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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 北の国から
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告白


本日のお部屋訪問の時間がやってまいりました!

北の国からきたエルグラン・ランチアだよ!

今日は、最近できたばっかりだけど、驚異的な力を付けてきているエルグラン国の冷血魔王の弟、アジュールさんの部屋に突撃します!


テンションを上げるためにおどけて来たものの…昨日の一件があって、結構気まずいんだよね。

アジュールの部屋の扉は、藍色でシンプルなものだった。

兄ちゃんのとこよりも二回りくらい小さい。

兄ちゃんとアジュは、この国では対等な立場だと聞いたのに…控えめだ。


兄ちゃんとは、まだ緊張して何も話せないし、昨日は疲れと鼻血で朝までぐっすりだったから顔を合わせていない。

人間だった頃の兄ちゃんとは、やはり雰囲気が変わっている。

俺が死んでからのことを詳しくアジュールに聞くのも今回訪問の目的だ。


ノックを控えめにしてみると、すぐにアジュの声が返ってきたので遠慮なくドアを開けて入室した。


部屋に入るとアジュールは、俺が来ることが分かっていたかのように丁度お茶を二人分煎れていた。

その仕草が、幼かったアジュールではなく、一人の成人男性だったので胸が痛んだ。

可愛かった弟ではないのだと現実を改めて突き付けられたようで、鼻の奥がジンッと痺れた。


「エル、そんなところに立っていないでこっちに来て座りなよ。」

「…うん…」


くっ!可愛かった天使が、兄ちゃんみたいなスパダリイケメンにメガ進化か!

俺が女性だったら蕩けてしまいそうな柔らかく艶のある笑顔を浮かべ、スマートな促し方をしている元弟に脳内の俺はギリギリと歯ぎしりした。

生まれ変わった俺はリスタートだから、子供なのに…それに、美形に囲まれまくってるから自分の醜さがよくわかる。

皆、俺を可愛いとか美人っていうけど…記憶が戻ってもそうは思わない。

普段からあんまり自分の顔を見ないし、マント被ってたりお面付けてたりしてたから余計分からないけど…昨日兄ちゃんの目に映った自分は、醜い顔をしていた。

前の方が美形だった。


だからかな…


ポールといると安心する!モブだからね!

アジュを見てるとますます落ち込む。

鏡張りの部屋じゃなくてよかったです。

兄ちゃんともだし、兄様や姉様の側に居ても一緒に鏡に映ったら泣いちゃうよ。


「エル?どこに座ってるの?」

「どこって…ソファーだけど?」

「違うでしょ?」


つまらないことを思いながらソファーに腰を降ろした途端、アジュが変なことを言ってきた。

座ることを勧められたからソファーに座ったのに…ああ、そういうことね。

疑問に思っている俺に、先ほどと同じ素敵無敵スマイルを向けて自分の膝の上を叩いている元弟。

アジュ…中身は変わらないな。

仕方がないから言われた通り、アジュの膝の上に座り直した。

向かい合って座るというサービス付きで。


「ほら、言われた通りにしたぞ。」

「…エルがこんなに素直に座ってくれるなんて…何かあった?」

「失礼な奴だな…でも、罪滅ぼしの意味もあるし、いろいろ聞きたいことがあるから逃がさないためにってのもある。」

「見た目が変わっても中身は変わらないね。」


アジュは、転生者なんじゃないかと思うくらい昔から頭が良かったから、俺がこれから聞こうとしていることもすぐに分かったようだ。

何故だろ…アジュが相手だと前世の強気な自分が出てくる。

兄って立場だったからかな?

そうだ、前世もゆっくりアジュと話せなかったから、たくさん聞いておこう。


俺達は向かい合ったまま話をした。


俺を探している間に、人間や魔族を恨むようなことが沢山あったが、下手に動いて目を付けられないように暗躍スキルを駆使して動いていた。

だが、俺がこの世には存在していないと確定した時点で、我慢していた感情が溢れて止まらなくなって魔に落ちた。

魔に落ちてからの兄ちゃんは少しずつ壊れていった。

アジュも初めは、兄ちゃんと共に人間を殺し、魔族を殺していたが、カンバーと再会して目が覚めたのだ。


”エルは、こんな二人を望んでいない。だから、神の使いを出したんじゃないか?”


カンバーの言葉で血に染まり切っていた手を見て、自分は何をやってきたのだろうと考えた。

目を覚ましたアジュとは違い、兄ちゃんは既に心が凍りついて聞く耳など持っていなかった。


”だからなんだ?エルは居ないじゃないか…”


瞳に光などなく、全身血に塗れた兄ちゃんは、とても恐ろしくてアジュもカンバーもいう事を聞くしかなかった。

しかし、カンバーとダッセル、イヴェコが魔国に入れる魔道具を手に入れ、この地を訪れた時、はじめて兄ちゃんがカンバーのいう事を聞いた。


”大変だよ!魔国の木が教えてくれた!世界に愛しいあの子が戻ってきたって!”


