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3話:必殺の踵落とし

今回はイチャラブ?回です。

その後、荷馬車での旅は順調だった。

薄暗くなってきたころにゴッゴの宿場町の明かりが見えてきて、ボクはとても安心した。

ゴッゴはゴッハーと同じような小規模な宿場町だったけど、幸い宿もすぐに見つかった。

ボクたちが普段選ぶよりも格段にいい宿で最初は素通りしようとしたけど、お金はラフラカーンが出してくれた。

しかもボクとリオン、ディセリーヌとラフラカーンで一部屋ずつとった。

1部屋にベッドが2つもある!

お金を切り詰めて旅をしていたボクたちにとっては、とても贅沢な部屋だ。


晩御飯は宿の食堂で、その日のおすすめ定食を食べた。

内容は肉と野菜のスープに焼いた皮付きイモ、茶パンだ。

燻製肉が欲しいなら別料金だけど、明日からまた黒パンと燻製肉の携帯食になるからボクはいいや。

他にも特別料理で、ケモノ肉のステーキがあるらしいけど、今日はもう売り切れらしい。


ディセリーナは「リオンの料理を食べたかった」とブツブツ言っていたが、ボクが睨むとまずそうにスープだけ食べていた。


そうそう、あのあとディセリーヌは割と簡単に見つかった。

ググレーンに聞いたら、すぐに現在の位置が分かったからだ。なんでも魔力哨戒柱という誰かが設置した便利な装置に反応して魔将の位置が分かるらしい。


ググレーンが教えてくれた場所をリオンが「僕の勘だけど…」と誤魔化して伝えると、ラフラカーンが素直に迎えに行ってくれた。なんかラフラカーンが急にリオンの言うことをよく聞くようになった気がする。


そしてボクたちは合流できた。本当は合流できない方が良かったけど。

ディセリーヌは道に青い玉が転がってゆくのを見て、「わーい、魔核だ!」とか言いながら反射的に追いかけてしまったらしい。たぶんノベリアが仕組んだのワナだったのだろう。心配して損した。


『それにしてもググレーン、ノベリアが化けていたディセリーヌの額にニセモノっていう文字が見えたんだけど、あれはどうして?』


『ノベリアの幻術が完璧だったからだ。ノベリアはディセリーヌに化けるにあたり、服の皺や汚れなどの外見だけでなく、レオナ殿が魔族の本音スキルを使える状態のまま、ディセリーヌの構成情報を再現した。レオナ殿のスキルレベルが上がり、ノベリアの本音まで読めるようになったわけではない』


そ、そっか。ノベリアが完璧に化けたから、逆に『魔族の本音』スキルが使えたのか。

スキルのレベルアップなんか望んでないから、それでいいや。


それにしても、今日は一日でいろんなことがあって疲れた。

温かい食事でお腹がいっぱいになったので、眠くなってきた。

リオンと部屋に戻った僕は急に襲ってきた睡魔に勝てず、自分のベッドの端でコロンと横になった。

…うん、半アワトも寝ると大丈夫だから。また…起きて明日の準備をする…から…。


◇◇◇ ◇◇◇


「どうやらレオナ殿は寝たようだな」

「はい、『導眠』の魔法が効いてきたようです。食事中から薄く薄く、何度も重ね掛けしておきましたので」


「よくやったラフラカーン。あの姉は怒ると恐ろしいからな。しばらく眠ってもらおう。お前はレオナ殿を守っておけ。オレはリオンに話がある」

「ハッ」


ディセリーヌとラフラカーンはレオナとリオンの部屋の前でコソコソ話をすると、2人そろって当然のようにリオン達の部屋に入ってきた。


「やあリオン、いい夜だな」


リオンは急に入ってきたディセリーヌたちに目をパチパチさせた。

ディセリーヌは眠るレオナに構わず、自分のベッドに腰かけているリオンにズィ!と距離を詰めてくる。


「今日はラフラカーンが活躍して、ノベリアを撃退できた」

「う、うん」


「ラフラカーンはオレの従者だから、ラフラカーンの手柄はオレの手柄だ」

「…?」


ラフラカーンは目を閉じて何度も頷く。さも自分が良い仕事をしたと言わんばかりに。

だがリオンはディセリーヌが何を言っているのかさっぱりわからず、キョトンとしている。


「という訳で、今夜のオレはご褒美をもらう権利があると考えている。何しろオレは活躍したし、レオナ殿も偽者のオレに『リオンの耳をなめていい』といったくらいだからな。さあ、何かご褒美はないのか?」


