39 最後の光
◆1◆
円形闘技場の中央に置かれた〈お立ち台〉。
黒塗りのベニヤ板に星が描かれただけの簡素な箱に、タイヨウは立っていた。
台の周囲を不規則に波立つ、浅い水が囲んでいる。
天井を見上げると、渦巻く雲の真下を巨龍が旋回していた。
二対の翼を鷹揚にひるがえす彼女を堕とすため、絶えず攻撃が注がれている。
しかし、龍は意に介すこともなく、ジッと、タイヨウを見つめていた。
無二の親友が冒険者を相手取り、戦闘を行っている。
その事実を前にしてもなお、タイヨウの決意は変わらなかった。
〈お立ち台〉で"エモート"し、その後に友を倒す。
そうすることで、タイヨウは〈銀河系アイドル〉に王手をかけられる。
最後の〈お立ち台〉である、〈アキバ・アイドル・アリーナ〉の舞台で踊り、優勝する。
これはタイヨウだけでなく、レインの悲願でもあるのだ。
そして叶わなければ、大会は消し飛ばされる。
「やるしかない……」
二十三人の冒険者が戦う中、タイヨウはひとり"エモート"を開始した。
「みんなぁッ!盛り上がっていこうッ!!」
タイヨウは叫ぶ。
レイドメンバーは一斉に、叫び返した。
上空でも、龍が叫んだ。
「〈天ノ御柱〉発動ッ!総員、タイヨウさんを防御してください!」
アインスの指示が聞こえる。
レインはまだ、レイドボスとしての立場を捨てていないらしい。
「冒険者も!大地人も!……レインも!今日は思いっ切り!!楽しんでいってくださいねーーッ!!!」
歓声の代わりに響くのは、轟雷の音。
タイヨウは動じることなく歌い出した。
窓を開ければ♪
夜空広がる♪
曲目は〈Last☆Shine〉。
四ヶ月前、レインと初めて出会ったときに披露した曲だ。
ココロドキドキ♪
ヨゾラキラキラ♪
どこにあるの♪
わたしのシャイニングスター♪
もう後には退けない。
「〈蒼ノ炎〉ッ!まずい!」
ヘイト上位者三人を狙う広範囲焼却魔法。
現在のヘイトトップは〈お立ち台〉に立つタイヨウだ。
まともに当たれば死亡は避けられない。
「〈ドーンティングポーズ〉は!?」
「アカン!まだ〈再使用制限時間〉中や!」
「炎はさっき出したばかり……間隔が短すぎる……」
狼狽するアインスを横目に、タイヨウは踊り続けた。
どれが私の護り星?♪
いちばん輝く星はどれ?♪
「オバンデガスさん!代わりに〈ドーンティングポーズ〉を!」
「あんなデケェ攻撃、俺ので対応できるわけねぇだろッ!こちとら奥伝にすら達してねえんだよ!!」
龍の口からはすでに炎が漏れ出ている。
〈天泣ノ蒼龍〉はためらいなく、炎熱を吐き出した。
「〈ヴォイドスペル〉」
開かれた辞典の"ノド"に向け、炎が収束し吸収されてゆく。
「ふふふ……ようやく出番が来ましたね……」
ヤマセはドヤった。
「タイヨウさん。あなたの花道、必ずボクがひいてみせますよ」
さんざん"酷道"を進ませておいてなんたる言いぐさだろうか。
しかし危機からは救われた。
「〈ワイバーンキック〉ッ!!」
イタチのつま先がヤマセのこめかみに突き刺さった。
彼はぐにゃんと横に吹き飛び、石切の石めいて水面をはねた。
対するイタチは、龍の鼻頭にしがみついていた。
彼の代わりに、〈天ノ磐舟〉をくらったのである。
「……ッ!イタチさん!」
ヤマセの呼び掛けも届かない距離、天上に浮く雲の間際でイタチは声をかけた。
「タイヨウ、残念がってたッスよ」
◆2◆
聞く耳なんぞ持つものか。
〈天泣ノ蒼龍〉はイタチを振り落とそうと、激しく身体を壁に打ち付けた。
結果、イタチは死亡した。
最初の死亡者が、四ヶ月間苦楽をともにした仲間であることはレインの心をきつく締め付けた。
「〈不屈の闘志〉ッ!」
緊急用の蘇生技。
