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「本当にマルグレーテは陛下にそっくりですわね……」
王妃シグリッドが、フランチェスカの第一子マルグレーテ姫が遊ぶ姿を眺めながら呟いた。
「本当に。産んだのは私ですのに、私には似なかったのですわ」
王妃と王太子妃フランチェスカは、庭師から棘を除いた薔薇を受け取ってはしゃぐ三歳のマルグレーテを笑顔で見守った。
「あの銀の髪を見てご覧なさいな、陛下の若い頃にそっくりだわ──私たちはみんな金髪ですものね。陛下は自分に似ているから、マルグレーテは自分のことが一番好きだなんて威張ってるのですよ」
「ふふっ、親ではなく祖父母に似るなんて、子供って不思議ですわね。私の目は紫、アラミス様は青。なのにマルグレーテは緑色の目をしている」
フランチェスカは笑いながら王妃の深緑色の美しい瞳を見返した。
「そうね、だから私の目に似たんだから私が一番好かれているって言い返してますのよ」
「まあ」
艶のある銀髪を青いリボンで結ばれたマルグレーテは手にいっぱいの薔薇を侍女に手渡しブーケを作ってもらっている。
王妃は紅茶を一口飲んでから、音を立てずにテーブルにカップを戻し、フランチェスカを見据えた。
「それはそうと、あの子はどこへ行ったの? また愛人のところに行っているのかしら」
フランチェスカはそっと目を伏せた。
「私がいたらないせいですわ……ペリーナ様は学生時代からの恋人でしたから」
「私も陛下も認めていませんわ。アラミスは一体何を考えているのかしら。身重の妻をおいて愛人のもとに向かうなんて──」
王妃はそう言って、少し目立ってきたフランチェスカのお腹の膨らみに目をやった。
「それでも頻度は減ったのですよ、お義母様。以前は毎日のように時間を作って会ってらっしゃいましたが、今は週に二度か三度ですもの」
「いいえ、多すぎます」
フランチェスカは再び目を伏せて、腹を優しく撫でた。
「私は子が授かっただけで、充分恵まれていると思っておりますの。マルグレーテも可愛がっていただいて、むしろ幸せと言っても大袈裟ではありませんわ」
「フランチェスカ、あなたは甘すぎるわ。もっとアラミスを──いいえ、アラミスには私から言っておくわ」
「そんな、お手を煩わせるわけには──」
王妃は深く息を吸い、静かに整えた。
「私はアラミス一人しか産めなかった。側妃も付けたけれど三人とも授からなかった。だから今あの子が王太子としての自覚にやや欠けているのは、私と陛下が甘やかして育ててしまったせいだわ」
「次のお腹の子が生まれれば、アラミス様も変わるかもしれませんわね」
「忌々しい! 愛人が孕まないようどうにかすべきだわ」
王妃はぷりぷりと怒り始め、それがマルグレーテが癇癪を起こした姿とそっくりで、フランチェスカは笑い声を上げた。
結局、ペリーナの元へ行く頻度についてはフランチェスカが折を見て夫に告げるということを話している最中に……。
マルグレーテが『おばあちゃま』に花束を持ってきたことで、王妃の不機嫌はおさまった。
乳母と一緒に跳ねるように庭を去ったマルグレーテを見送り、王妃とフランチェスカも立ち上がった。
「無理はしないようにね」
「はい。王太子妃の政務もかなりアラミス様に回しております」
「全部やらせてもいいのよ。忙しくして王城から出られなくなればいいんだわ」
「まあ、お義母様ったら」
王妃に丁重な挨拶をしたフランチェスカは、背後に佇んでいた侍女カレンと共に私室へと戻った。
(アラミス様は別に今のままでも構わないのだけれど……)
そもそも最初からアラミスに期待をしていない。
フランチェスカは実家のためにアラミスとの子を産み育て、いずれ王妃になれればそれでいいのだ。
ペリーナが側妃になりたいなら、アラミスがどうにか頑張ってそうしてやればいい。
翼はもうもがれているのだから、彼女が王宮に来たところで痛くもかゆくもないのだ。
「少し横になろうかしら」
「それがようございます、妃殿下」
カレンがテキパキとクッションの位置を整え始めた。
フランチェスカは少し気だるい身体を横たえ、あっという間に微睡みの中へ沈んでいった。