うわぁ、ノベリアちゃんが化けたニセモノちゃんそっくりな言い方だなぁ…。とリオンが軽く驚いていると、ディセリーヌにグィっと手を引かれて外に連れ出された。


「レオナ殿はお疲れの様子だから、邪魔をしてはいけない。オレの部屋で褒美をもらうぞ。なに心配するな、レオナ殿はラフラカーンが残って見守ってくれるからな」


ディセリーヌは鼻息荒くそう言うとほぼ無抵抗のリオンの手を引き、隣にある自分たちの部屋に連れ込むと、ドンと空いたベッドの上に座らせる。そしてニヤニヤしながら枕元をバンバン叩いて、リオンにそこに座るように命令する。


「…え、これって?」


口元はニヤニヤしているディセリーヌの目が全く笑っておらず、それどころか獰猛な肉食獣のような目つきになっているのに気づいて、リオンは座らされたベッドの上でプルルと小さく震えた。


◇◇◇ ◇◇◇


…うん?リオンの声が聞こえたような気がした。


ボクはパッチリ目を覚ますと身体を起こした。…ここはゴッゴの宿場町の宿。

覚えてる、大丈夫。どうやらベッドの上で少し寝てたみたいだ。


部屋の中にはラフラカーンが経っていて、少し驚いたような顔でボクを見ている。

…リオンがいない。ディセリーヌは?


「…リオン殿。見ればお疲れのご様子。もう少しお眠りください。私が警戒しておりますので」

「ボクは大丈夫。それより、リオンはどこ?」


ボクがベッドから降りてラフラカーンに向かい合うと、すぐ答えてもらえないどころか少し視線をそらされたような気がした。

…猛烈に嫌な予感がする。


「…リ、リオン殿は別室でディセリーヌ様と明日以降の予定について打ち合わせをされております」


いま少し言いよどんだね?

ボクは完全に目が覚めて、シュタッと立ち上がるとラフラカーンに詰め寄った。


「それで、リオンはどこ?」


ラフラカーンは無表情のまま答えなかったが、目線は隣の部屋を見ている。

ボクはラフラカーンをパスして急いで部屋を出て、隣の部屋のドアを開けた。


そこにはベッドの上に座ったリオンが、しくしくと静かに泣いていた。

ディセリーヌが服を着たままベッドに横になり、リオンの脚に絡みついている。


よく見るとディセリーナも自分の顔を挟むようにしてリオンの両脚を腕で抱え込み、同じベッドで横になっていた。それどころかリオンの短めの半ズボンから出ている裸の脚を、舌を出してペロペロと交互に舐めていた。イッちゃったような目をしながら。


