25 少女の想い
◆1◆
クモマは父ナガトとともに〈饗久爾の社〉宝物庫内でたたずんでいた。
「すみませんな。レイン殿。我々の護衛を頼んでしまって」
護衛役としてつきそうレインにナガトは一礼した。
厳格な父の慇懃な姿に、クモマは違和感を感じた。
「もう帰っていいか?」
「もうしばしお待ちくだされ。さぁクモマ、どれでも選ぶといい」
ナガトが手をかざした先には壁面いっぱいに架けられた〈幻想級〉のアイテム群。
「武器なんていりません」
クモマは首を横に振った。
「遠慮するでない」
ナガトは手近にあった〈エンの杖刀〉を手に取ると、クモマの前に示した。
〈暗殺者〉用の仕込み杖として、ヨシノの離宮から持ち出され封印されたと聞く品だ。
「〈妖精の環〉を見通すお前の力と合わされば、古今無類の暗殺者として大成しよう。期待しておるぞ」
冗談じゃない。
〈暗殺者〉になりたくないから努力して〈星詠み〉になったのだ。
クモマは、父の持つ仕込み杖を受け取るわけにはいかなかった。
「それは妖刀です」
クモマは訴えた。
事実、〈エンの杖刀〉のフレーバーテキストにはこう書かれていた。
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かつての〈ヨシノ〉にて〈五鬼王〉を使役し、一大王国を築いたエルフ族の大魔導師〈エン〉愛用の仕込み杖。先端に白蓮のごとくあしらわれた五つの角は、〈五鬼王〉から無理矢理一本ずつ奪いとったとされる。杖の所有者に与えられる霊力は計り知れないが、常人が持てば鬼王の狂気にあてられ、正心を失うという。
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「かまわぬ。作り話だ」
「そんな……でも、受け取れません」
「なら別の、これならどうだ?」
「いかなる武器であろうと、受け取れません」
「なぜ?」
「戦うのがイヤだからです」
クモマはきっぱりと言った。
「なげかわしい。ナガト家の子弟ともあろう者がかような意識でどうする」
「ボクは〈執政公爵家〉の〈星詠み〉です。暗殺者ではありませんッ!」
「それか。もうよい。やめよ」
「……?」
「〈執政公爵家〉の恩も、何もかも、すべてまやかしだ。信じられるのは家族のみ」
ナガトは主家への恨みをブツブツと唱えだした。
その様を目の当たりにし、クモマは説得をあきらめ転身した。
いよいよ正気ではない。
一刻も早く父から離れなければならないと、本能的に察したのである。
「どこへいく」
クモマは父の声も無視して扉に手をかけた。
しかしその手は、父の浅黒い、しわがれた手に阻まれる。
強くつかまれた腕はビクとも動かない。
「おい、イヤがってるだろ。離してやれよ」
見かねたレインが抗議する。
「親子喧嘩を見せてしまいましたな。とんだ不作法を。クモマも謝りなさい」
ナガトは笑顔を戻し、クモマの肩に手をまわして言った。
「父上……ボクは……」
「なぜ親の言うことが聞けない?〈執政公爵家〉のことをまだ引きずっているのか?あんな枯れ木のことなど忘れよ。これからは自由に生きるのだ」
「自由なんて、ボクはいりません」
「お前の自由ではない。我ら一族の"自由"だ。それを勝ち取るために、クモマの力が必要なのだ。さぁ、選べ、そして外に出ろ」
そう言い残し、ナガトはひとり〈宝物庫〉から出て行った。
「なんだあいつ勝手なこと言って。クモマ、さっさと選んじゃえよ」
レインは腕組みしながらそう吐くと、出口に向かってツカツカと歩き出した。
「手にすれば〈暗殺者〉になってしまいます。今までずっと避けてきたのに……」
「装備するだけなら別にいいだろ!適当なの持って、外に出ようぜ!」
