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レイドボス、アイドルになる  作者: こくそ
メインストーリー
35/40

35 心音

◆1◆


〈キョウの都〉の夏は暑かった。

地表からナベ底のような熱気を放たれる。

人々はいつの日からか涼を求め、流れる川の上に板張りの〈床〉を作った。

都名物〈カモの川床〉である。

本日も川床を舞台に心地よい風を受け、雲霞より差し込む月光に照らされた〈ギオンの踊り妓〉が舞や歌が披露していた。

貴族から民衆まで、宴の場として愛される川床は身分ごとに高さが分けられていた。

身分が高ければ高いほど川床の標高も高くなる。

古の奥ゆかしい礼儀作法が可視化されているといってもよいだろう。

中でも一番高い川床は地上から三十メートルにもなる。

無論、そこは〈斎宮家〉の所有物だ。

大風の被害で崩落寸前だったところを、マルヴェス卿が私財を投じ復興させたという。

虹色に龍の金細工が施された、ひときわ豪奢かつ悪趣味な床の上では、派手派手しい光とスピーディなメロディ、意味不明な歌詞が流れていた。

大地人の民衆たちは見上げるのみでその正体はつかめなかったが、貴族たちにはわかった。

今、ライブが開かれている。


「「ありがとうございましたッ!!」」


タイヨウとクモリは深く一礼した。

彼女たちのつむじの先には、〈斎宮〉トウリとマルヴェス子爵、そして〈アキバ公爵〉アインスが並び座っていた。


「よい!よいぞ!特に服がよい!さすが、我が輩がデザインしただけのことはある!!」


マルヴェスは声高に言い、大袈裟に拍手した。

斎宮はその横で悠然と構えていたが、少しの間をおいてアインスに目配せした。

お前はどう思うか、という意味だろう。


「私はこういう文化には疎いもので……」


彼は申し訳なさそうに答えた。


「そう畏まるな。お前は冒険者、〈アイドル〉についての知見は我らよりも遙かに高いはずだ」


「それは……はい」


アインスは斎宮に対し、ライブの感想を述べた。


歌声


フロウ


ステップ


抑揚


感情の乗せ方


パフォーマンス


表情の遷移


舞台照明の角度


タイミング


音響の質


etc.


