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レイドボス、アイドルになる  作者: こくそ
メインストーリー
23/40

23 シノビの殺意

◆1◆


タイヨウ・キタカゼ一行は天下王将二階、下宿スペースに結集した。

室内はいつにも増して騒がしかった。

飛び交う会話の中でも特に大きかったのが、イタチの歓声だ。

探し求めていた元GMとの再会である。

こればかりは歓喜の念を押さえる訳にはいかなかった。

たとえどれだけ、隣人に壁ドンされようと。


「姐さぁん!ぅぉねぇっさんっ……!会いたかったんスよぉ……!」


「おう、イタチ。元気してたか」


「元気じゃないんで……慰めてっ!」


イタチは周りの目もはばからずキタカゼの胸に顔をうずめた。


「ちょっとイタチ。お姉さま困ってるから……」


タイヨウが引きはがそうとするも、


「うるさい!困ってない!」


と拒んだ。


「困ってる!」


「困ってない!」


くだらないケンカである。

タイヨウはもっと別のかたちでケンカすると思っていた。

レインを放っておいたこと、キタカゼとの再会を黙っていたこと。

謝りたい気持ちでいっぱいだったが、イタチはそれどころでなかった。

古今の仲間が勢ぞろいしたこの状況においては、何よりも喜びの感情が勝るのだろう。

二人はアイドルとマネージャーではなく、PKKギルド〈天衝〉のメンバー同士としてケンカを続けた。

周囲はあきれ顔でその様子を眺めていたが、さすがに飽きたのか、オバンデガスが仲裁に入る。


「まぁまぁ。嫉妬に狂ってのケンカなんてやめなさい。どうせお前ぇらなんて校長の眼中に無いんだから」


イタチはメイド少女をキッと睨んだ。

面識のない顔だったためイタチは彼女のステータスを確認した。


「うわ死ねっ!」


「なんだぁてめぇ……」


「オッサンがこんなかわいくなっちゃって……整形?ていうかオバンデガスがなんでここに?」


「ご主人様のお供だよ」


「ご主人、姐さんのこと?」


「いや、私だ」


ラニーニャが口を挟んだ。


「ラニー……。なんで?ヤマセPと関係ないッスよね」


「"悪"が〈イガ〉にいるからだ。悪即成敗。それが冒険者の責務だ」


「ははぁ。こっちは変わってないんスね」


イタチの気も収まり、旧友との思いで話に花咲かせていたところでクモマが到着した。


「お姉さんと連絡とれた?」


タイヨウが聞くもクモマは首を横に振った。


「ボクもお姉ちゃんが心配です……。ぜひ手伝わせてください」


「ありがとう。それで〈妖精の輪〉を使えば行けるかなって思ったんだけど、どうかな?」


タイヨウが聞くと


「がんばってみます……ですが、この曇り空では……」


クモマは口ごもった。

〈星詠み〉である以上、星が見えなけば予知できない。


「どこか晴れてるところに連れて行こうか?」


レインが提案する。


「都からじゃないと、里にはつながらないんです……。晴れるまで待つしかないですね……」


クモマは申し訳なさ気に切り返した。

結局一同が星空を拝めたのは、二日後の夜のことであった。

〈キョウの都〉西部〈雷天宮〉に集まったのはタイヨウ・レインの〈アイドル組〉とキタカゼ(ヤマセの姉)・ラニーニャ・オバンデガス(キタカゼの付き添い)そしてクモマという合計六人。

