28 新人アルバイトの脅威
◆1◆
〈キョウの都〉は厚い雲で覆われていた。
ぱらつく雨が、帰路につくレインの右肩を濡らす。
木造家屋に挟まれた大路では、傘を忘れた人々が足早に駆けている。
一方でレインの足どりはひどく重かった。
道中、点々とたまる水たまりですら、今の彼女にとってはありがたい障害物に映った。
それほどまでに帰りたくなかった。
脳裏には何度も何度も〈白筆〉の言葉が反響し続けている。
普段なら一段とばしで駆け上る下宿の階段も、今日ばかりは一段、また一段と、ゆっくり踏みしめる。
扉を開けたその先に、念話しているタイヨウの姿が見えた。
「打ち切り撤回!!?マジで!?」
その一言で、誰と何を話しているのかは察せられた。
「了解〜。じゃあまたあとで。プロデューサー」
念話を切ったタイヨウはレインを見つけるや飛びついた。
「聞いてレイン!アイドル続けられるんだって!」
彼女は声をはずませ、喜んだ。
タイヨウはレインが濡れていることに気づくとタオルを持ってきて、髪の毛をふいてやった。
肉厚のやわらかいタオル地がレインの頭を包み込む。
布間からはタイヨウの笑顔がのぞく。
レインはハッとなった。
この笑顔だ。
なぜ自分は〈白筆〉と契約したのか。
この笑顔を守りたかったからだ。
日だまりのようなタイヨウの笑顔を取り戻せた。
その事実がレインの心の曇りを吹き飛ばした。
「でもどうして?」
タイヨウは訝しんだ。
レインにとっては自身の功績を自慢できるチャンスだ。
しかし彼女は口をつぐんだ。
「レイン、何か知ってる?」
「いや、それは……不思議だな」
優勝できなければ〈白筆〉の〈召還獣〉となることを条件に、打ち切りを回避した。
この事実をタイヨウはどのように受け止めるだろうか。
よくやったとほめてくれるだろうか。
いや、それはない。
自分のせいでリスクを背負わせてしまったと、後悔するのではないか。
そうなれば彼女の笑顔が崩れてしまうだろう。
レインが最も望まぬ展開である。
思うに、〈白筆〉は打ち切り撤回に至るいきさつをヤマセには伏せているのだろう。
ならば我も言うまい。
タイヨウ、クモリと協力すれば、必ずや優勝できる。
レインには確かな自信があった。
だから、これ以上打ち切り回避について話すのはやめることにした。
「銭湯行こうぜ」
レインは話題を変えようとした。
「ごめん。急にライブの予定が入っちゃって……」
タイヨウはそう言って、床に置かれた〈魔法の鞄〉を背中に背負った。
「今から?」
「そう。貴族の人が急に宴会開くことになったらしくてね。レインも一緒に行こうよ」
「あー……無理だ。これからバイト。帰りは遅いのか?」
「そっか。えーと、帰りは、朝方になるかなぁ。レイン大丈夫?ひとりで寝れる?」
「バカにするな!」
「ごめんごめん」
◆2◆
バイトを終えたレインは入浴も済まし床に入った。
時刻は午前一時。
タイヨウもイタチもいない部屋はいかにも寂しかった。
孤立するのはアキバ〈大神殿〉でタイヨウを待っていたあの時以来のことである。
孤独感は、ろうそくを吹き消したことでさらに増長した。
窓枠もカーテンも机も、家具という家具は輪郭を失い黒に溶けてしまった。
暗闇はいつものことだが、今日ばかりは別世界に見えた。
冷たい布団が彼女のか細い身体にのしかかる。
普段であれば感じられるタイヨウの手の温もりは無い。
〈闘技場〉の時はひとりでも平気だったのに、外に出てからというもの、独りが苦手になってしまった。
彼女は枕に顔を埋め眠気を待った。
しかし今日に限って気配すらみせない。
彼女は寝返りをうち、睡眠欲を必死に呼び寄せた。
そうこうしている間に目も慣れてきて、窓枠や家具の輪郭がうっすらと見えるようになってしまった。