「ダメです。ここに納められている武具はいずれも禁忌の品……。ボク、〈白砂御所〉で冒険者の人から聞いたんです。こうした武器を手にした者は、精神を蝕まれ悲惨な末路を遂げると」
「そうなのか?早く言えよ。ナガトにそう伝えようぜ」
レインに従って二人は扉の前に立ち、退出のボタンをタップしようとした。
しかし彼らの前に現れたポップアップが、それを阻む。
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〈退出制限〉
"武器装備者"以外退出不可
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「父上?」
呆然とするクモマの横で、レインもまた目を見開いていた。
「え、我、武器装備できないんだけど」
◆2◆
境内中央に築かれた〈黒衣の神楽殿〉は、漆に金細工があしらわれた豪奢かつ壮麗な舞殿だ。
神社にしばしば見られる瓦葺きの神楽殿を模した建物ではあるが、高さは二十メートル程度あり、地球のそれと比べて明らかに高い。
舞殿というよりも、櫓と形容した方がイメージは近い。
ナガトは〈黒衣の神楽殿〉に座して、禅を組み、息子の決意を待っていた。
「父上、クモマはどこですか?」
彼の背後に立つクモリは、ナガトに問うた。
ナガトは片目を開き、
「冒険者を無事倒せたか。流石は我が娘」
とほめた。
「クモマは?」
「〈宝物庫〉の中だ。龍とともにおる」
「レインも?」
「記者から聞く限り、あやつは冒険者をも超える戦闘力を持っておる」
「だから〈宝物庫〉に監禁し、薬漬けにするおつもりですか」
「作用」
「クモマやレインまで戦に巻き込むのはおやめくださいッ!」
「しかたあるまい。戦わねば我らは冒険者に負ける。自由になるためには、みなが武器をとらねばならぬのだ」
「拒む家族を戦わせようとして、なにが自由ですか!?」
「それしか道はないのだ」
「戦わずとも、冒険者に対抗できる手段だってあるはずです」
「我らは傭兵だ。戦なき道だと?甘えるな。今こそ次代のため、血を流す時が来たのだ。分かってくれ」
「分かりません」
「どうしてもか?」
「ええ」
「そうか」
「父上はどうしてしまったのですか?かようなまでに非情ではなかったはず……」
「あくまで父に、逆らうか」
「父上?」
ナガトは虚空から黒い斧を取り出した。
コールタール状のような、粘性をもった瘴気を纏った両刃の大斧だ。
〈鬼王軍荼利の血戦斧〉。
ステータスにはそう書かれていた。
「"毒"がある。"武具"がある。我らは戦える。復讐だ。我の尊厳を奪ったすべての人間どもに……阻むなら、容赦はせん」
それまでの父とは異なる、くぐもった声だった。
血ににじむその目から愛情は読みとれない。
クモリは黙ったまま、父を哀れんだ。
「刃を抜け。弟を助けたいのだろう?我を屈服させれば叶うぞ?レベル五十の貴様が、八十の我を倒せるとは思えんがな」
「残念です……」
クモリが呟くと、彼女背後から冒険者が三人現れた。
タイヨウ、キタカゼ、オバンデガス。
「ぶひゃひゃ!八十ごときでイキがんな、オッサン」
◆3◆
「冒険者側に寝返えるとは……」
〈神楽殿〉の真下、手足を縛られ、タイヨウ、キタカゼ、オバンデガスに囲まれた中で、彼にできることは恨み言をクモリに向けることだけだった。
「〈宝物庫〉を解放してください」
「出すものか」
あくまで抵抗するナガトに対し、オバンデガスは
「こういうルーム設定ってよ、管理者が死ねばリセットされるんだっけ」
と嘯いた。
「殺せ」
ナガトは吐き捨てた。
「オッサンのくっ殺はいらない」
オバンデガスが返す。
「父上、あなたは斧に宿る、鬼王の怨磋にとりつかれています」
クモリはナガトのそばに転がる〈鬼王軍荼利の血戦斧〉を見つめた。
「怨磋?それは作り話だと何度言わせる」
「いいえ、現実です」
