↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 北の国から
29/50

責任

今の俺の状態は、前世の記憶が戻って表情すっきり笑顔、頬と首と手首に痣があり、着ていた服の首元がビリビリに伸びているという…他から見たら目を覆いたくなるような外見とすっきり明るい内面の不釣り合い感半端ない状態です。


黒い壁と家具で統一された広間に、長いテーブルと人数以上ある椅子が並べられている、如何にも悪の会議室的な場所に、瘴気が少ないせいか顔色の悪いお父様と俺の姿を見て涙を流し続けるお母様、毛を逆立てたままブルーノの背中で伸びている伽羅、力いっぱい拳を握って血を滴らせながら城の主を睨みつける兄様と姉様。

カンバーとイヴェコは、冷たくてかたい床に正座をしたまま俯き、城の主とその弟は奥の席に座ったまま何も話さない。

実に重苦しい空気の中、ポールは兄様と姉様同様に殺気をまき散らし、カンバーやイヴェコ、奥の席に座ったままの兄弟を睨みつけている。

コイツがメデューサじゃなかったことを感謝したいくらいだ。

メデューサだったら、この場でみんな石化しちゃうよ。


「ポール…俺なら平気だからそんな顔しないの。」

「…お前が良くても俺が良くない。」

「こんなにエルが痛めつけられて怒らない奴がいるわけない…もう、貴方方の弟ではなく、この子は私とリブラの弟だ!」

「その通りです!こんな…こんな…殺してやりたい!!!!」


三人がこんなに怒りを露わにしているのを初めて見ました。

ましてや、姉様は本当に今にも噛みつきそうなくらい叫んでいます。

いつもポーカーフェイスで、ちょっと俺に関して興奮している時だけ鼻の穴が膨らむ程度なのに、眉を吊り上げ、歯をむき出しにして怒りを前面に出しています。


「…俺のことで怒ってくれるのは正直嬉しけど、ちょっと乱暴されただけで、骨が折れたわけでもないんだから…お母様も泣かないで。俺は、男の子なんだからこれくらいの怪我なんてことないよ。」

