボクから見ても真っ当なものだ。リオンの常識に従ってくれるならいいんだけど。
…でもラフラカーンはどうなの?
『ラフラカーンはディセリーヌに従っているため、同様にリオンの規範や常識の影響を強く受けるだろう』
ならまあ大丈夫…かな?
ボクから見ても、ラフラカーンは自分の主には激アマだからなぁ。
『ディセリーヌがリオンに従うことで、もう1つ利点がある。それはレオナ殿がディセリーヌとラフラカーンに対抗できる手段を持っていることだ』
うん?ナニソレ?
例の【魔族の本音】スキルってやつ?
『それではない。さきほどの踵落としだ。リオンはレオナ殿の踵落としを必中・必殺の技と考えている。このため実際の威力に関わらず、ディセリーヌもまたその価値観に従っている。よって現在、ディセリーヌを踵落とし一発で撃破できる人族はレオナ殿だけだ』
…ほ、ほう。
魔将とか偉そうにしている割には、簡単に白目むくなぁ…とか思ってたよ。
リオンがボクの踵落としを過大評価しているから、ディセリーヌはあれを避けられないし、食らって大ダメージ受けちゃうんだ。
それにしても、リオンはボクのことどういう風に考えてるんだろう?
ちょっと問い詰める必要があるかもな。こんなに優しいお姉ちゃんなのに!
…でもどうせ短い旅の間だから、いいか。
隣のベッドを見ると、すうすう寝息を立ててリオンはもう眠っている。
ボクは無理やり自分を納得させて、リオンとそれぞれのベッドで眠りについた。
明日はまた徒歩旅かもしれないから、体力を回復させないとね。
眠りに落ちる前、もう一度白目をむいたディセリーヌの間抜けな顔を思い出して、クスクス笑った。
◇◇◇ ◇◇◇
「リオンに頼みがある」
朝になって、パッチリと目を覚ましたディセリーヌはリオンに何か頼んできた。
ボクはその機嫌が良さそうな顔を、寝不足でショボショボする目でジロリと睨む。
だけどディセリーヌはボクの事など見えてないように話を続けた。
「実は今日の昼前に、オクトリーナ様に挨拶に行く予定になっていてな。それでお土産に蜂蜜焼きを10個ほど余分に貰いたいのだ」
「オクトリーナって誰さ?」
「序列10位の魔将だ。ノベリアの隣の領域を支配している。オレの上長にあたる方だ。ノベリアのちょっかいが面倒だし、この先オクトリーナ様の支配領域の近くを通るので挨拶する約束を今日の昼に取り付けているのだ。甘いモノがお好きなので、リオンの蜂蜜焼きを持っていくと、きっと気に入ってオレに便宜を図ってくれると思う」
ディセリーヌはそういうと「オレは今、とても仕事をしている!」と言わんばかりのドヤ顔をした。
簀巻きにされたまま、リオンのベッドで。
そう、昨夜は大変だったのだ。
寝ぼけたディセリーヌが真っ裸のままフラフラとリオンのベッドに入り込んで、大騒ぎになった。主にボクが。
ボクは腹を立ててディセリーヌを部屋から叩きだそうと思ったけど、アイツの身体が妙に重たくて動かせないうえ、額に『取扱注意。ヘタをすれば世界が滅びます』なんて文字が浮かんでいたので、さすがに躊躇した。
仕方がないので、真っ裸のディセリーヌを毛布でグルグル巻きにしてラフラカーンに引き渡したのだけど、なぜかアイツ、部屋から出されると簀巻きのままドスンとリオンのベッドに落ちてくる。空間転移したみたいに。
ボクたちが部屋を変わっても、しばらくするとリオンが寝てるベッドに簀巻きのままドスンと落ちてくる。
ラフラカーンもどうにもできず、困りきってたし。
ただ幸いなことに、ディセリーヌは単に寝てるだけだった。リオンに何かエッチなことでもしたら踵落としを100発食らわせてやったんだけど、時々寝返りを打つだけでスヤスヤ寝ていた。
意味わかんない。
結局、リオンを僕のベッドに寝かせてディセリーヌがリオンのベッドを占領し、ボクはずっと見張ってて寝不足になった。
ラフラカーンも同じ部屋に立って、ディセリーヌを見張ってたし。
これじゃあ2部屋取った意味も、ベッドが2つある部屋を取った意味もまったくない。