レインは窓枠を背にしてかたく目を結んだ。
別にお化けがこわいとかじゃない。
ノイズを防ぎたいだけである。
だから窓は見ないし、天井の木目もみない。
自分は棒、棒きれだと、レインは自己暗示をかけた。
そのかいもなく彼女は尿意をもよおした。
(あぁ……)
タイヨウがいてくれたらこんな状況にはならないのに。
レインは恨んだ。
寝ればきっと尿意も消えるだろうと思い、彼女は棒化の暗示を強めた。
すると突然、ドアをノックする音が耳に入った。
「誰だ……?」
深夜に来訪者などありえない。
聞き間違えかと思ったところで再びドアを叩く音が響いた。
(聞き間違え……聞き間違え……)
三度、ノック音が鼓膜を揺らした。
レインは布団に潜り込み、胎児のように身体をまるめた。
直後、ガチャっと鍵の開く音がした。
「あぁ……」
レインは安らかな気持ちになった。
羊水に抱かれたような、温かな心持ちだ。
足音がレインの布団まで近づいてくる。
音の大きさや歩幅などを考えると、タイヨウではない。
その"何者"かはレインを布団越しにトントンと叩いた。
完全に棒と化したレインは何も応えない。
「レインくん」
男性の声だ。
「…………」
「レインくんッ!」
店長の声だ。
レインは薄目を開け確かめると、メガネをかけた痩身の中年男性がそこにいた。
彼女は黙って立ち上がり、彼の鳩尾に膝蹴りした。
「攻撃が当たるならお化けじゃないな」
「ひ、ひどいよ……レインくん……」
「ヒドいのはそっちだ!無言で侵入するとか、脅かしやがってッ!」
「いや、ここ壁薄いから……声出したら近所迷惑かな思って」
「じゃあそもそも深夜に訪ねるな!」
「わかった……わかったからボリューム落として……。どうしても頼みたいことがあってね」
「こんな夜更けに?」
「うん、とうとう出番です。用心棒さん」
"用心棒"とは当然レインのことである。
レイドランクエネミーであるレインが場末のラーメン屋〈天下王将〉で雇用されているのは、その戦闘力を買われてのことであるのは言うまでもない。
"コッテリ"原液を狙う〈キモン山の僧兵〉から店を守るのは彼女の大きな務めのひとつであった。
「僧兵がまた攻めてきたのか」
「いや、僧兵かどうかは分からないけれど、ただ物音が……」
「えー、お化けじゃん」
「まさかぁ。盗人でしょ」
「盗人ならもう逃げちゃってるだろ」
「そうかもしれない。けど、とにかく様子を確かめたいので護衛をお願いしますよ」
レインは気乗りしなかったが、このまま再び布団の中で眠気を待つよりはマシだと感じ、渋々引き受けた。
「一瞬待って。着替えるから」
◆3◆
燭台を持つ店長を前に置き、レインは〈タイヨウちゃん等身大抱き枕〉を抱え一階の廊下を進んだ。
「いや、おかしいおかしい」
店長はレインに燭台を渡そうとした。
「は?我は手がいっぱいなんですけど?」
レインは拒んだ。
「用心棒さんが前を歩かないと。そのマクラはボクが持つよ」
店長はマクラに手を伸ばした。
「は?タイヨウは渡さないんだが?」
レインは拒んだ。
「ひょっとしてビビってる?大丈夫?レインくん強いんだよね?」
「バカにするな!我は二億だぞ!?HP二億ッ!弱いわけないだろッ!」
レインの抗議と同時に、厨房からバンッ!っという音がした。
「ぎゃあ!」
レインは叫び店長の腰にすがりついた。
「レインくん!?」
「大丈夫だ……!MPは三億あるッ!」
「…………」
二人はおそるおそる厨房をのぞいた。
店長がろうそくであたりを照らすも特に異常は見られなかった。
「ネズミかな」
「きっとそうだ。よし帰ろう」
レインは店長の手をグイグイ引いた。
「クビにしてやろうかな……」
「待て、待てって」
焦ったレインは燭台をひったくり、雑に厨房を一周した。
