09 〈キョウの都〉こってり事件簿 〈前編〉
◆1◆
御前ライブから一週間が経った四月中旬。
寒冷な〈キョウの都〉もようやく暖気のきざしが見えはじめた。
大路小路を往来する無数の人々の顔もそろってほころんでいる。
「本当にこの店で当ってますよね?」
四人掛けのテーブルに座るヤマセは、自身の正面で頬杖をつくクモリに確かめた。
「そのはず」
彼女は目線だけをヤマセに向けた。
「ラーメン屋で打ち合わせなんて聞いたことないですよ」
「"作曲家"が指定したんだ。〈ジョージ=タカノ〉地区のラーメン屋〈天下王将〉に正午に集合とな」
都の北東にそびえる〈キモン山〉。
そのふもとに位置する〈ジョージ=タカノ〉地区は主に〈二級市民〉が暮らすエリアだ。
いわゆる"洛外"に位置し、〈都市結界〉に囲まれた"洛中"に住む程の財力の無い者の居住区となっている。
〈ヤナギ桜〉咲き誇る〈タカノ川〉沿いに、二階建ての木造家屋が一直線に立ち並ぶ下町らしい景観は、大地人や冒険者の新規移住先としても人気を博している。
「こんな住宅地にラーメン屋があるなんて知りませんでした」
「アキバで修行した大地人がこっちに戻ってきて始めたらしい。味は、期待できんな……」
クモリが小声で言う。
ヤマセが改めて店内を見回すと、床も壁も、壁にかけられたメニューの札も、なんなら机の上まで、油のシミがこびりついていた。
水の入ったコップにも白アカが目立つ。
「プロデューサー、腹減った」
ヤマセの隣に座るレインが言った。
彼女の腹の音が、店内に響きわたる。
「作曲家の人が来るまでは我慢してください」
「いいんじゃないか?子どもが先に食べてる分には怒らんだろ」
クモリの言葉に甘えて、レインは先に食べることにした。
メニューの札は〈あっさりラーメン〉の一つしかなかったので、それを頼む。
そして注文して十分後にはラーメンが通された。
「ふぅん。これが"ラーメン"か」
クモリはレインのどんぶりをのぞき込んだ。
「我のだぞ!あげないぞ!」
レインはどんぶりを持ち上げ横にそらす。
「食わねえよ」
「クモリさんはラーメン初めてですか?」
「ん?まぁな」
「ラーメン知らないなんて人生損してますよ。かわいそうに。この悲惨な食事情、皇国の責任ですね」
ヤマセはぼやくように言った。
「なんだと?」
「それもこれもすべて〈ギルドパス〉がいけないんですよ」
〈ギルドパス〉とは〈Plant hwyaden〉の発行するカードのことだ。
所属の冒険者および、〈ミナミ〉の大地人に発行される。
「バカ言うな。〈ギルドパス〉のおかげでタダで暮らせてるんだろ」
提示するだけでパスのランクに応じた生活サービスを一人分無料で受けられるという、一見夢のような仕組みなのだ。
その代わり、パスの所有者はクエストや交易等で得た金貨やアイテムは問答無用で〈Plant hwyaden〉に没収されてしまうという大きなデメリットを背負うことになる。
「こんな向上心をそぐようなシステムを作るから、食文化が発展しないんですよ。ウェストランデは東に比べて科学力は高いかもしれませんけど、食の水準では圧倒的に劣ってますね」
ヤマセは両手をもってやれやれとポーズした。
「やけに東に詳しいんだな」
「まあ、仕事で全国とびまわってましたからね。ところで、レインさんの〈ギルドパス〉発行の件はどうなりました?」
「あれか。案の定断られた。"モンスターにギルドパスを発行してくれ"と言った時の担当者の顔といったら、見せてやりたかったよ」
「困りますよ。あれがないと食事も宿もとれないんだから」
「それはそうだ。今はどうやってしのいでいるんだ?」