答えたのはクモマだった。
彼は〈宝物庫〉の扉の前に立っていた。
「外に出たということは、ようやく決心したか」
「いいえ、父上」
クモマは手に持ったレイピアをナガトに示した。
「私のレイピアを持たせたのだ」
扉の奥から現れたラニーニャが言った。
たしかにクモマの手には彼女のレイピアが握られている。
そしてラニーニャは剣の代わりに、〈電気鼠の三味線〉を抱えていた。
「なるほどな……。クモマ、お前も冒険者につくわけか」
「はい。冒険者さんたちと戦うことをおやめください」
「何を言う。見たであろう。あの武具の数々を」
「どれも禁忌の品ばかり……。手を出せば、それこそ我らは滅びてしまいますッ!」
「戯れ言ばかり、何を言うッ!」
「戯れ言ではありませんッ!」
クモマは〈白砂御所〉で耳にした〈アキバの殺人鬼〉の話をナガトに伝えた。
〈供贄一族〉のエンバート=ネルレスが妖刃に呑まれ、〈殺人鬼〉と化した一件だ。
確かにフレーバーテキストは"現実"ではない。
しかし現在進行形で"現実化"していっている。
「つまり、インティクスはその危険性を承知した上で、我らをけしかけたというのか……」
「我らを実験台にフレーバーテキストの副作用を確かめ、有用な武器は奪う。こういう意図なのでしょう。父上。いいかげん目を覚ましてください」
「…………」
「父上ッ!」
「おかげで覚めた」
父の言葉を聞いて、姉弟は安堵した。
「では、レインさんを解放してください」
クモマは頼んだ。
〈宝物庫〉の中にはレインが残されている。
アイテムを装備できない彼女は、退出条件を永久に満たせない。
「それは、できぬ」
「「なぜです!?」」
姉弟は異口同音に訴えた。
「武器が駄目なら、なおのこと"龍"を手離すわけにはいかぬ。雨の力をもってするしか今の我らに勝ち目はないようだ」
「まだそんなことを……我らが冒険者と戦っても勝ち目はありませんッ!」
「ならばどうするクモリ?里の滅ぶのを黙って見ていろと?あるいは冒険者に隷属しろとでも?」
「戦争も隷属も必要ありません。大地人と冒険者、双方が手を取り合うべきです」
「不可能だ。〈Plant hwyaden〉だぞ?」
「可能です。協調の道は確実にあります」
「あるものか」
「私は冒険者から学びました。言って聞かないのであればお見せしましょう。ラニーニャ殿、レインには伝えてくれましたか?」
「無論だ。ひどく嫌がっていたがな」
「でしょうね……。しかし、レインなら許してくれるはず」
クモリはわずかに表情をゆるめ〈黒衣の神楽殿〉に登った。
舞台の中央で彼女は、〈霊剣ーアメノムラクモ〉を掲げた。
剣先から絞り出されるように雲が流れだす。
雲は舞台の屋根の上で、渦を巻き出した。
「〈天ノ羽々矢〉」
一瞬の間を置いた後、一筋の雷光が巻き雲の中心を貫き、〈宝物庫〉を刺した。
パチパチと音を上げ、炎上する木造高床式の倉を目の当たりにしたナガトが嘆く。
「あぁなんてことをッ!剣が……槍が……鎧が……。龍が……」
崩れ落ちる〈宝物庫〉の炎は勢いを増していき、ついに紅蓮の竜巻へと成長した。
渦は徐々に速さを増していき、周囲に暴風をもたらす。
そして、わずかに回転が弱まったかと思った直後、火柱は爆ぜた。
同時に中から龍がうねり昇る。
〈天泣ノ蒼龍〉だ。
渦巻く雲の真下を旋回し続ける龍は、鼓膜を張り裂かんばかりの雄叫びを上げる。
声に呼応して雨が降り出した。
うっすら赤みを帯びた雨だ。
「父上。聞いてください」
◆4◆
ラニーニャは〈電気鼠の三味線〉を奏で始めた。
アップテンポなメロディーをバックに、クモリはリズムを刻み始める。
「これが私の答えです!」
「クモリ?な、なんだその格好……」
彼女は〈変化の術〉を用い、姿を変えていた。
アイドル衣装を身につけた少女がそこにいた。