彼らは境内に設置された"茅の輪(ちのわ)"型の〈妖精の輪〉の前で待機していた。

そしてクモマからの合図の後、なだれ込むようにして輪をくぐった。

めざすは〈イガの隠れ里〉。

目的はヤマセおよびコーサの救出だ。


◆2◆


全身が渦巻く感覚から醒めたクモマがあたりを見回すと、そこは板敷きの大広間だった。

奥の一段あがったところには燭台が二つ並べられ、その間に壮年の男が正座していた。


「クモマか」


乱入を目の前にしてもナガトは微動だにしなかった。


「父上……。突然のご無礼をお詫び申し上げます。合い言葉が分からなかったため、やむを得ず〈妖精の輪〉を使わせていただきました」


クモマは平伏し言上(ごんじょう)した。


「そろそろ来ると思っておったわ。護衛までは想定しておらなんだが」


「護衛ではありません。ヤマセという記者がこちらを訪れたと思いますが、その者と会いたいとのことで、ここまで連れてきました」


「記者か」


クモマの父ナガトは数瞬の間を置いてから


「安心せい。無事だ。少し、取材が長引いておってな。今は客間で寝ておるところだ」


「でしたら面会の許可をいただけますでしょうか」


「なにも無理矢理起こさんでもよかろう。明朝会わせてやる。今夜は泊まっていくが良い」


ナガトは微笑んだ。

あまりに冷静に応対されたため冒険者一同は拍子抜けしてしまった。

ナガトから敵意は感じられなかったが、それがまた逆に不気味であった。


「いいから今すぐ会わせろ」


キタカゼがぶっきらぼうに言う。

タイヨウは彼女の失礼な態度をわびつつも、


「突然、しかも夜分にすみません。あの、私はヤマセくんの仲間でタイヨウと申します。どうしても彼に確認したいことがありまして、今すぐ会わせていただくことは可能でしょうか?用事が終わり次第、〈帰還呪文〉で帰りますので……」


と言ってヤマセに対する面会を頼み込んだ。

ナガトはこの無礼な要求を快く許可してくれた。


「ただし、あまり屋敷内を部外者に歩いて欲しくないのでな。関わりのある者のみ入室を許可しよう」


結局、タイヨウとレイン、キタカゼの三人のみがヤマセと面会できることとなった。

ナガトは部屋へ案内するために、彼女たち、そしてクモマとともに部屋を後にした。


「むぅ。悪がいると聞かされて来たが、思い違いだったか……」


大広間に居残りとなったラニーニャが残念そうに言う。


「はぁ?今のジジイを見て言ってるのか?どうみても腹黒悪役ムーブしてただろ。気づいてねぇのか?単細胞だねぇ。だから、てめぇは、出世できないんだ」


オバンデガスはラニーニャを煽った。

両名ともに〈アキバ学園〉の教員であるが、それ以前はこの二人、メイドと主人の関係にあった。

正確に言えば、〈エルダーテイル〉で稼いだ多額の私財を背景に、裕福な生活を送る大富豪(ラニーニャ)と、カルマが深すぎて身内にしか雇ってもらえなくなった哀れな貧乏人(オバンデガス)という構図である。

