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婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました  作者: 瀬崎由美


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第四十八話・パトリック様からの手紙

 パトリック様の第二騎士団が北の国境へ向かってから、私の王子妃候補としての本格的な授業が始まった。

 王族へ加わる前に頭に入れておかなければならないことが多い上に、私の場合は地方の下位貴族向けの教育しか受けていなかった為、王都の貴族向け学園では当たり前に学ぶはずのことを補足してもらわなければならなかった。

 外国史を受け持つ教育係から地図を指し示して説明された後、二つ三つ質疑を繰り返しながら知識を増やしていく。

 この先生は雑学を交えつつ教えてくれるので外国史以外のことも一緒に学べるから毎回有意義な時間を過ごせる。

 専門以外の知識もかなり豊富な方なのだろう。


「では、そろそろ休憩にしましょうか」

「あ、今日は温室の方にお茶の準備をお願いしてみたんです。庭師の方から、ちょっと珍しい花が咲いたと伺ったので」

「まあ、何の花かしら?」


 私に外国史を指導してくれる教師はふんわりと穏やかな笑みを浮かべて、机の上に広げていた本を手際よく片付けていく。

 その艶やかな黒髪を眺めながら、私は彼女へと今日のサプライズを告げる。


「今日はアロン殿下も執務の合間をぬって顔を見せるとおっしゃっていましたよ」

「まあ、アロン様が⁉」


 ソフィア姫は白い肌をほんのり赤く染めて、自分の頬へと手を添える。

 さまざまな国の歴史を研究しているという彼女からは、主に隣国の歴史について学ばせてもらっている。留学している学園の授業の合間だから、そう頻繁ではないけれど。

 そして、今日のようにアロン様と示し合わせて三人でお茶をすることは珍しいことではない。

 食堂などで顔を合わせた際に何気なく次の授業の都合を伝えておくと、高確率で第二王子殿下が時間を合わせて訪ねてくるのだ。


 二人揃って温室へ移動するつもりで部屋を出ると、廊下の向こうから騎士姿のユーベル様がこちらへ向かってくるところだった。

 ユーベル様は手に持っていた一通の封書を私へと手渡した後、まだ立ち寄るところがあると急ぎ足で立ち去っていく。


「第三王子殿下からですか?」

「はい」


 受け取った手紙を私が大事そうに両手で握っているのを見て、ソフィア姫が優しく微笑んでいる。

 北の国境で任務中のパトリック様は交代で戻ってくる隊員へ、毎回のように私宛の手紙を託してくれる。

 報告書に紛れて遠征地から運ばれてくる手紙は早馬でも五日、普通の馬車なら十日はかかる距離を越えてやっと私へと届く。返事を書いても次の交代の時期が来るまでは殿下の元に着かない手紙。

 それでも私達は封書を送り合うことを何度も繰り返していた。


 温室に設置されたガーデンテーブルを囲んでソフィア姫に見守られながら、私はパトリック様からの最新の手紙を開封する。

 相変わらずの早書きの文字の乱れに、向こうでは手紙を書く時間もあまりないことが伺い知れる。

 万が一もあるので任務の内容には一切触れず、遠征地でのとりとめのない話題が中心。しかも、いつもかなりの短文であまり内容がない。

 でも、何かを書いて送ろうとしてくれたことがただ嬉しかった。

 手紙が届くということは、殿下が無事に過ごしておられるということが分かるから。


 私とソフィア様が殿下からの手紙をネタにして女子トークしていると、アロン様が遅れて顔を見せる。

 第二王子殿下はナタリー様とのお茶会とは打って変わって、満面の笑みで席に着いた。ソフィア姫と一緒の時は王子スマイルなんてほとんど見ない気がする。


「先程、北方に行っていた騎士の一部が戻って来たようだね」

「そのようですね。またパトリック殿下からの手紙を預かって来てくださったみたいで」


 王宮にある執務室で仕事をしていたというアロン様が、交代で戻ってきたばかりの騎士達を見かけたらしい。

 ずっと離宮にいる私にはそういった動きを知る事は難しいから、アロン様は気を遣って分かる範囲で伝えてくれることが多い。


「賊の制圧は終わったようだから、後処理が済めばパトリックも帰ってくるだろう」

「終わったんですかっ⁉」

「ああ、帰還隊の報告を父と一緒に聞いてきたよ。後数日もすれば向こうを発つらしい」

「あぁ……!」


 アロン様の言葉に、私は殿下からの手紙をキュッと胸に抱いて、安堵の声を漏らす。

 パトリック様が任務に出られて、もうすぐ半年になろうとしていた。隊員達はひと月ごとに交代して入れ替わっていたみたいだったが、指揮官である殿下が一度も戻ってくることはなかった。

 手紙のやり取りでご無事なのは分かっていたけれど、それでも心配しない日は一日もない。

 離宮に残された私にできることは真面目に王子妃教育をこなし、朝夕の参拝で祈ることだけ。


「アイラ様、良かったですわね」

「はい……」


 宥めるように私の背を擦ってくれるソフィア姫の瞳も心なしか潤んでいるように見えた。

 パトリック様が任務を遂行した暁には王太子に任命されるかもしれないという話は、目の前の二人はまだ知らないはずだ。

 弟王子の立太子が決まれば、アロン様はソフィア姫へ求婚されるのだろうか?

 今はただ、パトリック様の無事の帰還を静かに願うだけだ。

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