発明王ダッセル
みんな!自転車に二人乗りは違反だよ!
でも、この自転車は基準を満たしているよ!
…子供乗せる用のアタッチメントがついてるからね…なんなの!?ダッセルってマジで天才過ぎて怖いよ!
その内電動的な自転車作りそう!
俺は、この世界で乗れると思っていなかった乗り物である自転車の快適さを身を持って経験中です。
廊下の床に白いラインが引いてあってデザインかと思ったら、なんと自転車専用通路だった。
交通整備もバッチリだね!
城にいる魔族やモンスター、亜人たち、ゴーレムたちもルールが分かっているようで、線から外側は歩かないでいる。
アジュや兄ちゃんに聞いたけど、この城には世界中の色んな種の人たちやモンスターが集まっていて、皆兄ちゃんに従って働いているんだって。
殆どが奴隷上がりで、スパイとして潜入いしている人たちに助けられてここに送られて人達も沢山いる。
強さがないモノたちは、植え付けられた恐怖で人国はもちろん、魔国へも行くことが出来ず、この城で自給自足の生活をしているうちに一つの国になった。
アジュやカンバーが作った育成プログラムをクリアしたものだけが、スパイとして色んな国や町に潜入し、酷い国や町、村なんかを見つけたらアジュをはじめとした幹部へと連絡がいき、半月に一回の会議でその沙汰が下る。
魔国は、兄ちゃんの指示でほぼ全域にスパイが潜入しているが、人国は魔国よりも広くて村や国が多いため、まだ潜入してない場所も沢山あるそうです。
俺が行こうと思っているのはそういう潜入が難しい場所。
未だに、あのムカつくやつが忙しそうにしているという事は、勇者召喚の儀式が行われている証拠だ。
一刻も早く止めないと。
「うっぷ!」
「着きました!私の研究所へようこそ!」
急に止まるからダッセルの背中に顔をぶつけちゃったよ。
ジンジンする鼻を摩りながら、ダッセルが指さす方へと目を向けると壁に金属で作られたネームプレートがでかでかと掛けられたアーチ状の扉があった。
前から思ってたけど、クリエイティブなものが得意な人ってセンスがいい。
ネームプレートの下にあるクリスタルに、ダッセルが笑顔で手を振るだけで閉まっていた扉が観音開きに開いた。
ダッセルに手伝って貰って自転車を降り、案内されるまま中へと入って驚いた。
ダッセルの研究所だから少ない人数か、もしくはダッセル一人で気ままな発明ライフを送っているのかと思っていたらとんでもなかった。
だだっ広いフロアに、いくつもの机や衝立で囲われた島があって、一流企業のオフィスみたいになっていたのだ。
どこの島でなんの開発をしているかをダッセルがすべて把握し、部下にすべて指示を与えて足を進めている。
社長さん、私あなたの愛人になっても良くってよ?
って言いたくなるくらい凄い。
ふと気が付いたが、この中は亜人が多い。
それも手先が器用でモノづくりが好きな種族ばかりいる。
中には、ダッセルと同じキュプロスも数人いた。
じっくり職場を見て回るこの感じ思い出した!社会科見学だ!
開発フロアを抜けて、自動で開いた扉を潜り、長い廊下を歩いているとダッセルが徐に手を叩いた。
すると壁だった場所が窓へと一瞬で変わったと思ったら、その向こう側には工場が広がり、職人たちがせっせと働いていた。
「どうです?構想はずっと持っていたんですが、実現は難しいと思って諦めていたんです…しかし、ライル様やアジュール様が拙者の意見を尊重して惜しみなく協力してくれた結果なんですよ。」
「これは凄いね…構想を持っていたこともすごいけど、実現できたのはダッセルの力がかなりあると思う。」
「むほほ…やはり、エル殿に褒められると嬉しいものですな。」
その後も社会科見学は続き、気になるところをあれこれ聞いて説明を受けた。
そういえば、物のついでに兄ちゃん達はなんで「様」付けなのかと聞いたら、この国の最重要幹部だから公私をはっきりつける為なのだそうです。
俺は、一応この国の人間じゃないから以前と変わらない呼び方なんだって。
その方が俺も有り難い。
「エル殿、こちらはヘリュ殿にもお渡しした通信道具です。どうぞお持ちください。」
「有難う…あ、ちょっとお願いがあるんだけど聞いてもらえるかな?」
イヤリングと指輪を受け取ってから、この研究所を歩きながら思いついた道具をダッセルに説明して作ってもらうことにした。
あと、歩きやすい靴もね。
ダッセルは、魔道具だけじゃなく色々なものを作れるからこういう時ありがたい。
洋服から靴や帽子、手袋何でもござれだからね。
ダッセルの研究室は、一番奥にあり、本来であればフロアを抜けたりせずに、転送用の魔法陣で入口から一っ跳びでいけるので次回からは魔法陣を俺も使えるように教えてもらった。
あ、気が付いたかな?