「疎いと申したではないか」


「はい。疎くて……」


大半は誉めた内容であったが、細かい批評を受けた経験のないクモリにとって耳の痛い言葉もあった。

タイヨウも同様の心持ちだったのだろう、いつの間にか彼女はクモリの裾をつかんでいた。

その手は、助けを乞うように小さくふるえていた。


「歌のことなぞどうでもよい!服はどうだ!我が輩考案の服は!!」


クモリは改めて自分の衣装を見た。

卿のものと類似した、赤と金色が基調の衣装だ。

そのシルエットは富士山のような三角形を描いている。


「そ、そうですね」


「冒険者には考えつかぬ、エレガントでアヴァンギャルドな服であろう!」


「えぇと」


「優勝は間違いなかろ!?ろ?ろ?」


魚顔をにじり寄せるマルヴェス。

じりじりと退くアインス。


「正直に答えよ」


背後から斎宮の声がした。


「はい。ダサいです」


「なにおぅ!!!???」


マルヴェスは激怒した。


「ならば貴様がやってみせよ!!」


「それは……できません。しかし弱りましたね。〈セルデシア〉にはアイドルに精通したデザイナーもいないでしょうし」


眉間をつまむアインスにスッと近寄ったのはヤマセである。


「心配におよびません。知り合いに服飾の心得のある者がおります」


「ヤマセさん?」


「ご無沙汰しております。〈アキバ新聞〉のヤマセです。詳細についてはまた追って念話でしましょう」


◆2◆


下宿に戻ったタイヨウ一行は丸い食卓を囲っていた。


「助かったな」


クモリは安堵した。

レインもまた深く三回うなずいた。


「あんなおにぎりみたいな衣装で踊るタイヨウは見たくない」


「で、知り合いのデザイナーって誰だ?」


クモリはヤマセに言った。


〈純真の夢歌姫〉イノセントドリームディーヴァさんです」


「あいつかよ」


「レインさん、依頼出しといてもらえます?これ契約書案」


ヤマセはレインに手渡した。


「あいつなら適役だな」


さっそくレインは下宿一階に住むディーヴァに依頼をかけた。

彼女はこころよく受けててくれた。


「ずいぶん気前がいいな、ディーヴァ」


「〈冒険者〉と〈ドラゴン〉と〈シノビ〉に"貸し"をつくっておいて損はありませんからね」


いったいどんなことに協力させられるのか、一抹の不安を感じたが、レインは戻り報告した。


「これで歌も衣装もそろいそうね。ダンスもバッチリ?」


タイヨウは少女二人に問いかけた。

ともに笑顔で返した。


「え、お前大丈夫なのか?」


クモリはレインを横目で見た。


「問題ない」


レインはフフンと鼻を鳴らした。

未だ彼女はライブを行ったことがない。

このまま実戦経験ゼロのまま本番を迎えるのはさすがに不安である。


「明後日のライブに出てみたらどうだ?」


「そんなことしたらクリアしちゃうだろ」


「クリア?」


「我がタイヨウに出してるクエストだ。〈天泣ノ蒼龍をアイドルにせよ!〉ってやつ」


「クリアして問題があるのか?」


「大有りだ。タイヨウと別れなきゃいけなくなる」


今のレインの立場はあくまで"ゲストキャラクター"。

クエストが完了すればパーティから外れなければならない。

レイドボス〈天泣ノ蒼龍〉として、〈アラガミ闘技場遺跡〉に戻ることになるのだ。

レインは当事者として、本能的に理解していたらしい。


「タイヨウの優勝を見届けたいんだ」


レインはそう言ってはにかんだが、タイヨウは心中穏やかでなかった。

自分はそんな大それた存在ではない。

何をもって優勝を確信しているのかは分からないが、不可能である。

大会審査員も観衆も〈冒険者〉なのだ。

レインが目に焼き付けたタイヨウの輝きは大地人を前にしてこそ発揮される。

PKKギルド〈天衝(てんつく)〉への偏見を持っていない、乾いた心ならば私は照らせる。

湿った心は無理だ。

大会本番に、レインの前で初めて無様をさらしてしまう。

それがなによりも恐怖だった。

一生の別れとなるかもしれないそのタイミングに、レインは私を幻滅することだろう。

何回死んでも忘れられない、深いトラウマが私を刻むだろう。

こんなことならヘタに延命せず、そのまま引退したかった。

タイヨウは思った。 


「タイヨウはバッチリか?」


レインの声がタイヨウを現実に引き戻した。


「え?あ、あー……うん」


たどたどしく答えるタイヨウの肩を、クモリはポンと叩いた。


「自信を持ってくれ。タイヨウなら問題ない」


◆3◆


タイヨウは深夜、トイレに行くふりをして下宿の外に出た。

