30 特訓
◆1◆
シロエの前には、少女姿の〈天泣ノ蒼龍〉が立っていた。
「何十年ぶりか?元気そうだな!」
レイドボスが唐突に現れ、話しかけてくるという奇っ怪な展開にシロエは戸惑った。
「どうした?」
「……お久しぶりです」
シロエは様子をうかがうように、一言だけ返した。
二人は知り合いだった。
もちろん友人ではなく、レイドボスと挑戦者という関係である。
その昔、〈ヤマト〉一円に武勇を知らしめた伝説的集団〈放蕩者の茶会〉。
その参謀を務めたのが彼であり、白眉の手腕をもって一癖も二癖もあるメンバーを調整し、強大なドラゴンや大魔導士を打ち破ってきたのである。
そんな彼にもトラウマは少なからず存在する。
〈天泣ノ蒼龍〉のレイドもそのひとつだ。
「あれ?覚えてるよな。レインだよ。〈アラガミ闘技場遺跡〉の」
「もちろん……」
彼女のレイドは〈放蕩者の茶会〉の活動時期にはすでに攻略が済まされていた。
〈ホネスティ〉によりまとめられた攻略情報を参照すれば、そこまで苦労するような相手ではなかった。
しかし二〇一五年、十番目の拡張パック〈無幻の心臓〉が発売されると事態は一変した。
〈天泣ノ蒼龍〉のAIが大幅に改訂されたのである。
さらに彼女のレベルもそれまでの八十から、同パック導入により解放された"レベル九十"まで引き上げられた。
動きが変わり、能力値も底上げされたことで、旧来の攻略情報が役に立たなくなってしまったのだ。
そこで再度攻略の必要が出てきたため、挑戦に名乗りを上げたのが〈放蕩者の茶会〉である。
〈盗剣士〉カナミを筆頭に、彼らは果敢に戦った。
そして龍は何度となく返り討ちにした。
更新前のAIの場合、基本は低空飛行で攻撃し放題だったところを、今回はかなりの割合で上空に留まるようになっていた。
攻撃が届きにくい中、降りしきる雨が容赦なく彼らの戦意を削ってゆく。
それでも一歩も引かずに戦った。
ついに体力の半分を削ろうかというところで、彼らは未知の技に遭遇した。
〈赤ノ雨〉だ。
赤い〈雨〉は装備アイテムすべての耐久値をまたたく間に削りとり、数分としない間に破損させてしまった。
莫大な時間と奇跡的な運によって手にしてきた愛用の装備を、彼らは一瞬のうちに失ったのである。
その時メンバーは口々に「殺してくれ!」と叫んだという。
この一件が世に知られるとすぐに、多くの同情と煽りのメッセージが〈茶会〉届けられたという。
〈天泣ノ蒼龍〉の放つ〈雨〉はいずれも"初見殺し"として炎上したくらい、ユーザーから不評だった技であるが、運営はまったく反省していなかった。
〈赤ノ雨〉なるクソ技を世に放ったことで、運営は公式Twitterを何者かに乗っ取られ、謝罪ツイートを勝手に投稿される恥をさらした。
「…………」
上記の事情もあり、シロエはレインとの会話をためらった。
ただでさえすでに〈かつてのトラウマ〉を二人も抱え込んでいるのに、彼女にまで懐かれては心が持たない。
そう判断した彼は〈フリップゲート〉を展開し、どこか別の世界へと消えてしまった。
「なんで!!?」
レインは叫んだ。
◆2◆
「気にしないで、数をこなしましょう」
ディーヴァは夢と夢の狭間〈踊り場〉に戻るとレインを慰めた。
「先が思いやられるなあ」
「もっといい思い出のある人はいないんですか?」
「我と?いい思い出?」
レインは想像した。
かつて戦った者たちの表情が浮かべてみる。
どれも悲痛にさいなまれた顔だった。
いきようようと扉をくぐり、啖呵をきって挑む者たち。
しかし〈雨〉に打たれ、火に焼かれ、壁に打ちつけられるうちに彼らの自信は失われていった。