今までのようにタイヨウやレインに擬態したわけではない。
まぎれもなく、クモリ本人が舞台の上に立っていた。
「この曲……」
タイヨウが呟いた。
ラニーニャが演奏している曲は〈解放せよ!魂の翼!〉だ。
タイヨウのレパートリーのひとつ。
さぁ放とうボクらの魂を♪
未来へと続く冒険のために♪
仲間たちと手を取り合い飛び立とう♪
新たなクエストを果たすために♪
フリルのついた白絹のスカートを揺らし、舞台上を駆け回るその姿はアイドルに相違無かった。
「クモリ……?」
彼女の行動に疑問符を浮かべたのはナガトだけではない。
キタカゼもオバンデガスも同じだった。
おそらく事前にクモリと打ち合わせたであろうラニーニャすらも、彼女の意図は把握できていないのではないか。
上空で雨を降らすレインと、タイヨウのみがこの場での彼女の想いに寄り添えていた。
だからこそ、タイヨウはつらかった。
「おいタイヨウ、あいつも弟子か?」
オバンデガスが冷めた口調で言った。
「いや……弟子というより……仲間というか……」
「仲間なら止めるべきじゃね?父親がア然としてんぞ。見てらんねぇって」
「できるわけないじゃない……」
「踊りはうめぇけどよ、歌がね……アイドルにはなれんぜ、アレ」
なんてことを言うんだとタイヨウが反論しようとする前に、キタカゼはオバンデガスに
「黙ってろ」
と忠告した。
オバンデガスは叱られた犬のような顔して黙った。
三者並び黙ってクモリのライブをみる。
(盛り上げないと……!)
タイヨウは自身に言い聞かせた。
観客が"後方腕組み"三人ではどうしようもない。
ひとりの少女がアイドルを通じて、"融和の可能性"を証明しようとしているのだ。
勇気を振り絞って、世間体をかなぐり捨てて、父の背中を押そうとしているのだ。
応援しなくてどうする。
コールを送らないでどうする。
分かっている。
しかし、足が重い。
手が重い。
動かない。
困難なんて吹き飛ばそう♪
笑顔いっぱい顔に浮かべよう♪
ここでジャンプ……できない。
今ここにいるみんなとの出会いは♪
ぜんぶぜんぶ記憶に残るから♪
さぁ放て!
ここでコール&レスポンス。
ほら、クモリさんが送ってる。
返さないと。
「魂の……」
唇が動くだけ。
声がでない。
原因は分かってる。
お姉さまに見られたくない。
アイドル世界にいる自分を見られたくないから。
お姉さまの中にある"特攻隊長・タイヨウ"を崩したくないからだ。
たったそれだけの理由。
鉛のように口が重い。
クモリの悲嘆がよぎったその刹那ーー
「魂の翼ッ!!」
レスポンスが上がった。
クモマだ。
姉のため、声を上げたのだ。
しかし雨に濡れた彼の顔は暗かった。
(違う……ライブでする顔じゃない……)
タイヨウは逡巡した。
クモマはなおも声をあげ続ける。
さらに、上空では〈天泣ノ蒼龍〉の雄叫びが響いた。
(ライブはもっと……)
タイヨウの目の裏には自身のライブシーンが浮かぶ。
〈星詠み〉たちの声援。
そして、ファン三人の笑顔。
熱い未来を拓いていこう♪
やさしさと強さを胸に抱いて♪
最後のコール・アンド・レスポンス。
魂の翼を開いてーー♪
「飛・び・立・てッッ!!!」
タイヨウは、力の限り飛び跳ねた。
腕をつきあげ、叫んだ。
◆5◆
(やはり、無理か)
舞台上で踊るクモリは自身を軽蔑した。
冒険者をわかせ、大地人をわかせ、会場をひとつにまとめれば父の心を変えることができる。
そんな安易な発想をした自分に嫌気がさす。
結果は見ての通りだ。
直情的に何も解決しなかった。
無論、ライブが悪いのではない。
きっとタイヨウなら成功したはずだ。
雨もやみ、会場は静まり返っていた。
「ありがとうッーー!」
クモリは一礼し、手を振った。
上空では龍が三度叫んだ。
よくやった、がんばったとほめているのだろうか?
