鍛えた方がいいかも
「はぁ…はぁ…やっと着いた…」
馬車に乗ってばっかりいたからすっかり運動不足で筋力もスタミナも落ち、普通の子供よりもひ弱な子みたいになってしまっている体で…バッカみたいに広くて複雑な作りの城を全力疾走って…部活か!
基礎練には良いかもしれないけど、俺はスポーツ選手とかにならないよ!
疲れてぐったりしてんのに、目の前の光景で精神的にも大ダメージだ。
壁に穴は開いてて部屋は吹き飛んでるわ、皆臨戦態勢だわ、使用人モンスター達がどうしたら良いのかわからなくてワチャワチャ周りをうろついては、飛んできた攻撃の餌食になっている。
カオスだ。
「みんな!ストップ!!!!」
なんで、兄ちゃんや元気になったであろうお父様と伽羅までいるんだよ。
たかがキスマーク位で過保護すぎる。
俺の声なんてまるで聞こえていないようで、皆戦いをやめない。
よく見てみると、ポール一人でみんなを相手にしているんではなく、ポールだったり兄ちゃんにだったりしている。
もう私情入り込みまくりの戦争って感じで埒が明かない。
こうなったら魔法で何とかするしかないか…記憶の封印を管理していたんだから魔力の管理もしているはずだ。
確か、この石でアイツと話ができるって言っていた気がしたぞ。
「おい、俺の声が聞こえてんだろ?魔法の制限もお前が管理してるな?」
手首に光るブレスレットの青い石を睨みながら低めの声で囁いた。
どうにもアイツと話をするってなるとテンションが下がる。
〈そうだよー。記憶と同時に魔力も戻しちゃうとしばらく動けなくなっちゃうから制限しといたー。〉
「相変わらず能天気な話し方だな…一時的でいいから解放しろ。これじゃ、国が無くなっちゃうだろ。」
〈そうだねー…一回だけだよ?あとは、もう少しエルが成長してからねー。〉
前ほどじゃないけど、やっぱり癪に障る話し方なんだよ…
一息ついてから全身に魔力を巡らせ、管理者が言っていたことが分かってきた。
前世で聖魔法を使った時に似てる。
ズシッと腹の中に重いものが落ちてくるような苦しさ。
でも、人間の体よりも、やはりこの体は頑丈で、酷い頭痛がしたり等の不具合はない。
「グラビティー…」
久し振りだから力加減は出来るけど選別は出来ず、目の前で動くもの全員に重力魔法を掛けた。
目の前の景色が前世で見た藍色に変わる。
「エル!?」
「うぐっ…俺に魔法を使うなって言ったくせに…くっ!」
重力魔法に慣れてるせいか、ポールはすぐに魔法から抜け出し、俺の元へと走ってきた。
変態全裸騎士なのに、強さが本当に化け物クラスになってる。
皆の魔法も解除しなくては、体が悲鳴を上げそうだったので魔法を解除しポールの腕の中に倒れ込んだ。
「ポールのキスマークだけが原因じゃないね?」
「初めはそうだったんだがな…途中から色々なうっぷんや不満が溢れたみたいで…すまん。」
「エル!ごめんなさい、大丈夫?」
近くにいた姉様が、顔色を真っ青に変えて駆け寄り、膝を床に付けて俺の顔を覗き込みながら頭を撫でてくれた。
笑顔で答えようとしていると姉様の背後に兄様と兄ちゃんが慌てて飛んできた。
うん、文字通り飛んできたんだよ。
「二人とも飛んでたけどなんで?」
「ああ、風魔法の応用だよ…それよりも…無茶をしたらダメじゃないか。」
「まったくだ。生まれ変わっても無茶するところが変わらないなんて心配だよ。」
…W兄さん…ややこしいね!