兄ちゃんは、すぐに自分の元に戻ってこれるよう、分かりやすく国名をエルグランとして建国。

一年は、襲ってくる魔族や人国の兵士たちをやっつけるだけにしてきたが、一向に俺が来ない。


”ライル様、魔国の木がまた教えてくれました。あの子は、生まれ変わっているそうです。”


子供を攫え。

兄ちゃんは、自分の元に集まり、忠誠を誓った者たちを訓練して世界中に送った。

貴族かもしれないからと夜会を開いて、条件に会う者たちを招待したが、偽物ばかりをこちらに寄こしたことが分かり、怒りを爆発させて皆殺しにした。

この頃には、国の者以外の生き物をものとしか捉えていない冷酷な魔王と変わっていた。


”アジュ…おかしいと思わないかい?あんなに兄ちゃん子だったエルが、生まれ変わったのに俺のところに来ないなんて…”

”人間だったら来れないんじゃない?生まれ変わってたなら2歳だからね。”


人国で2歳の子供を手あたり次第調査させた。

引っ掛からない。

魔国を調べると貴族の子供でエルとつく子供が、数人いるときいて最後のチャンスと今回の夜会を開いた。


”この国の者を満遍なく世界中に潜ませている。前回のような真似をしたら一斉に攻撃を始める。”


そう添えて。


兄ちゃんは、すべてがどうでもよくなっていた。

世界なんて無くなってしまえばいいとも考えていたのだ。


カンバーが、「もっと早くに…」と言っていたことを思い出した。


既に到着している夜会のメンバーは、兄ちゃんもアジュも見ていて、残るは本国と北の国の俺だけだった。

あきらめムードだったアジュが、北の国の相手はおまえがしろと、普段だったら自分の側で見守っていたカンバーをいかせた。

だが、一向に戻ってこない。

監視用の水晶を覗くと一気に草木で見えなくなったので、ダッセルが作ったカーバンクルゴーレムを操縦して見に行った。

カンバーに何かあったら、アジュ一人では兄ちゃんを支えきれないと思ったそう。

北の国から来た招待客の護衛が、ポールとストラトス、リブラ、ブルーノだった。


懐かしいと思って話そうかとも思ったが、連れてる子供がいる。

子供を見ると一瞬、前世の俺が見えたそうだ。

これは、当たりだと思ったが、様子が変だとすぐに気が付いた。

カンバーさんと呼んでいる。

ハズレか…でも、ポール達がとても大事に守っているのが分かった。

考えていたら兄ちゃんが、俺の首を締めあげて連れ去った。


”アジュ!あの子はエルだ!早く助けてあげて!!”


カンバーは嘘をつかないし、ポール達も同意している。

何らかの理由で記憶が無くなっているのかもしれない。

兄ちゃんの部屋に急いで入ったら、俺が殺されそうになっていて何とか引きはがそうと咄嗟に出した言葉が、「ポールの婚約者だから犯して帰そう。」だった。


兄ちゃんは、人国の奴も魔国の奴も無理やり性の道具にすることはなかった。

惨い殺し方をすることもあったが、そういったことはしなかったので、自分に任せてくれると思っていた。


兄ちゃんが、俺に暴力を振るって馬乗りになったのを見た時に頭を直接殴られたような衝撃を受け、咄嗟に動けなかったそうだ。

俺の助けを求める言葉で我に返って動こうとしたら光が部屋を包んだ。


後は俺の知ってる展開だ。



「エル…あの時はごめん…兄さんにこんな痕まで付けられて…」

「あ、これはさっき…おっと!」


ヤバいヤバい。口を片手で押さえて視線を反らしたが、近距離で向き合っているのですぐに視線を合わせることになってしまう。

誤魔化す様に前世でよく使っていたあざとスマイル!


「で?」

「……婚約者に付けられた…彼ってば独占欲強いから…」


なーんちゃって!って言おうとしたら既に俺の座っていた覚醒魔人座椅子が居なくなっていた。

ポール…無事でいてください。



ードォオオオオオンッ!!



あー…やっぱり助けに行ってやるかな。

すっかり冷めきった紅茶で喉を潤わせ、久々に魔法を使おうと身体強化を体にかけようとしたが…発動しない。

…記憶も魔法を使う感覚も戻ってきたのに…なんでだ?

疑問に思いながらも哀れなポールの為、地図を思い出しながら自室へと戻るのだった。


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