「食事はタイヨウさんの分を分けてもらってます。宿泊はタイヨウさんの部屋に押しつけてます。このままだと飢えと騒音でタイヨウさんが死んじゃいます。大変だ」
「レインに稼がせろ」
「そうします。雨でレイドモンスターを一掃すれば簡単に億万長者になれるでしょうし」
「その稼ぎ方は禁止」
「なぜ?」
「レイドボスが億万長者になったらマズいだろ。レインが重要な土地や建物を勝手に買いでもしたら責任とれるか?」
「買って何か問題がありますか?」
「例えば〈ススキノ〉には未購入の〈ギルド会館〉や〈大神殿〉が残ってるんだぞ?」
「ボクは見たいですけどね。レイドボスの支配する〈ススキノ〉」
「バカ。そうならないよう、地道に、こっそり稼ぐんだ」
「働いてもらうにしても、モンスターを雇ってくれる店がどこにあります?」
「む……まあ……探しておこう……。ところで、このラーメンの代金は払えるんだろうな」
クモリは空っぽになったレインのどんぶりを指さした。
「ああウマかった!ごちそうさま!」
「ラーメン代?経費で落としてくださいよ」
「できるわけないだろ。律儀に領収書切る忍者がどこにいる。言っておくが、私は現金なんて持ってないからな」
クモリは懐から銀色の〈ギルドパス〉を出して見せつけた。
「ボクもこれしか」
ヤマセも緑色の〈ギルドパス〉を取り出した。
「おまえそれ最低ランクのやつじゃないか。今時珍しい」
「ご覧の通りの貧乏人です」
「〈Plant hwyaden〉からのクエストをしてなかったのか?」
「ここ一年間はお立ち台制覇に注力してましたからね。クエストなんて一回もやってません。その代わり、タイヨウさんのライブの売り上げはきっちり全部上納してたじゃないですか。先日の御前ライブの売上も含めて」
「上納くらいで偉そうにするな。とにかく、ラーメン代……」
頭を抱える二人を尻目に、レインは腹をさすりながらつまようじでシーハーしていた。
「いやあ!外の世界は最高だな!おいしい料理に、ふかふかのベッド!早く宿に戻って、風呂入って、寝たいぞ!」
クモリはヤマセに目配せをする。
二人は同時に、壁の張り紙を指さし、レインに読み上げるよう言った。
「ええと、"30分の皿洗いで、食事代無料!"」
「がんばろう」
「え」
◆2◆
「いや!かんにんかんにん!道で婆さん助けてたさかい、遅くなってしもたわ!」
店に虎が入ってきた。
二足歩行の虎だ。
黄と黒の横ジマ模様の毛皮の上に、黄色のスーツを身にまとい、ティアドロップのサングラスをかけている。
うさんくさい男というのがクモリの初見の感想だった。
ステータスから、〈Plant hwyaden〉に所属する猫人族の冒険者であることが分かる。
彼はヤマセに名刺を差し出した。
「どうも!〈ミナミのモーツァルト〉こと〈ナンバ〉言います!よろしゅうたのんますわ!」
「やっぱりあのナンバさんでしたか」
「おおヤマセはん!こんなところで会うとは、奇遇ですな!」
「知り合いか?」
クモリがヤマセに聞く。
「タイヨウさんのファンの方です。作曲家だったんですね」
「ひょっとして、タイヨウちゃんの歌を作らせてもらえるんですか!?」
ナンバはヤマセの手を握りしめ、ブンブンと乱暴に振った。
「そうです。正確にはユニットソングですが」
「ユニット!?エライこっちゃ!責任重大やん!」
「ナンバさんなら話が早いですね。タイヨウさんのファンでかつ作曲家。こんな逸材を見つけだすとは、さすがクモリさん」
クモリは適当に鬼神省から取り寄せた冒険者名簿から、作曲依頼件数の一番多い者を探して提示しただけであったが、「まぁな」と一言返した。
「それで!タイヨウちゃんは!?」