イタチはスックと起き上がり、龍のひげに飛びついた。
「レインちゃん!どうしたんスか!?」
しつこい。
「そんな"気遣い"するタイプじゃないでしょ!?」
そうだ。
だから自らの欲求に従い、タイヨウを〈アイドル〉にする。
そのために、大会を襲う。
「もっと自分に正直だったはずでしょ!?」
自分に正直……。
正直に生きてるじゃないか。
我の夢はーー
「忘れたんスか!?ここで!昔!タイヨウに!伝えた言葉!」
我を〈アイドル〉にしてくれ。
この一言から、龍は外の世界を知った。
イタチと出会い、
ヤマセと出会い、
クモリと出会い、
クモマと出会い、
ナンバと出会い、
店長と出会い、
ディーヴァと出会い、
〈白筆〉と出会った。
忘れるわけがない。
それがそもそも、間違いだったのだ。
出会いは別れを生む。
自分が〈アイドル〉になれば、ミッションクリア。
すなわちタイヨウ、クモリとともに手をとり〈アイドル〉になれば、その瞬間、自分は全員と別れ元の"レイドボス"に戻らなければならない。
最高に楽しい時間から引き離され、何もないこの闘技場に戻される。
そして永久に出られなくなる。
そんなの地獄でしかない。
これを回避するには、二度と太陽の下に出たくなくなるような記憶を刻みつけるしかない。
外に出れなくする。
そうすれば、この退屈な空間で引きこもることも耐えられるだろう。
「レインちゃん!?」
龍がイタチの呼び掛けに応じることはなかった。
「タイヨウのことが好きなくせに!」
「休日もみんなでご飯行ったりして、あんなに仲良かったのに!」
「寝るときもタイヨウと二人並んでじゃなきゃ寝れないんでしょ!?」
やめろ。
せっかく捨てようとしているのに。
思い出をぶり返すな。
龍は頭上のイタチを壁に打ち付けた。
本来の〈天泣ノ蒼龍〉の行動パターンにはない動きだ。
イタチ、龍、双方にダメージが加わる。
元々死に体だったイタチは再び〈戦闘不能〉となり、頼りなく水面に落ちていった。
「〈緊急蘇生〉」
〈狐尾族〉特技〈変わり身の一尾〉で手に入れた蘇生魔法が発動、イタチは一時的に意識を取り戻した。
「回復します!」
アインスが水をかきわける。
しかし龍はイタチにとどめを刺すため翻った。
〈天ノ磐舟〉
圧倒的質量による衝突は大きなしぶきを生み、パーティーメンバーの視界を覆った。
龍の鼻先には、たしかな感触。
今更ながら仲間の命を奪う行為は気分が悪くなる。
「ま、待って……」
声とともに龍はヒゲをつかまれ、引っ張られた。
「レインちゃ……」
イタチ?
蘇生札は切ったはず。
どうしてまだ生きている。
「ダメじゃない。レイン」
イタチのそばで回復職がしゃがみこみ、手をかざしていた。
見れば、タイヨウである。
「〈お立ち台〉から降りて来ちゃダメじゃないスか……!」
イタチの言うとおりだ。
降りればまたエモートのやり直しである。
「やっぱ独りは無理」
タイヨウは悲しい表情で言った。
「はやくあっちへ!レインちゃん起きあがるから!」
イタチは〈お立ち台〉を指さし、彼女を急かした。
だが、タイヨウの視線は龍に向いた。
彼女は微笑み、
「やっぱりレインがいないとダメみたい」
と言葉をかけた。
「…………」
龍は無言を貫いた。
いずれにせよ、この形態ではしゃべれない。
「〈Last☆Shine〉、いっぱい練習したじゃん?二人で踊ろうって」
タイヨウがエモートしていたこの曲は、レインが最も練習した曲でもある。
ここに一人で閉じこめられていた時から知っていた曲だ。
思い入れは深く、まず最初に振り付けを教わった。
いつかタイヨウと踊るのが夢だった。
「一緒に踊らない?」
やめろ。
「レインも踊りたいでしょ?」
未練の種を、もう植え付けるな。
踊りたい?