そして最後に怒りの感情吐き出し、二度と戻ってこないのである。
「そんな感情、マズくて食べれません。もっとおいしそうな感情を持った人としゃべってください」
ディーヴァは不満げに言った。
「我に苦労せず勝利した者か。ならばこいつかなぁ」
レインは夢玉を拾い上げて彼女に渡した。
「クラスティって、〈D.D.D〉のトップじゃないですか。危険人物ですけど大丈夫ですか?」
「とりあえず、今見た中だとそいつくらいだな」
二人は玉の中に飛び込んだ。
そして二分後。
彼女たちは血相を変えて玉から脱出した。
「あいつヤベぇ!」
「危なかった……」
「普通レイドボス見てタイマンはろうとするか!!??」
「ワタシまで死にかけました……夢なのに」
「ディーヴァ!玉を布か何かで包め!ここまで追ってくるかもしれん!」
「布なんて持ってないから無理です!とりあえず、距離を置きましょう!!」
ディーヴァはクラスティの夢をできるかぎり遠くに放り投げた後、走ってその場を離れた。
「早く誰かの夢に逃げるぞ!」
◆3◆
三人目に選んだのはアインスだった。
彼なら話が分かるだろうという判断である。
レイドなどの攻略情報をいち早く公開し、"先生"と親しまれたアインスもまた、〈アラガミ闘技場遺跡〉レイド覇者のひとりである。
アインスがギルドマスターを務める〈ホネスティ〉は総員七百人以上を誇る大規模戦闘系ギルドだ。
彼はこの大層な組織を武勇でなく、コミュニケーションによって築き上げたのである。
会話練習の相手として最適な人選といえよう。
「こんばんはー」
アインスは陽光まばゆい〈ヨコハマ〉の海辺にひとり佇んでいた。
「こ、こんにちは」
彼はふりむき、二人の少女を見た。
数瞬怪訝な表情を浮かべた後、ポカンと口を開けた。
「久しぶり!元気してたか?」
レインが真横に腰を下ろすと、アインスの額から汗が一筋流れた。
(とうとう化けてでてきましたか……)
モンスターに一定の自我が認められる情報はアインスの耳にも入っていた。
ならばモンスターによる"お礼参り"もあるのではないか。
彼は少しだけ懸念していたのだ。
カラスは自分を傷つけようとした人間の顔を覚え、再会した時には復讐とばかりに攻撃を加えて来ることがあるという。
アインスにカラスをいじめた経験は無い。
しかしドラゴンをいじめた経験が無いかという、嘘になる。
彼は〈ホネスティ〉のGMとして何度も〈天泣ノ蒼龍〉と対峙してきた。
それこそ数えるものばからしい回数だ。
挑戦数は分からないが、勝利数は覚えている。
百勝だ。
彼は〈天泣ノ蒼龍〉をちょうど百回殺した。
無論いじめる意図などまったくない。
〈アラガミ闘技場遺跡〉レイドの攻略法を確立するために行ったのだ。
懺悔の念は一ミリも無いし、なんなら誇らしい業績とすら思っている。
とはいえ当事者が横で肩を組みしゃべりかけてくるとなると話は別だ。
ゼロとイチの存在から、魂魄を得たドラゴンが来たのである。
恐らくは、復讐のために。
今となっては共にレイドパーティを組む仲間もいない。
これは〈イースタル〉の世情を乱した罪に対する裁きなのかもしれない。
アインスは思案した。
「なにボッとしてんだ?」
レインは彼の顔を覗き込み尋ねた。
「あ、えぇ……」
「最近どうだ?調子は?」
「最近……ですか」
いいわけないだろ。
〈アキバ〉を追われたんだぞ。
彼は思ったがこらえた。
「前よりは良さそうだな」
「そ、そうですか?」
「我と対峙する奴ってみんな鬼の形相してるからな」
レイド戦闘なのだから当然だろう。
