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子断薬は通常五回飲めばしっかり効く。
一日三回、三日も飲めば間違いないだろう。
飲んでいる間は熱が出るが、多く飲ませたところで毒になるわけでもない。
ペリーナは値の張る王家御用達のこの煎じ薬を飲んだことがないので、苦い中に別の苦味があることに気が付かない。
薬はペリーナの部屋で管理していないので目に付くことも無いが、既に交換されているので今更殿下が持ち帰っても問題はない。
「まあ、私は熱など出ていないのですけれど」
フランチェスカは薬の入った美しい缶を手に取り、天使のような微笑を浮かべた。
◆
──とある夜。
卒業間近のフランチェスカは、侯爵の執務室で今後の予定の打ち合わせをしていた。
「卒業パーティでは殿下は私をエスコートなさるそうです」
「当然だろう。婚約者なのだから」
「あら。一応殿下にはペリーナ様をエスコートしてもいいと言ってあったのですよ、襲撃前にですけれど」
侯爵は笑い始め、澄ました顔の娘を見つめた。
「あの娘、杖がなくては歩くこともままならんと聞いたぞ」
フランチェスカはにっこりと笑い、父親に頭を下げた。
「お父様の私兵は完璧でしたわ」
「ふん。お前は甘い。消してしまったほうが早かったものを」
「そうなっては殿下が疑うかもしれませんでしょう? 足を深く傷つけるように言ったのは、公式行事に出られなくするためだけですもの」
「公式行事にも参加できない側妃か……議会が承認するとは思えんな」
「ふふっ、通ったところで既に子もなせませんし、お飾りになってしまいますわね? ペリーナ嬢は活発な方だったのに残念です」
「…………ただの侯爵令嬢としては満点だな」
「ありがとうございます、お父様」
侯爵家は多大なお見舞いをペリーナの生家の騎士爵家とサンバートン伯爵家に送っている。
当主たちとペリーナ本人から、感謝の手紙が最近届いたばかりだ。
フランチェスカは私室に戻り、姿見に映る自分を眺めた。
抜けるように白い肌。
手足の長い肢体は程よく肉感的で美しい。
黄金のような髪も豊かで、絵画のように整った小さな顔を華やかに彩っている。
「王城の部屋に飾るなら、野花より美しい花でしょう」
(おそらく側妃奏上は難しくなった。でも、その時になれば私はペリーナを推薦してあげるわ。殿下が五年後もまだペリーナを寵愛していたら……ね?)
愛し合っている二人を引き離せば、私が悪者にされかねなかったのだもの。
なら、二人はそのままにしておいて私は正妃としてしっかり足場を固めておかないと。
それにペリーナが運よく側妃になったところで、使用人を差配するのは王妃たる自分なのだ。
多少冷遇したところで、最低限の人員を配していれば文句の出ようもないだろう。
虐めるつもりは毛頭ない。
ただ、取るに足らない存在になっていただいただけ。
(叔父様からいただいた、無味無臭の毒薬の出番はもうないかもしれないわね)
フランチェスカはもう一度鏡を見た。
紫水晶を埋め込んだような、美しい大きな瞳が見返してくる。
殿下は私を本当に見誤っている。
どこの世界に婚姻前から愛人を持つ男に何も思わない人間がいるというのか。
政略結婚なのだから?
いいえ、目を瞑るのは私の純粋な厚意からだわ。
愛情などは求めないし、愛する気にすらなれないのはお互い様だけれど。
(もとより王家から持ち込まれた縁談で、私が好んで王家に嫁ぐわけじゃないのよ……)
フランチェスカはそっと指を鏡に這わせた。
「でも……貴族ってそういうものでしょう?」
フランチェスカの独り言は、侯爵家の豪奢なカーテンに吸い込まれていった。




