第2話 "村人R" は " 空腹 " になった
コケッコー
下手くそなニワトリの甲高い鳴き声の中、酷い頭痛と共にレオンは目を覚ます。昨日の記憶がはっきりとしない。
「いてて、夢か?」
しかし、確かに『熟練者(以下略)』は壊れており、みるも無惨な姿になっている。
「やっぱ壊れてる…ちくしょう誰がこんなことを…」
レオンは文句を言いながら、思い出す。
「そういえば、リンさんの誕生日会に誘われていたんだ、やべー間に合うかこれ…」
オヤジさん達の家は農場の隣でこの村で一番大きく、丘の上にある。対して、レオンの家は村の端の森の近くにある。
ここから農場まで普段なら1時間かけて、馬車の定期便に乗って行くくらいの距離だ。しかし、もう下手くそなニワトリが鳴くような時間だ。馬車はないだろう。
ニワトリってのは偉い順に鳴くものだから下手くそな鳴き声が聞こえるってことは下っ端まで順番が回るくらい時間が経ってるということがレオンには分かっていたのだ。
「走るしかねぇか…」
レオンはクラウチングスタートの構えを取り、足元に風を作り始める。
「疾風怒濤」
大層な名前と裏腹に走る速度を補助する程度の追い風レベルの力しか出ない補助スキルである、はずだった。
「おいおいおいおいー」
一瞬で自分の家が小さくなっていく。とんでもない速さで加速し続けるレオンの足、まるで駿馬になったかのように道を駆け抜ける。
「疾風怒濤、かいじょ!解除だってば!」
解除したはずなのに止まらない加速。
「はぁ、はぁ…」
幸か不幸か、馬車で来る時より早く来れたかのように感じる。それなのに、体にそこまでの疲れはない。
ただ…腹が空いた。
朝メシを食っていないとかそういう次元ではなく、今にでも何か口にしないとおかしくなってしまいそうなほど腹が減っている。
「あ!レオンさん」
丘の上から綺麗な衣装に身を包んだリンさんが降りてきた。
(か、可愛い…)
「お、おはようございます。リンさん」
「えへへ、どうですかこの服、可愛いでしょう。」
「は、はい」
レオンは顔を真っ赤にしながら言う。
⦅美味そう匂いがするな⦆
頭のなかで籠ったような声が響く。
「はい!とっても美味しそうです!ってあれ…」
「え、美味しそう?」
「いやいや、とっても美味しそうな匂いがするなぁって…」
「あ、そうですか?お父さんが張り切って作ってますからね。今日は私が捕まえたボアも出るんですよ。」
リンは自信満々に言う。
「あはは、それはすごいですね…」
(なんだったんだ今のは…俺の頭の中から聞こえたような…)
「そろそろ行きましょう。」
「あっ、はい」
レオンはそんなことを考えながら家の中へ入っていく。家の中は村の人々でいっぱいだった。
「おう、レオン!遅かったじゃねーか!」
調理場が小さく見えてしまうほど大きな体のオヤジさんがひょっこり顔を出した。
「お邪魔します」
「ささっ、早く座っちゃってください。」
リンさんに促されるままにレオンは椅子に座る。
すると次々に料理が運ばれてくる。見た目はすごくファンシーで可愛らしく、ガサツなオヤジさんが作ったとは思えないものだらけだった。
「オヤジさん、こんなの作れるんですね」
「こんなのとはなんだ!そもそも飾り付けはリ…ンガッ」
ものすごい勢いでリンさんがオヤジさんの口を塞ぐ
「早く食べましょ!ね!」
オヤジさんの顔がどんどん青くなっていく。
早く答えないと、平和な村で凄惨な事件が起きてしまう。
「は、はい」
レオンは急ぎばやに答えた。
『『リンさん、お誕生日おめでとう!!』』
その合図と共に乾杯の合図が始まる。今年は例年より早くエール麦が回収出来たので、大人達が昨日から一生懸命エールを作っていたようだ。搾りたてのエールが机一列に並べられている。
レオンはそんなことに目を向けず、目の前のご馳走を貪るように食っていた。
⦅美味い、美味い、特にこのウサギ顔が描かれたシチュー、なかなか良いボア使ってんなぁ⦆
頭の中でまた、籠った声が聞こえる。
「レオンさん、美味しいですか?」
「はい!特にこのシチューが…」
レオンが下を見ると、もう食事は無くなっていた。
「はっはっは、レオンなかなか良い食いっぷりじゃねーか!」
オヤジさんが笑いながら、おかわりをくれる。
「そんなに焦らなくてもまだまだありますよ。」
リンさんだけでなく、村のみんながクスクスと笑っている。レオンは恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
揺れる馬車の中でレオンは反省していた。
「絶対食いすぎた」
あの後、追加で6皿も食べてしまった。自分は確かに育ち盛りであるとは思うが、ここまで食べれるほどではない。昨日の夜から不思議なことばかり起こることを疑問に思いながら、レオンは帰路に着く。
「ただいま〜」
家の扉を開けて、現実に引き戻される。頑張って貯金して買った防具が潰れたまま地面に転がっていた。
「はぁ、どうすっかなぁ…修理できんのかなぁ、いくらすんのかなぁ」
レオンは頭を抱える。
「クヨクヨしたってしょうがねぇか、明日からも働くぞー!」
そう思った時、また頭に声が響く。
⦅ドア開けんなよ⦆
「え?」
ドンドンドン
次の瞬間、扉を叩く音が聞こえる。レオンは警戒しながらも扉をあける。しかし、誰もいない。
「なんだよ、ただの風かよ」
そう言って閉じようとすると壁に矢が突き刺さる。
(矢…?なんで…)
そう思った次の瞬間、レオンの目の前に矢尻が飛んできていた。
あと1秒もすれば、自分に突き刺さるだろう。
レオンは 目の前が 真っ暗になった。