「ほら、やっぱいない。気のせいだって。まったくもう店長はビビりだなぁ」
「こいつ……」
店をまわってもほかに異変はみられなかったため、捜査は中断となった。
店長は六畳間の寝室に戻ると、畳に敷かれた布団に潜り込んだ。
「絶対気のせいじゃないよなぁ。やっぱ僧兵が……」
彼は天井を眺め、不安を口にした。
「ないない。もう寝ろ」
レインは言った。
「僕の布団から出なさい」
店長は隣で寝るレインに忠告した。
「真竜と同衾する栄誉、子々孫々に語り継ぐがよい」
「自分の部屋に戻りなさい」
「イヤだね!」
「やっぱ解雇……」
「待てッ!まだ誰か潜んでるかもしれないんだろ!?我が二階に戻るのはマズくないか!?」
「なるほど……。でも同じ布団はマズいよ。〈アイドル候補生〉なんでしょ?」
「……?だからなんだ?」
「だからもっと清純さをだね……。いいから、せめて自分の布団を持ってきなさい」
「布団は今ちょっと見せられない状態だからダメ」
「……?重いなら僕が運ぼうか?」
「よせ。タイヨウの布団でもあるんだ。ほかの奴に触れさせるわけにはいかん」
「う〜ん。じゃあ僕が畳で寝るよ。しょうがない」
「そんなこと言うなって。手ぇつないで一緒に寝ようぜ」
引き留めるレイン、ふりほどく店長。
レインは負けじと裾をひっつかむ。
店長は腕をふりまわし抵抗する。
いよいよ喧嘩になろうかというところで、
バンッ!
と厨房の方から音が鳴った。
「レインくん」
「ぐぅ……zzz」
「解雇……」
「そういうのを"パワハラ"っていうんだぞ」
「どこでそんなワードを……」
「オバンデガスが言ってた」
「誰?」
二人が厨房へ行くと、先ほどと同様闇が広がっていた。
さすがにおかしいということで今度は入念に明かりを照らしてみる。
すると店長は調理台の下に、"黒い固まり"があることに気づいた。
燭台を近づけると、黒い人のような物体がうずくまっていた。
「僧兵かもしれません」
店長が小声で言う。
「よしじゃあ退治してやる」
音の原因がお化けじゃないと分かったレインは、急に勇みだした。
「頼もしい……!」
「ふふふ。さぁ店長、こいつを外に出してくれ」
「え?なぜ移動を?ここで退治すればいいじゃないか」
「こんな狭いところで龍になれるか」
レインの〈龍化詠唱〉の発動条件は厳しく、屋内で使用する場合、ドーム球場クラスの広さが必要となるのだ。
「MP三億なんでしょ?魔法使ってよ」
「この姿だと無理」
「じゃあ何ならできるの?」
「特に何も……。あっ!雨なら降らせられるぞ。無害な雨だがな」
レインはヘラヘラ笑った。
「……」
もはやこの子を頼るまい。
心に決めた店長は横たわる人物の足をつかみずるずると勝手口まで運び出した。
相手は衰弱した様子で、抵抗はなかった。
「軽いな……。僧兵じゃなさそう」
「うん?……あー。そいつ〈夢魔〉だって。ステータスにそう書いてある」
-----------------------
〈純真の夢歌姫〉
レベル/八十八
ランク/ノーマル
-----------------------
ステータスにはこう記されていた。
「八十八か。結構強いな。店長死ぬなよ」
「ちょっちょっちょっちょいッ!」
店長はあわてて手を離し、レインの背中にまわった。
「レインくんが運んで!」
「いいのか?"役立たず"に任せて」
「すみませんでした!お願いします!」
レインが〈夢魔〉に近づくと、彼女はわずかにうめいた。
「お腹すいた……」
◆4◆
レインは〈夢魔〉を食堂まで引きずり、座敷に寝かせた。
そしてラーメンを店長に作らせた。
「いいのかい?モンスターにラーメン差し出して」
店長はレインに耳打ちした。
「バカ野郎。ラーメン屋にお腹をすかせた少女がひとり。これは助けるしかないだろ。そこに人間もモンスターも関係ない」
