表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイドボス、アイドルになる  作者: こくそ
メインストーリー
24/40

24 いちばんマトモな解決策

◆1◆


初ライブは本当に悲惨だった。

歌ヘタ、踊りカタい、MC暗い。

それが〈冒険者アイドル〉タイヨウの始発点だった。

〈大災害〉から二ヶ月後のことである。

外見はあざとい金髪美少女だが、その中身は黒髪、黒眼、オーラまで黒い猫背のメガネ女子。

隠しきれぬ陰気さゆえに、目の肥えた冒険者相手には披露できないライブ内容だった。

そのため当初から大地人相手にライブを行った。

それにしてもヒドい出来で、聴衆の反応も薄く、ライブを途中で打ち切ったことだって一度や二度ではない。

"くじけそう"どころか、くじけたこともある。

そのたびにプロデュー(ヤマセ)サーには恨み言をもらした。


「やっぱアイドルなんてできないって」


「全国を渡り歩くだけならもっと別の方法があるはずでしょ?」


「美少女のアバターをまとってアイドルを演じるなんて、ダマしてるみたい」


「そりゃ、お姉さまの情報は欲しいけど……」


「はぁ〜……こんな姿、お姉さまには見せられない……」


泣き言ばかり言うタイヨウにヤマセは冷たく接してきた。

彼曰く「契約は果たしてもらわないと困ります」と。

タイヨウはライブツアーを通じて〈アキバ新聞〉記者ヤマセにネタを提供する。

ヤマセは〈アキバ新聞〉が手に入れたキタカゼの情報をタイヨウに提供する。

そういう契約だ。

デビューしてから三ヶ月間、毎日が地獄だった。

しかし四ヶ月目に入り、ようやく光明が見えてきた。

ファンを獲得したのだ。

武闘家のナンバ、守護戦士のソノ、武士のマルという冒険者三人組。

タイヨウが大地人の村で、いつも通り下手くそにライブしていたところ、偶然居合わせていた彼らは全力で盛り上がってくれたのだ。

最前列に立って〈蛍火棒〉を振り、コールを送ってくれた。

今と比べれば控えめな応援だったかもしれない。

とはいえその珍奇な様子を眺める大地人の村人はそろっては当惑していた。


「なにこれ」


「村を助けてくれた冒険者さんたちが狂ってしまった」


「邪教の一種か?」


「おい、今踊ってるあいつ邪教祖らしいぞ」


「私たちの英雄を帰してよッ!」


収集がつかなくなりライブは中断せざるを得なくなった。

興行としては大失敗である。

しかしタイヨウはうれしかった。

夢にみたC&Rコール・アンド・レスポンス

この日初めて、彼女は自分がアイドルなのだと実感できた。

後日、別の村でライブした時も彼らは来た。

また後日、山頂に築かれた謎の村でライブした時も、彼らは来た。

離島ライブ、谷底ライブ、深海ライブ。

全部来て、狂喜乱舞してくれた。


(恐ッ……!)