「…エルグラン…」


どれだけお母様は泣いたのだろう…目が溶けちゃいそうなくらい濡れている。

たまらず、抱き着いて背中をトントンと軽く叩いて微笑みかけた。

俺自身は、大丈夫だから泣き止んでもらいたい。


「兄ちゃんもアジュもみんなに謝って!」

「エル君…」

「こんなに皆を心配させたり、怒らせたんだから謝るの当然でしょ。謝れないならすぐに帰るからね!」

「「すまない…」」


悪いことをしたら謝る。

人を傷つけたら謝る。


取り敢えず、これ以上の話は後日にして皆を休ませないと…あと気になることがあるから聞かないと。


「イヴェコ、カンバーは、少ないけど瘴気が漂っている城の中に居ても平気なのはなんで?」

「ダッセルの発明した瘴気無効化魔道具のおかげです。」

「ならば、瘴気発生装置もあるんじゃないのか?」

「あります。」

「お父様と伽羅に頼む。あと、明日ダッセルを俺のところに寄こしてくれ。」

「かしこまりました…この度は、大変申し訳ございませんでした。」


イヴェコは、熊の半獣人で図体がでっかいおっさんなのに、相変わらず態度が小さいな。

小さな耳がぺしょっと寝てしまっていて保護欲を掻き立てられる。

懐かしい気持ちで笑いながらイヴェコの肩をポンッと叩いた。


「おまえが、兄ちゃんとアジュをどうこうできるなんて思っていない。それよりも、見ていたり手伝ったりする方が辛かったんじゃないか?」

「……エル様…」

「…エル…僕もごめんね…」

「カンバー…」


あーあ、また泣かしちゃったよ。

これだけの人たちを巻き込んで…いや、これ以上の人たちを確実に巻き込んではいるよな。

その元凶は俺。

ならばこの場でみんなに謝らなきゃならないのは、イヴェコでもカンバーでも兄ちゃんやアジュでもない。


俺は、皆に向き直って勢いよく頭を下げた。

理由が何であれ、勝手に死んだ。

俺を大事に思ってくれている人たちの人生を狂わせた。

謝って済むことじゃないけど、何も言わないでいるよりはマシだ。


「みんな、一番悪いのはどう考えても俺なんだ。ごめん!あと…多分、これからも無茶をしたり、我が儘言ったりして困らせたりすると思う。」


やらなきゃならないことも思い出したから。

この世界が好きだし、皆のことも大好きだから守らないといけない。

その為には、俺一人の力じゃ…きっと無理だ。


「でも、もう勝手に死んだり居なくなったりしないから…付き合ってね。」


顔を上げて皆へニッと歯を見せて笑い、重々しくならないように謝罪とお願いをするしかなかった。





皆、アジュの指示で用意された部屋へと移動し、俺はこれから一部屋一部屋回って、フォロー開始です。

一番厄介そうな、兄ちゃんの部屋行ってからアジュ、ポールとブルーノの部屋、兄様と姉様の部屋、両親の部屋、カンバーとイヴェコのところへ回ります。

城は、広いだけでなく、迷路みたいになっていたりダッセル特製の仕掛けがあったりするそうなので、アジュ特製の地図を片手に冒険兼謝罪の旅です。


あとで、夜会メンバーの元にも謝罪に行きますよ…俺のせいで無理やり招集されたんだからね。


はー…今日寝られるのかな…地図を見て、これからの道のりの長さに涙が出ます。

ダッセルに、キックボード作ってもらおう。

考え事をしながら歩いていると直ぐに迷子になりそうだったので、地図と廊下にある置物を見ながらやっと兄ちゃんのばっかでっかい部屋の扉の前に来ました。


「…魔王に挑む勇者って感じ…」


正直、さっきの出来事は、俺の心の中に黒い塊となって留まっている。

無力な中での一方的な殺意と暴力…思い出すだけで背筋が寒くなってきた。

切り抜けるために大きな声を出したけど、記憶が戻っても体は、しばらく震えていたのだ。

今は、着替えたし痣に薬を塗って手当も済んで、暴力の跡が見えない。

兄ちゃんは、自分の手で探していた俺を最も最低な形で傷つけようとしていたのだから、兄ちゃんも心に傷を負っているだろう。


昔の兄ちゃんからは考えられない。

アジュが提案した”犯すからこちらに寄こせ”は、俺を兄ちゃんから離して冷静に確認しようとした結果だった。

けれど、ポールの婚約者ということで怒りが頂点に上った。

同士だと思っていたポールが、他の相手と幸せに暮らそうとしているという裏切られた気持ち。

本物だとカンバーに言われ、期待していたのに裏切られた気持ち。

正気を保つのもギリギリの状態だったのだろう…


数回深呼吸をし、ドアを開けようと手を伸ばすと背後から透き通るような白い手が先にドアノブを掴んだ。

気配を全く感じなかったので、驚いて振り返ると兄ちゃんが申し訳なさげな曖昧な笑みを浮かべていた。


「エル…待っていたんだけど、なかなか入ってこないから…」

「ごめん…」

「もう、絶対にあんなことしないから…頼むから…怖がらないで…側に居させて。」


きっと、兄ちゃんは俺を傷つけた十字架をずっと背負って生きていくことになる。

…その十字架を降ろさせてあげられるのは俺だけかもしれない。

絞り出す様にお願いしてくる兄ちゃんに目頭が熱くなって涙が零れた。

自分が、大好きな兄ちゃんをこんな風にしてしまった事実が、辛く切なかった。


「エル…本当にごめん…」

「謝るのは俺の方だよ。そうだ!昔みたいに抱っこして!」


兄ちゃんは、俺と年齢が離れてなかったけど、喧嘩するとよく無理して抱っこしてくれて、そこから仲直りした。

今は、大人と子供。抱っこを強請っても無理じゃないはずだし、これが一番仲直りできる近道な気がする。

躊躇いがちに抱き上げてくる手は、昔よりもずっと綺麗だけど本当なら…覚醒魔人になることはなかった。

俺のせい。

紫色に変わってしまった瞳に映る俺は、なんて醜いんだろう…

言葉を発することがこれ以上出来ず、兄ちゃんの首に手を回して抱きしめ合った。


「兄さんもエルも部屋でイチャイチャしたら?」

「イチャイチャ!?ななな何言ってんの!?」

「エル君…ううん、エル。後で俺にも抱っこさせてね。」


様子を見に来たアジュが、すっごく大人びてて兄ちゃんに抱き着きながらドキドキした。

危なかった…つい、間の抜けた叫び声を上げそうだった…アジュのくせに生意気だ!

アジュと話を続けようとしたら、兄ちゃんが、俺を抱きかかえ直して無言で部屋へと入った。

初めに会った時のようにムスッとした表情で、俺をベッドに降ろし、カチャカチャと陶器のぶつかる音をさせながらお茶の準備をし出した。

いざ、二人きりになると緊張するな。

泣いたせいか、鼻水が垂れてきてすする音が部屋に響く。恥ずかしい!!


「エル、鼻水出るならハンカチ持ってこようか?」

「う…ううん。大丈夫。おかまいなく。」


記憶の中と同じ声と話し方なのに、見た目が違うし、さっきのこともあるし、変に緊張して声が裏返っちゃったよ。

無意識で肩に力が入り、背筋をびしっと伸ばしたまま差し出された紅茶の入っているカップを受け取った。

カップの中の紅茶が、落ち着きなくちゃぷちゃぷしてる。


「紅茶…気に入らないかな?」

「ううん。好きだよ…いただきます。」


口に入れた丁度いい温度の紅茶。とっても懐かしくて自然と笑みが零れる。

旅をしてる時も結構入れてもらった…あの時は、眼鏡付けててすっごく格好良かった。


「エル、今思い出したことあててあげようか?」

「…えっ!?…当てなくていいよ…恥ずかしいから。」


座っている俺の目の前で膝を床に付けて膝立ちになり、目線を合わせてくる仕草や表情が、本当に兄ちゃんなんだなって実感して顔が熱くなってくる。

ふわわ…俺の脳内で兄ちゃんフェスティバルIN魔国が開催されてしまいそうです。


「これ…覚えてるよね。」


すかさず、兄ちゃんがポケットから素敵眼鏡を取り出し、流れるような美しい動きで装着しました。


「……有難うございます!!!!!」


俺は、姉様の弟なんだと凄く実感してます。

だって、鼻血の舞う中で幸福感に包まれ気を失っていくのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。