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ep.3 忠臣にはデスゲームがお似合い

 騎士たちは竜王に敬礼すると、詠唱を始めた。オリーヴァ侯爵も詠唱を始めた。


 詠唱が終わった瞬間、オリーヴァ侯爵と騎士たちは竜の姿に変化した。


 バルコニーは色や大きさの様々な竜で埋め尽くされた。


 オリーヴァ侯爵は身を低くして、黒い瞳でじっと王子を見つめると言った。


「背中に乗ってください。さあ、精霊の城に乗り込みましょう!」


「ああ。頼む!」


 王子はひらりと黒龍のオリーヴァ侯爵の背中に乗った。


 竜たちは空高く舞い上がると、高速飛行を始めた。

 彼らの姿は雲に隠れ、すぐに見えなくなった。


 バルコニーには私と竜王の二人だけになった。

 すると、竜王が上機嫌で笑った。


「クーデターが成功すれば、精霊の国は我々のものだな。なんていったって、追放された王子を軍事クーデターで即位させてやるんだから。王子は我々竜の国に莫大な恩と借りができる。今後は精霊の国に色々と口を出せそうだ」


「竜王様ってば、黒すぎますよ。始めからそれが目的で王子を保護して親切にしたんでしょう?」


 私がにやりと笑うと、竜王はブラックな笑みを浮かべた。


「そうだ。追放された皇妃と王子を見つけたときは歓喜したよ! 良い手駒が手に入ったな」


――おいおい。やっぱり、善意はゼロなのかよ。


「さて。我々は高みの見物だ。あとは城で待ってるだけで、制圧は終わる。騎士団長のオリーヴァ侯爵と騎士たちには奮闘してもらわないとな」


◇◇◇ 

 結果的に、クーデターは大成功した。


 精霊王が呪殺され、混乱の真っ只中にある王城に竜騎士たちは乗り込んだ。


 精霊王の王子たちは処刑され、私たちが擁立した王子が無事に新精霊王になったのだ。


 竜王の目論見通り、我々竜の国が精霊の国に絶大な影響力を持つことに成功した――はずだった。


◇◇◇ 

「オリーヴァ侯爵! 今なんと言ったのだ!」


 大広間に、竜王の怒声が響き渡った。


 臣下たちは肩を縮こまらせた。しかし、オリーヴァ侯爵は玉座に座る竜王を真っ直ぐに見上げて、堂々と発言した。


「ですから、精霊の国から竜の国に貢物を納める案には、賛成できないと申し上げました。クーデターから三年が経ちましたけどね。恩着せがましい竜王様を精霊王は疎んじています。ここらで一旦、友好を維持するべきかと」


――オリーヴァ侯爵。はっきり言うじゃないか。なかなかやるな。


 私が感心して見ていると、竜王は苛立った顔をして言った。


「はあ? 王子は誰のおかげで精霊王になれたと思ってるんだ?」


「それはもちろん、軍事クーデターを起こした我が騎士団とデュッカート伯爵のおかげです」


「はあ? オリーヴァ! 今なんて言った! 実行部隊はお前たちだがな。クーデターと王子を保護する発案をしたのは俺だぞ。俺も功労者だ」


「発案だけでは理想は実現しません。同様に、搾取だけでは理想は実現しません。長期的に精霊の国から利益を得たいなら、親切や友好的な姿勢も大切なのです。陛下は利益ばかりを求めて、欲張りすぎです。精霊の国に口を出しすぎてます」


――オリーヴァナイス! 実はそれ、皆思ってたぞ!


 オリーヴァ侯爵がぴしゃりと言うと、竜王は舌打ちした。


――おいおい。王なのに舌打ちすんのか。……舌打ちにしては上品だがな。


「俺のやり方に口を出すのか? いいだろう。なら、お前に諫言を聞くほどの素質があるのか試させてもらおうか?」


 竜王は玉座の側に控えていた宰相を手招きすると、宰相に耳打ちをした。


 宰相は頷くと、広間から退出した。そして、しばらくすると戻ってきた。


 宰相は、紫色の盆をもっていた。そして、その上にはガラスの杯が三つ乗っていた。


「円卓を持って来い!」

 宰相が命じると、宰相の部下がオリーヴァ侯爵の目の前に、翡翠の円卓を運んできて置いた。


 宰相はオリーヴァ侯爵の正面まで歩み寄り、彼に柔らかく微笑むと、盆を円卓の上に置いた。


 オリーヴァ侯爵は怪訝な顔でコップを見つめていた。


 宰相はゆったりとした足取りで玉座の側まで戻った。そして言った。


「食堂の毒味役を一人連れてまいれ」


 すぐに宰相の部下が、一人の男を連れてきた。


――毒味役? てか、あの杯はなんだ?


