従者は颯爽と登場
きっとブレスレットの君は、このトンデモ状況を見ているだろうけど、水魔法以外の魔法の許可が出ないってことは…
水魔法だけで何とかしてってことだよね。
でもさ…水魔法だけじゃ乗り切れない感ハンパないこの局面。
オッサン二人組には、俺の行動を待つように言ってしまったから、相当なことがない限り、自発的に行動は起こさないだろう。
俺が、蹴られても耐えてくれてたくらいだし。
絶体絶命のピンチって何回経験するのかな…俺。
記憶を取り戻す前だったら泣いちゃってるよ。
迫ってくる手を模した霧に、身を交わしながら考えるが、どうにかして爆発的な派手で目立つ騒ぎを起こす以外考えられない。
パッと見た感じ、研究室にあるものを使っても爆発的なものは、起こらないだろう。
爆発以外でなにか…頭を冷やして考えろ!
水魔法で…んん!?
待って待って待って…俺ってば追いつめられながらも冴えてる!
熱するんじゃなくて逆に、冷やす。
水の温度を変えられるんだから、氷を作ることなんて余裕。
でっかい氷のオブジェを作って、研究室を貫けば騒ぎになってアイツらも気が付くはずだ。
「ふっふっふっ…この俺を追い詰めていい気になっているところ悪いが…天才美少年の俺は、すんばらしいことを考えついたぞ!」
考えついたことをわざわざ口にするなんて馬鹿げてると思う。
でも、一秒でもいいから相手の隙を突きたい。
俺の知りうる限りだと、水魔法でいきなり氷を出すというのは、小さいものならすぐにできるのだが、大きいものとなると話は違ってくる。
いきなり、氷の塊が掌から出てくるなんて手品以外ありえないでしょ。
つまり事前に用意して、召喚するように出すって言うのは、魔法ではなかなか難しい法則なんです。
地面に山の天辺の様な土台的なものを作って、そこから一気に魔法を練り上げるのが一般的だ。
つまり、土台がないと話にならないわけです。
土台に気が付かれないように隙を作る。
そして、一気に練り上げる。
「ただの子供ではないと思っていたが…子供は子供だな…クックックッ…」
ディモンスリッチは、喉を鳴らすだけの笑いから、徐々に高笑いへと変化させ、攻撃の手を緩めるどころか強めてきた。
小さい少年をイジメることに、興奮を覚えるやつを世間では変態っていうんだぞ!
砕け散る石で作られている床板。
破片が頬を掠めて血が滲む。
今日の俺の運勢は相当悪いに違いない。
考えが裏目に出ちゃうな。
ドジッコ属性が強い気がする。
試しに氷の土台をつくるも、黒い霧の手が沢山襲ってくるので、机や物が壊される度に一緒に壊されてしまう。
何たるだぜ…
ここは、シンプルに二人を大声で呼んでみるか?
思いつくす手は何でもやってみないと!
ダメだったら駄目だっただ!
このままだと研究室が壊れて、瓦礫の下敷きになってしまう。
息を大きく吸い込み、追いつめられながらも腹に力を入れた。
「ポールゥゥウウウウ!!!イヴェコォオオオオオオオオ!!!」
ポールもイヴェコも耳はとてもいい。
でもさ、建物の中だし、離れてるから7割くらい諦めてたんだけど…
ー ドドドドドドドドドドドドッ!!!ー
俺の従者は、モブだけど最強騎士!
騎士は、主を守るために命を張り、剣で敵を倒す!
騎士の乗り物は、馬だ!
地響きがするから馬でもかっぱらって乗ってきたかと思うじゃない?
ぶち壊された壁の穴から颯爽と登場したのは…待ちに待っていたオッサン従者なんだけど…
…俺の最強騎士様が現在乗ってるのは、超大型の熊だよ!!
ライドするもん間違ってるし、その熊ってフルビーストしてるイヴェコじゃないの!?
驚きすぎて、俺もクロサギも口を半開きにした動きを止めてしまった。
驚いていたのは俺達だけではなく、ディモンスリッチも表情は分からないが動きを止めているので驚いていることだろう。
そんな俺達を二人は見てくるんだけど…熊でも分かるくらいドヤ顔でこっちを見てくるんじゃありません。
この状況見て考えて欲しい!
俺が、助けを呼ぶって相当だと思うよ?
それなのにこのコメディー感って何!?
笑いとらないと死ぬのか!?
オッサン二人は、なんで空気読まないのだろうか…新手のモンスターだよ。
ってか、ゴッツすぎる金〇郎じゃないか!
「エル…待たせたな…」
モブのキラキラした笑顔って、正直ショボいよ。
「エル様…私が誰だかわかりますか?」
しゃべる熊ってイヴェコだけだと思うし、ハーフビーストの時よりもムカつき度が上がるんだが…
俺の後ろでは、クロサギが金太〇と何度も連呼しているんだけど、それはこいつ等に分からないことだから口を閉じて頂きたい。
緊張感あふれるバトル空気が、ぶち壊されたので、咳払いをして何事もなかったかのように、オッサンたちが来る前のシリアス顔でディモンスリッチと向き合った。
「…俺の従者が到着したがまだやり合うか?」
「あんな登場のされ方をして、なおもシリアスに持っていこうとする図々しさに驚いているよ。流石に無理があるんじゃない?」
「…何の話だ?」
どんな形であれ、従者が来た!
事実はこれだけだ!
登場も終わったのに、まだイヴェコにライドしたままの騎士のことなんて触れて駄目だ!
盛りの付いた動物園の熊の如く、俺の周りをうろうろして、弄って貰おうとしている芸人魂の塊になんて触れたら収拾がつかなくなる。
「エル…俺達は、あの黒い霧の…えっと…何かを倒せばいいのか?」
「ディモンスリッチだよ。」
シリアスな空気に追いつこうと、イヴェコライドをやめ、神妙な声を出してポールが近付いてきた。
イヴェコも負けじとフルビーストを解除してハーフビーストに戻ったのだが…当然、全裸である。
ツッコミが追いつかないので、放置して話を進めた大人な俺。
でも、「ああ、あれな。」的なことを口々に二人は言っているが、表情を見る限り完全な知ったかだ。
具体的なことは何も話さないで、視線が泳いでいる。
「…魔族でも貴族でないと分からない話だから、二人が知らなくても無理はないと思う。」
「「ですよね!」」
情けない!
知ったかぶりが、子供にばれても恥ずかしがることなく開き直るなんて。
ディモンスリッチなんて呆れちゃって在らぬ方向見だしちゃってるよ。
「えっと…また会う?」
「興が削がれたから…そうしようかな。」
未だかつてあっただろうか…敵とこんな間の抜けたやり取り。
従者二人はきょとんとした顔をして、戦わないのかと首を傾げているが…空気読んで!!
付き合いきれんと言わんばかりに、これ以上会話を交わすことなく、壁に大きく開けられた穴からスーッと黒い霧が抜けていき、空の彼方へと消えていってしまった。
「大したことない敵でしたね。」
「まったくだ。実体が無いだけで大したことなかったな。」
「……二人の脳みその方が、実体無いんじゃない?」
静かになった周りを見回し、いつ崩れてもおかしくない建物に、痩せこけて怯えている男と、モブ顔マッチョと全裸のオッサン。
変態臭がどうやっても拭えません。
さて、クロサギに話を聞いてから今後を決めますか。




