花束
この城に着て数日が経ちました。
城内の探検や恵瑠姫を始めとした子供達とも面会と謝罪を済ませ、城でのことはすべて終わりました。
いよいよ、城の外へと冒険に出ます!
恵瑠姫を誘ったのですが、姉様と積もる話もあるとのことで辞退されてしまいました。
一緒に行くのは、兄様とポール、カンバー、ブルーノ、伽羅です。
本国のエルも一緒に行きたいと1時間ほど部屋の前で駄々を捏ねていましたが、兄ちゃんが現れて何事もなかったように自室へと戻っていきました。
カンバーから聞いた話だと、俺が居ない間に本国のエルと面会し、俺に言い寄るのはやめるよう凄んだそうだ。
兄ちゃんの凄んだとこ…本当に怖くて今、思い出しても震えがくる。
兄ちゃんに馬乗りにされ、自由を奪われ、首筋を……
「はぁあああああああん!」
「いきなり変な声を上げるな!奇病か!」
つい、思い出してクネクネ体を撓らせながらおかしな声を上げてしまった。
たまに兄ちゃんにされてことを思い出してこうなってしまうんです。
それにしても、奇病とは言い得て妙だな…ポールの癖に。
「そんなんで町に出て大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫。いざとなったら伽羅の柔らかモフモフを口に当てて耐えるから。」
《エル、俺はマスクじゃないんだよ?》
《思い出し悶えって…エル、変態一歩手前だからやめなよー。》
色々な問題が一気にクリアになったことで、どうでもいい余計なことを思い出しては、笑ったり、落ち込んだり、悶えたりしている。
余裕が出てきたって言ったらいい言い方だけど、変態一歩手前か…脳内カーニヴァルだけじゃ収まりきらないから困ったものだ。
城と町の堺である門の前でカンバーを待っている間、どうでもいいふざけた会話をしていると数人の亜人と見られる子供たちが何度も行ったり来たりを繰り返していた。
「君たち、城に用事でもあるのかな?誰か呼んでこようか?」
俺と同じくらいの身長かそれよりももう少し背が高い位の子供たちが、オロオロしながらも少しずつ距離を詰めてきた。
みんな、手には見慣れない花の束を持っている。
誰かにあげたいのだろうか。
「あの!…ライル様とアジュール様の待ち人がやっと現れたと聞きました。」
「私達、造園農家なんです。新作の花が出来たので…プレゼントしたいんですけど…」
「渡してくれませんか?」
「「「「お願いします!!」」」」
…こんなこと見たことがない。
子供たちが自ら作ったものを城の偉い人に渡しに来るなんて。
必死の形相で俺達に頭を下げてきた様子を見て、俺は驚きで数秒固まった後、温かい気持ちになって自然と微笑みかけていた。
「今、二人を呼んでくるから自分で渡した方がいいよ。」
「ええええええ!?そんな、滅相もない!」
子供たちは恐縮して押し競まんじゅうのように一か所に固まって全員頭を激しく横に振っている。
なんだか可愛いなぁー。
二人にも見てもらいたい!