その後下からも、拍手の音が鳴った。
しかしクモリの耳に入るのはナガトの声だけ。
「クモリ!早く降りてこい!いったいお前は……どういうつもりだ!?」
当然の反応だ。
こんな内容で拍手する方がおかしいのだ。
クモリは自身を納得させ、舞台の縁へと足を運びだした。
一歩ずつ、反省しながら。
(音痴がいけなかったか)
(いや、踊りだってきっと)
(前は成功したんだがなぁ……)
(なにが悪かったのか)
(観客が悪い……わけない。私の実力不足)
(才能がないんだ。才能が)
(こんなの、楽しくもない。恥かいた)
(やめよう……)
屋根から滴る水滴がポツポツと響いている。
彼女はあご先から滴が一滴垂れた。
彼女は顔を拭ってから、うつむきかげんで外へと歩き出した。
「やめるなよ」
クモリの真っ正面に、少女が立っていた。
「レイン?そうか、時間は十分経ったもんな」
クモリがライブ開いた目的は父の説得と、もうひとつ、"武器の破壊"にあった。
〈天泣ノ蒼龍〉の降らす〈赤ノ雨〉は、アイテムの耐久値を削る効果がある。
四分間あびると〈破損〉タグが追加され、そこから一分後にはアイテムそのものが消滅する。
すなわち五分だけ時間をかせげば、里の野心を大幅に挫くことができるわけだ。
クモリが歌い踊り、ナガトの注目を引く。
その間に〈宝物庫〉からむき出しになったアイテム群に〈雨〉を当てる。
この算段は見事に成功したのである。
「おかげでアイテムを"あるべきところ"へ戻せた。礼を言う」
クモリは謝意を示したが、レインは苦虫を噛み潰した顔で抗議した。
「いやいや、何ステージから降りようとしてんだよ。もっと歌ってくれよ。さっき空からもアンコール!って叫んだじゃんか」
「馬鹿。もういいだろ。アイテムは父のも含めてすべて壊しきったんだ。もうライブを続ける意味はない」
「あるッ!我は空にいたからぜんぜん聞けなかった!聞かせろ!」
「私が音痴なの知ってるだろ!?仲間に恥をかかす気か!?」
「仲間じゃない!ライバルッだ!はい、アンコールッ!アンコールッ!」
「うるさい!」
二人は舞台上、衆目を省みず取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「〈ヘヴンズ・ライト〉ッ!」
詠唱音とともに渦巻く雲の中心から、光がそそぎ二人をを照らした。
「ちょっとちょっと!ライブ中でしょ!?」
クモリとレインの間に割って入ったのは、タイヨウだった。
アイドル衣装に着替えた彼女は、クモリと目を合わせニッとほほえんだ。
「ほら、ちゃんとみんなの方を向く!」
タイヨウはグイと二人を肩をつかみ、前方に向けた。
そしてマイク型の杖を櫓の下に示し
「みなさん!ライブ楽しんでますかーッ!?」
元気よく叫んだ。
が、返事はない。
タイヨウはおおげさにずっこけた。
「あれれー!?声が聞こえないぞ!もう一回!みなさん!ライブ楽しんでますかーッ!?」
彼女は床を這いつくばったまま手を振り上げ言った。
しかし返事はない。
タイヨウは血走った目を開きレインを見つめた。
レインはぎこちなく手を挙げ呼応した。
「イ、イェェェーーーーイ!!!!」
叫びつつレインはクモリを片足でちょいと蹴った。
クモリはギョッとしつつもレインの要請に応じた。
「イ……、ィイェェェェェーーーーイ!!!!!!」
三人ともやけくそである。
「もりあがってるかぁああああ!」
