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その後、フランチェスカはカレンとペリーナを伴い何度か孤児院や救貧院へ慰問に行った。
周囲は二人が仲良くしているのを何度も見ている。
最初は縮こまっていたペリーナも、終始穏やかなフランチェスカに気を許し始めた。
「こんなに良くしていただけるなんて」
「いいのよ。二人で殿下をお支えしましょうね
「はい!」
良くも悪くも天真爛漫なペリーナはいずれ自分が側妃になると殿下に言われ、そう信じ切っている。
──とある日。
フランチェスカとペリーナはいつものように、孤児院への慰問に行った。
そして、たまたま子どもたちが予定にはなかった出し物を見せてくれ、それについて話しているうちに予定時間を大幅に過ぎて帰宅が夜になっってしまった。
ペリーナの暮らすサンバートン家は少し郊外にあり、いつものようにフランチェスカが馬車で送っていく。
そして不運にも野盗に遭遇してしまった。
馬車に火が放たれ、仕方なく外に出たフランチェスカとペリーナは……。
ペリーナを逃がそうと、フランチェスカは賊の前に立ち塞がった。
「あなたは殿下の大切な方。お逃げになって」
「で、でも……」
ペリーナは戸惑いながらも、フランチェスカの言葉に従い身を翻した。
巡回中だったヒューストン家の騎士団が、たまたま近くにいたおかげで賊はすぐに逃げていった。
フランチェスカ自身は侍女カレンが身を挺して守ったおかげで、軽傷。
カレンも跡が残るような傷は負わずに済んだ。
ただ、逃げ出したペリーナは片足の腱が切れる大怪我を負った。
◆
「わざわざお見舞いをありがとうございます」
ベッドで静養中のフランチェスカは、アラミス殿下に丁重にお礼を言った。
「もう大丈夫なのかい」
「ええ、あちこちに大きな痣や擦り傷程度ですの。ですが頭を打ったので、このように寝かされているのですわ」
アラミス殿下は少し安心したように、ベッドサイドの椅子に背を預けた。
「そうか。ペリーナにも侯爵家から医師をその場で手配してくれたと聞く」
「ええ、駆けつけた家の者にペリーナ嬢のところにも医師を行かせるよう申し付けましたの。慌てて逃がしたのは良いけれど、怪我などあっては大変だと思いまして」
「……すぐに医師が来てくれたおかげで、ペリーナは足を切断せずに済んだ」
「まあ、やはりお怪我を……私のせいだわ、あの日慰問に誘わなければ──」
泣き崩れるフランチェスカを、アラミスは優しく慰めた。
「慰問はいつも行っていたことだし、君のせいじゃない。賊が落としていった指示書の切れ端ではターゲットは君だったようだから……ペリーナが狙われたわけではなかったと聞いている」
「まあ。でしたら巻き添えにしてしまったのですね。お怪我までさせてしまって申し訳ないわ」
侍女が紅茶を淹れてくれたので、アラミス殿下はカップを手に取った。
「君が手配した医師がすぐに来なければ、ペリーナの命はなかった。それにペリーナが君が守ってくれて、逃がしてくれたと言っていたよ」
「ペリーナ嬢のお怪我はもう良くなられたのですか?」
「ああ、もう命の危険はないそうだ。ただ……右足を深く切られていて、今後は今までのように動かすのは無理だろうという見立てのようだ」
「まあ……」
「傷が深く、出血も酷かったようでね。すぐ医師が来なければ間に合わない状態だったようだ」
「お気の毒に。でも、命が助かってようございました。私のことは気になさらず、どうぞペリーナ嬢を優先して会いに行って差し上げて?」
「ペリーナは君に感謝していたし、足以外は怪我もなくて……感染症を防ぐ煎じ薬だけは苦くて苦くてたまらないと文句を言うくらいには元気だよ」
フランチェスカはサイドテーブルの缶を手に取った。
「その煎じ薬、ポットで十分ほど置くのですが……私も飲まされてますの。本当にとても苦くて。ほら、香りもなんだか美味しくなさそうでしょう」
アラミス殿下は缶の中身を覗き、顔を顰めた。
「うわ、確かに酷い匂いだ……僕も落馬した時に飲まされたが、何度飲んでも慣れない」
「あら。中身は王妃様からいただいた最高級品ですのよ。なので、ペリーナ嬢にも持って行かせましたの」
アラミス殿下は缶をテーブルに戻し、頷いた。
「ペリーナは数日熱を出して寝込んでいたけれど……医者は怪我のショックと感染症かもしれないと言っていた。もしかしたらこの煎じ薬のおかげで重大な感染症を免れたかもしれないな」
「私も三日ほど熱が出ましたの。ショックかもしれませんわね」
アラミスはまた来ると言ってフランチェスカの寝室を辞していった。
(ペリーナ嬢のところには何度も行ってらっしゃるのね……あの薬はもう充分飲んでらっしゃるし、薬は早々に交換しておいて良かった)
フランチェスカは缶をもう一度見てから、柔らかな枕に身を預けた。




