決意表明
晩餐会も終わりかけ、和やかな雰囲気のままデザートやお茶に舌鼓を打っている。
食事の最中、招待された子供たちが明日、無事に帰されることが決まった。
だが、それには条件があり、この国で見たことは決して周りに話してはならない。
話した場合は、ダッセルの魔道具で記憶を抹消するというものだった。
賢い子供たちは、誰一人異を唱えはしなかった。
子供達も俺達とは違うタイミングで城下町へ出ていた。
そこで目にしたものは、国や領土を治める貴族の子供達にはとても衝撃的なものだった。
最低なことをしているのは亜人達、人国の連中だけだと思っていたが、魔国でも同様のことが行われていたという事を知ったのだ。
自分たちは、治める側の魔族。
忘れずに心に留め、領地を治めることに生かそうと考えたのだ。
重要な決定を告げられたタイミングを逃す手はなく、俺からも皆へ決めたことを告げた。
明後日には、ポールと二人で人国へ入ること。
何故、二人で行動するのかという理由。
子供たちは、俺の身を案じてくれたが、俺の意志が固いことが分かると応援してくれた。
恵瑠姫は、困ったことがあったらすぐに手を貸すと言ってくれ、本国のエルグランは、本国へ行った際、身の安全を保障してくれると申し出てきた。
ここで友達になったエルグというヴァンパイアの男の子とエルシアという俺よりも背が低い女の子のバシリスクは、物資の援助ならいつでも答えると約束した。
問題は、聞き分けがない大人達だ。
お父様は、猛反対していたが、お母様と伽羅に諭されて折れた。
お母様からは、定期的に連絡するという条件付きでの賛成だった。
兄様と姉様、ブルーノは、北の国へ一旦帰ってから合流するという。
ダッセルとカンバーには、ここで話をする前にある程度話していたので、しぶしぶだが納得して貰えた。
問題は、ライルとアジュ。
「俺かアジュを連れて行かないなら城から出さない。」
「だから、そういう訳にいかないでしょ!立場を考えてよ!」
「ポールと二人っきりとか心配しかない!」
「…私が一緒に行きます!」
ギャアギャア埒が明かない言い合いをしていると、普段黙りっぱなしのイヴェコが手を上げてきた。
奴隷生活が長かったからか、自分の意見をあまり言わないのに、緊張した面持ちで俺の側に歩み寄った。
「イヴェコ…ダッセルの助手であるお前を連れて行くわけにはいかない…」
「ダッセルさんの仕事をお手伝いするのはとても楽しいです。ですが、私はエル様と旅をしたい…切に願ってまいりました。」
引っ込み思案のイヴェコからこんなに熱望されるとは思わなかった。
聞けば、俺が居なくなってからスキルを磨き、ダッセルの元でモノづくりのノウハウを教わり、魔法も使えるように毎日努力してきたというのだ。
連れて行かないわけにはいかないな。
熊のオッサンと変態モブオッサンと魔人の子供…ビジュアル的にどうなの!?
いいのかな!?でも、仕方ないよね?
ここに辿り着くまでに、姉様やお母様っていう花があったし、ブルーノや伽羅といった可愛い要員もいました。
兄様もお父様も素敵イケメンで二人に挟まれても暑苦しく感じなかったのに…ここにきて筋肉というむさ苦しい壁に挟まれるとは…
ふぐっ!涙出そう!
「イヴェコも連れて行くよ…人国に行ったら女性の仲間を増やそうね…」
「エル、まだ女性に夢を見てるのか…可哀想に。」
「煩いな!オッサン二人と少年の三人旅とか…一歩間違えたら二人がカップルに見られて、俺は二人の養子だからね!?それでもいいの!?」
オッサン二人揃って顔を見合わせ、苦笑いをして俺の頭を代わる代わる撫でてきた。
そんなわけないだろって笑ってるけど、アンタ達の背後では、姉様と恵瑠姫が鼻の穴を大きく膨らませて、涎垂らしながらハァハァ言ってるからね!
絶対、可愛い女の子を仲間にするぞ!腐女子じゃない子がいいな!