タイヨウはなお叫ぶ。
「え、なにこれ?馬鹿なのあの子たち?」
オバンデガスはあきれた顔して言った。
「イェーーーーイッ!」
ラニーニャが呼応した。
「おいおい、ラニーまで……」
「もっとクモリちゃんの曲を聞きたいかぁッ!!?」
とタイヨウ。
「聞きたい!アンコールッ!アンコールッ!」
レインが手を叩き叫ぶ。
「アンコールッ!アンコールッ!アンコールッ!」
クモマが叫ぶ。
「アンコールッ!アンコールッ!アンコールッ!」
ラニーニャが叫ぶ。
「アホらし……ねぇ校長?」
オバンデガスが冷やかすも、
「アンコールッ!アンコールッ!」
キタカゼは叫んだ。
「校長!?」
「おめぇも参加しろ」
「ガラにもないことしちゃって……」
「あ?わりぃか?」
「い、いえ……アンコール!アンコール!」
オバンデガスは叫んだ。
タイヨウ、レイン、クモマ、ラニーニャ、キタカゼ、オバンデガス。
六人の声がひとつとなって、クモリに注がれた。
「タイヨウ……私は……」
「ほら!答えて!自分の気持ちをみんなに伝えて!」
再びタイヨウはニッと八重歯をのぞかせて、クモリに杖を向けた。
「…………みんなッ!聞いてくれてありがとう!あ、あの、えっと……」
「みんなどうかな!?クモリちゃんの歌、最高だったよね!?」
タイヨウは聴衆に杖を向けた。
「最高だったーッ!」
クモマは口の両端を手で挟んで叫んだ。
「だよね〜!!あっ!紹介遅れました!はじめまして!アイドル冒険者のタイヨウです!今歌ってくれたアイドル研修生・クモリちゃんの先輩で〜す!よろしくお願いしますッ!そしてそして!この子はレイン!クモリちゃんと同じ研修生です!」
タイヨウはキタカゼを見て、手を振った。
キタカゼは腕組みしたまま、タイヨウに笑顔だけを送った。
「今日はクモリちゃんのお父さんも見てくれてるんだよね。じゃあお父さんに一言ッ!」
「え、あ、あの」
「お父さん!今あなたの愛娘ががんばってるよ!応援してあげてッ!」
ナガトは呆気にとられ返事どころではなかった。
「ほらクモリちゃんも!応援してって言わなきゃ!」
「え、あの……ちゃんと私、がんばるから、応援してください……」
クモリはタジタジで答えた。
「私たち三人で〈アキバアイドルアリーナ〉優勝めざしてがんばってます!応援よろしくお願いしますね〜!」
タイヨウが手を振ると、レインも続いて両手を振った。
そしてクモリもまた、手を振った。
すると冒険者たちから拍手が返される。
クモマも負けじと拍手を送る。
(これは……なんなのだ……)
ただひとり、ナガトのみが動かなかった。
いや、動けなかった。
なぜ娘が冒険者とドラゴンとともに壇上で手を取り合っているのか。
なぜ冒険者たち、そして息子まで彼女たちに声援を送っているいるのか。
奇妙奇天烈極まる状況である。
ありえない光景である。
この空間で、いったい自分はどう動いたらいいのか、見当もつかない。
ナガトはただ呆然と、クモリを見つめ続けるしかなかった。
「ありがと〜!どんどん歌うので、バンバンにノっちゃってくださいね!じゃあクモリちゃん、次の曲発表しちゃって!」
「あ、え?あの、次の曲は……」
口ごもるクモリにタイヨウは
「私についてきて!」
と耳打ちした。
クモリはコクリとうなずく。
そして二人同時に、精一杯の大声で叫んだ。
「「〈Last☆Shine〉!」」