高火力・広範囲攻撃の脅威にさらされつつ、二億ある体力を削るのは大変な苦行である。
「調子がよさそうでなによりだ」
意外にも、〈天泣ノ蒼龍〉から敵意は感じられなかった。
「あの、本日はどういったご用件で」
アインスは聞いた。
「用件……。用件は……特に、ないけど……」
「そうですか……」
気まずい。
至極気まずい。
〈飛び梅の術〉で逃げてしまおうか。
いや、相手はレイドボスだ。
逃げる選択肢は無い。
「会話の練習に来ました」
見かねたディーヴァが助け船を出した。
「会話の練習?」
「はい。そのドラゴンさんはアイドルをめざしていまして、コミュニケーションスキルを磨くために色々な人を訪ねては話しかけています」
「アイドルを?〈天泣ノ蒼龍〉が?」
首をかしげるアインスを見てレインは、
「バカにしてるだろ」
と不満を露わにした。
「い、いえ、そんなつもりは」
「我はな、一流の〈アイドル〉にならないといけないんだ」
「なぜ……」
「タイヨウを優勝させるため」
「はぁ、そうですか」
「そうですかって……。あ〜〜ッ!どうしてこう、会話がうまくいかないんだァッ!?」
レインは頭を抱えた。
「どうしました……?悩みがあるなら相談に乗りますよ?」
アインスは言った。
ドラゴンにこんな台詞を吐くとは思わなかったが、口が勝手に動いた。
悩む人を放っておけない性格なのだ。
「冒険者とうまく会話する方法を教えてくれッ!」
そんなの私が教えて欲しい。
自分でも分からないから、今こんな状況なのである。
彼は思ったが口には出さず、
「なるほど。今までどなたと会話してきたんですか?」
とやさしく聞いた。
「シロエとクラスティ」
どんな練習相手だ。
その二人を会話の練習に選ぶな。
「アインスはいっぱい仲間がいるんだろ?どうやって会話してるんだ?」
「私も自慢できるような話術を持ってるわけではありません。ただ無難に、相手を不快にさせない程度に会話してきただけでして……」
「そう!そういう特技が欲しい!話して!」
「それなら、まぁ。教科書通りにはなりますが……。ええと、基本は聞き役に徹する姿勢が大切となります」
「へー」
「冒険者……というか人間は、聞いてる時よりも話してる時の方が気持ちがいいものですから」
「わかる。我も人の話を聞くのは苦手だ」
「ですから相手を喜ばせたいのであれば、話し手側に立ってもらう方がいいんです」
「なるほどな。でもどうやって相手に話させるんだ?我だって色々話を振ってるんだけどなかなか話してくれないぞ」
「どんな話題ですか?」
「レイドとか」
「とか?」
「いやーまぁ、レイドの話題だけだな」
「〈アラガミ闘技場遺跡〉レイドなんて苦行いったい誰が思い出したい……いえ、自分の中に話題が無いなら相手の引き出しを借りましょう。相手が話しやすい話題を振ってみたらどうでしょうか?たとえば過去の武勇伝とか」
「ははぁなるほど。自慢話を引き出せればペラペラしゃべってくれそうだ。それなら〈特技構成〉とかも話しやすいか?」
「いいと思います。ビルドは冒険者の個性を象徴する要素ですから。その人の個性やこだわりを捉えて、褒める。これを繰り返せばよりよい人間関係を築けますよ」
我ながら綺麗事をいったものだとアインスは思った。
しかしレインの反応は純粋だった。
「こだわり褒めるか!たしかにうれしいもんな!しかし、相手が生産系の冒険者の場合はどうしようか」
「装備アイテムを話題にしてみたはどうですか?〈天泣ノ蒼龍〉さんは種々の〈幻想級アイテム〉の効果を見て、くらってきたわけですから、その経験を交えながら話を振っていくと会話が広がりやすいと思いますよ」