「ところでオレはなぜこんなところで寝てるのだ?」
完全に目が覚めたのか、ディセリーヌは簀巻きになったままビックリしている。
「…そうか、リオンがオレと一緒に寝たかったのだな?」
ディセリーヌがそう小声でつぶやいて愉快そうにクヒャヒャヒャ…と笑ったので、ボクはゆらりと立ち上がった。
寝不足だったし、ディセリーヌの乱入に腹を立てていたので、ボクはたぶんスゴイ顔をしていたのだと思う。
ラフラカーンがボクを見て珍しく焦った顔をし、「ディ、ディセリーヌ様。お着替えを!」と簀巻きを抱えて自分たちの部屋に慌てて戻っていった。
「どうする、リオン?」
「ディセリーヌちゃんが、他の魔将と仲良くするのはいいことだと思うよ。蜂蜜焼きはまだあるから、持たせてあげようよ」
ボクの隣にいたリオンは疑うことを知らないようにニッコリ笑うと、蜂蜜焼きを小分けにする入れ物を探し始めた。
ボクも探したけど入れ物に使えそうなものはボクたちの手持ちにはなく、結局ラフラカーンがまるで宝石を入れるようなゴージャスな小箱を用意してくれたので、それにリオンの蜂蜜焼きを10個入れて渡した。
◇◇◇ ◇◇◇
宿で朝ご飯を食べ終わったころ、ディセリーヌが急に「あと少しでオクトリーナ様の迎えが来るようだ」と言い出した。
どうも魔将同士は離れたところにいても通じ合う、便利な能力があるらしい。
なんとなく興味があって窓から外を見ていると、ほどなく2頭牽き馬車が宿の前で止まるのが見えた。
魔将のお迎えっていうから恐ろしい魔獣が牽く真っ黒で禍々しい馬車でも来るのかと思ったら、特にゴテゴテした飾りもない普通の馬車だったのでちょっとガッカリした。
御者もまったく普通の人族の男性に見えるし、馬車から降りてきた中年男性も身なりはちゃんとしてるけど、お金持ちの商人のお付きの人みたいな感じだ。ちょっと目線を外すと、どんな顔をしていたか思い出せないくらい印象が薄い。
あれ?ディセリーヌが乗り込んだ後に、ラフラカーンが乗ろうとして迎えに来た男性に止められている。
どうもラフラカーンは乗せてもらえないようだ。ご招待はディセリーヌだけか。
ラフラカーンは相変わらず無表情だけど、何となく怒っている気がする。
リオンの蜂蜜焼きが入った小箱を迎えの人に渡してる。どうやらあきらめたようだ。
ラフラカーンは馬車が去っていくのをしばらく見送って、ボクたちのところに戻ってきた。
「ディセリーヌ様は1人で向かわれた。私もご一緒したかったのだが、オクトリーナ様の使いに断られた。仕方がないので、この宿でディセリーヌ様のお帰りを待つことにする。追加の宿代は私が支払おう」
ラフラカーンはボクたちに無表情でそう告げたが、少し怒っているような感じだ。
早く旅路を進めたいんだけど…でもこの宿の食事は美味しいから、まあいいか。
普段のボクたちには縁のない高級な宿だし、ちょっとくらいならのんびりしてもいいよね?
ボクはリオンの反応を見てからラフラカーンに頷いた。
「ところでオクトリーナ様って、ディセリーヌと仲がいいの?どんな人…魔将?」
「オクトリーナ様はディセリーヌ様にとって姉のような方で、仲は悪くないはずだ。私も詳しくはないが、土系のエレメンタルを使い、『パペ・マステール』と呼ばれているらしい」
人形遣い?ボクは旅芸人たちが広場で見せてくれる操り人形の劇を思い浮かべたけど、たぶんそんな楽しい能力じゃないんだけどね…。
「人形遣いのオクトリーナか…。そういえばノベリアは『幻惑のノベリア』だったよね。ディセリーヌにはそういう二つ名はないの?」
「ディセリーヌ様には…ないな」
ラフラカーンはちょっと残念そうにそう答えた。
うん、まあやっぱりね。
炎を使うのは分かってたけど、12魔将のうちで一番下位らしいし、そういう能力はなさそう。
さて、ディセリーヌを待つ時間ができた。
リオンはラフラカーンとまた花蜂の巣を探しに行くらしい。
ボクは汚れものの洗濯でもしようかな?