追いかけてきたラフラカーンがボクの後ろで息をのみ、緊張しているのが不思議と分かる。

キミ、魔獣が襲ってきたときはそんなに緊張しなかったよね?まあ、どうでもいいけど。


ディセリーナはリオンの裸の脚を両腕で抱えたままズリズリと器用に下がり、太ももから今度は膝下をペロペロと舐め始めた。


「おう、ここはところどころ味が違う場所がある。…これも楽しいな!ペロペロ」


ディセリーヌがイッちゃった目をしたまま大きな声で独り言をいう。こっちには全く気付いていない。

ああ、そういえばリオンは晩御飯食べた後にトイレに行ってたな…と思ったとたん、ボクの中で何かが切れた。


「こんんのぉ痴将がぁ!!」


ドギャッと音がして、高く振り上げたボクの踵がディセリーヌの額に落ち、くそバカは静かになった。


「ぬぅううう!」


ボクは呻きながらディセリーヌの額を抑え込んだ踵にギリギリと力を込める。このままベッドと床を踏み抜いて奈落の底まで落としてやりたい気分だ。


「…レ、レオナ殿。そこまで。そこまででお許しください!どうか!」


ラフラカーンが焦った声を出しながら、ボクを後ろから羽交い絞めにしているが、ボクは構わず落とした踵に力を籠めつづめる。


ディセリーヌは動かない。どうやら今の一撃で気を失ったらしい。このまま死ねばいいのに。


「おねえちゃん、嫌だったよう!」


リオンがディセリーヌを振り払い、泣きながらボクに縋り付いてくる。


その声を聞いて、ボクはようやく猛りが落ちた。

よしよし、辛かったね。可哀そうだったね。

もう大丈夫だよ…。

ボクはまだ泣き止まないリオンをギュッと抱いてあげる。


部屋を出るときにベッドの上にニヤけた顔のまま白目をむいているディセリーヌが見えたような気がしたが、もうどうでもいい。


◇◇◇ ◇◇◇


ラフラカーンは呆然としたまま、2人が部屋から出ていくのを見送った。

ベッドの上には、ディセリーヌが白目をむいて倒れている。


『…我が主ながらアレはどうかと思うが、問題はそこではない』


そう。先ほどレオナは不意打ちとはいえ、踵落とし一発で魔将の意識を刈り取ったのだ。

ディセリーヌに仕えて約300年余り。ラフラカーンは自らの主人が単純な打撃で白目を剥いて倒れた姿は一度も見たことがなかった。


そもそも魔将の防御力やタフさ、体力は魔人であるラフラカーンと比べても桁違いだ。

魔将同士ならともかく、他の魔族や魔獣にディセリーヌが遅れを取ったことは一度も見たことがない。

まして人族ごときにどうこうできる相手ではない…はずだ。


『…なぜあんな遅い蹴りを避けることができない?』


そもそも格闘スキルのないレオナの踵落としは、達人のそれと比べてスピード・威力ともたかが知れている。

所詮は子供の真似事に過ぎない。なのにディセリーヌは何度も受けて悶絶している。

自分なら避けることはたやすいはずだ…と考えたラフラカーンは、不思議とそれを避ける自分をイメージできず、背中に冷たい汗をかいた。


『それになぜ、ディセリーヌ様はあんなにもダメージを受ける?』


ディセリーヌが最初にレオナの踵落としを食らったのは、ノベリアを下した演習後にリオンと連れて「一緒に旅をしてやる」と挨拶した時だった。あの時、ディセリーヌ様は「げはっー」とか言いながら、頭を押さえて床を転がっていた。アレはレオナ殿を欺くための擬態だと考えていたが、そうではなかったのか?


たかが人族の子供の蹴りの真似事で、そこまでのダメージを受けるとも思わない。

もし自分なら、あの程度の蹴りを受けたとしても瞬きひとつしないはずだ…と反射的に考えたラフラカーンは、その状況を想像して、鳥肌が立った。

ラフラカーンの剣士としての本能が、『アレは絶対に受けるな』と最大限の警告を出していることに気づいたからだ。


『それになぜレオナ殿は、無礼にもディセリーヌ様に蹴りを入れて無事でいられる?』


ゴッハーの町でカツアゲしようとした大男は、ディセリーヌの尻を殴ったがために人体発火現象を起こして燃えて死んだ。おそらくはディセリーヌも意図しない【アウト・カウンテール(自動反撃)】スキルが働いたのだろうが、敵意も露わなレオナが燃え死ぬような気配はまったくない。


次から次へと沸き起こる疑問の渦に飲まれ、ラフラカーンは白目をむいた主君を見下ろしたまま呆然と立ち尽くしていた。

次回、11月5日朝6時更新予定です!

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