レインは腕組みして言った。
「かっこいいこと言うなぁ!見直したよ!」
レインは完成したラーメンを受け取り、〈夢魔〉に差し出した。
その目はやさしかった。
「いらない……です」
〈夢魔〉はラーメンを突き返した。
「殺そうぜ」
「レインくん!」
「外に放り出そう。朝には死んでるだろ」
店長はラーメンどんぶりを抱え、麺をハシですくうと〈夢魔〉の口まで持っていった。
しかし彼女は寝返りをうって拒んだ。
「ラーメン嫌いなのかな」
「原液飲ませようぜ」
「君はだまってなさい。ほら、〈夢魔〉さん、ラーメンおいしいよ。毒なんて入ってないから」
警戒心を解くために店長はラーメンをすすってみせた。
「いやぁうまい!」
心から生じた言葉である。
原液だと問題のあるコッテリも、薄めさえすればおいしいラーメンスープとなる。
彼は恍惚の表情を浮かべた。
その瞬間、〈夢魔〉はバッと起き上がり、店長を押し倒した。
そして彼の顔の目の前で何度も噛みつくしぐさをした。
「助けてッ!」
叫ぶ店長。
あわててレインが〈夢魔〉をつきとばす。
〈夢魔〉はさっきまでとうって変わって、元気よく起きあがった。
「ふぅ……ごちそうさまでした。あなたの〈希望〉、とてもおいしかったです」
彼女は腹をさすりながら言った。
「よく分からんが敵が回復した!退治しよう!店長!さぁ!あいつを外に出してくれ!」
「無理言わないでよ!僕、レベル五だよ!?」
「役立たずッ!」
「どっちが!?」
「あれ?お前この前の……」
その少女は、紫の肌に小さな角が二本、コウモリめいた翼を一対背中に生やし、腰からは矢印上の尻尾を延ばしていた。
〈灰姫城〉地下の〈夢の妖精郷〉で〈星詠み〉たちをたぶらかしていたアイドルその人であった。
〈夢魔〉は肩の付近で切りそろえた黒髪を揺らし、疑問符を頭に浮かべたが、すぐに顔色を失い後ずさりした。
「〈天泣ノ蒼龍〉!?」
「店長!縄もってこいッ!」
◆5◆
「ただ雨をしのぎたかっただけです。信じてください」
後ろ手に縛られた〈夢魔〉が涙目で弁明した。
「我らに負けたからって復讐に来たんだろ?」
「ハハハ……。まさかぁ。あなたガタが〈キョウの都〉でライブをすると言ってたから、追いかけて〈星詠み〉を奪い返そうなんて、そんなこと一ミリも考えてません」
「〈黄ノ雨〉がいい?」
「待って!たしかに復讐を考えてました!けど今は違います!お金も気力も人間社会の波にさらわれてしまいました!もはや、さからう気力はありません!」
「じゃあ帰れ」
「だからお金が無いんです。ここに侵入したのも、宿代すら持ってないからでして」
知ったことではない。
かまわず外にほっぽり出してしまおうとレインは考え、店長に提案しようとした。
しかし先に口を開いたのは店長だった。
「じゃあうちで働く?」
「店長!?」
「いや、そろそろ新しいバイトを雇おうかなって思ってたんだよね」
「モンスターを雇うのか!?」
「君だってモンスターでしょ。種族の差別はよくないよ。本人も危害は加えないって言ってるし」
すると〈夢魔〉は目を煌めかせ、
「お願いします!皿洗いでもなんでもします!」
と懇願した。
「明日のスープに店長のクビとか浮いてなきゃいいけどなぁ」
レインは皮肉った。
「ご安心ください。私、人を殺せません。攻撃特技は持ってないです。バフ呪文とカウンター呪文だけ。無害です」
すると店長はむしろ残念がり、
「あ、そうなの?新しい用心棒役も頼もうと思ってたんだけど……」
「あ!実は催眠呪文も持ってます!やっかいな客を操れます!」
「それはちょうどいいなぁ!」
「私のことは気軽に〈ディーヴァ〉とお呼びください!」
どうせすぐに根を上げるだろうというレインの予想を裏切り、〈純真の夢歌姫〉はよく働いた。