ナンバはサングラスをとり、つぶらな瞳でもってキョロキョロと見回した。
「今日は連れてきてません。相方の方はいますが」
「なんやぁ……。ほならその新人はどこにおりますのん?ってあんたか!」
ナンバはクモリを見るや、やや乱暴に握手した。
「確かにべっぴんさんや!」
「…………!おせじを言うな!相方は私ではない!」
顔を赤くしたクモリは、彼の手を振り払った。
「そうですよ。相方は今、厨房で皿洗いしてます」
「皿洗い!?なんでや!?アイドルとちゃうんかい!?」
「事情を話すと長いんですよ。あと十五分もすれば戻ってきますから、先に進めておきましょう」
「そうか?ほな先にメシにしましょか。ここのラーメン屋のこってりは最高でっせ!ワシの行きつけやさかい、味は保証しますわ。店員さん!こってり三つ!」
クモリはこの男に作曲を任せたことに少しの後悔を覚えた。
「勝手に決めないでくれ。私はあっさり派なんだ。あと、この店はあっさり味しかないぞ」
クモリは店の壁を指さした。
たしかにメニューの札はひとつしかなかったが、その横には別のメニューがかかっていた形跡があった。
「んなアホな!?こってりは一番の人気メニューやったろ!店長!店長はおるか!?」
店の奥から店長らしき人物が出てきた。
うつろな目をめがね越しにのぞかせた、痩身の中年男性だった。
「店長はん!こってりはどないしたん!?」
「すみません。こってりはやめまして……」
「なんでや……!?」
「はぁ、こってりはやめまして……」
「アホなこと言う……店長、ちょっと顔色悪いんちゃう?店も前来たときよりえらい汚れとるし、風邪か?」
「大丈夫です……」
「無理せんときや。しゃあない。あっさり三つ」
店長は返事ひとつせず、厨房へと戻っていった。
◆3◆
「ひぃ、外の世界は厳しいなぁ……」
皿洗いを開始して三十分。
レインはうずたかく積まれた竹筒を見て、ぼやいた。
「皿洗いというよりは、筒洗いだったな」
するとタイミング良く店長が戻ってきた。
「店長。洗い終えたぞ。褒めろ」
「じゃあそれ、ふいといて……」
「もう三十分経ったぞ」
「ふいといて」
そう言い残して彼は奥の厨房へと行ってしまった。
レインはプンプン怒りながら竹筒をふいていく。
「人間は自分勝手だ!」
ようやくふき終えたレインは報告のため厨房へと向かう。
「終わったぞ!もう帰っていいか!?」
しかしそこに人影は無い。
換気扇の音のみがカラカラと響いていた。
「…………?」
ふと、レインの鼻をこげ臭いにおいがくすぐる。
火にかけた鍋から白煙が上がっていた。
レインは急ぎ火を消す。
「店長、どこへ行った……?」
鍋の中にはスープが入っていた。
火をかけ過ぎたせいか、台無しになっている。
水気は飛び、例えるならば卵の黄身をとかしたようなドロドロの状態であった。
「いいにおい……」
一回ふきこぼれたのだろう、鍋の外側のへり付近には半固形になったスープが付着している。
レインはへりについたスープを指ですくった。
鶏ガラの香ばしいにおいが鼻の奥に広がる。
彼女は本能的に、指を口に近づけた。
「何してる!!」
振り返ると店長がいた。
「飲んだのか!?」
「の、飲んでない。飲んでないぞ!スープがダメになってたから、鍋を洗おうとして」
「じゃあさっさと洗って出て行け!」
さっきまでの気の抜けた雰囲気とは正反対のすさまじい剣幕。
レインは底知れぬ恐怖を感じたため、何も言わずに鍋を洗うことにした。
店長はレインを見張るように、その様子を眺めていた。
洗い終えると彼は「あれをお客さんのところまで持って行け」と言い残し、奥の方へ消えていった。
「人間、怖……」