正直引いた。

どこでライブしても来るじゃんという恐怖心から、彼らを引いた目で見てしまった。

来るの大変だろうし、全部のライブは追わなくてもいいよとタイヨウが声かけしても、彼らは応じてくれなかった。

ヤマセ手製の低品質なグッズを全部買い占めながら、


「どこでやろうとワシらは行くさかい、気にせんといてや!」


タイヨウの言動を全肯定することに定評のあるファン三人は、その要請のみを断ってきた。

タイヨウも九月頃には心変わりした。

どうせ止められないなら、せめてファンサービスを充実させて彼らに報いようと思ったのである。

握手会、お話会、撮影会と月並みなものばかりだったが、彼らは感嘆し号泣してくれた。

その頃にはいよいよタイヨウもアイドルとしての自我が芽生え始めていた。

一応は音程をつかめるようになり、一応はステップも刻めるようになった。

MCだって、内容はまぁ置いといて、まぁ、うん、明るくはなった。

なにせどんなことを言っても盛り上がってくれるのである。

ファン三人はタイヨウを〈神〉とあがめてくれるが、タイヨウにとってはファンの方がよほど救いの神だった。


「タイヨウちゃん今日もよかったで!」


「めんこいのぉ」


「次のライブも絶対行くからね!」


受ける言葉の数だけ光は増していった。

琥珀色の目はより深く澄み、たんぽぽ色の髪は(つや)を増した。

声も明るく、遠くまで届くようになった。

ファンの熱意が、彼女を本物の太陽(アイドル)に近づけていった。


「タイヨウさん。ファンレター届いてますよ」


「ありがとう。って封がもう開いてんだけど。プロデューサー、見たでしょ」


「変なもの入ってたら大変ですからね」


「私のファンがそんなことするわけないでしょ」


「中身は質問でしたよ、タイヨウさんってなんでタイヨウって名前にしたんですか?って」


「ネタバレしないでよ!?」


「たしかに、何でタイヨウさんはタイヨウって名付けたんですか?」


「そりゃあんた、アイドルとしてみんなを明るく照らしたいからタイヨウって付けたのよ」


「太田陽子さんは嘘ばっかつきますね」


「本名やめろッ!そっちのが夢があるでしょ?早くファンレターと、あと紙とペンちょうだい」


「お返事書くんですか。マメですねぇ」


「元気もらったんだから、返さないと。アイドルなんだし」


〈大災害〉後の悲惨な世界で、タイヨウが元気に生きていけるのは彼らのおかげだ。

タイヨウはファンのことが大好きだ。


ファンのみんなに喜んでもらいたい。


もっと照らしたい。


それがタイヨウの願いだ。


◆2◆


「殺せ」


キタカゼは板の間で呆然となるタイヨウに命じた。

敵はヤマセと、タイヨウのファン三人。

いずれもシノビに盛られた"こってり"をキメた状態だ。

付与術師のヤマセはとにかく、ナンバ、ソノ、マルは〈ハウリング三獣士(さんじゅうし)〉の二つ名を持つ熟練の戦士職である。

逃げることすら難しいだろう。


「聞こえなかったか?」


「お姉さま……だからその……この人たちは私の……」


「大切な人なんだろ?じゃあ殺せ」


「そんな……!」


〈ワイバーンキック〉を繰り出す虎の大男ナンバをキタカゼは半身をそらして避けた。

そして技終わりの隙をつき、彼女はナンバの背中を斬りつける。


「今までもそうしてきただろ?」


「〈大神殿〉に送れば治るって決まったわけじゃ……もっと別の、傷つけない方法だってあるはずですよ……」


タイヨウは好々爺の武士・マルの一閃を金属盾で受け止める。


「冒険者だろ?」


キタカゼはマルの横腹に刀を突き刺した。


「やめて……ください……!」


「お前は今まで、どうやって人を救ってきた?」


「……っ!」


「今まで通りだ。殺して、救え」


「それは……」


「相手は、戦士・戦士・戦士・付与。誰から殺す?」


「……」


「聞いてんだろ……。答えろ」


なお口ごもるタイヨウを守護戦士・ソノが押し倒す。

球体のシルエットを映す金属鎧は黄金色に輝いていた。

付与術師の特技〈限定解除魔法インフィニティフォース〉だ。

兜にはめられた格子の奥からのぞくのは、赤く光った目。

タイヨウに向けられた、殺意の目。


「付与術師……です……」


彼女は答えた。


「正解だよ。"特攻隊長"」


キタカゼはソノをタイヨウから引きはがした。

自身を見下ろすキタカゼ。

その手に掴むのは、首ひとつ。

実の弟(ヤマセ)の首だ。

直後、タイヨウの耳に聞き慣れた言葉が反響する。


「バカは、殺して治せ」


彼女は目を閉じ、脳内で必死に許しを請いながら、赤い唇を動かした。


「〈パニッシャー〉」


◆3◆


「はい三人目〜救済完了〜♪」


オバンデガスは、うつ伏せに倒れたシノビの頭を踏みつけた。

残るシノビは二人。


「退避っ!」


トビ丸はそう叫び、対峙するオバンデガスに背を向け出口へ走った。

彼の放心した頭ではこの判断しかできなかった。


「〈サイレントパーム〉」


声が耳に届くと同時にトビ丸は前方から衝撃を受け、部屋の中央へと蹴り戻された。

上体を起こして見れば目の前にはオバンデガス。


「〈武闘家(モンク)〉から逃げられるわけねぇじゃん?」


息も絶え絶えのトビ丸を踏みつけ、


「まだ死ぬなよぉ。こっからが楽しいんだからさ。ねえ、なんでオレらを襲ったの?理由聞かせて?君らレベル差的に冒険者に勝てないって分かってるよね。それでも襲ってくるんだから、よほどの理由があるんだよね。教えてくれる?なぁ?教えろよ。負け犬くんたちよぉ。ぶひゃひゃ」


