試験内容説明
強烈な光が、視界を押し潰す。世界が一瞬にして変質したように体が浮き、沈み、捻じれるような感覚。平衡感覚が奪われ、胃の底がむず痒くなるような浮遊感。
でも、恐怖はない、混乱もない、これは仮想空間への移行現象だ。いつものの感覚。ただ、その変化を受け入れるだけ。
自分が分解され、再構成される、肉体という器が一度溶け、データの塊として再編される。思考が加速し、時間の流れが歪んでいく感覚。
光が収束し、視界が開ける。
そこは、どこまでも続く白い空間だった。均一な光に包まれ、上下の区別すら曖昧な無機質な世界。目を凝らすと、自分と同じように立ち尽くす大勢の参加者の姿が見える。みんな静かに、何かを待っているようだ。誰かが叫んだり、パニックになったりする様子はなく、全員がこれから始まる試験を理解している。
「適性試験へようこそ」
どこからともなく、性別のない滑らかな声が響く。
「これより試験環境およびルールの説明を行います」
声と同時に、視界の前方に半透明のテキストが展開される。レンは自然とそれを追った。
「本試験は、一段階として約五百万人規模のシミュレーション単位で実施されます。各参加者は分散配置され、同一環境内で評価されます」
五百万人とか、やはりとんでもないスケールだな。
「今回のシナリオは——航行不能状態の超大型宇宙船における生存および機能復旧」
宇宙船サバイバルか、 ロマンがある、少しうれしくなった。
数年前のデスゲームよりはずっとマシだ。
目的:
・中枢機能の復旧
・航行能力の回復
・救助可能領域への到達
なるほど、要は「船を直して、生きて帰る」
エンジニアリングの知識が役立つ条件のようだ。サバイバル講座も無駄にはならないだろう。
「初期装備を支給します」
支給物資:
・食料(3日分)
・水(3日分)
・リュック
・着替え1セット
・腕部端末
「腕部端末には以下の機能があります:ライト、システムメッセージ受信、行動記録、移動済みエリアの地図。地図は探索に応じて更新されます」
よし、地図機能は便利だ。迷子になる心配は少ない。
「環境には制限がある可能性があります」
・各種ブーストデバイス
・酸素供給:制限あり・電力供給:制限あり・医療資源:制限あり
「すべての参加者の生存は保証されません」
当然のそういう試験なのは百も承知である。生き残れるかどうかは自分次第、 保証がないからこそ、評価されるんだろう。
「試験開始から最初の三日間、以下の行為は禁止されます」
・参加者への直接的危害
・窃盗行為
・明確な妨害行為
「違反は即時評価対象となります。72時間経過後、制限は解除されます」
(最初の三日間は安全地帯ってことか・・・)
その間に拠点を作って情報を集めるのがセオリーと考える。
情報は淡々と続く。そして、わずかに間が入った気がした。
「追加事項を通知します」
空気が、ほんのわずかに張り詰めるのが分かった。
「本試験には、一定割合で特殊参加者が含まれます。割合は0.01%です。特殊参加者は、他参加者の脱落を誘発する行動をとる可能性があります」
言葉は穏やかだが、意味は明確だった。
「当該参加者は、追加情報および限定的な装備を有します。なお、個別識別は提供されません。参加者各位は、状況に応じた適切な判断を行ってください」
裏切り者がいる・・・、か。
レンは静かに情報を整理する。1万人に1人ってとこかな? 500万人中なら500人くらいいる計算か。結構な人数か?でも、それもゲームの駒の一つだ、気に病んでも仕方ない。
「本試験における行動はすべて記録されます。評価は以下に基づきます」
・目的達成度
・行動効率
・他者への影響
・生存率
「最適な選択は、最適な結果につながります」
変わらない断定口調、レンは軽く息を整えた。
やることは同じだ。状況をしっかり見て、正しく判断する。それだけでいい。
「準備が整い次第、初期配置へ移行します」
再び光が周囲を包み込む。
「あなたの選択が、未来を決定します」
最後の言葉が脳裏に響く。
裏切り者がいようと関係ない、やるべきことは変わらない、正しいことをやる、それだけだ。
大丈夫、なんとかなる。
光が弾けた。
次の瞬間、鼻腔を冷たい金属の匂いが突き刺し、湿り気を含んだ、古い鉄の臭いを感じる。
重力が戻る感覚、足裏に硬い床の感触。
暗闇の中で、非常灯の赤い光だけが明滅していた。
レンは素早く周囲を見渡す。狭い通路、剥き出しの配管、遠くで鳴る低い機関音。
ここが、試験会場か。
手元ので端末が淡く光った、地図データが起動する。
「さあ、始めよう」
自分に言い聞かせるように動き出す。