◆4◆
「あ、帰ってきましたよ」
ヤマセが顔を向けた先には、ラーメン三杯をお盆に乗せたレインの姿があった。
「ラーメン三つ持ってきたぞ……」
レインはムスッっとした顔でテーブルに置いた。
「おおきに!店長の娘か?なんやジブン暗い顔して!もっと愛嬌ふりまかなアカンで!ところでヤマセはん。タイヨウちゃんの相方はどこでっか?」
「この娘ですよ。相方のレインさんです」
「嘘やろ?」
「本当です。今こうやってラーメンを持ってきてる理由はボクにも分かりませんが、確かにこの娘です」
「これがアイドル?ほう……」
ナンバはレインの目を見た。
獲物を狙う虎のような目つきだった。
にらみつけられたと感じたのだろう、レインは眉間をしわ作り、にらみ返した。
「あ!〈イズモライブ〉の時の!」
ナンバが叫ぶ。
レインは首をかしげた。
「ヤマセはん冗談きついで!こんな仕事よう受けられへん!断らせてもらいますわ!」
「急にどうしたんですか?」
「コイツ!"ワシの推し"を殺したやつやないですか!こんな外道の曲つくるくらいやったら、ヤス彦に首斬られた方がマシやで!」
なぜナンバが急に怒り出したのか、見当もつかないクモリはヤマセに事情を聞いた。
「ーーつまりヤマセの話をまとめると、〈イズモライブ〉にて灯台の上でタイヨウが歌ってた時に、突如レインが空から降ってきた。タイヨウはレインと会話した後に、急に走り出して、そのまま足を滑らせ転落死したと」
「そういうことです」
「ライブのやつについては謝ったぞ。タイヨウも許してくれた」
レインが弁解するも、彼の怒りは収まる気配を見せない。
「そらそうや!タイヨウちゃんやさしいからな!でもおっちゃんは許さへんで!ヤマセはん!コイツとタイヨウちゃんとのユニットとのなんて、ワシ認めんからな!」
そう叫ぶとナンバはラーメンを三秒でたいらげ、店をあとにした。
「どうするんだよ……」
「問題ありませんよクモリさん。ボクに秘策があります。取り急ぎラーメン食べちゃいましょう」
完食後、打ち合わせは中断となったが、ヤマセは秘策の内容を最後までバラさなかった。
◆5◆
「ヤマセP。お腹すいた」
「もうですか?早すぎません?」
「そんなことないだろ。もう夜七時だぞ」
ヤマセとレインは〈キョウの都〉の中央を貫く〈スザクモン大路〉を歩いていた。
横幅五十メートルはあろうかという大通りで、両脇にはオレンジ色の光を放つ〈魔法の提灯〉が延々と連なる立派な通りであった。
夜とはいえ人通りは多く、舞子とイチャつく貴族男性、買い出しに急ぐ使い走りの子どもなどが道を騒がしくしている。
「あれ食べたい!〈スタグナカープの刺身定食〉ってやつ!」
「無理です。レインさん〈ギルドパス〉持ってないでしょ」
「ヤマセPのを分けてくれよ」
「えー。イヤですよ」
「ケチ!じゃあ二回に分けようぜ!ヤマセPが頼んだやつを我がまず食べる。そして一回精算して店出た後にヤマセPだけが再び店に入って、注文して、食べる。この作戦でいこう!」
「悪知恵がよく働きますね。そういう悪用はできないんですよ。特にボクの持ってる〈緑パス〉だと食事代の精算は一日三回までしか使えません」
「我の晩ご飯はどうなる!?」
「昼のラーメン屋にまた行けばいいんじゃないですか?皿洗いでタダになりますよ」
「そんなぁ」
「気をつけて行ってきてくださいね。夜道は危険ですから。特に洛外は」
「Pはついてこないのか?」
「ボクは〈スタグナカープの刺身定食〉食べるので」
「ひっでぇ!」
レインはしぶしぶひとりで〈天下王将〉まで向かった。
夜のタカノ=ジョージエリアは大路とは比べものにならぬほど暗かった。