そして近所の河原まで行くと、ヤマセに念話をかけた。


「はい?」


不機嫌な声での応答だった。


「ごめん寝てた?」


「あなたいつも夜にかけてきますよね」


「ごめん。確認したいことがあって……」


「なんです」


「大会の出場人数って、二人じゃなかったっけ?」


「いえ別に」


「だから大会はクモリさんとレインで……え?」


「参加人数は変更できますよ」


「なんかこの前、エントリー済みだから人数変更できませんとか言ってなかったっけ」


「かつての僕が言ったことを信じない方がいいですよ」


「てめぇ」


「すみません。謝ります。三人ユニットで出れますので安心してください」


「二人でよくない?」


「なぜ?」


「そっちのが優勝できそうじゃん。見てるでしょ?二人の実力。クモリさんには技術がある。レインには華がある」


「タイヨウさんは両方あるでしょ」


「ないないないない」


「あるあるあるある」


「ないねッ!」


「なんで自分を卑下するんです?ファンが聞いたら悲しみますよ」


「…………」


「ナンバさん、ソノさん、マルさんが悲しみますよ」


「……」


「三人じゃんって、言いたげですね。いえいえ。ファンはもっといます。七人くらい」


「誰?」


「レインさん、クモリさん、イタチさん、僕」


「身内じゃねえか」


「個人名は挙げられませんが、もっといるはずです。僕の文章力を信じて」


「文章力ぅ?なん……」


その時突然、タイヨウは何者かに手を捕まれた。

小さく悲鳴を上げた彼女は思わず念話を切った。

心臓が張り裂けそうになったが、すぐにタイヨウは落ち着きを取り戻した。


「レイン?」


暗闇ゆえに姿形は捉えられないが、感触、大きさ、握りの強さからして間違いない。


「布団に戻るぞ」


透明感のある、抑揚のない声。

怒っているわけではなさそうである。

というよりも、感情がなかった。

食事中に醤油でもとってもらうかのような、"無意識"を実感させる。


「いつから聞いてたの?」


「最初から」


河原から、下宿の布団に入るまでのレインとの会話はこれだけだった。


◆4◆


レインは化け物だ。

火を噴き、天を駆け、雨を降らす。

最初出会った時は近寄り難かった。

しかしすぐに慣れた。

それは彼女が普段、人の姿をしているからというのが大きいが、それだけではない。

レインの心音が、タイヨウの肌を通じて伝わってくる。

偶然ながらそれは自身の心臓のリズムと同期していた。

この音を聞くたびに、この子は同じ生き物なんだなとタイヨウは実感できた。

ドラゴンが生きている。

同じ空気を吸っている。

〈大災害〉前ならあり得ない話だろう。

しかし眼前に事実として存在しているのだ。

鼓動の音がはっきりと聞こえる。

徐々にその音は小さくなっていく。

そして音の消失とともに、彼女の意識もとぎれた。


「!」


気づけばタイヨウは別世界にいた。

十三階段の頂上。

目の前には縄で作った輪っかがぶら下がっていた。

タイヨウはおもむろに、輪っかの真ん中に頭を通すと、目を閉じた。

直後、下からバンッという音が聞こえると、タイヨウは落下しているような浮遊感を得た。


「ヒッ!」


が、それもすぐに止まり首がしめつけられる感覚に変わった。


「……!」


苦しいわけではない。

むしろ安らかだった。


「…………。やっと死ねるんだぁ」


タイヨウは言った。


「「させるか」」


何者かが返した。

そしてプツンという音とともに、タイヨウは首の締め付けから解放された。


「ちょ……待って、ようやく私……死ねる……」


「人を巻き込んでおいて逃げるな」


クモリの声。


「責任はとってもらうからな」


レインの声。

タイヨウは目を開けた。

永久に続く谷底がそこにあった。

深い谷の、奥の奥へと彼女は悲鳴を上げ落ちていった。

どこまでも深く。

なおも深く。

深く。

どこまでも。

…………。

目覚めると、タイヨウはライブ会場に立っていた。

アリーナ席に目をやると、レインとクモリ、〈純真の夢歌姫〉イノセントドリームディーヴァ、そしてその他のスペースを見知らぬ老若男女が埋め尽くしていた。

タイヨウが状況を把握する前に、音楽が鳴り出した。

自然と身体がビートを刻みだす。

観客は装備した〈蛍火の双剣(デュアルサイリウム)〉を振り回し声援を送った。

とまどうタイヨウを、曲は待ってくれなかった。

イントロが始まる。

悲しいサガというべきか。

