閉ざされた国
門の側でカンバーと合流して、兄ちゃん達と別れた後、カンバーの案内で城下町を散策することになった。
城を国は高い壁で覆い、外国との交流を絶った国エルグラン。
その中身は、ライルやアジュール達に拾われた奴隷や虐げられた人々で作られた場所だった。
亜人系統は、魔素の発生するときには、ダッセルが大量生産した調整ペンダントを身に着けて生活し、魔族系統は、魔素がない時に魔素を発生させる調整ペンダントを付ける。
このペンダントがよくできていて、魔素を吸い込む加工が施された石をロケットに嵌め込むだけ。
魔素が発生しなくなったら、魔素を含んだその石を魔族たちに渡すという、リサイクル&リユースなのである。
「人数が合わなかったらどうするの?」
「予備の石もちゃんとあるから、そこらへんは大丈夫。この国のルールとして、亜人と魔族はペアになってる。あ、恋人とか夫婦とかじゃなくてね。石のペアってこと。ペアが居ない人は、随時役場に召喚されて石を配給されるんだ。」
亜人と魔族が協力して暮らしている国なんてここしかないだろう。
魔素を除去できたり供給出来たりする技術なんて聞いたことないし、挑戦しようというものもいなかった。
覚醒魔人である兄弟が、この土地のある程度のサイクルを研究し、それをダッセルへ報告できたからこうやって暮らせる。
俺の仲間ってチートだね。俺以外。
町の大通りを歩いていると、カンバーはよく声を掛けられたり、拝まれたりしていた。
この町に住んで長い人は、殆どカンバーの指揮のもと助けられた人達で、英雄的に慕われている。
「カンバー…なんだか遠い人みたいだね…」
「何言ってんの。俺がここまで強くなれたのはエルのおかげだよ。」
茶化す様に涙を拭う振りをしたが、俺の雰囲気とは打って変わってカンバーは真面目な顔をして見つめてきた。
俺のおかげとはどういうことだ?
何かカンバーにしてやった記憶がないので首を捻っていると、優しく微笑みながら俺の頭を撫でてきた。
「分からないの?…集落でただ泣いていただけの俺を連れて旅をしてくれたお人好しさん。」
「え!?俺、当たり前のことをしただけで…カンバーは、元々強いから俺達が手を指し伸ばさなくても自分で遅かれ早かれ旅に出ていたと思うよ。」
「カンバー、こいつは自分がお人好しとはあまり思っていないから言っても無駄だぞ。」
ほわっとした柔らかい空気に包まれようとしていた俺達に遠慮なく水を差してくる脳筋ポール。
こいつ、絶対わざと憎まれ口を叩いているな…そういえば、前世でもよく揶揄われたっけ。
鋼の肉体に蹴りを入れてやろうかと身構えたら、カンバーが片手を目の前に出してきてそれを制した。
俺に向かって茶目っ気たっぷりのウィンクをしながら。
「ポールってさー、俺だけじゃなくて他の人もだけど…エルといい雰囲気になろうとすると邪魔するよねー?」
《そうそう!前世でもそうだよ!》
《もしかして…オッサンなのにエルに対して本気なの?》
「……まさか…」
小学生か!この人達もポールも小学生の下校途中みたいな会話し始めたよ!
アレコレ冷やかすような責められ方をしているポールは、皆の期待していた反応とは違い、涼しい顔をして垂れ下がってくるほど長くもない前髪を掻き上げ、自分よりも背の低い者たちを見下した。
「エルが、俺に対して好意を寄せているのだから、それ相応な態度を取ってやらないとコイツが可哀想だろ。」
何いい笑顔と声で言い放っちゃってんの?
変態に磨きがかかりすぎて頭沸いちゃったのかな?