「お前はいいやつだ。アインス。あと我の呼ぶときは”レイン”でいいよ」
その後も先生による会話術講義は続いた。
ドラゴンに教えるという奇妙な光景だったが、不思議とアインスに抵抗感は無かった。
彼の気性による部分も大きかったが、なによりもレインの態度がよかった。
こちらの話を真面目に聞いてくれるし、リアクションもはっきりしてしかも好意的だ。
疑問点があれば切り出してくれるし、案外するどいところついてくるのでこちらとしても新たな発見を得ることができる。
「〈茶会〉も〈西風の旅団〉も褒めてたぞ。〈ホネスティ〉の解説動画がわかりやすいって」
〈D.D.D〉〈黒剣騎士団〉〈ハウリング〉〈西風の旅団〉〈シルバーソード〉〈放蕩者の茶会〉など有力ギルドとの交戦経験も豊富なため、話題のストックも多かった。
要するに彼女は理想的な"話し相手"だった。
アインスはその旨を彼女に話し、本日の講義の終了を知らせた。
「助かったぞ!また来る!」
手を振りながら天高く昇っていくレインを見届けたところで、彼は目を覚ました。
「……ということがありまして。変な夢でした」
アインスは朝食をとりながら、同じ卓を囲む斎宮トウリに報告した。
トウリは微笑し、
「〈天泣ノ蒼龍〉か。存外、本人だったかもしれんぞ」
とだけ返した。
◆4◆
その日以降、レインは会話練習を果敢に行った。
朝昼はレッスン、夜はバイト、睡眠中は会話練習というスケジュールだ。
これを毎日続けたことで、七月中旬には冒険者どころか大地人相手にも相応のコミュニケーションをとれるようになっていた。
「センパイ、才能あります」
とある日の"会話練習"を終えて〈踊り場〉に戻ったディーヴァはレインに言った。
「いや、まだだ。はやくタイヨウに追いつかないと」
「センパイは努力家ですね」
ディーヴァは夢玉を探しながら返した。
「お前、何してんの?」
「まだ夜明けには時間があるので、店長の夢に行きます」
「ふーん」
「センパイは先に目覚めててください」
「いや、我もついてくよ」
レインの言葉を受けディーヴァはわずかに眉尻を下げた。
「やっぱ帰るわ」
レインは空気を読んだ。
「練習の成果ですね。センパイ」
ディーヴァは笑顔でそう言い残すと、店長の夢の中へダイブした。
レインは腕を組み、彼女を見送った。
さて自分の夢に帰るかと、レインは夢玉に足を突っ込もうとした。
しかし夢玉はガラス玉のように固く、彼女は足の小指をぶつけてしまった。
「イッテェッ!!!!」
レインはのたうち回った。
夢玉をかきわけ、大げさに左右に転げ回った。
そしてようやく痛みが引いたところで、
「ディーヴァ!あいつッ!!」
と叫んだ。
「〈夢魔〉がいなきゃ夢玉の中に入れないのか」
レインは店長の玉を叩いてディーヴァを呼びつけた。
「なんですか」
彼女は顔だけ出して言った。
顔の中心にシワをつくった、不満がにじむ表情だった。
「自分の夢に帰れないんだけど」
「もう少しで終わるから待っててください」
ディーヴァは再び玉の中に潜ってしまった。
玉の表面に、波紋のように同心円が広がっている。
「あいつ、何してるんだ?」
ふと興味の湧いたレインはゆっくりと玉に足を突っ込んだ。
今度はスルリと入ることができた。
〈夢魔〉が入った直後、一定時間以内であれば後続者も入れるということだろうか。
レインが降り立った先は〈キョウの都〉郊外、夜景の見える展望台だった。
都の光が帯となりパノラマに広がる絶景ポイントだ。
ディーヴァと店長は展望台からの夜景をバックに見つめ合っていた。
(あいつら一体何を……?)
