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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第2章 人国
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人生初女性に騙される


 崩れ落ちそうな建物に、何時までもいるわけにもいかず、クロサギに指示を出して大事なものだけを持ち出すようにしたのだが…どうやら、彼にはモッタイナイお化けが取り付いているようで、捨てるものの少ない事。

 走り書きがしてあるメモ用紙だったり、くたくたヨレヨレで表紙の部分が破れている本、一体何の固まりか分からないものまで大事そうに箱にしまいだしたりしている。


 「あの…俺の持ってる魔道具である鞄にもある程度制限があるので…」

 「仕方がないだろ…第一、お前が必要なものを運び出せと言ったんだぞ。」


 確かにそうだけど…どう見ても日本人なんだから、もう少し謙虚な態度はとれないのだろうか。

 かなり、イラっとしてしまうのだけど…俺の器が小さいからか?

 乾いた笑いを表で浮かべながら、裏で若干イラついていると、俺よりも馬鹿正直な大人二人が仁王立ちで責め立て始めた。


 「話からすると、クズでノロマな人間で…ボスに見捨てられた手下って話だったな。」

 「それなのに、何と図々しいのでしょう。私でもこんなに図々しく振る舞えませんよ。この人間には、恥ってものはないんですかね。」

 「イヴェコ、言ってやるな。こいつは、真の変態なんだぞ?恥や常識など有るわけがない。」


 聞いてて居た堪れないよ!

 言われたクロサギは、眉間に皺を寄せ、肩をプルプルと震わせて何かを耐えているように見える。

 あー…こりゃもう一言いわれたら泣いちゃいそうだな。

 使用人の子供で、地下の遊技場で遊んだ時にこういう顔してたっけ…ゲームでぼろ負けして。


 「ポールもイヴェコもやめなさい。クロサギ、そういうモノじゃなくて、ガラスの筒に入ったあの生命体って言うの?ああいうのを回収しなくていいわけ?」


 さっきからこちらをガン見している色とりどりの女の子達。

 あれごと持っていくって無理だからガラスの筒から出してあげないとダメだろ。

 システムが分からないから、筒の周りをぐるぐる歩いてそれらしいものを探すが見当がつかない。


 「あれは持っていけない。完成してないから培養液から出すことができないし、出すことが出来ても魂が入っていないから歩くことすらできない。」


 こっち物凄く見ているから魂って言うか、意志ある生命体だと思っていたのだが、クロサギの説明をよく聞くと違うようだ。

 モモと違うのは、肉体に魂を入れていない事。

 培養液から出ると形を保つことが出来ない事。

 クロサギの仕事は、ディモンスリッチがどこからか持ってきた本通りに肉体を作ること。

 ディモンスリッチは、闇の魔法陣で魂を肉体に入れる事が役目。


 今まで何回か実験してみたが、モモしか完成しなかった。

 何故、モモだけ成功したのかは、クロサギもディモンスリッチもわからない。


 「この子達は、このまま置いてたらどうなるの?」

 「元の素材に戻る。」


 研究所のエネルギーとして使っていた魔石の力もそろそろ切れる。

 当然、この研究施設は機能しなくなり、じきに廃墟と化す。


 元の素材というのが気になったので聞こうとすると、片手をあげて俺の発言を制止して説明を続けた。

 

 元の素材…それは、ディモンスリッチが運んできた亜人の遺体だった。

 人間のモノでは脆く、ホムンクルスには適さない。

 初めは、薄ら笑いを浮かべながら遺体を持ってくるリッチに恐怖を感じていたが、この世界にいる時間が長くなるほど感覚がおかしくなり、遺体を見ても何も思わなくなっていった。

 見るのも触るのも嫌だったのに、感覚がマヒすると遺体がただの素材としか考えられなくなって、いつしかリッチのいう通りに動いていた。

 

 元の世界に焦がれる気持ちと目の前の現実として受け入れがたい光景。

 自分や自分のいた世界など知るものは誰もなく、初めに持て囃してきた人間たちは、自分に力がないと分かると背を向けた。

 

 心が少しずつ壊れていく。

 いつしか感情を表に出す機会もなくなった。

 元の世界に戻れたとしても、以前のように感情を出すことなどできないかもしれない。

 社会に適応できなくなっている気がしてならない。


 元の世界に戻ることにも最近は恐怖を感じるようになってきた。


 だが、実験はやらされる。


 間違っていると叫んでいた自分はとうの昔に形をひそめ、無感情に徹して人形になる。

 


 クロサギの話を聞いて、いかに自分が前前世の感覚がなくなってきたのかが分かった。

 クロサギにとってのこの世界は異世界。

 何から何まで夢物語のような世界。

 だが、俺にとってはこれが現実。

 


 「僕は…君と居たら変われる気がする。元の自分に戻れるような気がするよ…」

 「…連れて行かないからね。」

 「…え?流れ的に連れていくパターンでしょ?」

 「…連れて行かないっての!」


 女の子たちは連れて行きたいけど、現段階では植物以下だっていうじゃないか。

 すでに、オッサン子供を二人も抱えているのに、更に情緒不安定なオッサン子供を増やすなんてまっぴら御免だ。

 ダッセルに連絡して迎えをよこしてもらい、エルグラン国で保護するしかない。


 「それってなに?」

 「え、俺の仲間がいる国に連絡を取る為の通信機だよ。昔の無線みたいなもんかな。連絡してお前をエルグラン国で保護してもらうんだ。」


 鼻歌交じりで通信機に魔力を流し出したのだが、全然音が聞こえない。

 普通ならツーツーって音が聞こえるのに…それに、耳にあった金属の感覚がないんだけど…


 「……クロサギ、通信機を返しなさい。」

 「いやだ。お前は、俺を守りながらさっき戦っていただろ…あの姿を見て、お前は信用できると思ったが、他の奴は信用できない。」


 身長を生かしてイヤリングを俺が取れない高い位置へと持ち上げ、唇を尖らせるが可愛くない。

 モモなら喜んで連れて…ああ!モモのこと忘れてた!


 「お前は連れて行くの嫌だけど、モモなら連れてく!」

 「…モモって…もしかしてピンク色のハーフビーストか?」


 意外なところから声が飛んできて驚いた。

 なんでポールが知ってるんだ?

 不思議に思いながらも頷き返すと、イヴェコと二人揃ってディモンスリッチが飛んでいった空を指さす。


 まさか…まさか…


 「よくわからない空飛ぶもんに乗って、黒い霧を追いかけていったぞ?」

 「ああ…モモは、アイツに惚れていたからな…」


 ダブルのショックで、俺は小石やら何かの破片が散らばる床に膝を付いた。

 

 「そういえば、何やらでっかい宝石みたいなものも持っていましたな。」


 イヴェコの無邪気な追加情報駄目押し攻撃。

 カーバンクルアームまで持ち逃げ!?

 口から泡を吹きながら地べたと一体化してしまった。

  

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