◇◇◇ ◇◇◇
ラフラカーンは移動魔法を使い、あらかじめ調べておいた小川の横の開けた場所に降り立った。
小脇に抱えていたリオンを丁寧に下ろす。
「へー近くにこんな場所があるんだねー。きれいな景色だねー」
リオンは物珍しそうにキョロキョロしている。
ラフラカーンは少し離れた木を指さした。
「あちらに花蜂の巣があります。帰りに取るようにしましょう」
「うん、わかった。『練習』のあとで取ろうね。…えっと、今から『練習』するのでいいんだよね?」
ラフラカーンは『練習』という言葉にビクンと身を震わせ、反射的に両腕で自分の胸を抱いた。まるで貞操の危機を感じた乙女のように。
だがラフラカーンは一拍おいて何かを決心したかのようにゆっくりと頷いた。
「先の演習では、アヴァタールを使ったとはいえ、魔将ノベリア様に手傷を負わせることができた。今までの私では考えられないことだ。『練習』の効果があったと認めざるを得ない。私はディセリーヌ様のためにもっと強くなる必要がある。リオン殿、『練習』をお願いする」
緊張した顔で一気に言い切ると、ラフラカーンは身に着けていた騎士服の上下とブーツを一瞬で脱いだ。
今は薄手の下着姿だ。
上は袖なしの肌着で、見事な双丘が盛り上がっている。下はショートパンツのようなぴったりした肌着で、むっちりとした太ももから細い足首までの脚線が艶めかしい。
ラフラカーンに残る乙女の本能が、下着に隠れているとはいえ胸のふくらみや秘所をリオンの目線から手で隠したいのだろう。
何度となく両手が動きかけるが、ラフラカーンは意志の力でそれを止め、自らリオンの前に身を晒した。
太腿も最初は重ね合わせて頑強に閉じられていたが、今では両脚を肩幅に開き、両手も握ったまま下に降ろしている。
だがその両手は緊張かそれとも恐怖からか、小刻みに震えている。
柔らかな日差しの中、ラフラカーンの長く美しい金髪が風に揺れる。
上下とも下着は着けているのに、裸身よりも暴力的な女体美。
それを前に、リオンは何の気兼ねもなくいつもの自然体でニコニコしながら持っていた肩掛けのバッグから何かを取り出した。
「今日は道具を使うね」
「ど、道具?」
そういってリオンが見せたのは、長さ20セメルほどの削られた木の丸棒だ。
先は丸められて細いが、根元に行くほど太くなっている。
それを見たラフラカーンが驚きに眼を見開き、顔を恐怖に青ざめさせる。
「り、リオン殿。私は経験が…その、ないのだ。ど、どう…かや、優しく…」
道具を見せられたショックからか、ラフラカーンは乙女の恐怖でカタカタと震え出し、何かを哀願しようとするが舌がうまく回らない。
そんなラフラカーンに構わず、リオンは木の棒の先に何かとろりとした液体を塗りはじめた。
そして準備ができたようだ。
ラフラカーンが泣きそうな、そして懇願するような目でリオンを見る。
だがリオンはこれから普通に遊びに行くような気楽な笑顔で、ラフラカーンに近寄る。
その気負いのなさが、逆にラフラカーンにとっては恐ろしい。
リオンがラフラカーンの腰に手を触れる。
その手のひらの意外な温かさにビクンッとラフラカーンは反射的に身体を震わせ、身を固くする。
「上手になろうね」
リオンがにっこり微笑んで、手に持つ丸棒の先をラフラカーンの肌に当てる。
その後約1アワルにわたって、山中に乙女の悩まし気な悲鳴が聞こえ続けたという。
踵落としだけでなく、レオナの「尻叩き」もリオンと同様の効果をディセリーヌにもたらします。ディセリーヌはその破滅的な威力をほどなく味わうことになるでしょう。
次回、11月12日(日)午前6時更新予定です。




