03-39 クズハ VS 一翔
「もう1匹いたのね……!」
クズハは切先を地面に立てて立ち上がる。
「もう1匹って、僕の存在も、僕の名前も知っているはずだ」
無表情で話す一翔が、クズハの目には冷ややかな表情に映る。
「もしかして……」
クズハは動転していると、一翔は冷静さを保ったまま
「そうだ、琉根一翔だ。小屋の中にある日記を読ませてもらった」
と淡々と言った。
「400年前に失踪し、命を落とした後もこの世に未練を残し、地縛霊としてここにいる。100年に一度の周期でこの無人島に現れる、君と同じ日本人女子で光属性の学生を標的に、連れ去るなり呼び寄せるなりして魂を吸収した。自分が強くなりたいがために!」
一翔は声を張り上げた。
ふっと魔女は唇の右端を吊り上げて嗤った。
「そうさ。お前の言う通りさ。3人の学生を吸収した小娘のお陰で、魔力も精神力も集中力も大幅に上がったのさぁ!」
クズハは両手を広げて強くなったことを静かにアピールする。
一翔は魔女の袖口の色を確認する。ペンキで雑に塗られた山吹色をしている。黄階級かと思ったが、3冊の日記には昇級したことは記されていなかった。
仮に昇級していたとしたら、強くなりたいことに執着心を抱いているクズハなら日記に残すはずだ。
怪しい、と一翔は目を細める。
「そこまで誇張するなら、僕が相手になる」
「威勢が良いのはあの2人と同じね」
クズハは馬鹿にしたように雅稀と利哉を一瞥する。
「そこにいる2人は日記の中身を知らないけど、僕は知っている。つまり、フォーリン=クズハに変貌する100年前からの君を把握している僕と相手をするっていう意味だ」
一翔は剣を握り、少し後ろから構える。
「ははっ、たかが日記を読んだだけであたしの全てを知ったと思ってるっての!?」
クズハは眉を吊り上げ、一翔を威嚇する。
「時間はない。足早に決着をつけるぞ」
一翔の剣身に黒紫色の暗雲が立ち込める。
「そう簡単につけられるかしら」
クズハは抗精で一翔の攻撃を弾く。
無表情を保つ一翔は相手の動きに集中しながら、狙いを定めた箇所に剣を振る。
魔女は彼の攻撃を力任せに弾き、一翔の胸部を斬り裂かんと剣を振り回す。
(相手が防御する時、腕力に頼ってるのか力強い)
一翔はクズハの精をしっかり受け止め、後方へバク宙して距離を取る。
「これはどうだ」
静かな声と共に、一翔の切先から青紫色の球が連射される。
「こんなの効かないわよ!」
クズハはひらりと球・闇をかわし、一翔との距離を詰める。
それはどうかな、とクズハの実力を試しているかのように、一翔は真っ直ぐ左手を差し出す。
「そりゃ回避してたら効かないだろうな」
彼の手のひらから透明感のある紫色のさざ波が投じられた。
そのさざ波がクズハの体に触れると、魔女の体は硬直し、小刻みに震える。
「なっ、なんなの!?」
「僕の陽・闇が当たったようだな。相手の動きを見ながら戦っているのか?」
一翔は鋭い目つきでクズハを睨みつける。
「戦ってるわよ! 精神を集中させた状態で戦ってるんだから!!」
クズハは全身を震わせながら切先を一翔に振りかざす。彼女の目つきから光線が発せられそうに感じ、端で休んでいる雅稀と利哉は身震いする。
しかし、一翔は落ち着いている。硬直した状態で攻撃魔術を放ったとしても狙いを外すと思っているからだ。
「精神を集中させている――その割にはパフォーマンスが落ちているんじゃないか?」
それより、と一翔は陽を放つのを止め、クズハへ足音を立てずに近寄る。
