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レイドボス、アイドルになる  作者: こくそ
メインストーリー
13/40

13 斎宮家のTシャツ

◆1◆


タイヨウ、レイン、クモリの三人は〈キョウの都〉随一の繁華街である〈テラマチ・ストリート〉を歩いていた。

苔蒸したコンクリート造の酒屋、武器屋、書店、聖堂などが建ち並ぶ中、彼女たちはそのうち一軒の服屋に入った。

茶色やベージュの衣類が壁に掛かっている。

〈上等な衣装〉

〈旅人の服〉

ポップアップしたステータスを見てタイヨウは


「かわいくない……」


と顔をしかめた。

〈神聖皇国ウェストランデ〉には"安くてかわいい服"など存在しないと彼女は今更になって気づく。

もっと鮮やかな服が店の奥にあるにはあるが、富裕層向けで高額であった。

青いギルドパス(最低級)〉しか持たぬタイヨウには到底手の届く代物ではない。


「クモリさん、これ買って〜」


タイヨウは上目遣いでねだった。


「ダメ」


「ケチ〜!」


「〈ギルドパス〉で他人の会計を決済することは規約違反にあたるからな?」


「し、知ってるわよ……。レインはかわいい服見つけた?」


タイヨウは店内を見まわした。

しかし彼女の姿は無かった。


「?」


不意に試着室のカーテンがシャッと開く。


「どうだタイヨウ!?かっこいいだろ!」


レインが黒いTシャツを着て立っていた。

胸には白文字で〈腹黒もげもげ〉と刷られていた。


挿絵(By みてみん)


「かっこいいじゃないか」


タイヨウよりも先にクモリが反応した。


「クモリも分かるか!我的にはこっちの〈メガネ爆発しろ〉Tシャツと悩んでるんだけど」


「いや、それよりもこっちの方が」


彼女たちの目は輝いていた。


(ナツと同じ目してる……)


タイヨウは自分の(ナツ)と彼女たちとを重ね合わせた。


「あの、Tシャツはいいけどさ、それって多分おみやげ用のジョークグッズでしょ?もっとかわいいのを選ぼうよ。アイドルなんだし」


タイヨウがたしなめる。


「「かわいい……?」」


レインとクモリは顔を見合わせて言った。


「え……"かわいい"……、知らない……?」


「「〈施療神官〉の呪文……?」」


「いや……あんたたちアイドルめざしてるのよね……?」


そこから伝えないといけないのかという絶望感がタイヨウを襲った。

しかし考えてもみると"ドラゴン"と"忍者"である。

かわいいという概念に疎くてもしかたないのかもしれない。

タイヨウは脳にそう言い聞かせた。


「とにかくそのTシャツはダメ。別の店に行きましょ」


タイヨウは店を後にした。

少し遅れて残りの二人も店を出た。

どちらも黒いTシャツを着ていた。


「おい」


しばらく歩くと、人だかりが通りを塞いでいるのが見えた。

ヤジウマめいて当該の地点を覗くとそこも服屋であった。

中はTシャツで充たされており、老若男女が我も我もとシャツを取り合っていた。

Tシャツにはいずれも〈鬼畜メガネ〉〈もげろ〉など漢字が刻まれていた。


「ほらぁ、大人気じゃないか。このシャツの魅力を分かってないのはタイヨウだけみたいだぞ」


レインは着てる服を左右に引っ張ってタイヨウに見せつけた。


「きっと〈典災(ジーニアス)〉のしわざね。私の友だちにこんな悪趣味なTシャツを着せるなんて……ぶちのめしてやる」


「タイヨウ、急にどうした?」


列島各地で騒ぎを起こす未知のエネミー〈典災〉。

攻撃を加えるだけでなく、悪評を広めたり、尺度をねじ曲げたりと、人々の精神を蝕む難敵だ。

今度は罪無き人々のファッションセンスをめちゃくちゃにしようという算段だろうか。

タイヨウは〈敵情視察〉をしようと店内を覗きこむ。

すると奥で話している二人の人物に目がいった。

ヤマセとマルヴェス卿だった。

マルヴェスの方は白塗りの顔に不敵な笑みを浮かべ、札束の勘定をしていた。


「なるほど……。前々からサファギンみたいな顔だなと思ってたけど、言われてみれば確かに〈典災〉みたいな見た目ね。このままじゃプロデューサーまでクソダサTシャツの餌食に……」