「ブルーノ、伽羅。二人を呼んできてくれる?」
《えー…めんどくさいからエルが呼びなよ。》
「呼びなっていったって…通信魔具使うとちょっと疲れちゃうんだもん。」
「仕方がないな…ここは、俺とストラトスで一肌脱ぐか。」
「暗躍スキルで呼ぶよりも早く来そうですね。」
確かに、城の中は複雑だし、カラクリとかもあるからそれを避けたり、稼働させたりしないとたどり着けないからめんどくさがるのも分かる。
ポールも兄様も暗躍スキルを使って呼びに行くかと思えば少し違うようだ。
兄様は、門のアーチ頂上にあるクリスタルを確認してから、ポールと二人で俺を挟み、両側からほっぺにキスをしてきた。
「ちょっと…二人とも子供たちが居るのに何やってるの!?」
「まぁ、待ってろ。あのムッツリはすぐに来るから。」
むっつりって絶対に兄ちゃんのことだよね…
文句を言おうと口を開いた瞬間、俺の頬が痛い暗い布でごしごしと擦られていた。
兄ちゃんとアジュがどこからともなくやってきて、俺の頬を拭いていたのだ。
それも鬼のような険しい顔をして。
「二人とも…エルに何してくれてんだよ…」
「実兄と護衛騎士の分際で…」
「…子供たちが怯えるからそういう顔しないでよ…たかがほっぺにキス位で。こんなの挨拶としてやる国だってあるよ?」
赤くなってヒリ付く頬を冷やす様、自分の両手で押さえながら呆れたように宥めた。
折角、和やかでいい雰囲気だったのに…
俺は、恐怖で固まってしまった子供たちに、笑顔で近付いて一人一人の背中を兄ちゃん達へと軽く押し出した。
滅多にないチャンスなんだから足踏みしてちゃ勿体ない。
半ば強引に笑顔で渡すことを促していた俺に、戸惑っていた子供達も表情を強張らせたまま二人に花を差し出した。
「こここここれ…」
「わ、私達で作りました!」
「お二人がずっと探していた人に…プレゼントです!!」
「どうぞ!!」
可愛い子供たちが、色香漂うほど美人な兄弟に花束を差し出している。
なんて絵になるんだろう…子供たちの表情マジで恐怖に引き攣ってるけど。
一方兄ちゃん達は、表情が変わらない。
なんでだろ?こんなに心温まるようなことってそんなにないと思うんだけどなー。
「なんで受け取らないの?」
「…エル、話聞いてなかったの?これは、エルが受け取るべき花だよ。」
「俺?」
「俺達が探していた人へプレゼントってエルにじゃないか…」
…分かってないな!!この美形兄弟!!
んな、見たことない奴に渡したって嬉しかないだろ!俺にってのは建前で二人にってことだろ!
一般庶民の心が分からない人たちだな…
「…あのね、二人が受け取って俺に渡すのが、この子達の望みなんじゃないの?」
「エル、この兄弟はお前のこと以外合理的にしか考えられないから仕方ないんじゃないのか?」
「まだ、私の方がこの子達やエルの気持ちを汲んであげられるね。」
《はいはい、火に油注がないの。ライルもアジュも笑顔で受け取ってね。》
《二人の絶対零度な顔だと花が氷漬けになっちゃいそうだ…》
俺達に色々と言われて気が付いたようで、二人は子供達から花束を受け取り、一人一人の頭を撫でて子供たちを返した。
皆、引き吊っていた顔が笑顔に変わってはしゃぎながら走っていったので更に微笑ましく感じ、俺まで笑顔になってしまった。
「わっぷ!」
「ほら、花束…でも、これから町を見て回るんじゃないの?」
顔の目の前にアジュールが花束を出してきて、花弁が口の中に何枚か入ったので受け取りながら唇を叩いた。
確かに、花束を持って町の中を歩き回るって…途中で花弁が散っちゃいそうで嫌だな。
兄ちゃんからも花束を受け取っては見たけど困った。
すると兄ちゃんが徐に花束から2本、青紫色した花をとり、髪を一纏めにしていた紐へと差し入れた。
「これならいいだろ。花束は部屋に飾らせておくから…可愛い花をつけて行っておいで。」
「兄ちゃ…じゃなかった…有難う、ライル…」
「んん!!!」
兄様の前で流石に、兄ちゃん呼びを続けるのは引っ掛かるので、恥ずかしい気持ちを我慢して、初めて名前で呼んでみたんだけど…兄ちゃんが聞いたこともないような声を上げて悶えてるよ。
美人が赤面して両手で口元を抑えながら悶えるってなんか…可愛い!!こんなことならもっと早く名前呼びをすればよかった!!!
《エル…よだれ出てる。》
「おっと、いけない。」
ブルーノとポールが目と表情だけで変態と罵っているのが分かる。
いけない!このままじゃ、変態認定されちゃうよ!
誤魔化す様に咳払いをして、崩れ切った表情を立て直していたら、もう一つ視線を感じて振り返る。
門のそばでカンバーが、生易しい目で俺達を見ていた。