タイヨウは反射的に叫んだ。


「も、盛り上がっていこうッ!!」


◆5◆


光の波とコールがタイヨウに注がれた。

小規模なライブ会場とはいえ、五十人もの人間が発する声が反響するとすさまじい熱を生み出すのである。

タイヨウはよく分かっていた。

観衆には冒険者も混ざっていた。

いつもの三人はいなかったが、タイヨウは緊張しなかった。

途中から彼女は気づいたのだ。


「よかったぞ!」


握手会のタイミング、列の先頭で待ちかまえていたレインは真っ先にタイヨウをねぎらった。

タイヨウはヘラヘラ笑いながら握手した。


「なんだ、冒険者の前でも全然踊れるじゃないか!」


「え?あ〜まぁ、夢だしね」


「気づいてたのか?」


「だって、感触ないし」


タイヨウは両手でレインの手を思いきり握りしめた。

レインはにんまりと笑い返した。

痛みを感じていないのだから、夢なのは明白である。

この世界では、五感のうち二感しか存在しない。

視覚と聴覚のみである。

そのためひとつの夢世界の中で長時間能動的に動きつづけると、違和感を感じ気づくのである。


「夢なんだから、私にとって都合がいいのは当たり前じゃん」


「もっと自信を持て。夢とはいえ観衆は本物なんだぞ」


レインは言ったが、タイヨウは首をかしげた。


「だから、みんな、"本人"なんだよ。別の夢からつれてきたんだ」


「どうやって」


「ワタシの力で」


〈夢魔〉(ディーヴァ)が割って入った。


「ど、どうも……」


人見知りを発動させたタイヨウがぎこちなくあいさつすると、ディーヴァもニコリと目で返した。


「すばらしかったです。センパイの話は嘘じゃなかったようですね。衣装のイメージもふくらみました」


レインがディーヴァに何を話したのかは知らない、しかしレインの傾向を鑑みるに、大言壮語な内容なのは容易に察せられる。


「そんな買いかぶらないで……」


タイヨウは言ったが、ディーヴァは


「〈アイドル〉が謙遜しないでください。もっと"かわいい"を振りまいて、夢と希望を生み出してください」


と励ました。


「この人たちはディーヴァさんがつれてこられたんですか?」


「もちろんです」


「無理矢理?」


「違います。みなさんタイヨウさんに会いたいという思いがあります」


タイヨウは眉をひそめた。

信じられない。


「みんな初見さんだよね?私のライブを見たことないのに、どうして……」


「そりゃ〈タイヨウかわいい電波〉のおかげだろう。セルデシアにあまねく放出されている。我は毎秒観測している」


「センパイ、〈握手タイム〉の時間はとっくに終わってます。次の方どうぞ」


ディーヴァはレインを列の先頭からはがし、次の人間を案内した。

二十代中盤、派手な緑髪を逆立てた青年だった。

紫色に発光したローブをまとう姿は冒険者を思わせる。


「うおぉ!本物だぁ!」


彼は興奮した様子でタイヨウと握手した。

彼との面識はなかった。


「えっと……私のこと知ってるの?」


「もちろん!〈イズモ火炎桜事件〉を解決した、あのタイヨウちゃんだよね!?」


イズモライブの時に少数の冒険者がいたようだが、あのときの人だろうか。

冒険者に見られるとしたらあの時くらいだろう。

タイヨウは思ったが、違うようであった。


「あと〈ワラビ村殺人未遂事件〉を解決したのもタイヨウちゃんでしょ?あれ本当なの?」


「ワラビ村……?あー、半年前の……」


かつてタイヨウ一行が訪れた村である。

たしかに探偵めいたことをしたような記憶があるが、どうしてそのことを知っているのか。


「現場にいたの?」


「いや、〈アキバ新聞〉で知ったんだよ」


握手タイムをつづけるうちに、彼らがなぜタイヨウをライブに能動的にきたのかの理由が分かってきた。

彼らは〈アキバ新聞〉にてヤマセが連載している〈アイドル冒険者タイヨウのチンドン道中記〉のファンであった。

デビュー当時から連載されている、〈アキバ新聞〉日曜版を飾る紀行文だ。

まさか愛読者がいるとは思わなかったが、いないどころか、それなりに読者がいるらしい。

テレビもラジオもない世界で、タイヨウ一行の紀行文は外の世界を知る情報源として重宝していたようである。

とはいえ誇張と虚飾で構成された〈アキバ新聞〉。

はたしてタイヨウなる人物は実在するのか。

実在するのであれば、彼女のライブとはいかなる内容なのか。


「〈幻のアイドル〉タイヨウ。おそらく、潜在的なファンはかなり多いと思います。特に冒険者」


握手会の後、ディーヴァはタイヨウに伝えた。