タイヨウは人混みをかき分け彼らのもとへと進んだ。


「マルヴェス卿!まさかあなたが典災(・・)だったなんて……!」


「む?貴様……。先月の失礼な小娘か。いかにも。我輩はヤマト随一の天才(・・)である」


「悪即成敗!!」


タイヨウは杖をマルヴェスの方にかかげ「〈ジャッジメントレイ〉!」と叫んだ。

巨大なレーザーを放つ大型光魔法である。


「ギョギョギョ!?」


理外の襲撃にマルヴェスは腰を抜かし、地面に尻餅をつく。

すると両者の間にポップアップが出現した。


-----------------

店内特技使用不可

-----------------


「ああもう!ここは既に敵のフィールド内ってわけね!」


「タイヨウさん?なにしてるんですか?」


ヤマセが怪訝な表情でタイヨウを見た。


「く、くせもの!であえ!こいつをひっ捕らえるのである!」


マルヴェスは足をバタバタさせながら叫んだ。


「失礼いたしました、マルヴェス卿。彼女は弊社所属のアイドルでして、ええと、〈ジャッジメントレイ〉は祝砲の魔法です。マルヴェス卿が天才過ぎて、身体が勝手に動いたのでしょう」


そう言いながらヤマセはクモリに目配せした。

クモリはタイヨウの背後に迫ると、丸薬一粒を口にねじ込んだ。

するとタイヨウは、糸の切れた操り人形のようにパタリとその場に倒れ込んだ。


「卿の威光がまぶし過ぎるあまり、気絶してしまったようです。アイドルを失神させるとは、さすがですね」


「うむ。美し過ぎるのも罪であるな」


マルヴェスは扇を取り出すとパタパタ扇ぎ、高笑いした。


「では商談を再開しましょう」


◆2◆


「こら!勝手にさわるでない!大切な商品である!」


マルヴェスの怒声でタイヨウは目を覚ました。

彼はレインを叱りつけていた。

事務所らしき部屋には木箱がそこかしこで山積みになっており、そのうちひとつの箱のふたが開いていた。

おそらくレインが勝手にふたを開け、Tシャツを物色したのであろう。


「……はっ!典災は!?」


「そんなものここにはいません」


ヤマセが答えた。


「そ、そう……?だって……」


「大事な商談中です。そのままジッとしててください」


そう言ってヤマセはマルヴェスと話し始めた。

専門用語や数字が飛び交う会話だったためタイヨウは聞こうとも思わなかったが、"Tシャツ""スポンサー契約"というワードが頻繁に飛び交ったため、イヤでも何の商談かは理解できた。


「P。ひょっとしてこれを私たちが着る感じ?」


「"これ"とは失敬な!"斎宮様御用達の御衣"ぞ!ひかえぬか!」


マルヴェスは居丈高に言い放った。


「は、ははぁ……」


納得できない気持ちと、平伏する気持ちを、タイヨウはひとつの言葉にのせて吐き出した。

商談が終わると、マルヴェスは店内の混雑状況など関係ないとばかりに、ど真ん中をズカズカと歩いて帰って行った。


「これで大会用の衣装は確保できましたね」


ヤマセが安堵した声で言った。


「え!?私たちTシャツ着て出るの!?」


タイヨウはヤマセの両肩をつかんでグワングワン揺らした。


「違いますよ。特注のアイドル衣装を〈斎宮家〉に作っていただくんです」


「〈執政家〉に頼めばいいじゃん」


「あんなケチくさ……いえ、〈斎宮家〉は今Tシャツの製造・販売を強化中とのことで、先進的な生産設備が整っているらしいんですよ。だから衣装を頼むのに都合がよかったんです」


「なんで〈斎宮家〉がTシャツを売ってるの?」


「以前Tシャツを〈斎宮〉様に渡したじゃないですか。あれをえらく気に入っていただいたようでしてね。高温多湿な〈ウェストランデ〉にぴったりな衣服だということで、国中に普及させたいとお考えのようです」