レインは彼女の目的を探るべく、木の陰に潜み様子をうかがった。
「店長……」
ディーヴァは手を握り、言い寄った。
「ど、どうしたの……?」
店長は困惑していた。
「ワタシのこと、どう思っていますか……?」
「優秀なアルバイトだと思っているけど……」
「それだけ……?」
ディーヴァは、吐息が直に当たるくらい顔を近づけた。
「いやその、普段も助けてもらって、本当に感謝しているというか……」
「好きですか?」
「へ?」
「ワタシこと」
「あー……。もちろん」
「ワタシも好きです」
ディーヴァは店長の腰に手をまわし、その身を寄せた。
「いやッ!ちょっと!?ディーヴァくん!?」
「ずっとあなたのそばにいたい……」
しかし店長はディーヴァの両肩を持って引きはがした。
「その、好きと言っても、愛するとかじゃなくて、親しみがある方の好きであって……」
「ワタシじゃダメですか?」
「ダメとかそういうのじゃ……」
「愛してくれませんか?」
「……ごめんなさい」
彼は深く頭を下げた。
(なんで夢の中で告白を?)
レインは疑問に思った。
現実世界ですればいいのに。
夢なら、たとえOKをもらっても無かったことになってしまう。
いや、今回は断られたから結果オーライか?
レインはは悶々と考えた。
ふと、二人の方を見やると、夜景の逆光に映された二つのシルエットが重なっていた。
ディーヴァが、店長の唇を奪ったのである。
「ふぇ!?」
レインの口から驚嘆の声が漏れ出した。
「分かりました。また、出直しますね」
ディーヴァは口を離し、それだけ言うと再び口づけした。
店長は体をひねり抵抗を試みる。
「な、なんでこんなことを!?」
「やっぱり、告白のシミュレーションは夢でするに限ります。もし失敗しても、夢ごと食べて無かったことにできますから」
彼女は微笑し、店長を押し倒した。
「フった店長が悪いんですよ」
みつめるディーヴァの目の色は黒く反転していた。
「ひ……!」
ディーヴァは彼を地面に押さえつけ、服のボタンを外していった。
店長は抵抗を試みたが、レベル五の彼が八十八のディーヴァに勝つことは不可能だった。
「大丈夫です。痛くありません。むしろ……、とにかくワタシに身を委ねてください」
再び二つの影は重なった。
この先の展開は〈小説家になろう〉の規約にふれるため割愛する。
◆5◆
レインは傍観するしかなかった。
〈アイドル〉として不誠実な行為であることは彼女にも分かった。
しかし、眼前で起こる得体の知れない行為を止める術をレインは持っていなかったのだ。
「夜明けが近い……もうちょっと……いや」
ディーヴァは葛藤の言葉を二つ三つ呟いた後、下に敷いた店長の顔をなでた。
「また……、お会いしましょう」
彼女はそう言うと、店長にかみついた。
ビリッっという、紙の破ける音とともに"空間"に虫食い穴が生じた。
穴の奥からは〈踊り場〉がのぞいていた。
ディーヴァは次々と空間を食べていった。
そしてついに完食したところで、レインは目を覚ました。
「センパイ、起きてください」
隣で寝ていたディーヴァが言った。
「なるほどなぁ」
レインは彼女を見つめ言った。
「どうしました?」
「なぁディーヴァ。我さ、今度はタイヨウの夢に行きたい」
「関係が近すぎる人と話しても会話の練習になりません」
「練習じゃない。ちょっとやりたいことがあるんだ」
「現実世界ですればいいじゃないですか」
「いや、無かったことにしたい行為なんだ」
「無かったこと?見た夢の記憶を消すってことですか?そんなの無理ですよ」
「は?さっきしてただろ?」
「……」
レインの指摘を受け、ディーヴァは瞳をかすかに揺らした。
「店長とキスしてたじゃん」
「な、なんでそれを!?」
「あぁ、でもなぁ、ちょっと待って、本当に食べたら夢の記憶が消えるのか不安だ。店長にさっきの内容を覚えてるか聞いてみないと」
「大丈夫!記憶は消えてます!ゼンブお腹の中!」
ディーヴァは自身の腹を素早くなでた。
たしかに少しふくらんでいた。
「本当〜?」
「マジマジ。いつでもタイヨウさんの夢に案内してあげます。だから店長には何も言わないで」
「悪いな!ふへへ……」
下心である。
しかし、レインは後日、この判断を深く後悔することになる。