高笑し天井を仰いだ彼女がみたのは、自分めがけ落ちてくるクモリの顔。


「〈エクスターミネーション〉ッ!」


すれ違いざまに放った一閃は、オバンデガスにクリーンヒットした。

クモリ会心の一撃は、彼女の体力を三割削った。

しかしオバンデガスは、堪えた様子もなく、涼しい顔してクモリの肩に手を巻きつけた。


「痛ぇ〜な〜。レベル五十さまの一撃は痛いわ。ひゃっひゃ!あと三回、当てれば倒せるぜ!まぁがんばれや!」


「侵入者め……!」


クモリはオバンデガスを引きはがそうとするも、冒険者の怪力から逃れられなかった。

それどころかオバンデガスの手足は、クモリの華奢な四肢により強くからみついた。


「侵入者ぁ?おいおいィ。悪者はそっちだろ?冒険者を監禁しやがってよぉ」


オバンデガスが耳元でささやく。


「里の決まりだ……仕方なかろう」


「上から命令されれば殺しでもやるってかぁ?」


「それがシノビだ」


「ッケ!NPCなだけあるぜ。自分の意志がねぇ……」


クモリは無言のまま、オバンデガスから目をそむけた。

視線の先には、レイピアの切っ先でトビ丸を切り払い、戦闘不能に追い込んだラニーニャの姿があった。

もはや勝ち目は無い。

いや、最初からそもそも、勝ち目なんて無かったのだろう。

冒険者に大地人は勝てない。

さんざこの身に刻んできたことではないか。

まして迷いある自分の太刀筋では……。


「おいラニー、こいつで最後か?」


「そのようだ」


するとオバンデガスはクモリの脳天を鷲づかみ、


「んじゃあ、クモリちゃん。あんたの主のところに案内してくれや、お礼を言いに行きたいでなぁ」


「誰が連れていくか……!」


「なに?まだ勝ち目あると思ってんの?追い込まれた〈くの一〉がなぁ、一転攻勢する展開なんて、古今東西どこにもねぇんだよ。あきらめろ。さっさとしねえとお仲間をひとりずつ(あわ)あわにしてっちゃうよ?」