しんみりとした空気になるかと思っていたけど、そんなことはなく何だかんだ順調に事が運んでいった。
晩餐会の後、友達と連絡先を交換し、翌日には、友達と門の側で待っていた友達の従者を見送り、お父様達も一緒に出ると言って馬車に乗り込んで北の国へ出発した。
ブルーノが去り際に教えてくれたんだけど、お父様とお母様は見送るって言うのが泣いちゃいそうで嫌だったんだって。
確かに見送る側の方が寂しさが残るよね。
皆を見送ったら昼過ぎになってしまい、慌ててポールを連れて旅に必要なものを購入しに城下町へ行った。
イヴェコは、その間に他の人へ引継ぎを終わらせ、ダッセルと相談して役立ちそうな魔道具を無限鞄へと収納していった。
それぞれが慌ただしく次のことへ行動を移す。
荷物が粗方整ったところで、ライルとアジュの元へ一人で向かった。
「ライル、アジュ…すべてが片付いたらここに来るから…」
「エル、これを付けていきなさい…」
ライルが、二の腕にかっちりとハマるアームリングを付けてくれた。
銀色の金属に青く龍の紋が入っている石が嵌っているんだけど…どっかで見た紋だな…
首を傾げて腕の石を眺めていたら、アジュが腰に付けていた剣を抜いて、柄に付いていた石を見せてくれた。
「エル、これはこの国の紋だよ。色々な場所へ潜入している国民が、この紋を見つけたら助けてくれるはずだ。」
「……兄ちゃん、アジュ…」
二人の手を取り、自分へと引き寄せて胸の前で手を抱きしめた。
離れていても、生まれ変わっても大事にしてくれてる。
そのことが、このアームリングから伝わてくるようで涙が込み上げてきた。
一度流れ出した涙は、そう簡単には止まることがなく、しゃくりあげながら泣き続け、30分後には瞼をパンパンに腫らして部屋を後にした。
泣いている間、ライルもアジュもすべてが終わったら、北の国よりもこっちに住むよう呪いの呪文のように何度も言っていたけど、それまでに俺がどうなっているか想像もつかなかったから濁しておいた。
「エル…ブッ細工な顔だな…」
「ポール…俺が不細工ならお前は、可もなく不可もないモブ顔じゃないか。」
「…なんだ、えらい不機嫌だな…」
「不細工なんて言われて機嫌よくするってどんだけのドMなわけ?」
部屋に入るなり、別室だったはずのポールが、兄様たちが居なくなったことを良いことに、荷物をすべてこちらの部屋に運び込んで寛いでいた。
更に、泣きはらした可哀想な俺の顔に悪口を言う始末。
前世の俺だったら重力魔法使ってるよ!
「大体、なんでポールが俺の部屋でまったりしちゃってるわけ?」
「明日から一緒なんだから別に今日から一緒でも問題ないだろ。」
強引に事を押し通してくるけど、追い出す気になれない。
だって、さっきまでいたブルーノと伽羅が居ないんだもん…きっと、ポールは大人だからそういうのを察しているんだと思う。
寂しがり屋の俺の為に、こうしてふざけながらもいてくれるのは有り難い。
「仕方がないなー。あ、明日の朝、全裸待機してたらブラブラさん引きちぎるからね。」
「玉が持ち上がるような恐ろしいこと言うな。」
「そのまま球が体内に吸収されてしまえ。」
酷い言葉の応酬だが、本人たちはゲラゲラ笑いながら着替えてベッドへと入った。
今迄一緒だった人が、側に居ないのは想像以上に寂しい。
一人だったら眠れなくて朝まで起きていたかもしれないな。
今は、ポールが俺のベッドへ潜り込んできて腕枕をしてくれている。
ふとした時に頼りになるんだから憎めないし、嫌いになれないんだよ。
「ポール…勝手に旅のメンバーにしてごめん。」
「メンバーに入って居なかったら、その方が傷つく…明日は早いからもう寝ろ…」
抱き枕を抱えるがごとく、ポールの体に足を絡ませて瞼を閉じた。