街灯は無く、民家や宿屋から点々ともれる光のみが頼りなく地面を照らしていた。
晩飯時だというのに人っ子ひとりいない。
孤独な環境に慣れきっているレインですら、一抹の不安を感じるほど閑かだった。
彼女がラーメン屋の前に到着すると、引き戸越しに大声が聞こえてきた。
ようやく人の存在を確認し、ホッとしたレインであったが、声の持ち主が分かると再び気分は最悪になった。
一度聞いたら忘れない粗略な声、絶対にナンバだ。
なんてタイミングの悪い。
しょうがないから、あいつが出て行くまで待っていよう。
レインはうなる腹を抑えながら建物横の隙間に隠れた。
「いや!すんまへんな!会計せんで帰ってもうて。昼間の時は頭に血が上ってそれどころやなかったんや!本当やで!こうやって戻ってきたんやから訴えんといてや!」
ナンバの大声は木造の壁を突き抜け、かなりクリアにレインの耳まで届いた。
「ちょうど晩飯時やし、ラーメン頼むわ!二つな!」
店長のか細い声もまた聞こえるものの、聞き取ることはできるほどではなかった。
「なに!パスのランクを確認したい!?前にも見せたやんか!ワシの〈プラチナパス〉のご尊顔を忘れるなんて、ホンマ店長大丈夫か?」
「あなたは誰って!?元〈ハウリング〉"三獣士"がひとり。〈虎拳のナンバ〉やんか!店長ひょっとして記憶喪失になったんか!?」
「ようやっと思い出したか。ん?なんて?こってり味はいかがですかって?なんや、やっぱあるやないか。あんなうまいモン裏メニューにしたらアカンて。店つぶれるわ」
「そうそう!これこれ!黄身とかしたようなドロドロのスープ!」
ナンバの言葉を聞いたとき、レインの脳裏にはあの鍋の光景が浮かんだ。
結局舐めそこねてしまった、うまそうな匂いのするスープ。
彼女はゴミ箱の上に立って、小窓を少し開くと、店内の様子をこっそり確かめた。
大きな虎がイスに座って、ラーメンと向かい合っていた。
どんぶりの中身はまさしく昼にレインが捨てたスープと同一のものであった。
それをナンバはあっという間に食べきってしまった。
どんぶりは二杯分あったが、空にするのに三分とかからなかった。
「ごっそさん!」
イスにもたれ、つまようじでシーハーしているナンバは恍惚の表情であった。
(やっぱそんなにうまいんだ……アレ……)
彼の幸福がサングラス越しに伝わってくる。
すると、ナンバはそのままイスから崩れ落ちてしまった。
「はにゃ〜」という声を上げている。
「…………?」
レインが不審に感じる中、店長が厨房から出てきた。
床に投げ出されたナンバの姿を無言で見下ろした後、あたりを見回した。
レインはあわてて首を引っ込めた。
「冒険者は本当に、"こってり"が好きだよな」
店長はそう吐き捨てると、彼を背負い店の奥へと消えていった。
ただごとではないと感じたレインは小窓から店の中に侵入し、店長の跡をつけた。
彼は店裏の勝手口で会話していた。
「おい見ろ。あの〈ハウリング〉のナンバだ。"こってり"と一緒にこいつも運んじまおう」
外で誰かと話しているようであった。
「いい実験体として利用できるだろうからな、"薬漬け"にしちまおう。なに、アイドルの追っかけだかなんだかしててろくにギルドにも顔出してねえらしいからな。消えたって気づく奴はいねえよ」
数秒して車輪が砂の上を進む音が聞こえてきた。
外に出ると、店長と別の男が二人で荷車を引いて小路を進んでいた。
ナンバはいまだ店長の背中にいた。
荷台の上には竹筒がこんもりと積まれていた。
きっと竹筒の中には"こってり"が詰まっているのだろう。
「………………こってり………………」
レインは、彼らを追跡する決意をした。