「そもそも、父が今どこにいるのかなんて知らん……」


「父ぃ?なんだお前、お嬢様か?じゃあ人質にちょうどいいな。おいパパを呼べ。さもなくばーー」


「殺せ」


煽りでは無かった。

死にたいと本気で思っていた。

〈執政公爵家の影〉という名誉を突然奪われ、冒険者を見境なく襲う不本意な任務を押し付けられる人生なんてまっぴら御免だ。

しかし父を裏切るわけにはいかない。

このジレンマを止揚できる方法はひとつ、戦死するしかない。


「天然モノのくっ殺いただきました〜♪殺さねぇよ。オレらはどっかの校長先生とは違ぇんだ」


「ならばどうする」


「〈くの一〉の処分ね。クモリちゃん期待していいぜ。オレはよぉ、経験豊富だからな。ゲームでさんざん予行演習してっから。例えば〜」


オバンデガスは下劣な言葉をぶつぶつ呟き始めた。

かような辱めを受けるくらいなら、いっそこの隙に自害してしまおうか。

クモリは思い、小刀を携えた左手に力を込めた。


「やめろオバンデガス」


ラニーニャが言葉を遮った。


「クモリ殿。侵入の件は謝罪しよう。我々は、ただヤマセくんの安否を確認したかっただけだ」


「ヤマセの知り合いか……。どうやって里に入った?合い言葉が必要なはず」


「クモマという〈星詠み〉の子どもの力を借りたのだ」


「ク、クモマだと!?」


「知ってるのか?」


「弟だっ!今、どこにいる!?」


「ナガト殿が連れて行ったが」


「父上と……まずい……」


クモリの表情がみるみるうちに青ざめていく。

クモリはなんとしてもこの場を離れ、クモマと合流しなければならなかった。

おそらく父とクモマが向かう先は、〈饗久爾(あえくに)の社〉宝物庫。

二人が行き着く前に、この場を離れなければならない。


「父……いや、ナガトはどこにいる?」


クモリの唇は小刻みに震えていた。


「ヤマセの部屋に行ったよ」


「あ、案内してろうか?」


「さっきから何回も"しろ"って言ってんだろ」


オバンデガスが言う。


「ならば……ついてこい」


「もっとさぁ、ふさわしい言い方ってあるじゃん?今の自分の立場わかってんの?」


オバンデガスがネバついた手つきでクモリのアゴをなでる。


「ご案内します……」


◆4◆


クモリはラニーニャ、オバンデガスを連れて暗い廊下を進んだ。

"連れて”といっても、後ろ手を縄で縛られ、オバンデガスに握られた姿は、いかにも敗北者という感じで惨めだった。

それでも今はクモマの安全を守るためにプライドは捨て、生きることに執着しなければならない。


「おいここ、さっき来た部屋じゃねえの?時間稼ぎしてる?」


オバンデガスが手綱をグッと引く。


「い、いえ。そんなことは。もうすぐです」


「記者は無事なんだろうな」


「それは答えられません」


クモリが答えると後頭部に痛みが走った。

後ろのオバンデガスがナイフで刺してきたのだ。


「あんまり強情だと、殺しちゃうかもなぁ……」


「ぐぅ……。おそらくは、無事ではないと思います」


「何?殺したの?」


「殺してはいません。私が関与しているわけではないので、確証はないですが、薬を盛られていると思います」


「薬ってどんな?」


オバンデガスはクモリの背中にナイフをグサッと突き刺した。


「…………。あらゆる命令に従順になる薬です」


「洗脳ドラッグね。だいたい読めてきた。数多の〈クエスト〉をこなしてきたこのオバンデガス様が、この後の展開を当ててやろう。校長たちが襲われる」


「ええ」


「ええ、じゃないよ」


オバンデガスはクモリの背中にナイフをグサグサグサッと突き立てた。

見かねたラニーニャが彼女からナイフを取り上げる。


「やめろオバンデガス。なれば……急がねばならんな」


「必要ありませんわご主人様。ぶひゃひゃ。校長とタイヨウですよ?大地人ごときに負けるわけねぇだろ」


笑うオバンデガスにイラついたクモリが


「刺客が大地人とは限りません。すでに洗脳済みの冒険者もいると聞いていますから」


と言うとオバンデガスは「なら早く案内しろ」と返し、彼女の腰を思いっきり蹴って急かした。

クモリがヤマセの部屋のふすまを開けると、中央にタイヨウがうずくまるのが見えた。


「タイヨウ……?なぜここにいる?クモマは……」


あたりを見回してもタイヨウのほか、彼女横に立つ狐尾族の女性ひとり以外に人間は確認できなかった。

クモリの存在に気づいたタイヨウが声をあげる。


「え……?クモリさんッ!?ちょっ……なんで縛られて……!」


「なんだ知り合いか?」


「オバンデガス!?なにしてるの!?繩で縛ったりして……離しなさい!」


タイヨウは手綱をひったくりクモリを解放してやった。


「あん?こいつオレたちを襲ったんだぞ」


オバンデガスが抗議する。


「え?本当なの?クモリさん」


「本当だ……」


「えぇ……?なんで?」


クモリは押し黙ったまま、顔をそむけた。


「〈イガのシノビ〉は全員、お前たちの敵だ……。だから、さっさとここから出て行け。屋敷の外までは案内してやる」


「まだ帰れない。コーサさんを見つけないと」


「必要ない。奴は取り逃がしたからな。今頃は〈アキバ〉に戻ってるはずだ」


するとタイヨウはキタカゼと顔を見合わせた上で、


「それはないはずよ……?〈アキバ新聞〉からは二人を探してって言われてるし……」


と返した。


「なに?バカなことを言うな。私が見に行った時にはすでに部屋は空だったんだ。夜のうちに〈主従位置交換魔法ソウルポゼッション〉でも使って緊急避難でもしたんだろう」


「いや、でも……」


「なら後で探して解放してやる!もういいか!?クモマが危ないんだ!ここにいないとなると、もう〈社〉の方に向かったか……!」


「クモマくんも危険な目にあってるの?」


「頼むタイヨウ。私を解放してくれ!このままだと弟が……!」


ひざまずこうとするクモリをタイヨウが引き留める。


「分かった!分かったから!私にも手伝わせて!」


「本当か!?」


「クモマくんを里に連れてきたのは私だから……助けないと。そういうことなのでお姉さま、先に帰っててください……先ほどはありがとうございました……」


「このまま黙って帰れるか。そこにナガトがいるんだろ。ならケンカふっかけた礼をしねぇとな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