「〈斎宮〉様にTシャツを?そんなことあったっけ?」


「御所ライブ……いえ、とにかく、衣装を作っていただく代わりに、我々はその〈斎宮家印のTシャツ〉のPRを担当することになりましたのでお願いしますね」


「つまり企業案件ってことね!プロデューサーもたまにはやるじゃない!」


◆3◆


翌朝、タイヨウ、レイン、クモリの三人はタカノ川河川敷を駆けていた。


「レイン、調子はどうだ?」


クモリは涼しい顔して尋ねた。


「ハァ……ハァ……死にそう……ハァ」


レインは汗だくになって答える。


「おまえの調子じゃなくて、店の方」


「そっちは……ハァ……大丈夫……グェ……」


「それはよかった」


「我の心配もしてくれ……ハァ……タイヨウ……ハァ……ゴールは……まだか……ハア」


「もうすぐだからがんばって」


タイヨウが返すと同時に、ヤマセから〈念話〉が入った。

「緊急事態発生。至急〈白砂御所〉まで来て欲しい」とのことであった。


「もうすぐ……って、どのくらい……?」


レインは足をふらつかせながら聞いた。


「えーと……ちょっと延びた。あと五キロがんばろっか」


「死ぬぅ!」


ヤマセとは御所の前で合流した。

一行は案内役に通され、御所の東側、小さな一室へと案内された。

白木造りの和風の御所にまったく調和していない、洋風の内装であった。

赤と金を基調とした柱や絨毯は豪奢というよりもむしろ、悪趣味という印象を受ける。

やはりというべきか、マルヴェスが部屋の主として待ち受けていた。


「遅い!」


彼は皿のように丸い目をギョロっと動かし、ヤマセたちをにらみつけた。

どう見ても〈典災〉にしか見えない見た目に、タイヨウは自然と身構えた。


「申し訳ございません。ウェストランデに英明轟く天才貴族マルヴェス卿とお会いできると思うとつい緊張してしまいまして、ドアを開けるのを躊躇しておりました」


ヤマセが言った。


「ならばよし!いやよくない!ことは一刻を争うのである」


マルヴェスは拳を固め、机に叩きつけた


「何か事件でも?」


「我が輩が敬愛する斎宮様、その配下たる〈星詠み〉たちが全滅したのである!」


「全滅とはぶっそうな。死んだのですか?」


「死んではおらん。が、眠ったまま起きぬのである。これでは死んだも同然」


「"眠り"ですか……。先月発生した〈常蛾(じょうが)〉という〈典災〉の被害と似ていますね……」


ヤマセはつぶやくように言った。


「うわ、やっぱ〈典災〉じゃん。きっと〈ゲボダサTシャツの典災〉が悪さしてるのね。みんなのオシャレ心を乱すなんて……」


「タイヨウさん、仮にゲボダサTシャツを広めて世情を乱そうとする〈典災〉がいたとしても、斎宮家の〈星詠み〉を眠らせることはありえません」


「そうなの?」


「Tシャツに文字が刻まれていたでしょう?あれは〈星詠み〉の託宣文です」


「あー、あの訳の分からない文章ね」


「その文がありがたいということで今の人気があるわけで、彼らを眠らせるメリットは一切ありません」


「そうなのである!このままでは新作が作れぬ!夏に向けてじゃんじゃん売り出そうという時期だというに……」


マルヴェスは赤い絨毯を何度も乱暴に踏みつけた。


「それをボクたちが解決したらいいんですね」


「話が早いではないか」


「〈斎宮家〉の危機ですから」


ヤマセにそんな正義の感情があるのか、タイヨウは疑問に思いつつ


「で、その〈星詠み〉さんたちはどこに?どんな様子か見たいんだけど」


と聞いた。


「全員〈イセの聖宮〉におる。言っておくが、貴様らをかの地に入れるわけにはいかんからな」


〈イセの聖宮〉は都から南東に五十キロほど離れた地にある巨大な神殿だ。

斎宮家の本拠地ともいうべき場所であり、ヤマトの中でも極めて神聖な場所として見なされている。

特に〈大災害〉以降は〈Plant hwyaden〉との緊張関係から、冒険者不可侵の聖域としての姿勢を貫いている、とヤマセは解説した。


「現場検証もできないのでは困りましたねえ」


ヤマセが言う。


「これは〈星詠み〉に関する事件である。ならば同じ〈星詠み〉に聞けば手がかりはつかめよう」


マルヴェスはクモリを指さした。


「かしこまりました。〈星詠み(おとうと)〉に聞いてみましょう」


クモリは返事した。


◆4◆


同日夜。

マルヴェスを除く一行はクモマをタカノ川河川敷に呼び寄せた。

クモリに手を引かれ連れられたてきた彼は、無言のまま、ぺこりと一礼した。