そんなわけがあるか。
踊れば、つらくなるだけだ。
「ね?」
金色の瞳と髪の毛を備えた、白く輝く顔。
彼女の笑顔はレインの心を照らし、後悔の念を芽吹かせた。
その芽を焼却するために、龍はノド奥から炎を呼びつけた。
〈蒼ノ炎〉
◆3◆
「やめろ、クソガキ」
聞き慣れた低い女性の声。
鼓膜が揺れるその刹那、龍の鼻頭を風がくすぐった。
一瞬、気がそれた隙にタイヨウは視界から消失。
龍は眼球を動かし、彼女を探した。
すると遠く壁付近に、銀色の髪をなびかせ、壁に刺した〈伽羅倶利鍵縄〉をたぐるクモリの姿があった。
小脇にはタイヨウが抱えられている。
龍は反射的に離陸し、彼女めがけ突き進んだ。
「成長したろ!?お前の攻撃を避けながら、ずっと潜伏してたんだッ!!」
クモリは鍵縄を手放し、龍めがけてもう片方の腕に装備した鍵縄を射出した。
「踊ってやれよ!!」
龍の頭の上で、クモリは叫ぶ。
「タイヨウの隣だぞ!特等席を捨てるのか!?」
龍は振り落とそうと、でたらめな軌道で飛行した。
しかしクモリは振り落とされなかった。
「あいかわらず頑固だなッ!分かったよ!もう、あきらめた!!」
クモリはそう言い放ち、自ら身を投げた。
飛び降りた先は〈お立ち台〉の上。
彼女は小脇に抱えたタイヨウを丁重に下ろすと、
「あいつのことは忘れろ」
と言った。
タイヨウは唖然とした表情で、クモリと相対した。
「忘れられるわけないでしょ!?仲間なんだから……!」
「そうか。じゃあ、これでいいか?」
クモリはおもむろに印を結んだ。
龍のはばたきが、彼女を包む煙を吹き飛ばす。
中から現れたのは、"レイン"だった。
「私がレインの代わりを務めよう」
彼女は〈アキバ・アイドル・アリーナ〉でレインが着るはずだった衣装を着ていた。
雨をモチーフとした、瑠璃色に輝くドレスだ。
「タイヨウ」
〈レイン〉は真紅の瞳をタイヨウに向けた。
彼女は手を伸ばし、言った。
「信じてくれ」
タイヨウは数瞬の間を置いた後、深く息を吸い、クモリの手を握り返した。
◆4◆
天井に、壁に、銀河が映し出される。
〈闘技場〉をぐるりと囲む満点の星空の中心には、タイヨウと〈レイン《クモリ》〉の姿があった。
二人は手をつなぎ、笑顔をふりまいた。
戦闘を継続するレイドパーティに手を振り、応援の言葉をかける。
「みんなぁッ!私たちのためにありがとうッ!!」
音楽が再び鳴り出した。
さきほどと同じ、〈Last☆Shine〉のイントロだ。
「みんな応援よろしくね!」
あいさつを済ました二人は歌い出す。
三メートル四方程度の正方形の舞台。
わずかな面積しかない空間でタイヨウは舞った。
数時間と戦い続けた疲労を感じさせない、羽のように軽やかな動きだ。
彼女と手をつなぎ、挙動に合わせ踊るのはレインに擬したクモリ。
本来自分がいるべき場所に、"自分"がいる。
(うぅ……)
では今空を飛ぶ自分は何者だ?
いや、自分は自分だ。
そして下で踊るのはクモリだ。
本人なのだから見分けられないはずがない。
では、他人が見たらどうだ?
外の人間たちは、クモリの偽装を見破れるのか?
このまま彼女は外に出て、"〈アイドル〉レイン"として活躍するのではないか?
闘技場から出られない自分の代わりに、クモリがタイヨウとともにライブに……
(ふざけるな)
雲からどしゃぶりの雨が降り出す。
龍はライブもろとも、すべてを押し流そうとした。
(偽物の活躍なんぞ赦さんぞ……!)
黄色い雨がクモリの体力を徐々に奪う。
しかし彼女はそのことを歯牙にもかけず、楽しそうにタイヨウと見つめ合い、踊っていた。
ココロドキドキ♪
ヨゾラキラキラ♪
(やめろ……)
〈変化の術〉を解け。
頼む。
その姿で、タイヨウの隣に立たないでくれ。
自分から"レイン"を奪わないでくれ。
龍の姿では、クモリを殺してしまう。
返してくれ。
(なんでそんなことするんだよぉ……)
龍はオロオロと上空を無造作に飛び回った。
「〈勾玉の神呪〉」
キタカゼの詠唱だ。
重複する毒効果で相手を蝕む魔法。
つとに身体が重くなる。
障壁をつたい降りゆく彼女は、帰り際に一言、龍に伝えた。
「選択しろ。仲間になるか。死か」
死?
