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レイドボス、アイドルになる  作者: こくそ
メインストーリー
22/40

22 仲直り

◆1◆


キタカゼの家で夜を明かしたタイヨウは、お礼として彼女が請け負うクエストを助けることにした。

内容は〈PKK〉《プレイヤーキラー・キル》だ。

キタカゼ、イソラ、タイヨウの三人は早朝から〈イズ〉の森を駆けまわり、依頼主である地元大地人からの証言をもとに突き止めたアジトをつぶしてまわった。


「これであと一件。タイヨウがいるとやっぱ早いわ」


時刻は午後一時。

キタカゼは失神しピクリとも動かなくなったPKプレイヤーの鼻頭を、片足で踏みつけながらタバコをくゆらせていた。


「山奥なのにPKプレイヤーが多いですね……」


タイヨウは、切り株に腰かけ息切らすイソラに〈回復呪文(ヒール)〉をかけてやった。


「シメる奴がいねえからな。クズどもにとっちゃ天国だろうよ、ここは」


本来であればPKプレイヤーの取り締まりは〈Plant hwyaden〉が担当すべきである。

しかし〈イズ〉は〈ウェストランデ〉最果ての街であり、〈イースタル〉との国境の南西に位置している。

こんな絶壁の岩山に囲まれた秘境まで治安維持の余力が回らないのは誰が見ても明らかであった。

要するにここは無法地帯なのだ。

山深いと言っても東西陸路の大動脈たる〈スルガミ街道〉からは二十キロ程度しか離れていないため、〈アキバ〉などからのアクセスも悪くはない。

"流れ者"冒険者にとっては絶好の隠れ家となるわけだ。


(〈イズモ〉と似たようなものか)


タイヨウは思った。

"前科持ち"の冒険者は案外多い。

暴行、殺人、窃盗、強盗etc.

もちろん"ゲームの中"での話である。

しかし〈大災害〉により、現実とゲームが逆転してしまった。

エルダーテイル(ゲーム時代)〉において"前科"を重ねていた冒険者に対する世間の目は当然冷たい。

かくして〈アキバ〉などの中心部で暮らせなくなった者たちは、冒険者共同体の目の届かないエリア、〈シブヤ〉〈イズ〉〈イズモ〉などに退避したのである。

キタカゼもタイヨウも、そのうちのひとりであった。


「今日だけでも三パーティ。こんなにいるんですね……」


「死んでも蘇るからな。キリがねぇ」


キタカゼは足下の武闘家を麓に向かって蹴り落とした。


「腕は鈍ってねぇようだな、タイヨウ」


「ありがとうございます。お姉さまもさすが……」


敬愛するお姉さまから褒められたタイヨウは高揚感に浸った。


「イソラちゃんのおかげです。生まれたときからこんなに強かったんですか?」


「いや、赤ん坊同然だった。レベルも一だったしな」


キタカゼ曰く、七ヶ月かけて八十四までレベルを上げたという。

PKK戦闘も慣れた様子でこなしており、何十もの作戦コードをすべて覚えていた。

自分の身は自分で守らなければならぬ〈セルデシア〉においても、十分安全に暮らせる戦闘能力を有していた。

しかし当の本人は不安な表情のままだった。


「大丈夫?」


タイヨウが聞くと、イソラは唇だけを動かし


「うん」


と返した。

現時点でタイヨウは、イソラの笑顔を一度たりとも見ていない。


(子どもって、もっとこう笑顔で……)


〈星詠み〉の子どもたちが脳裏にちらつく。

昨月のライブのワンシーンだ。


(笑顔……)