主従といっても物語に出てくるような関係ではなく、〈天衝ゲーム〉時代をそのまま引き継いだ、いがみ合う間柄である。

そして今でもこの関係は継続している。

ラニーニャは腰に据えた白銀のレイピアを抜き、オバンデガスの方を真顔で見つめた。


「主人に対する口の効き方がなっていないようだな。オバンデガス」


「なに?従業員を脅すつもり?うわっ!パワハラだ!労基に訴えなきゃ!」


「頭を垂れるなら今のうちだぞ」


「だれがてめぇなんかにヘ〜コラするかよ」


「どうやら……、私は悪をひとり見逃していたようだ」


ラニーニャは剣先をオバンデガスに向けた。

そして極限まで態勢を低くして静止。

直後、ピストルの発砲音めいた乾いた破裂音を立て、オバンデガスに向かい突進した。

ロケット弾めいて射出された彼女は、白煙を上げ一直線に猛進。

オバンデガスは奇襲に対し笑みを浮かべるのみで、両手をぶらんと下げたまま応戦の構えも見せずにいる。

ラニーニャの切っ先は、そのまま彼女の眉間を貫いた。


「〈身体昇華魔法(ガシアスフォーム)〉」


顔のど真ん中に螺旋状の大穴をあけられたオバンデガスが、残された口でそう言い残すと、彼女はそのまま黒く霧散した。

代わりに残されたのは、鳩尾みぞおちを貫かれた〈イガのシノビ〉。

背後からオバンデガスを襲おうとしたのだろう。

しかしターゲットごと刺し貫かれるという、理外の奇襲をくらってしまった。


「安心しろ。殺しはしない」


ラニーニャは、天井を仰ぎ痙攣するシノビに言った。


「おい暴力上司。"悪"は本当にこいつひとりだけか?」


黒い霧が圧縮され元の姿に戻ったオバンデガスは、ラニーニャと背中合わせに立った。


「いや……。誤認した。あと五人」


「おい間違えすぎだろ。鼻にピーナッツでも詰めてんのか?」


ラニーニャの〈狼牙族の嗅覚ウルフズアルファクション〉でとらえたシノビは総勢五人。

気づけば彼女たちはすでに包囲されていた。

ステータスをみる限り、いずれも大地人としては異常なほどの高レベルである。

精鋭を差し向けたのだろう。


〈トビ丸〉/レベル五一

珊瑚さんご〉/レベル四二

渡来武とらいぶ〉/レベル五三

ながら〉/レベル四四

〈クモリ〉/レベル五六


数は多いが、それでもレベル九○を超すラニーニャ・オバンデガスにとってはを敵ではない。

彼女たちは、追っ手から切り抜けることよりも、むしろ追っ手を殺さないことに関心を払っていた。


「ま、最悪殺すけどな。正当防衛♪」


夜更けの大広間に、下賤な笑いがこだまする。


◆3◆


ナガトはタイヨウ、レイン、キタカゼ、クモマの四人を連れて部屋から部屋へと渡り歩いた。

四方をふすまに囲まれた正方形の部屋の、正面のふすまを開け奥へと進む。

次の部屋も全く同じ間取りだ。

ナガトは右のふすまを空け、タイヨウらを招き入れる。

そして左、右、正面、右、右、左……。

迷宮のような屋敷を進むタイヨウは、今自分たちがどこにいるのか分からなくなっていた。


「うはは。失礼。ようやく到着だ。広い屋敷で申し訳ない」


燭台に火が灯される。

べっとり赤く塗られたふすまに囲まれた部屋には布団が敷かれていた。

まくらの上にはヤマセの顔が乗っている。

タイヨウは一瞬死体かと勘違いしたが、〈セルデシア〉の摂理に従えば寝ている以外にあり得ない。

安らかな眠りを邪魔することに戸惑いを感じるタイヨウをよそに、キタカゼは弟の横腹を蹴り飛ばした。

畳の上をゴロゴロ転がるヤマセ。

彼は三回転半してふすまに激突した。


「いて……誰ですか……?」


額を手で押さえ半目を広げるヤマセ。

キタカゼはおかまいなしに彼の胸ぐらをつかみ、空中に掲げた。


「姉さん。急にどうしたの?」


ヤマセは眉一つ動かさず、静かな目をして言った。


「お前、タイヨウを騙してたんだってな」


「ちょっとお姉さま!急にそんな乱暴したらプロデューサーが混乱するじゃないですか。もっとやさしく……!」


タイヨウはキタカゼの腕をつかんだ。

地上に降ろされたヤマセは何事もなかったかのように寝間着の裾を直し、


「タイヨウさん。こんばんは」


とあいさつした。


「こんばんは……。ってプロデューサー。私とお姉さまが一緒にいるのに驚かないの?」


「再会できたんですね。おめでとうございます」


「うん。おめでたい、けどさ、あんたお姉さまの弟って聞いたんだけど」


「そうですよ」


「じゃあ、お姉さまの居場所もずっと前から」


「知ってましたよ」


「ッ!なんで私に教えてくれなかったのよ!!??」


タイヨウは触れそうなくらいに額を近づけ、追求した。


「伝えたらタイヨウさんの旅がゴールを迎えてしまうじゃないですか。ボクは新聞記者ですよ?大切な"ネタのなる木"を枯らすようなマネしませんよ」


「私を泳がしてたってこと!?」


「あなたが〈ヤマト〉をウロウロしてくれる限り、色々なネタが舞い込んできますからね。"羅刹ネイリティとのダンスバトル""邪教祖になりかけた話"そして"龍の弟子入り"。おかげさまでいい記事が書けてます」