「私のファン……」


タイヨウは信じられないような顔だった。


◆6◆


次の日も、さらにその次の日もライブは夢の中で開かれた。

タイヨウのファンは着々と増えていった。

無論全員が冒険者である。

夢だから失敗しても問題ない。

嫌な夢は〈夢魔(インプ)〉が食べてくれる。

その言葉はタイヨウを動かしたのである。

そしてそれらライブの内容は、レインの口からヤマセへと伝わり、〈アキバ新聞〉の紙面を飾った。

十六面とはいえ反響は多かった。


「いけますよこれ。タイヨウさん。完全に波が来てます」


夜、タイヨウの下宿を訪ねたヤマセがドアを開けるなり言った。

彼は大量の手紙を抱えていた。

中身は夢ライブの感想やファンレターらしい。


「ファンが増えた……」


タイヨウは手渡された手紙をぼんやりと眺めつぶやいた。


「言ったでしょ?タイヨウさんの実力とイタチさんのアシスト、そして僕の文章力をもってすれば当然の結果です」


「感謝してる……ありがとう……」


「加えてクモリさんとレインさんがいます。きっと大丈夫ですよ」


本来なら喜ぶべきところだろう。

しかしタイヨウの表情はなおも雲がかっていた。


「あのさ、プロデューサー、新しい〈お立ち台〉の方はどう?見つかった?」


「え、あー、それはまだ……」


「じゃあ〈銀河系アイドル〉になれないじゃん。意味ないよ」


「まだあきらめるのは早すぎます。こっちにレインさんがいるんですよ?例え大会前日に見つかったって攻略は間に合います」


「…………」


大会まで残り二週間。

間に合うとは到底思えない。

〈銀河系アイドル〉の状態で大会当日を迎えなければ、出場する意味はないのである。

そのことがタイヨウの心の中にずっとシコリとしてつっかえていた。


「でも」


「タイヨウ」


バイト終わりで帰ってきたレインが声をかけた。


「眠い」


彼女は目をこすり言った。


「え?あぁ……もう遅いしね。ごめんプロデューサー」


グッドタイミングだとレインに感謝し、タイヨウは彼女を引き入れドアを閉めた。

そして二人して布団に入ったのだが、レインの寝付きは意外にも悪かった。


「バイト大変だね」


「もう慣れたよ。あとな、バイトは大会後まで休むことにした」


「練習に専念するため?」


「そうだ。もうすぐ本番だからな」


「うん、もうあと二週間かぁ。早いね。レインは緊張してる?」


「してるぞ」


たしかに、レインの鼓動は普段よりも早かった。


「ドラゴンも緊張するんだ」


「タイヨウの未来がかかってるからな」


「私の未来なんて気にしないでよ。初めての大舞台なんだから楽しんで」


「いや、引退なんか絶対にさせないからな」


無理だ。

無理に決まってる。

タイヨウは強く否定したが声には出さなかった。


「迷惑か?」


レインは問うた。

彼女の鼓動はタイヨウのそれよりも、余程乱れていた。


「全然」


それだけ答えて、タイヨウは嘘のいびきをかくことにした。


「迷惑だよな」


「zzz……」


「でもなぁ、我、その気持ちが本心だとは思わないんだよなぁ」


「zz……」


「とりあえず、タイヨウがこれからもずっと〈アイドル〉が続けられる状況をつくってやる」


「…………」


「そこからタイヨウが判断すればいい」


私が大会後もアイドルが続けられる状況?

ない。

そんな状況ない。


「がんばれよ。〈冒険者〉タイヨウ」


妙な言い方をするものだとタイヨウは思ったが、今更聞き出せなかった。

すぐその後にはmレインの心音も落ち着きを取り戻した。

そして寝付いたのだろう、いびきをかきだした。

普段とは異なり、タイヨウに対し背を向けて寝ていたためだろうか、いびき声も小さい気がした。

違和感は感じたものの眠気が勝り、タイヨウも眠った。

その日は夢を見なかった。

ここのところ毎日レインとディーヴァに連れ回されていたため、不安にさいなまれたタイヨウの目覚めはすこぶる悪かった。

レインが忘れたのだろうか。

私の精神状況が原因だろうか。

夢ライブを楽しみにしていたファンがいたかもしれない。

その人々の期待を裏切ってないだろうか。

不安を解決するため、タイヨウは横を向き言った。


「レインーー」


しかしタイヨウの横に、レインの姿は無かった。

代わりに一枚の紙が残されていた。

そこにはこう書かれていた。


"〈アラガミ闘技場遺跡〉で待つ"

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