〈イノセント・トーチ〉に照らされた彼の顔は青白く、うつろな目を浮かべていた。


「クモマくん大丈夫……?」


タイヨウが心配の言葉をかけると「大丈夫です」とだけ答え、かわいた笑いを散らした。


「なんか……こんなところまで呼び寄せちゃってごめん……」


「いや、仕事だからな……さっさと終わらせて寝よう、な?」


クモリはそう言って、クモマの背中をやさしく叩いた。

彼は小さくうなずいた。

そのけなげな顔は、クモリの心臓をキュッとねじった。

クモマは天を仰ぎ見る。

特にポーズなどとっているわけではないが、何かしらの特技を発動していることはタイヨウの目にも理解できた。

その証拠として彼のステータス画面に表示されたMPゲージがモリモリと減っていく。

静寂が一分ほど続いた。

MPゲージはすでに一割も残っていなかった。

タイヨウがこらえきれず止めに入ろうとしたその瞬間、クモマの口が動いた。


「夢……鼠……城……」


三つの言葉を発すると、彼は砂利の上に倒れ込んだ。


「おい!クモマ!」


クモリは急ぎ駆け寄り、彼の状態を確かめる。

メガネ越しにステータス画面を見ると、彼のMPは枯渇していた。


「大丈夫か!?」


HPは全快であったが、何度ゆすっても起きなかった。

呼吸はかすかにしているため、眠っているのだろう。

昼に聞いた斎宮家の〈星詠み〉と同じ状態であった。

ふいにヤマセが近づいて、クモマに手をかざした。


「〈マナチャネリング〉」


半径十メートル以内の対象のMPを一つに集約し、均等に配分する魔法だ。

クモマのMPがみるみるうちに上昇し、全快となった。

が、彼のMPは再び下降しゼロゲージに戻った。


「これは……おかしいですね……」


タイヨウも取得している限りの回復魔法をかけたが、効果はなかった。

その後も覚醒の策を考えたが、すべて徒労に終わった。


「彼が最後に言い残した言葉は"夢""鼠""城"……これだけが手がかりというわけですか……」


「鼠型のモンスターがいる城なんてヤマトに腐るほどあるぞ……!しらみつぶしに探すしかないのか!?」


クモリは取り乱した様子でうめいた。


「いや、"夢"に"鼠"……。あそこじゃないの?」


「タイヨウ!こころあたりがあるのか!?」


「"夢"と"鼠"でしょ?〈灰姫城キャッスル・オブ・シンデレラ〉じゃない?」


〈灰姫城〉は〈自由都市同盟イースタル〉の盟主セルジアッド=コーウェン公爵の居城である。

〈アキバ〉からほど近い〈マイハマ〉にそそり立つ白亜の城であり、○ンデ○ラ城とうり二つの外見をしている。


するとヤマセは


「なるほど、妥当かもしれませんね。しかし〈セルデシア〉だとどうでしょう。あそこに○ッキーはいませんし」


と疑問を呈した。

〈灰姫城〉がデ○ズニー○ンドをモチーフとしているのは確かだが、さすがに大人の事情で"それらしい"モンスターは城内にはいないとされている。


「いや、その○ッキーとやらが何者か知らないが、可能性はある……あの城の地下には鼠型のモンスターが生息していたはず……」


「へぇ、それは知りませんでした。さすがに詳しいですね、クモリさん」


トゲのあるヤマセの言い方に、クモリは不快感を示しそっぽを向いた。


「しかし〈灰姫城〉は先月の"イセルス暗殺未遂事件"のこともあって警備も厳重ですからね。あきらめて別の線を探すべきじゃないですか?」


「いや……。賭ける価値はある……」


クモリが言う。


「城のある〈マイハマ〉は〈イースタル〉のど真ん中ですから、行くにしても一週間以上かかりますよ?」


〈キョウの都〉から〈マイハマ〉までは直線距離にして二百キロ近く。

途中の海域ではモンスターや海賊なども出現し、移動には危険性が伴った。


「海路ならそのくらいだろうな。しかし、空路はどうだ?」


クモリはレインの方向に振り向く。


「我の出番というわけか」


レインが言った。


「頼めるか?」


「Tシャツの新作が出ないのは困るからな」


レインは鼻をならして答えた。


「というわけでちょっと〈灰姫城〉に潜入してくる。悪いがクモマを頼んだ」


「ボクらも手伝いましょうか?」


「冒険者がいても足手まといになるだけだ。私とレインだけで行かせてもらう」


クモリは言い終えると、レインとともに東へと向かっていった。

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