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23話:リオンの料理

扉から顔を出した小さいディセリーヌは側にいたリオンに向かって、

「リオン。この扉の向こうは魔将専用の野戦天幕だ。オレ以外は入っちゃいけないことになっているが、リオンが入ってみたいなら特別に入れてやるぞ。どうだ?」


ボクがちらっとリオンを見ると、プルプルと顔を横に振っている。まあ、そうだよね。


「ディセリーヌ様、我々はこれから食事の用意をいたします。準備ができましたらお呼びしますので、しばらくお待ちください」


ラフラカーンが事務的な声でそう伝えるとディセリーヌは、

「ちっ。またあのマズイ食事ならオレは食わないぞ」と、捨て台詞を残して扉を閉めた。

たぶん昼ご飯用に出した燻製肉と固い黒パンが、よほど気に入らなかったのだろう。

一口かじって、「マズイ!」って吐き出してたもんな。もったいない。


ディセリーヌが閉じた扉はあっという間に半透明になっていき、3メルト以内なのに目を凝らしてやっと輪郭だけが見えるほど存在感が薄くなった。


「リオン。分かってると思うけど、あそこに入っちゃったら2度と出れなくなるよ。絶対に入らないでね」

念のためちょっと怖い声を出したボクのアドバイスに、リオンは素直にコクコクとうなづく。

その様子を見て、ボクは安心して晩御飯の用意を始めることにした。

ディセリーヌがなんか生意気なことを言っていたけど、気にしない。


本来、野営が続く場合は食料は保存がきいて軽い「携帯食」を選ぶ。定番は燻製肉と焼き固めた黒パンだ。今回は2日の日程なので、4人で予備も含めて30食分を用意した。あとラフラカーンの収納スキルを当てにして、野菜と果物も少し持ってきている。でも携帯食はそのまま食べてもあまり美味しくない。燻製肉は塩辛いしも黒パンも固いし、喉も乾くしね。

たぶんディセリーヌはまた食べないだろうけど、1食や2食抜いても死なないでしょう。お腹すいたら何でも食べるだろうしね。


そう思って念のためググレーンに聞いてみた。


『ねえ、ググレーン。魔族もやっぱり人間と同じような食事が必要なの?』

『そうだ。生命活動の上で、食物・水・空気の一種などの摂取が必要となる。魔素変換により代用が効くものもあるが、直接取り込んだ方が変換効率がいい場合が多いため、普通に食事はする』


『それじゃあ、魔族も身体の造りは人族とほとんど同じってこと?』

『1つ異なるのは、魔族は魔力の維持のため、魔素の摂取が必要となる点だ。人族の魔法使いは食物を摂取して魔力に変換できるが、魔族は空気中の魔素や魔核を直接摂取することで、魔力を補給する必要がある。整理すると、体内で摂取した食物の栄養分を魔力に変換できるのが人族、魔力を栄養分に変換できるのが魔族だ』


『ふーん、人族と魔族って逆なんだね』

『その通りだ。魔族は繁殖能力が低く、数が少ないが個々は強大で長命。人族は繁殖能力が高く多様性があり、数が多いが個々は脆弱で短命』


まあ長命で強大かもしれないけど、ディセリーヌを見ているとワガママや無遠慮、考えの無さとか気の短さが目につくな。見た目もそうだけど、精神年齢が幼いままずっーと生きてる感じだ。きっと周りに迷惑かけながら、長く生き点だろうなーと思う。やだやだ。


ボクはいろいろと思い出してイラっとしながら、ラフラカーンに夕食の分の燻製肉と黒パンを人数分出してもらった。あと野菜が入ったカゴも。


「あの、この燻製肉はディセリーヌ様のお口に合わなかったようなので、何か工夫をして頂けると助かります」


苦労してるねーラフラカーンも。

「工夫かあ。おイモがあるから、燻製肉を薄切りにして一緒に焼くとかかな?ラフラカーンは料理できるの?」


「…いいえ。ディセリーヌ様からは『お前は絶対に料理するな』と厳命されております。そんなにヒドイ出来ではないと思うのですが…」

「じゃあ、僕が作ってみるよ」


側で話を聞いていたのか、リオンがヒョイと顔を出して燻製肉と野菜を選び始めた。


「おお、リオン殿が!ぜひお願いいたします」

「リオン、ボクも何か手伝おうか?」

「いいよ、お姉ちゃんはディセリーヌちゃんのお守りで疲れたでしょ?座ってていいよー。あ、お鍋だけ出してね」


リオンはニコニコしながら頼もしく答えてくれた。いいコに育ってくれたな~。ボクのおかげだな。

口元が少しニヤけるのが自分でもわかる。久しぶりにリオンの料理を食べられるしね。


ボクは自分の荷物の外側に取り付けてあった、両手鍋を取り外した。

これは料理にも使えるし、襲われた時には盾にもなる冒険者必須の道具だ。パパが昔使っていたのを持ってきたので鍋の底が少し凸凹してるけど、厚めの鉄を使っていて頑丈だ。


見てるとリオンは木製のフタを使って、自分のナイフで器用に洗った野菜を切り始めた。

うん、料理人モードに入ってる。

リオンは家にいた時から、よく料理を作ってくれた。よくある普通の食材を使っているのに、「あれっ?」と思うほど美味しい料理に仕上げてくれる。


パパは本当はボクに料理を覚えて欲しかったみたいだけど、リオンの料理を気に入っちゃって、もう2年くらい前から任せっきりになった。あの時は微妙に腹が立ったけど、今にして思えばググレーンが教えてたんだね。納得した。うん、悔しくないよ全然。


リオンは鍋に少し水を張って、燻製肉の塊を浸している。塩抜きしているのかな?でも一緒に黒パンも漬け込んだのはなぜ??