 三杯のガラスの杯の中にはそれぞれ、赤い液体、青い液体、黄色い液体が入っていた。


 どれも色が濃く、毒々しい色合いだ。


「竜王様。これはなんですか?」


 オリーヴァ侯爵が聞くと、竜王は目を細めて言った。


「赤、青、黄色の杯の内、二つは毒杯だ。飲んだら、お前は血を吐いて即死する」


――なんだって!?


 臣下たちがざわついた。

 宰相と竜王だけが、余裕のある微笑を浮かべていた。


「一つだけ、水の杯がある。それは着色しただけの水だ。今から、どれか一つの杯を選び、口をつけて、その杯の液体を飲み込んでもらう」


――はあ!? 竜王、正気か!?


「水の入った杯を選んで飲んだ場合だけ、お前の諫言を聞こう。ただし、毒杯を飲んだ場合は死を賜れ」


――なんでだよ!? 殺すなよ!


「オリーヴァ侯爵は俺の不興を買った。王の怒りは死をもって償うものだ。だが、運で乗り切ったら、お前の諫言を聞こう。運も才能の内。死の危険をかわすだけのが才覚がお前にはあるということだからな」


――なんだこの命懸けのテストは!? 竜王は暴君だったのか!?


 私はオリーヴァ侯爵を見た。

 彼は、信じられないと言いたげな顔をしていた。


「だが、このままだとヒントが無くて運ゲーだから、毒見役を一人用意した。毒見役を上手く使うといい。だが、毒見役が飲めるのは一杯だけだ」


――なんだって!?


 私は頭の中で瞬時にシュミレーションをした。


 仮に赤い杯が毒杯で、毒味役が赤杯を飲んで死んだら、残るのは青杯と黄杯。


 青杯が水で黃杯が毒杯なら、二択問題だ。もう毒味役は使えないから、水の杯に当たるかどうかは運ゲーだ。


 青杯が毒杯だった場合も同様だ。


 もし、黄杯が水だとして、毒味役が黃杯を飲んだ場合だけ、オリーヴァは助かる。飲んでも毒味役が死なないんだから、黃杯は間違いなく水。なら、黃杯を飲めばオリーヴァ侯爵は無事だ。


 毒味役が水の杯に当たらなかった場合は、かなり詰んでいる。


「では、今から三十分以内にどれかの杯を選んで飲み干せ  飲み残しは禁止だ」


――このデスゲームに参加するのか?


 私は青くなって、オリーヴァ侯爵を見た。すると、彼と目が合った。


 私ははっとした。


――安心しろよ。乗り切って見せるから。


 オリーヴァ侯爵がそう言っているのが、視線だけで分かった。


――まじかよ……。死ぬなよ。


 オリーヴァ侯爵は玉座を仰ぎ、一礼すると優雅に言った。


「死をかけたこんなゲームを仕掛けてくるということは、陛下は、本気で俺が死んでもいいと思っているのでしょう」


 竜王は可笑しそうに笑った。だが、臣下たちの顔は青くなっていた。


「不興を買ったのは、俺の落ち度です。ですが、水の杯を用意したということは、機転を利かせて、この場を上手く切り抜けた場合は許してもいい。そういう意味だと、俺は解釈しました」


 宰相は片眉を跳ね上げた。臣下たちはどよめいた。竜王は少しだけ口角を上げた。


「おそらく、水を飲むかどうかは重要ではない。王が求めているのは、諫言を聞くだけの価値が俺にあるかどうかの証明では? 必要なのは、度胸と発想力かと」


――オリーヴァ侯爵。流石だ。視点が違うな。


「そこで提案があります。今から俺は杯を手に取ります。ですが、どんな手段を使っても毒杯を確実に避けて、俺が死ななかった場合は、俺の諫言を聞き、不興を買った失態をお許しください」


――手段を選ばないのか?


「その代わり、毒見役は不要です」


 臣下たちが再びどよめいた。

 竜王は怪訝な顔をして言った。


「は? 毒見役がいないと難易度が跳ね上がるぞ?」


「俺は毒見役なしで、毒杯を飲まずに済ませます」


「信じられん……」

と宰相が小さく呟く声が聞こえた。


「毒見役は毒味が仕事ですが。俺の言動で一人の命が失われるのは心苦しい。どうか、竜王様の寛大さを示すためにも、温情として、俺の提案を飲んでいただきたい」


――毒味なしで、毒杯を避ける。そんなことが本当にできるのか?


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