「あんた……!それは本心なの……?」


タイヨウはヤマセに詰め寄る。

しかし彼はなだめるそぶりも見せず、感謝の言葉を述べつづけた。


「もちろんです。いかなる美辞麗句をもってしても書き表せないほど恩義を感じてます。これからも、よろしくお願いしますね」


いつも通り、穏やかな口調だった。

おかしな態度である。

怒髪天で我を見失いかけていたタイヨウもさすがにその違和感に気づき、


「あの……、お姉さま?ヤマセくんは家族の前だといつもこんな感じなんですか?」


「いや。もっとぐだぐだ言い訳するな。タイヨウと旅してる間に変わっちまったってわけでもなさそうだが。おい主人。ヤマセに何かしたのか?」


キタカゼがナガトを探すも、彼はそこにいなかった。

クモマもレインもいないことから、三人してすでに退出してしまったものと思われる。


「プロデューサー。今の状況理解してる?あなたが私をダマしていたことがバレたのよ?もっとこう、屁理屈ごねて弁明しないの?こんな開き直るなんてらしくない……」


タイヨウはだんだん、目の前の少年がヤマセではない、何か別のもののように思えてきた。


「薬の効果ですよ。おかげで自分に正直になることができました」


「え……?」


「とても気持ちいいですよ。世界が違って見えてきます。本音の世界です。タイヨウさんもどうですか?」


「あなた、薬を……」


「飲みませんか?"こってり"?」


「飲むわけないでしょ!?」


「なぜ?」


「なぜって……そりゃーー」


「プロデューサーのボクが命じてるんですよ?」


「だから従えって?ふざけないで!」


「ふざけてません。命令です。飲んでください」


「ことわる」


「…………。いつもそうですよね。タイヨウさんは。ボクの言うことを聞いてくれない……。プロデューサーだぞ!?アイドルなんだから言うこと聞けよっ!!!!!!!」


ヤマセはタイヨウの胸ぐらをつかみ恫喝した。


「へ、へぇ……。あんた、叫べるんだ……」


タイヨウは平静をよそおい言い返した。


「正直なヤマセP、結構好きかも」


ヤマセは手に持った竹筒をタイヨウの口に押しつけようとした。


「じゃあ、私も正直に言うわ。だれが!あんたの言うことなんて!!聞くもんですかっ!!!」


ヤマセにつかまれ宙ぶらりんとなったタイヨウは、空中で反動をつけてからヤマセの腹を思いっきり蹴り上げると、後方一回転して畳の上に着地した。

ヤマセは腹部を押さえタイヨウをにらみつける。


「アイドルが暴力ふるってんじゃねぇ!そんなんだから人気が出ねぇんだ!」


「はぁ!?不人気なのはプロデュースの仕方が悪いからでしょ!?こんなかわいい見た目を活かせないそっちに問題があるんじゃないの!?」


「中身が悪すぎるんだよ!知ってんだからな!どんな"被り物"着てたってなあ、中身がスクールカーストの底辺!陰キャの非リアだったらアウトなんだよっ!ファンだってろくにできてないのがその証拠だろ!?なんだ三人って!?」


「ファ、ファンは数じゃないから!質が大事だから!」


「グダグダ言い訳して才能ねぇのを認めない……。その曲がった根性をボクが矯正してやるよ」


ヤマセは"竹筒"を取り出し、一口飲んだ。


「いいぞぉ。これ。タイヨウもこれ飲んで正直になろう」


ヤマセが再びタイヨウの口に筒をねじこもうとしたところで、キタカゼは彼の頬を思い切りブン殴った。

宙に浮いた彼はふすまに背中をぶつけズルリと落ちる。


「弟がすまねえことした。タイヨウ。アタシが落とし前つけとくわ」


キタカゼは携えた刀の柄に手をかける。


「ふん。不良娘がかっこつけやがって……。その分弟がわりを喰ってんだからな……。そっちが暴力をふるうならこっちだってやってやる……!」


ヤマセは懐から卵のような玉を取り出すと、キタカゼに投げつけた。

割れた玉からは液体がぶちまけられ、鶏ガラの香ばしいにおいが立ちこめる。


「汚ねぇな。なんだこれ」


「お姉さま……それ……」


すると突然三方向からふすまが開いた。

各ふすまから現れたるは冒険者三人。

赤く目を光らせ、両手を前にかかげ、キタカゼの方に歩み寄る。

長い髭を二本垂らした細身の好々爺がひとり、黒い皮鎧とフルフェイスの兜で全身を固めたやや小柄な人物がひとり、そして虎の見た目をした大男がひとり。


「ケンカか。上等だ」


刀を抜くキタカゼ。


「お姉さま……!待ってください!」


「タイヨウも手ぇ貸せ。一緒にヤマセ叩き起こすぞ」


「ダメです……!手を出したら……!」


「あ?」


「その人たちは……」


「知り合いか?」


「私の……ファンです……」


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