自身のステータス画面を見て、龍はやっと気がついた。
「〈天泣ノ蒼龍〉の残り体力ッ!一万!攻撃中断!エモート終了まで総員待機!!」
地上ではアインスの指示が飛んだ。
毒が龍の体力を削るなか、ライブは続く。
(我は……死ぬのか……)
死んでも蘇るかもしれない。
しかし、タイヨウとの思い出はどうなるのか?
新しく更新された〈天泣ノ蒼龍〉は"我"なのか?
いや、もし記憶を引き継げたとしても、それはそれで地獄ではないか?
どのみち、我はタイヨウとクモリが仲良くデビューしたシーンを最後に刻みつけたまま、白い牢獄のような〈レイドゾーン〉に閉じ込められるのだ。
永久に。
絶対にいやだ。
いやだ。
いや……。
…………。
寂しい……。
助けて……。
「…………タィヨゥ…………」
降りしきる雨が弱まっていく。
すでに〈アラガミ闘技場遺跡〉から、龍の姿は消えていた。
色が抜け、無色透明となった雨が、二十四人の冒険者と一人の大地人、そして〈お立ち台〉の真下でひざまずく一体の少女を濡らした。
「お前のせいでライブが止まったじゃないか」
クモリはレインに言った。
「クモリッ!その姿ッ!やめろ!」
「ダメか?〈アイドル〉なんてどうでもいいんだろ?だから"〈アイドル〉レイン"の姿は私がもらおうかなって」
「ダメに決まってんだろ!ふざけんな!」
「ならばどうする?殺すか?生ある限り私はやり続けるぞ?」
「……そんなこと……」
「殺さないのか?じゃあ、やめない。私は強欲だからな」
「や、やめ……」
「やめさせたいか?」
「…………」
「なら、本物の実力を見せてくれ」
クモリは〈お立ち台〉の縁でしゃがんだ。
「私も見たいな」
タイヨウはレインの背後から手を回し、抱え上げた。
「お、おい……!」
タイヨウは台の上のクモリにレインを受け渡そうとした。
「おい!タイヨウ!やめ……」
「いいじゃん、見せてよ」
「やめろ!」
レインは体をひねり、もがき、タイヨウの手を離れた。
起きあがった彼女はドレスの裾をはたき、ほこりをはらった。
そして二人に言った。
「自分で上がれる」
タイヨウとクモリはその言葉を聞き、顔を見合わせ満面の笑みを浮かべた。
「その前に回復してあげる」
◆4◆
雨はやんだ。
床に点々と残る水たまりが光を反射し、会場を照らしている。
「やっぱ、そっちの衣装よりもしっくりくるな」
〈お立ち台〉の上、クモリはレインに聞こえるようにつぶやいた。
彼女はレインの偽装を解除し、白いアイドル衣装に着替えていた。
「あたりまえだ、これは我の服だからな」
レインは言った。
「レイン、もしへたくそだったら、その衣装は返してもらうからな」
「はん!後輩が偉そうに!」
「二人とも!喧嘩しないでッ!」
両者の間に立つタイヨウが仲裁する。
彼女たちを囲む二十三人の冒険者からヤジが飛ぶ。
茶かすような雰囲気であるが、一方で彼らの瞳の奥には期待の炎が宿っていた。
想いに応えるべく、タイヨウ、レイン、クモリの三人は横一線に手をつなぐ。
彼女の背後には虹がかかっていた。
「「「みなさぁんッ!こんにちはぁッ!!」」」
三人の〈アイドル〉が叫ぶ。
どしゃぶりの歓声が呼応する。
「今度こそ!正真正銘!!デビューしました!!!アイドルユニット〈Bloom Line〉です!」
タイヨウは三度、あいさつした。
「じゃあ自己紹介!みんなを照らす不動のセンター!〈冒険者アイドル〉タイヨウ!!」
「浮き雲のように変幻自在!〈忍者アイドル〉クモリ!」
レインの番。
彼女の全身を音が包む。
七色の光線が照らす。
彼女は観衆を見据え、大きく口を開いた。
「会場に嵐を巻き起こす!〈ドラゴンアイドル〉レインだッ!!よろしくなッ!!!!」
◆5◆
レインは駆け出した。
踊るには不適当な、とても小さいライブステージだ。
しかし彼女にとって世界最高の舞台だった。
窓を開けば♪
夜空広がる♪
タイヨウと触れ合い、
手をつなぎ見つめ合う。
ココロドキドキ♪
ヨゾラキラキラ♪
どこにあるの♪
わたしのシャイニングスター♪
星屑に照らされた金色の眼差しは、レインの瞳を揺らした。
さぁ!教えてホロスコープ!♪