俺は魔力が使えないから誰か同伴じゃないとダメなんだ!魔道具位ならなんとかなるんだけど…転送魔法陣は駄目だな。
早く成長して魔法が使える様にならないと不便極まりないよ。
「エル殿、これが何だかわかりますかな?」
脳内で自分のダメさを呪っていたら、目の前に白い布切れが差し出された。
引きちぎれて汚れている切れ端。
「まさか…あの時のマント?」
「そうです。貴方が着ていたマント…拙者は、発明王とまで呼ばれたのに、目の前で貴方が命を削っていくのを止めることが出来なかった…戒めの為、肌身離さず持っていたものです。」
ああ…俺は本当に馬鹿だ。
こうして生まれ変わって、記憶が戻ったからいいもののそうでなかったら、仲間たちの心の傷に気付くこともできなかった。
手に乗せていた布を握り締め、決意を新たにダッセルを見上げた。
「ダッセル…もう、あの時の様に無茶はしない。だからこいつを俺にくれないか?」
「エル殿…」
「仲間を思うばっかりで、仲間に思われている俺を大事にしていなかった。結果、皆を傷つけてしまったから…今度は、俺が戒めの為にこれを持つよ。」
ダッセルは、大きな単眼から涙を滝のように流し、一気に泣き崩れてしまった。
布を自分のポケットへと入れ、ダッセルの大きな頭を抱きかかえて泣き止むまで後頭部を撫で続けた。
研究室は、完全なるプライベート空間だそうで、誰かが入ってくる心配がないせいか、かなり長い時間泣き続けられた。
巨人って涙の量も半端ないみたい。
すっかり胸元がびしょ濡れで、絞ったら床にジャバジャバ涙の池が出来たよ。
「エル殿…これからどうされるのですか?旅立つのなら拙者も同行させて下され…」
「あ、それは無理。」
「ええ!?今の流れは、連れて行って下さる流れなのではないんですか!?」
「連れて行けるわけないでしょ!これだけの大きな組織を纏めてる人を…ましてやこんなに目立つ人連れて歩けないって!」
相当ショックだったらしく再び泣き出してしまった。
問題なく動きたいと思ってるのに、キュプロスなんて物凄く珍しい種族連れてたり、この大きな会社みたいな組織の中心になってる人をいきなり連れ回すとか、俺はどんだけ自分勝手なやつだよ。
連れては行きたいけど、現実問題無理だ。
親が子供に言い聞かせるように優しく丁寧に建前も交えて説明して何とか理解してもらった…3時間くらいかかったけど。
研究所からの帰りは、研究員の下っ端で若いドワーフが自転車で送ってくれた。
自転車に乗っている間、無言に耐えられなかった俺は、ドワーフの若者に色々と話を聞いたりした。
ダッセルのこと、研究所のこと、この国の当たり障りない話を一通り終えたら、新たに用意された新しい部屋へと到着した。
若者にお礼を言ってドアを開けるとブルーノしかいなかった。
「あれ?ポールは?」
《別室だよ。ライルとストラトスが、同室に対して猛反対して大変だったんだから。今、伽羅はパパさんとお風呂に行ってて、終わったらこの部屋で一緒に過ごすよ。》
「そっか…」
《寂しいの?》
「変態に慣れてきたのかな…あのモーニング全裸がないのかと思うと少し物足りない気が…」
《エル…気が付いてないかもしれないけど、俺と伽羅なんかいつでも全裸だからね。》
「おっふ…」
そういえば、二匹ともそうだね…今度ダッセルにペット用の洋服とか作ってもらおう。
どうせなら、変身したときに、真っ裸にならないような仕様のものを開発して貰えないか相談してみるか。
このモフ毛の露出が少なくなるのは寂しいけどね。




