ep.8 私が伯爵になった理由
「それは凄い!」
「やるな! アラレア公爵!」
私とオリーヴァ侯爵が拍手して称賛すると、アラレア公爵は嬉しそうに笑った。
「いやー。ありがとう! 外交官っぽいでしょ?」
「ああ! かっこいいよ!」
「知ってる。僕、かっこいいんだよね」
「おい」
「自分で言うかよ」
私たちは突っ込みながら笑ってしまった。
「でもさ、僕からしたら、デュッカート伯爵の方が凄いよ。人間なのに、竜の国で伯爵になっちゃったんだよ? そもそもさ、どうやって先代のデュッカート伯爵に会って気に入られたわけ? いい加減、教えてよ」
「だめだ。あの出会いは私と父上だけの秘密だ」
やんわり断りながら、私は昔のことを思い出していた。
赤ワインを一口飲むと、自然と口角が上がった。
◇◇◇
――もう、死ぬかもしれないな……。
私は路地裏で倒れていた。神聖力を使っているのに、脇腹の出血が止まらない。
――最悪だ……。枢機卿になる前に、死ぬなんて……。
私はゆっくりと目を閉じようとした。しかし、上から男性の声が聞こえた。
「君がヌレンナか? 死にかけてるってのは本当だったんだな」
――誰だ……?
私は声の主を確かめようとした。だが、体に力が入らなかった。
私の瞼は、強制的に落ちた。
◇◇◇
目を覚ますと、そこは豪奢な部屋だった。
見たこともないような巨大なシャンデリアが輝き、家具は全て螺鈿細工。あまりの煌びやかさに気分が悪くなりそうだ。
――ここ、どこだ?
私はゆっくりと身を起こした。私は寝台で寝かされていたのだ。
寝台から降りようとしたときだ。扉が開き、銀髪碧眼の男性が入室してきた。
「あっ! 起きたのかい? ヌレンナ、体調はどう? まだ安静にしていた方がいいよ」
「お前……誰だ? ここはどこだ? なぜ私の名前を知っている?」
私が男を睨むと、男性は楽しそうに笑った。
「俺の名前はファブト=デュッカート。ドラゴンの伯爵だよ。ここはドラゴンの国のデュッカート伯爵家さ。キラキラでびっくりした?」
「はあ? ドラゴンの国!? ていうことは、魔界!? 私、誘拐でもされたのか!?」
「違う違う。俺が倒れてる君をここに運んだんだよ。ワープ魔法を使えば一瞬で魔界に来られるからさ。それで、伯爵位を継いでくれない?」
「はあ? お前、何を言ってるんだ?」
「一から説明するからさ。とりあえず聞いてよ」
◇◇◇
――さて、そろそろ結婚するか。
俺は重い腰をあげた。結婚なんてめんどくさいが、デュッカート伯爵家には後継者が必要だ。
デュッカート伯爵家は、超名門だ。代々の当主は、全員例外なく王城で要職に就いている。
そもそも、デュッカートは特別な血筋なのだ。竜の国では、デュッカートだけが神聖力を扱うことができる。
しかし、デュッカート家には問題があった。あまりにも神聖力が強い子どもが産まれるので、後継者ができないのだ。
強すぎる神聖力は、生殖能力を破壊してしまう。
――いや、結婚するにしても、そもそも俺は子どもを作ることができるのか?
俺は医師に体を調べてもらった。すると、医師は青い顔をして言った。
「ファブト=デュッカート様は、子どもを作ることができません。神聖力が強すぎるのです」
――まじかよ。じゃあ、結婚しなくていいか。養子をとろう。
俺はあっさり諦めた。デュッカート家が養子をとることは、珍しくもなんともないのだ。
自分の祖母も、養子だった。
「なら、養子にする娘か息子を見つけなきゃな。そうだ! 占星術師のララに聞きに行こう」
ララは魔界一の占星術師だ。きっと、未来の自分の娘か息子がどこにいるのかを教えてくれるはずだ。
――俺の後継者はどんな子かな?
ララを訪ねて、占ってもらった。
水晶を覗き込んだ後、ララは衝撃なことを言った。
「お前の後継者は人間界にいる。ヌレンナ=ハピスという名前の娘だ。その子は教皇の三十番目の私生児だ。今十四歳だな」
「はあ!? 人間!? 人間をどうやって養子にするんだ? 人間と魔族の婚姻すら禁止なのに!?」
俺は仰け反ったが、ララは優雅に微笑んだ。
「それは、ただの人間と結婚した場合だろ? 神聖力がある人間と魔族の結婚は禁止されてない。養子縁組も禁止されてない。安心しろ」
「まじかよ……」
「その子はな、今、教皇の長男から命を狙われている。ヌレンナは若くして、枢機卿候補に名が挙がる天才神官だ。民の難病を治し、民から絶大な人気を得ている」
「なぜ命を狙われている?」
「長男は自分が枢機卿になりたいんだよ。今度の枢機卿選挙でな。ヌレンナは邪魔だ。だから殺そうとしている。明後日、ヌレンナは暗殺者に殺される。命からがら逃げた先は帝国の路地裏の桜小路通りの脇道だ。行って、助けてこい」