沸々と沸いてくる苛立ちからスッと目を細め、ブルーノに向かってGOサインを出す。
「ブルーノ…変態が尻をまた噛んでもらいたいみたいだよ。」
《イエス、マイロード…》
「うわっ!冗談に決まってるだろうが!!唸りながら来るな!野性味たっぷりすぎるぞ!!」
俺達の周りを騒がしくポールとブルーノが追っかけっこを始めると、カンバーが目に涙を溜めて大笑いし始めた。
ここへ来て初めて見た気がするよ…カンバーの楽しそうな顔。
それを見ていた町の人たちも笑い出し、笑いと温かさで周りがいっぱいになった。
恐ろしい国と言われていた内部は、怯えと恐怖を乗り越えて強く生きようとしている人たちで光っていた。
よく町の人を見ると片腕が絡繰りになってる人や、尻尾が曲がっている獣人、顔にやけどの跡が残って居るものもいたが、ポールとブルーノのおかげか皆目に涙を浮かべて笑って幸せそうにしている。
アジュールの話だと、ライルだけが憎しみと悲しみに掴まっておかしくなっていってしまったが、アジュールとカンバーは、ライルを宥めながらも俺ならどうするかを考えて行動していた。
そう話してくれたが、俺だったらこんなに大それたことは出来ない。
国を作って、困っていたり悲しんでいたりする人を助けるなんてこと考えつかないし、行動力もないしね。
俺と離れている間、みんなそれぞれ自分を鍛えて居場所を作り上げていた。
きっと、残りの仲間もそれぞれのやるべき事、出来る事を考えて今も行動していることだろう。
それなら、俺も早めに動かなくてはならない。
次は間違えないで、計画をしっかりと立てて行動する。
仲間の命はもちろんだけど、自分のことも軽視しないで動くこと。
やっぱり、ライルとアジュール、カンバー、ダッセル、イヴェコとはここでお別れだ。
伽羅も魔素のない人国へは連れて行けないから、お父様達と北の国へ帰ってもらうしかない。
兄様と姉様、ブルーノは王命を受けた冒険者なのだからお父様とお母様の護衛として、一旦は北の国へ帰らなくてはならないと思う。
そうなると俺とポールの二人旅か。
振出しに戻るって感じだな。
追いかけっこが終わって、カンバーの案内で町を散策しながらそんなことを考え決心した。
明後日にはこの国を出て人国を目指そう。
今日の晩餐会の時に皆に話して分かってもらうしかない。
折角、会えて皆でワイワイ楽しんでいるのに申し訳ないけど…早くしないと俺の決心が鈍る。
考えていたことが顔に出ていたのか、ポールが軽く俺の後頭部を叩いてきた。
「いったいなー…何?」
「何じゃない…余計なことを考えないで町探索を楽しめ。」
「…そうだね…」
前からそうだ。
ポールは、俺の考えが透けて見えているんじゃないかと思うほどよく気が付く。
こういうフォローが有り難い。
すぐに脳内で旅に出て行ってしまうからね。
「あ、あれ何?すっごい色の飾りだねー。」
店に出ている珍しい細工飾りを見て、それを皮切りに皆を引っ張りながらこの国の色々なことを勉強しながら楽しんだ。
普段どういったものを食べているのか。
特産品は何か。
流行ってるものはどういうものか。
カンバーにあれこれ質問を浴びせても、嫌な顔をせず進んで色々と案内してくれた。
こういう時間がずっと続くように…俺だけじゃなくて皆願っていたのかもしれない。
日が暮れても誰も帰ると言い出さず、城から迎えが来るまで遊び倒した。
各国の来賓者たちを招いて、夜会ではなく晩餐会という形で交流の場をエルグラン国側は設けた。
皆、それぞれの国の名前が書いてあるプレートの場所へと座り、ライルとアジュの短い挨拶で開会した。
国独自の正装で食事をしているんだけど、恵瑠姫だけ食べ辛そう…袖が大きくて長いから。
姉様が、恵瑠姫の側に行って一本の紐を差し出すと、満面の笑みでササッと袖が邪魔にならないように襷掛けにした。
二人とも本当に仲が良いなー。
頬を染め合って微笑み合ってから姉様が自分の席へ座った。
俺の気のせいだよね?
二人は恋人同士になっちゃったとかじゃないよね!?
女性同士の距離感が分からないよ!!!!