「ニヤけてねぇで行くぞ、タイヨウ」


◆2◆


「おいバカタイヨウ、てめぇどこいるんだ?あ?」


「オバンデガス?いつの間にフレンド登録してたの?」


「ベストフレンドが質問してんだろ。さっさと答えろ。てめぇどこに……あぁ〈イズ〉にいるのか……」


「念話越しなのによく分かったじゃない」


「キタカゼ校長による"教育"の音が聞こえるからな。あ、今鼻折った」


「で、何か用?」


「おたくのレインちゃんを預かった。返してほしくば身代金を寄越せ」


「は?」


「六万ゴールドな」


「ちょっと!なんであんたがレインと一緒にいるのよ!?」


「オレは慈悲深いからな。哀れな迷い子を見たら放っておけないタチなのさ」


「レインになにもしてないでしょうね……!」


「お前はレインちゃんにとっての何なんだ?保護者か?主人か?どちらにせよ、失格だな。そんな無責任野郎にとやかく言われる筋合いは無ぇ」


「…………」


「レインちゃんの顔を見せてやりてぇよ。子どもを悲しませるなんて、ゴミ〈アイドル〉がいたもんだねぇ……」


「レインは……子どもじゃないし……」


「だから勝手に苦しめ悲しめってか?名言ですねぇ。何度でも聞きたいなぁ。今度ライブ行くからよ!ステージ上で大声出してそれ、叫んでくれや!ぶひゃひゃひゃ!」


「…………」


「で、タイヨウちゃん。かわいそうなレインちゃんをオレが保護してやってんだから、さっさとお礼金もって校舎裏まで来いや。じゃあな」


念話が切れると、タイヨウの目線の先に"オバンデガスをフレンド登録しますか"の文がポップアップした。

"No"を選択し画面を消すと、さらにその下の画面には無限に連なるイタチからの着信歴が並んでいた。

タイヨウはそのうちのひとつを、震える指先でタップした。


「タイヨウ!!どこにいるんスか!!??」


鼓膜が破れるくらいの怒声だ。


「ごめん。ちょうど今〈アキバ〉に戻るところ」


「はあ!?今の今まで何してたんスか!?」


「え〜。ちょっと道に迷ってて」


「〈帰還呪文〉!!!!」


「使う!使います!」


汗びっしょりでペコペコするタイヨウの姿を目にしたキタカゼは、足下の守護戦士を崖下の海に突き落としてから


「どうした?」


と声をかけた。

先に反応したのはイタチの方であった。


「え、その声」


「あ、えと、もう切るね」


「姐さん!?ちょっとタイヨウ!姐さんと一緒にいるんスか!?」


「あ〜、そうです……」


「いつから!?何で教えてくれなかったんスか!?」


「ごめんちょっと忙しくて」


と言ってタイヨウは念話を切った。


「誰からだ?」


キタカゼはタイヨウに聞いた。


「イタチからです……」


「イタチか!あいつもこっちに来てたんだな。また会いてぇなぁ」


キタカゼは白い歯をのぞかせて言った。

自分と再会した時よりも明らかに強く目を輝かせているように、タイヨウには感じられた。


「そう……ですね。また三人で食事とかしませんか?」


「そうしようぜ。イソラも加えて四人で行こう」


「はい、四人で……」


その後キタカゼ、イソラ、タイヨウの三人はクエスト達成を街の自治組合に伝え報酬を受け取ると、〈帰還呪文〉を唱えて〈アキバ〉へと戻った。


◆3◆


〈アキバ学園〉二階の職員室が、タイヨウとレインとの再会の舞台となった。

夜だというのに、教員たちは黙々と書類にペンを走らせていた。

いずれもタイヨウにとって見知った元〈天衝(てんつく)〉幹部たちだ。

彼らはそろってタイヨウとキタカゼに目線を注いだ。

侵入者を見つけた〈時計仕掛け(クロックワークス)〉のような、殺意のこもった無機質な目だった。

かつてギルドにおいて監査(チクリ)役を務めていたタイヨウへの恨みの目か、あるいは残業させやがって、人員増やせよもっと、クソ校長め……というキタカゼへの目かは分からない。

いずれにせよ厳しい目線だった。

レインは中央あたりのイスの上で、腕を組みして座っていた。


(怒ってるだろうなぁ)