ボクはリオンの料理をチラチラ盗み見しながら、さっき組み直したかまどに細い枯れ枝を入れ、小さな火魔法を使って火をおこし始めた。ちょっとした生活魔法ならボクでも使える。でもいつかボクがリオンに料理を作ってあげれるようになりたいと思う。その、いつまでも女・男が逆転してるのはマズイからさ。


リオンは水から出した燻製肉を薄く切って、水を捨てた鍋の底で焼き始めた。ジューッといい音が聞こえる。なるほど油の実は、肉を焼く直前に絞るんだ。参考になるね。

いい香りが漂い始めた。お肉って感じの匂いだ。ゴッハーの宿場町で仕入れたのは「半ジャーキー」のお肉で、日持ちはやや悪いしジャーキーより重いけど、切った断面は赤みがかかった半生の燻製肉だったから使い勝手がいい。そのままでも食べられるし、料理にも使える。


お肉が焼き終わると、リオンはいったん鍋を火から降ろして、代わりにかまどの周りにさっき燻製肉と一緒に水に漬けこんでいた黒パンを並べ始めた。しかも黒パンにナイフで切れ目を入れて、さっき焼いた肉を挟み込んでる。黒パンをかまどの周りに並べ終えると、リオンは再び鍋を火にかけ、さっき輪切りにしていた皮付きのイモを焼いてる。肉を焼いた油を捨てずに、そのまま使ってるね。


「できたよー!」


最後に葉野菜を黒パンに挟みながら、リオンが声をかけてくれた。

うん、待ってた。リオンが料理するのを見ながら、どんな味なんだろう?とボクは楽しみで仕方なかった。


熱ッうんまッ!


リオンから渡された「燻製肉と野菜の黒パン挟み」を一口かじると、カチカチだったはずの黒パンがふんわり柔らかく、がぶりと噛み千切ると肉汁やら野菜やら複雑な味わいが口の中にあふれる。

しかもたくさんの味がちゃんと混じり合っていて、お肉だけで食べるより野菜だけで食べるより何倍も美味しくなった感じがする。生のまま挟んだ葉野菜のちょっとした苦みが肉の脂汁をスッキリさせてくれる。ちょっと塩味がキツ目だけど歩き疲れた身体には丁度いい。これは美味しい!


どうせディセリーヌは食べないから余ったら貰おう…と思っていたら、先にラフラカーンが皿の上に「燻製肉と野菜の黒パン挟み」を受け取りさっきの扉に向かって、

「ディセリーヌ様、お食事でございます。リオン殿に特別に料理していただきました」と、片膝をつきながら皿を手に持って告げた。


すると扉がちょっと開いたかと思うと、ラフラカーンが手に持っていたお皿がパッと無くなって扉も閉まった。

どうやらディセリーヌが取り込んだらしい。

ラフラカーンは皿がなくなった後も、片膝をついたまま扉の近くで待っている。どうやらディセリーヌの食事が終わるまで、ああやって待っているつもりらしい。


魔将の従者も大変だなー、とボクとリオンは「燻製肉と野菜の黒パン挟み」を食べながら目くばせをして、ラフラカーンの様子を見ていた。もちろんラフラカーンはまだ自分の食事は終えていない。


するとしばらくしてカチャリ、と小さな音が鳴って扉が開いた。見ればディセリーナがまた頭だけ出している。


ディセリーヌは空になった皿をラフラカーンに戻しながら、不満そうな顔でこう言った。

「さっきのは大変おいしかった。お代わりはないのか?オレは昼飯を食べなかったので、腹が減っている」

「ハッ。ではこちらをお召し上がりください」


ラフラカーンは一瞬の躊躇も見せず、リオンから受け取った自分の分の「燻製肉と野菜の黒パン挟み」を皿の上に載せた。


「ちょ、ちょっとそれはダメだよ!ラフラカーンは明日も頑張るんだから」

「うん、食べないとダメだよー」

ボクとリオンは自分の食事を迷わず提供しようとしたラフラカーンを思いとどめよう、どちらからともなく声を上げた。旅の途中で何も食べられないほど辛いことはないと、ボクたちは知ってるから。


「ご安心ください。私はディセリーヌ様の眷属であり、魔力の供給を受けております。そのためあまり食べなくても疲れないのです」

ラフラカーンはすぐに言い訳をしたが、お腹がギュルギュル鳴っている。


「お腹だって鳴ってるじゃない!ほらちゃんと食べないと」

「こ、これは敵の位置を警戒する探索魔法の音です!」

「「そんなはずないよ!」」


結局、食が細いリオンが「食べきれないから」と残した1/3ほどと、ラフラカーン分のすべてのどちらを食べたいかディセリーヌに選ばせることにした。少しだけお代わり欲しいけど、まるまる2個は多い…ってこともあるからさ。


「ディセリーヌ様、手つかず丸まま1人分の『燻製肉と野菜の黒パン挟み』と、リオン殿が残された1/3ほどではどちらがよろしいでしょうか?」


「…リオンを食べたい」

「ハッ、ではそのようにいたします」

「ちょっと違うよね!食べるのはリオンじゃなくて、リオンが残した黒パン挟みだよね?」

問題発言がサラッと流された気がしたので、ボクは慌てて訂正する。


「訂正します。大きい方と小さいの方黒パン挟み、どちらかをお選びください」


ラフラカーンが両方を皿にのせて扉の近くへ持っていくと、中からさっと手が伸びてきて小さい方の黒パン挟みを持って行った。

ラフラカーンはちょっとホッとした様子だった。

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