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レイドボス、アイドルになる  作者: こくそ
メインストーリー
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40/40

40 レイドボス、アイドルになる

◆1◆


レインは砂浜に立っていた。

打ち寄せる波が彼女の足先を濡らす。

遠く引かれた水平線が、星から放たれる光を受けきらめいていた。

幻想的な風景であるが、彼女の気持ちは浮かばれない。

レインはペタっと座り込み砂を一掴みした。

さらさらと下に流れ落ちる、その様は彼女の結末を思い起こさせた。


「はぁ……」


空に浮かぶあれは"地球"というのだろう。

タイヨウから聞いたことがある。

蒼く丸い星。

あそこに自分はいたのだ。

ずいぶん遠くへ来たものだ。

はたして帰れるのか。

分からない。

教えてくれる人もいない。


「タイヨウ……」


レインはつぶやいた。


「なに?」


バッと横を向くと、卵色の髪の毛をたくわえた小柄な少女が座っていた。


「タイヨウ!?」


顔つきも、装備も、タイヨウそのものだ。


「レイン!!」


タイヨウは叫ぶと同時に抱きついた。

相手はタイヨウ本人か、あるいは幻覚か、クモリの可能性だってあるが、そんなことはどうでもいい。

会えないはずの相手がすぐそばにいる。


「なんでここに……?」


「私も死んだの!」


「死んだ?どうして?……お、〈お立ち台〉は……!?」


「心配しないで。ちゃんとクリア扱いになってるから。レインのおかげでね。後は大会に出れば、〈銀河系アイドル〉よ」


「そ、そうか……」


レインは安堵し、両手で目を拭った。


「でもよかったぁ、レインに会えて。Pの情報だから半信半疑だったんだけど……」


「P?」


「教えてもらったの。強く想い合ってる人同志なら死んだ後、砂浜で会えることがあるんだって」


「そうなのか……?」


レインに死後の記憶はない。

〈大災害〉前から何百回と死んでいるはずだが、こうして砂浜に送られる事実は今日初めて知った。

夢を見ている可能性も考えたが、触覚が機能するあたり現実なのは間違いない。

現実として、タイヨウと再会できた。

レインの目頭が再び熱を帯びる。


「よかった。レインも復活できるんだ」


タイヨウの安堵した息づかいが聞こえる。


「そ、そうだな」


「タイヨウはいつ地球(あっち)に戻るんだ?」


「そんなに時間はかからないはず。三十分……もかからないんじゃない?レインは?」


レイドボスも冒険者と同様、ここでの待機を経て復活するのだろう。

それ自体は喜ばしいことだが、レインは言葉に詰まった。

タイヨウはすぐにこの浜を去る。

次に彼女会った時、レインは今の自分を維持できている自信はなかった。

なぜ死者は復活するまで、この場所で待たなければならないのか。

おそらく、転生に当たりなにかしらの"加工"が必要になるからだろう。

つまりここは"待機場"であり、"加工場"であるわけだ。

これから、自分の身に何が起こるのか。

復活した自分ははたして"自分"なのか。


「我は……一ヶ月……」


かつてアインスから夢の中で聞いた〈天泣ノ蒼龍(レインドラゴン)〉の復活周期は四週間。

つまり冒険者の二万倍以上もここにいることになる。

わずかな滞在にすぎない冒険者でも少しの記憶を失うのだ。

いったい自分はどのくらい盗られるのだろうか。


「そんなに!?大会に間に合わないじゃんッ!」


タイヨウは頭を抱えた。


「え、そっち?まだ諦めてなかったのか」


「当たり前でしょ!うわ……そうだよね……レイドボスだもんね……長いなぁ」


「いいんだ。我はもう満足したから」


「本当に?」


「……まぁ、うん」


「本当の本当に?」


「う……」


「本当ーー」


「うるさい!……どうしようもないだろ……」


「ダメ!あきらめちゃダメ!」


タイヨウは言い寄ると、空を照らす蒼い星を指さした。


「地球……」


「そう!あそこ!あの、なんか、小さい、弓っぽいかたちの島に戻ろう!」


「どうやって……?」


「なんか、こう、打開策とかない!?レイン!」


「ない……」


「ある!」


タイヨウは頭を抱えぶつぶつとなにやら唱えだした。


「あーーーー……えーーーーー……」


しばらくして、彼女は急に頭を上げ叫んだ。


「そうだ!飛ぼう!」


タイヨウは言い放った。


「飛ぶって!?あの星まで!?たぶん死ぬほど離れてるよな!?」


「いける!」


「無理だ!ここってアレだろ?月なんだろ?我も昔一回、地球から行こうとしたけど、無理だったぞ」


「いけるいける!!」


「いけない!」


「私が保証する!」


適当に言いやがって。

確証もないくせに。

今までそうやって無責任なことばかり宣言して……。

宣言して……タイヨウは成し遂げてきた。

村を救い。

町を救い。

人を救い。


「根拠もないくせに……」


レインは言った。


「うッ」


タイヨウは上唇を噛んだ。


「ほら図星だ」


「ぐッ」


「…………」


「うーん。他に何か作戦は……」


「いいよ。行くよ」


「え、マジ?」


「たしかに、その方法しかなさそうだしな」


「なんかちょっと不安になってきた……大丈夫?危険だよ?」


「おいッ!」


「いいの?レイン」


「問題ない。待ってるんだろ?」


「うん。イタチも、Pも〈アキバ〉で待ってるって」


「我のファンも、な」


レインの言葉にタイヨウは意外な表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻し手をつないだ。


「ま、二人で行けばなんとかなるよね」


「タイヨウも着いてきてくれるのか?」


今度はレインが不思議な顔を浮かべる。


「当たり前じゃん」


「当たり前か……そうだよな……」


レインはフフっと一笑した。

タイヨウは不思議そうにその様子を眺めていた。


「いや、すまんすまん。そうだよ。これがタイヨウだよな。わざわざ必要もないのに首を突っ込んできて……」


「あれ、迷惑だった?」


「いや。いやいや。誰が迷惑がるものか」


レインは笑いながら"半地球"を眺めた。


「タイヨウ」


「なに?」


「これからもよろしくな」


彼女はそれだけ言って、パンッと両手を合わせた。


◆2◆


八月中旬。

〈アキバ・アイドル・アリーナ〉当日。

色とりどりのアイドルが花散らす決戦の日。

