外骨格ブースト
列の先は凄まじい混雑だった。整列を待つ人々がゲート前に幾重にも折り重なり、列の先頭ははるか先。ここに並べば四十分はかかるだろう、レンは少し眉をひそめた、時間はあるけれど、無駄に立ちっぱなしというのもなんだか勿体ない気がする、体を動かしていた方が気も紛れる。
「レン、こっち」
ユウトが袖を引いた。
彼の視線は、少し離れた連絡通路の方角を向いていた、ペデストリアンデッキだ。通常は車両用の上層部だが、歩行者用の細い通路が横断歩道として架かっている。今は人がまばらで、ゲートまで一直線に続いているのが見えた。
「あそこから行けるぞ」
「え、でも階段ないぞ?」
「大丈夫だって」
ユウトは身を翻し、近くの手すりの支柱に足をかけた。そのまま膝を曲げ、伸び上がるように跳躍する。ひょいと軽い動きでデッキの端に飛び乗り、危なげなく立ち上がる。その動作のあまりのスムーズさに、レンは呆気に取られつつも、特に疑問は湧かなかった。外骨格アシストがあれば誰でもできるし、それが今の時代の"普通"だ、自分も同じように跳べる。
「来いよ」
上からユウトが手招きする。
レンは小さく溜息をつき、「まったく、お前はこういうことに限って気が利くよな」と苦笑しながら一歩踏み出した。
ジャンプすると同時に体内と服の神経補助装置が反応し、骨格と筋繊維にエネルギーを供給する。ふわりと体が浮く感覚、空中で姿勢を整え、滑るようにデッキに着地した。ガラスの床が淡く光を反射して足元を照らし、着地の衝撃はほとんど感じない、さすが最新のアシスト機能だ。
「やっぱ楽だなー! これだから文明はやめられない!」
レンは着地と同時に両手を広げてストレッチした、体が軽い。
「急いでるわけじゃないけど、なんか気持ちいいよな! 人混み避けられるし!」
ユウトも軽く伸びをして同意する。ペデストリアンデッキからはゲートが見下ろせた。下を見れば、人混みが蟻のように動いているのがよく見える。自分たちだけが空を歩いているような、ちょっとした優越感だった。
「それにしても、毎年よくこんだけ人を動かすよなぁ。一億人だぜ? 考えるだけで頭おかしくなりそう」
レンは欄干に寄りかかりながら、感心したように呟いた。
「システムの完成度が半端ないんだろ。二千五百年前からやってるんだぜ? そりゃ洗練されてもするだろ」
「いや、毎年改修大変だってドキュメンタリーで言ってたぞ。バグ取りだけでスタッフが何人発狂したか……」
ユウトが真顔でツッコミを入れる。
「うわっ、それは怖いな! 俺たちのシミュレーション、ちゃんと動いてくれますように!」
レンは大袈裟に胸の前で十字を切った、二人して顔を見合わせて笑う。
デッキの上を歩きながら、レンは周囲の建築物を見上げた。遥か上空まで伸びる超高層ビル群が空を狭め、その隙間に残る古い街区の痕跡が時代の重なりを語っていた。三千年以上も続く社会システム。その中で自分たちは今、試されるために歩いている、そう思うと、少し不思議な気分になった。
「あ、見えてきたぞ」
ユウトが前方を指差す。ゲートのすぐ近くまで来ていた。デッキから降りる階段が見える。人混みは避けられたけど、ここからはまた列に合流だ。
「さて、いよいよだな」
レンは深呼吸をした。空気が少しだけ冷たく感じた。