彼女はタイヨウと目を合わせようとしなかった。


「身代金♪」


レインのそばの事務机に座るオバンデガスがタイヨウの方に手を伸ばす。


「レインをかくまってくれたことは本当にありがとう。でもお金は払えない」


「なんて理不尽な奴だ!〈アキバ〉を火の海の危機から救ったこの大英雄様にお礼のひとつもないのか!?」


「何言ってんのよアンタ……。だからありがとうってお礼したじゃない」


「相変わらずの非常識め。誠意は言葉じゃなくて金貨という名言を知らないのか?」


ねばっこい口調で取り立てようとするオバンデガスを見かねたキタカゼが一言


「やめろ」


と言った。


「しかしですね校長。こいつは黙ってこの子を置いてあなたのもとに行ってしまったんですよ。育児放棄。毒親です」


「そうなのか?」


キタカゼがタイヨウに問う。


「何も言わずに分かれたのは事実です。ただレインは私の子じゃなくて、友だちで……育児とかそういう関係では……」


「おいオバンデガス、ダチ同士だってよ。外野が口を出すな」


「し、しかしですね」


「黙れ」


オバンデガスはキタカゼを上目遣いで見たまま黙りこくった。


「本当にバンには感謝してるんだって……。お礼については、労働じゃダメ?二日分働くし」


「ッケ!てめえの力なんかいるかよ」


悪態をついたものの、校長による殺意の目線に気づいた彼女は、


「〈天泣ノ蒼龍(レインドラゴン)〉もつけろ。それで手を打ってやる」


と譲歩した。


「それは……私が決められることじゃないし……」


するとレインは


「我は構わん」


と、そむけた顔のまま言ったため、ひとまずその場は収まった。


「改めてヒドい奴がいたもんだよなぁ。勝手にどっか行っちゃってなぁ」


オバンデガスは周りに訴えかけるように言った。


「ま、まだ追求するの……?ごめんなさい。申し訳なかったって……」


「聞きましたみなさん!?"まだ"ですって!反省してねぇぞこいつ!反省しろ!身代金寄越せ!」


「う……」


「この子がどれだけ悲しんでいたか知らないくせに!タイヨウタイヨウって……まぁうるせぇのなんの……!」


やまぬ追撃をさすがに見かねたのかレインが口を挟む。


「お、おいオバンデガス。我は別に……」


「レインちゃんはなぁ……!まだ子どもなんだ……!ひとりで寝れないくらい……!」


「おいバカ……」


「ついでに夜ひとりでトイレにも行けないんだぞ……!」


「言うなっ!」


「だから昨夜は結局おーー」


「っ!」


レインはオバンデガスに飛びかかり、彼女をイスから突き落とした。


「レイン!?どうしたの急に!?」


タイヨウが仲裁に入り、転んだレインを引き起こすため手を伸ばした。

レインは躊躇しつつもその手をそっとつかんだ。


「ごめんレイン……」


深々と謝罪するタイヨウに対し、レインは裾についたホコリを払いながらぼそっと呟くように


「我は別に怒ってないし……」


と言った。


「でも」


「だからもう、行くぞ。世話になったなオバンデガス。礼はまた我の方でする」


レインはそそくさとタイヨウの手を引き、出て行こうとした。


「あ!ちょっと待ってレイン。まだお姉さまに伝えたいことが……!」


タイヨウは引っ張り返したが、その言葉を受けたレインは信じられないくらい強い力でタイヨウを職員室から引っ張り出した。

キタカゼは小さく手を上げることでタイヨウへの別れのあいさつとした。

ツカツカと、足早に廊下を歩くレインに、タイヨウは


「ちょ、ちょっと!?まだ……お姉さま……」


と言って、引き留めようと試みた。

それでも彼女は止まらない。

ようやく階段手前まで来たところでレインは立ち止まった。


「あいつがキタカゼか?」


レインは階段下の誰もいない踊り場を見つめて言った。


「うん。かっこいいでしょ?」


「好きなのか?」


「もちろん」


「そうだよな。ビビりのタイヨウが飛び降りるくらいだもんな」


「ごめん……」


「いや、謝るのは我の方だ」


「レイン?」


「タイヨウの言うことを聞かなくて、ごめん……」


いつもなら真竜の誇りだとかいって、悠然と構えている彼女の背筋が、今ではひどく前傾していた。


「こんどからちゃんと言うこと聞くから……」


「いいよそんな……」


「ひとりで寝るし……、ラーメンおごるから……、その……だから……」


(あぁ)