兄ちゃんには、言わなくちゃって思ってたんだけど…二人が揃うと本当にややこしい。
「兄ちゃん…今、兄ちゃんが言ったように、俺は生まれ変わってストラトス兄様とリブラ姉様の弟なんだ。つまり、兄ちゃんの弟じゃない。アジュの兄でもない。この際だからはっきり言うけど…もう兄ちゃんって呼ばないからね。」
「じゃぁ、なんて私のことを呼ぶんだい?」
「え…それは…」
そうだよ、名前で呼ばなくちゃならないんだけど…名前でなんて恥ずかしくて呼べないよ!
呼んだことないもん!旅をしてる時には偽名だったし…どうしよう。
オロオロと困っているうちに、兄ちゃんの顔が必要以上に近付いて来る。
「ちょっと…近いんだけど…」
「早く言わないとキスするよ?」
「…婚約者である俺の目の前でやめてもらおうか」
今迄見たことない位不機嫌な顔をしているポールが、俺を抱きかかえて立ち上がった。
更に、兄ちゃんから顔を隠すよう俺の後頭部を抑え、肩へと押し付けてきた。
「むぐ…ポール…うお!」
ポールに、唇が自分の歯と筋肉の鎧のような肩に挟まれて痛いので、抗議しようとしたら肩越しにお父様がこぶしを握り締めて立っていた。
慌ててポールの腕の中で暴れ、お父様が迫っていることをポールに教えると、お父様に向けて一礼して風穴が開いてる壁から城の外へと飛び降りたのだった。
「ちょっとぉぉおおおおお!!バカなの!?」
「第二ラウンド始まったら、またお前…魔法使わなくちゃならなくなるだろうが!」
「それは…そうだけどぉおおおお!!」
舌を嚙まないように口を閉じるように言われて閉じた途端、突き出ていたベランダへと降り立った。
普通ならベランダに埋まって着地をしてもいいようなものだが、そこは、筋肉頭のポールも分かって居たらしく、壁や木を何度か蹴ってスピードを緩めていた。
すっぽりと腕の中に収まったまま上を見上げると、カンバーや伽羅が何かを叫んでいる。
「ポール…カンバーと伽羅はなんて言ってるの?」
「わからん。」
《オイラ達に気を付けろって言ってるんだよ。》
渋い声なのに口調と合っていない言葉にハッとし、声の方を見る。
かなり広いベランダには、特注であろうバッカでっかい窓があり、ステンドグラスのように色の付いたガラス越しに話しかけてきていたのは、龍だった。
一難去ってまた一難か。
もう、魔法は打ち止めにしなきゃ、俺死亡フラグまた建っちゃうよ。
ってか、話に聞いていたけど…龍が二匹とは聞いていなかったなぁ。
話しかけて来たであろう龍の奥には、死ぬ前に見た胸に大きな穴の開いた龍が居た。
「ポール…来世では平和な世の中で会おう。」
「いきなり、死を覚悟してるんじゃない。折角、こうしてみんなと再会できてるんだから生にしがみ付け。」
《……カンバーから聞いたけど、本当だったんだ…エル…》
襲ってくるかと思ったが、窓をゆっくりと開けて俺を舐めるように見てくる。
龍に知り合いなんていないはずだ…居ない…ん?
「もしかして…アクアか?」
《ふぐぐぐぐぐぐぐぐっ!!!!!エルぅぅぅううううう!!》
あー、俺死んだかな…水色と青のグラデーションが掛かった蛇に近い形のでっかい龍が、凄い足音を立てて近付いて来る。
足音なのか…這いつくばってるとでもいうのだろうか。
とにかく、トラウマになりそうなものが迫ってくる。
てっきり巨体に引かれるかと俺もポールも抱き合っていたのだが、目の前でポンッと小さな蛇の様の龍に変わって顔にへばりついてきた。
「アクア…変身できるなら変身してから向かってきて…」
《だってさ、元に戻れた姿を見てもらいたかったし、元の姿の方が早いから!》
「…エル、夜泣きするなよ…」
「したら、全裸マッチョに頼らないでモフモフのイケメンに慰めてもらうから心配無用です。」




