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婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました  作者: 瀬崎由美


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第四十九話・第二騎士団の帰還

 パトリック様が無事に帰ってこられるという情報を耳にしてから七日。

 早駆けの軍馬に乗った騎士達が城門を入った、という報告を護衛についてくれていたユーベル様から聞く。

 けれど、その一行の中には殿下の姿はなかった。


「積み荷を乗せた馬車も並走しておりますし、王子殿下の到着は後五日ほどかかるかと……」


 指揮官であるパトリック様は隊列の一番後方にいるらしい。先に戻った隊員から殿下達は帰路途中の街の視察も兼ねながら進んでおられると聞いて、それにはさすがに笑ってしまった。相変わらず抜け目のない方だ。

 パトリック様は先に戻る騎士へも手紙を託してくれていて、そこにはもうすぐ帰るということと、またナナの淹れたお茶を私と一緒に飲みたいということが書かれていた。よっぽど私の侍女のお茶がお気に入りみたいだ。


 殿下のお戻りを待つ間、私は故郷の家族や友人達に向けて手紙を書き続けた。

 パトリック様が帰ってきて王太子に任命されたら、王宮内は大きく変わる。私も王子妃候補だったのが王太子妃候補になれば、さらに学ばなければならないことが増えていく。

 だからゆっくり書ける時間は今しかない。毎日何通も郵便物を預けるから、侍女長にはホームシックではと心配させてしまったのは申し訳ないと思ってる。


 エミリアへの手紙を書き終えてから、私は今日の日付を指を折って確かめる。

 そろそろパトリック様達の隊列が帰還するはずだけれど、視察がてらならまだ移動に日数がかかってしまうだろうか?

 そう思って大きな溜め息を吐いてから、私は気分を変えるためにと簡易神殿に向かう。ざわつく心を落ち着けるには祭壇へ向かって静かに祈るのが一番だ。

 珍しく黒猫もお伴するとでもいうように後ろから歩いてくる。

 今日のナナは休暇で、仲良くなった女官と街歩きへ出掛けている。代わりにスージーが付いてくれていた。


 神殿に着くと、よく見かける若い神官が私の足下にいる聖獣の存在に気付き、頭を下げていた。でも決して触れようと手を伸ばしてこないのは、ヴァルツの鋭い爪を警戒してだ。

 中央神殿にいた神官達は大半が一度は引っ掻かれる経験をしているから懲りているのだろう。


 私が祭壇の前で祈りを捧げている間、ヴァルツは気ままに礼拝堂内を探索して回っていた。

 長椅子の上を得意げに尻尾をぴんと伸ばして歩いたところを見ると、結構気に入ったのかもしれない。


 神殿の外で待機していたスージーが何やら短い悲鳴のような声出したのに気付き、私と神官は驚いて振り返る。

 ここは城壁の中だと安心しきっていたが、城内にも神殿のことを面白く考えていない者もきっといるはずだ。

 そんな私達の警戒を他所に、勢いよく開いた入り口扉。その開け方に私はとても既視感があった。


「……パトリック様っ⁉」


 バンッ、と壊れそうな音を立てて開かれた扉の向こうには、黒色の騎士服姿の第三王子殿下の姿があった。

 逆光で表情まではよく見えなかったが、日の光ではより色素の薄さが際立つ金色の髪。それは最後にお会いした時よりもかなり伸びていて、アロン様のように後ろで一つに束ねられている。

 私は慌てて立ち上がり、パトリック様の元へと駆け寄った。


「おかえりなさいませ」

「ただいま、アイラ」


 私が声を掛けると、パトリック様は指先を鼻で掻きながらも、笑顔で答えてくれた。

 長い任務を終えたばかりのせいか以前よりも少し頬にやつれが見えたが、元気そうで私は胸を撫で下ろす。


「陛下へのご報告はもう終えられたのですか?」

「終わってすぐ部屋へ行ったら、ここに居ると聞いた」


 自分の部屋へ戻る前に、私を訪ねてきたという殿下。言葉少な目なのは、過酷な任務の疲れだろうか。

 私は神官に断ってから、パトリック様に礼拝堂内へ入るように勧める。長椅子に二人並んで腰掛けると、気を利かせたつもりなのか神官は奥の部屋に引き込んでしまい、私達と黒猫だけになる。

 ヴァルツは久しぶりに会ったパトリック様のブーツに纏わり付きながら匂いを嗅いだりしていた。


「お忙しい中をたくさんのお手紙、ありがとうございました」


 私が殿下から文が届くのを楽しみにしていたと伝えると、パトリック様は嬉しそうに破顔する。


「アイラの手紙も毎回面白かった。寝る前に何度も読み返していたよ」

「面白かった、ですか? 割と日常のご報告ばかりだったと思うのですが……」


 真面目に書いたつもりだったのに、殿下的には楽しい読み物だったらしい。私は納得いかず、少しだけ頬を膨らませて抗議する。その反応に、パトリック様は「ははは」と声を出して笑ってから、私の膨れた頬に手を伸ばして手の平で触れてくる。

 私はその殿下の大きな手の上へ自分の手を重ねた。

 エスコートされる時以外で、私から彼に触れたのはこれが初めてだ。

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