〈アキバ〉近郊にある〈コウラク・ドーム〉は熱狂に包まれていた。


「いいんですか?」


ひとりの青年がヤマセに問いかけた。


「はい?」


ヤマセは通路で出店を開いていた。

棚に並ぶのは新生アイドルユニット〈Bloom Line(ブルームライン)〉のTシャツ、タオル、帽子など。


「もうすぐ出番ですよね?プロデューサーがこんなところにいていいんですか?」


「もうすぐ出番だからですよ。彼女たちから集中したいので出ていってと言われましてね。ま、いつものことです」


「ふぅん」


「それよりお兄さん、うちの子たちのグッズ、買ってくださいよ」


「〈Bloom Line(ブルームライン)〉ねぇ……。この子たちはどうなの?人気出そう?」


「もちろん。ほら、すでにいくつかグッズは売り切れてますし、次来たら絶対完売してますよ」


「へぇ、すごいね」


「天下の〈アキバ新聞〉プロデュースですからね。当然ですよ」


ヤマセが誇ると青年は一瞬、苦虫を噛んだような顔をした。


「どうしましたか?」


ヤマセは伺うように聞いた。


「なんでもないよ」


「……初回生産が買えるのは今だけですよ。古参アピできる最後のチャンスです。買いませんか?」


そう言ってはみたものの、ヤマセは彼が買ってくれるとは思わなかった。

きっと〈アキバ新聞〉に恨みのある人なのだろう。

名前を出すのは悪手だったようだ。

せっかくの商機がパァ。

しかし、彼の回答は


「じゃあ一通り全部ちょうだい」


だった。


「やった!ボク、営業の才能があるのかもしれませんね!」


ヤマセは思わず声に出した。


「君の安っぽい売り文句に惹かれたわけじゃないよ。ただ、彼女たちに魅力を感じただけ」


「え、ライブまだ観てませんよね?」


「いや、十分に観せてもらったよ」


「……?」


「優勝するよ。あれは」


「そりゃ、どうも」


「ファンクラブは?ないの?」


「あぁ、ありますよ。入りますか?」


「うん」


「じゃあお名前を伺いますねー」


「名前?」


「そうです。お名前」


「そうだね」


青年は一呼吸置いて言った。


「じゃあ、"ヒヨリ"で」


◆3◆


「準備はいい?」


タイヨウは左右の二人に言った。


「無論だ」


クモリは言った。


「むしろタイヨウの方が、大丈夫か?震えてるぞ?」


とレイン。


「だ、だだだ、大丈夫!」


「「本当に?」」


「任せて!!!」


タイヨウは胸を張り言った。

足は相変わらずガクガクと揺れていたが、レインに不安な気持ちは一切なかった。

いつものタイヨウがいる。

そしていつものクモリがいる。

だから、何でもできる。

レインはそんな気がした。


「行こう」






































挿絵(By みてみん)























































































ログ・ホライズン二次創作小説
























































































レイドボス、アイドルになる





















































































































































































































































































































































































































































































































































◆4◆


大会の翌日、〈キョウの都〉下宿。


「なぁ、これからどうするんだ?」


クモリはレインに聞いた。

彼女はキョトンとした顔で振り向いた。


「〈アイドル〉になる夢は叶えたんだろ。次は何を目標にするんだ?」


「我は……えーと……」


「ちなみに、私は〈アイドル〉になって里を救うのが夢だ」


「我は……えっと……タ、タイヨウは?」


レインは聞いた。


「え、私!?どうしようかなぁ。いろいろ達成しちゃったし……。ファンのみんなに楽しんでもらえればそれでいいかなぁ」


「そうじゃなくて!もっと具体的な!〈クエスト〉みたいなのは残ってないのか?」


「受注してる〈クエスト〉?クモリさんのアイドルを手伝うやつだけ残ってる。じゃあ、とりあえずこれ一筋でやってこうかな」


「クモリ一筋など許さん!」


レインはタイヨウに飛びかかった。


「ならば!我からタイヨウに新しい〈クエスト〉を一つ出してやろう!」


「どんな内容?」


レインはタイヨウから一旦離れ仁王立ちした。

少女はツインテールを揺らしニカッと笑う。

そして、透き通った緋色の目を輝かせ、高らかに言った。


「我を、〈銀河系アイドル〉にしてくれ!」






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クエスト「〈天泣ノ蒼龍〉を〈銀河系アイドル〉にせよ!」を受注しました。

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最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


長いようで短かった少女たちの物語。

ここで一旦完結です。


しかしまた、どこか別の機会でみなさんと会うこともあるかもしれません。

その時はどうぞ、仲良くしてやってください。

彼女たちもきっと、喜ぶと思います。

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