皿洗い、掃除、配膳などをあざやかにこなし、あっという間に店長からも気に入られた。
〈アイドル〉行為を通じて人々の夢や希望を抱かせ、それら感情を食べるという〈夢魔〉の特性を十二分に活かし、客からの歓心も買った。
彼女はすでにレイン以上の人気を得ていた。
「おいディーヴァ。お前催眠呪文使ってるだろ」
レインは疑ったが、
「センパイ。何を言います?催眠ならもっとお客さんの目がトロけます。ワタシちゃんと合法的に人気とってます」
事実、客のステータスをみても異常は見られなかった。
化粧して〈キョウの都〉の〈ヒューマン〉に化けたその見た目はたしかに美少女いって差し支えなかったが、どうして自分よりも人気なのか、レインには皆目検討もつかない。
「あ、店長、Tシャツ破れてます。縫うから脱いでください」
〈夢魔〉は裁縫が得意な種族らしい。
ディーヴァもまた例にもれず針仕事を趣味としていた。
「かわいい衣装作りました。バイトの時に着てもいいですか?」
翌日、バイトの衣装が黒Tシャツから和風メイド衣装に変わった。
Tシャツ好きのレインは不服だったが、客入りがはんぱなく上がったため翌週には制服として正式に採用された。
「おい!なんだこのラーメン!ゴキブリ入ってんだけど!」
「お客さま。ワタシ、あなたが懐から虫入れてるところ見ました」
「あぁん!?」
「私の目を見てください」
「俺がそんなこと……ハイ。オレガヤリマシタ」
かねてより手を焼いていた客を彼女はいとも簡単に追い出した。
「最高の人材だよ!」
店長はディーヴァをほめた。
◆6◆
ディーヴァの就職から三週間経ったの6月下旬。
レインは〈アキバ〉のとある喫茶店にクモリを呼び出した。
「店が乗っ取られた」
彼女は深いため息とともに、クモリに切り出した。
「ーーつまり〈純真の夢歌姫〉がバイトに入った結果、お前は立場を無くしたと」
「異常な人気だ……妙な呪文を使ってるに違いない」
「聞いた感じ、まっとうに努力して勝ち取ってるように聞こえるけど」
「バカな。そもそも〈夢魔〉は怠惰な種族だぞ。それなのに熱心に働いてるなんておかしいじゃないか。奴は我らに恨みがある。バイトで活躍して我を追い落とそうと必死になっているに違いない」
「なるほど、一理あるかもな。それなら手遅れになる前に、龍になって奴をさらい、東に強制送還したらどうだ?」
「もう手遅れだ。今そんなことしたら店長に怒られる」
「じゃあどうする」
「これだよこれ」
レインが机の上に置いたのは一枚のチラシだった。
そこには〈みやこグルメフェスタ〉と大きく書かれていた。
「〈天下王将〉ももちろん出店する。ここであいつよりも多くのラーメンを売り、我こそがバンバーワンアルバイトだと数字で見せつけてやる。そしたらあいつを穏便に追い出せるようになる」
「そうか。で?なんでこのチラシを私に?」
「クモリも協力してくれよ。売り子なりなんなり」
「すまんが無理だ。協力したのはやまやまだが、〈執政公爵家〉を裏切った〈イガのシノビ〉が都に足を踏み入れるわけにはいかん」
「なんだよそれ。レッスンには来てるくせに」
現在クモリは〈アキバ〉を拠点に活動している。
早朝、タイヨウのレッスン時のみ〈妖精の環〉を利用して都に戻っているのである。
「レッスンは人と会わないからな。その規模のイベントへの参加は危険すぎる」
「場所は洛外だから大丈夫。〈オカザキ大神殿〉前の広場だ」
「洛外だろうと無理だ」
「ひどい……我が失職してもいいのか!」
「お前ならひとりでも勝てるさ。練習の成果を見せつけてやれ。応援してるから」
レインは口をひんまげてクモリをにらみつけた後、伝票をひったくって会計を済まし〈アキバ〉を後にした。
「なにが〈歌姫〉だ!真竜に楯突いた罪、その身に刻んでやるッ!!」