タイヨウには彼女の気持ちが痛いほど理解できた。

今、私に何をして欲しいのか、どんな言葉をかけて欲しいのか。

彼女は今、かつてのタイヨウと同じ立場に置かれているのだ。


「どこへも行かないでくれ……」


レインは震える声でそう言って、振り返った。

その刹那タイヨウは、レインを抱きしめた。


「大丈夫だよ」


自分よりも身長が高いはずのレインが、その時ばかりは小さく見えた。

夜の廊下の上、乱れた呼吸のみがタイヨウの耳に入る。


「どこへも行かないから」


約束の裏付けとして、タイヨウはレインが痛がるくらいの力を込めてギュっと抱擁した。

レインの不安の一切が吹き飛ぶように。

彼女の想いに応えられるように。

強く、優しく抱きしめた。

レインは未だ口を開かずにいる。

しかしタイヨウは、彼女の身体から伝わる震えの減り方から、自分の行為が正しいことを知った。


「タイヨウ……」


「大丈夫。私も、大好き」


◆4◆


タイヨウがレインとともに〈アキバ〉で夕食のラーメンをすすっているところで〈アキバ新聞〉から念話があった。


「何かあったのか?」


「ヤマセPが〈イガの隠れ里〉帰ってこないんだって。連絡もとれないみたい」


「我らで迎えに行けってことか?」


「いや、とりあえず〈本社〉に来てだってさ」


〈アキバ新聞〉社屋を訪れたタイヨウたちは、応接室に通された。

〈彗星虎〉の剥製絨毯の上に緋色の革張りソファという、上等な部屋だ。

室内には先客がひとり座っていた。


「お姉さまっ!?」


キタカゼは白い石造りの机に脚を乗せ、タバコをふかしていた。


「よぉ。また会ったな」


彼女はタバコをもみ消し、タイヨウたちに座るよう促した。


「どうして?」


「それは私から説明します」


二人の会話に割って入ったのは"フブキ"と名乗る〈アキバ新聞〉の赤筆だった。

雪豹の見た目をした猫人族の彼は、コーサとヤマセが里へ入ったきり行方不明であるということを改めて伝えた。


「三日も経ったというのに未だ連絡もつかず……何かのトラブルに巻き込まれたものと思われます。そこでヤマセくんと関係の深いお二方にお頼みしたいことがありまして」


「ちょ、ちょっと待ってください……プロデューサーとお姉さまにどういう関係が……」


狼狽えるタイヨウにキタカゼは


「ヤマセはアタシの弟だよ。なんだプロデューサーって?」


「へ?弟?」


「そう。実の弟」


「弟さんいるなんて私知りませんでしたよ!?」


「口止めされてたからな。〈天衝(てんつく)〉GMの肉親だとバレたらゲームしにくいんだと。だから絶対に言うなってな」


「そんな、別人ですよ。お姉さまを探す旅をプロデューサーはずっと手伝ってくれてたんですから」


タイヨウの推測をフブキは否定した。


「同一人物です。ギルド加入する際の履歴書の家族欄にキタカゼ様の名が記されておりますので」


「じゃ、じゃあ別垢で転生したとかで、フレンド関係が切れてて連絡がつかなかったみたいな……」


「ヤマセとならたまに連絡とってたけど」


キタカゼはきっぱり言った。


「嘘……。じゃああの人、最初からお姉さまの居場所を知ってたってこと……?」


「お互いヤマセに用があるみてぇだな。で?行ってこいって?」


「本来は我々のみで対処べき案件ですが、円卓方面が騒がしく人材がさけない状況でして……ヤマセくんの関係者で、かつ対人戦闘が得意なあたな様方にぜひお頼みできないかと」


「対人戦闘ねぇ。キナ臭ぇな。忍者にでも襲われたってか」


「ええ」


「里に乗り込んで助けりゃいいんだな?」


「想像以上にシノビたちは冒険者を恨んでいるようです」


「シノビのことはよく分かんねぇが、任せろ」


「依頼を受けていただけるんですね?報酬についてはご安心ください」


「報酬?いらねぇよ。身内のケツ拭きに行くだけだ。タイヨウ、お前も帰っていいぞ」


ヤマセとキタカゼとの関係性を知らされ呆然としていたタイヨウは、キタカゼの呼びかけに目を覚まし、


「いえ……。私もプロデューサーに真意を確かめたいので、ぜひお供させてください」


と頼み込んだ。

フブキは二人の協力に感謝し、深く頭を垂れた。


「ただ、問題がひとつありまして。〈イガの隠れ里〉に入るには合い言葉が必要なんですが、こちらでは分からなくてですね……タイヨウさんはたしか〈イガのシノビ〉とお知り合いでしたよね?どうにか協力を頼めないかと」


「ヤマセPたちはその〈イガのシノビ(クモリ)〉さんと一緒に行ったんじゃない。無理……いや……」


「何か心当たりが?」


フブキが聞くとタイヨウは一言呟いた。


「クモマくんなら……」


かくしてヤマセたちの救援に向かうこととなったタイヨウとキタカゼ一行は、暗雲たなびく西の夜空へと消えていった。

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