「黄階級なら『精神を集中させた状態』を正式名称で言いなよ」
一翔は刃に黒瑠璃色の光を灯し、容赦なくクズハの右腕を剣で叩きつける。
「ひゃあーーーーっ!」
クズハは悲鳴を上げた後、目に角を立てて歯ぎしりする。
「このあたしをどこまで馬鹿にするつもり!?」
一翔の攻撃魔術から解放されたクズハは剣身にレモン色の光を輝かせ、前方へ振り下ろす。
「僕は君の階級を疑っているだけだ」
一翔は抗奥拉でクズハの斬撃を防御する。
「おい、階級を疑ってるってことは、奴は黄階級じゃないってこと?」
雅稀は利哉に質問する。
「あの言い方だとその解釈になるけど……」
わからないと利哉は視線を落として首を左右に振る。
(もし、あいつが階級を偽っていたら、あんなに手こずっていたのが馬鹿みたいだな……)
雅稀はため息をつき、一翔とクズハの決戦を見守った。
「あんたなんかに階級を疑われる筋合いはないっ!!」
魔女は魔力を刃に集中させ、一翔の剣を押し出そうと力を振り絞る。
それに伴い、クズハの全身をまとう黄色のオーラは光度を増す。
一翔は一瞬目を閉じ、心臓に精神を集中させる。
彼が開眼した時には、紫色のオーラが一翔を包んでいた。
「それーっ!!」
心眼専心した一翔は吠えると、クズハの奥拉・光に対抗すべく刃に魔力を注ぐ。
クズハも負けまいと剣を前方に押し出そうとするが、かえって押されている感覚を覚え、冷や汗が頬を伝う。
魔女が焦りを感じていることを察し、一翔は体を回転させてクズハの肋骨に奥拉で斬りつける。
そこから間髪を容れずに刃から赤紫色の霞を漂わせ、彼は剣をX字に振る。
クズハは引きつった表情で一翔の精を防御しようとするが、彼のスピードについて行けず、胸部や顔面に切り傷を負っては少量の血が流れる。
「精神を集中させた状態であるにもかかわらず、動きが鈍っている。もう限界なんだろ?」
一翔は心眼専心の状態を解き、肋骨を押さえているクズハを見下ろす。
「あんたと違って、あたしは子の刻から戦ってんのよ! 途中参戦した貴様とは訳が違う!」
「僕が日記を調べていた間に2人が必死の想いで戦ってくれた。だから、彼らには感謝してるし、一方で君は弱点が出て来始めている」
「じゃ……弱点だって!? 随分笑わせてくれることを言ってくれるじゃない」
クズハは患部から手を離し、再び剣を構える。
「笑わせる……」一翔はにやりと口角を上げ、「それはこっちのセリフだ!」と剣身に鉄紺色の霞を出現させる。
「ふっ、あたしの得意技で対抗するだなんて」
馬鹿ね!! とクズハはピクリと片眉を吊り上げ、黄色の光が剣身を包む。
2人の剣戟の響きが戦場の中央から発せられる。そこから緊張した空気が流れ、戦いを見守っている雅稀と利哉にも緊張感を与える。
(今は僕が攻めに入っているから、クズハは防御態勢だ。もし、黄階級でなかったら、僕の精が直撃することになる)
一翔は戦闘に専念しながらも脳裏で考えを巡らせる。
クズハは手に汗を握りながら一翔の剣を弾こうと上腕に力を込めるが、びくともしない。
クズハが力尽くで剣を押し返そうとしているのは、一翔の刃から伝わっているが、それに負けじと精・闇で攻め続ける。
しばらく拮抗していると、一翔の剣身を包む霞が3倍の大きさに膨張し、精の攻撃力が上昇した。
(何……?)
クズハは顔面蒼白になったが、一翔は脇目を振らずに剣を振り下ろした。
魔女は精・闇を防御することに失敗し、額から顎まで一直線に切り傷を負い、後じさる。