跳ねる想いをリズムに刻み、
レインとタイヨウは息を合わせ、
手を前に突き出した。
今夜はどしゃぶり♪
窓は閉じたまま♪
ココロドキドキ♪
今度の主役はクモリ。
バック宙から始まるアクロバティックな動きを、ステージいっぱいに表現している。
レインは彼女の動きに合わせられていた。
クモリの動きは把握している。
いや、たとえ予定にない動きをしていたとしても、問題はない。
あいつの気持ちならなんでも分かる。
もし自分がミスをしても、きっとカバーしてくれるだろう。
レインは確信をもって、シノビの少女に背中を預けた。
ベッドゴロゴロ♪
シャイニングスター!♪
さぁ!教えてホロスコープ!♪
最後、三人のパート。
カーテンからもれる一筋の光♪
まぶたをこすり、窓を開ける♪
タイヨウを軸に、レインが跳び回る。
多少逸脱することもあるだろう。
しかしそこはクモリがうまく調整してくれる。
三人はひとつの秩序を壇上で描いた。
本来は白い、殺伐とした会場に色とりどりの花が咲いている。
やっと見つけた♪
運命のシャイニングスター♪
その名はーー♪
三人であれば、きっとこの光を、どこまでも、どこまでも広げていけるはずだ。
どこまでも、どこまでも……。
「「「太陽!!!」」」
◆6◆
〈Last☆Shine〉を歌い終えたレインは、仰向けにへたりこんだ。
エモート完了を告げるクラッカーが台から放たれる。
破裂音とともに吹き出した紙吹雪が、息を切らせ、満足げな表情を浮かべるレインの顔にかかった。
「おい一曲でダウンか?」
クモリが言った。
「何時間もレイドした後だぞ……、しょうがないって……ハァ……」
「回復かける?」
気遣うタイヨウに対し、レインは首を横に振った。
「いい……。どうせ、これから死ぬんだし……」
「生きて一緒に外に出るんじゃないの?」
「……我が死ななければ〈お立ち台〉クリアにはならん」
「〈銀河系アイドル〉のことはいいから。今はとりあえず外に出ましょ」
タイヨウはレインの顔に手をかざし、回復魔法をかけた。
「ありがとう……」
レインは弱々しく言った。
あたたかな光に包まれながら、彼女はライブシーンを思い返した。
声。
光。
躍動。
笑顔。
レイドとはまったく異なる、興奮が身体を満たす。
「タイヨウ……」
「なに?」
タイヨウはかざした手をどけた。
レインは隠すように、自身の顔を両手で覆った。
「おめでとう……」
鼻水と嗚咽のまじった声。
「ど、どうしたの……?」
戸惑うタイヨウの目の前にポップアップが表示された。
ゲーム時代、何度も聞いたファンファーレとともに。
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クエスト「〈天泣ノ蒼龍〉をアイドルにせよ!」をクリアしました!
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「あ……」
タイヨウはようやくレインの感情を理解した。
クエストクリア後の〈一時的な仲間〉は全員同じ道を辿ることになる。
すなわち、消滅である。
「タイヨウ……手を……」
重い唇を動かし、レインはタイヨウに伝えた。
本来であれば、冒険者の見えないところまで移動してから、消滅しなければならない。
しかし極度の疲労により、一切動けなくなったレインはその場で消えることを強いられた。
彼女がレインの手を握ると、綿毛のように、色とりどりの光の玉が綿毛のようにフワリと飛んだ。
「そんな……!?」
タイヨウは回復魔法を何度も何度もかけ続けた。
無駄だった。
ミッションクリア後の別れを阻害することは何人もできない。
多数の冒険者が近寄ってくる音が聞こえる。
しかし、すぐにそれも消えていった。
視界がぼやけてゆく。
もっと、タイヨウをよく見ておくべきだった。
今ある感覚といえば、ぼやけた視界と、彼女のぬくもり。
(あぁ……)
自分をのぞき込むタイヨウに、虹色の光玉がかかっている。
それは、サイリウムに揺られたライブの一幕かのように見えた。
(きれいだなぁ……)
少女の意識は、そこで途切れた。




