03-38 蒼の守護
「はぁ……はぁ……」
雅稀は肩で呼吸をしながら向こうへ立っている魔女を睨みつける。
(ちくしょう、どうやったら勝てるんだ……)
利哉は汗に濡れた手で剣を握りしめる。
雅稀と利哉は精神を集中させた状態――心眼専心の状態で戦えたのは僅か5分だった。それに対し、フォーリン=クズハは今もなおその状態で戦い続けている。
3人とも戦闘で切り傷や破れた服装が目立っているが、優勢なのは無論クズハだ。
「精神力と集中力がなくなり、体力も消耗しきってしまったお前たちに勝ち目はないっ!」
魔女は剣を振り上げ、雅稀らを狙って駆け出す。
その剣は山吹色の光を放ち、深夜の戦場に明かりを灯す。
雅稀は奥歯を噛みしめ、剣身に水を張る。
利哉は心眼専心の反動で腕が痙攣し、身構えられずに呆然と立ち尽くしている。
「おい、利哉! 斬られるぞ!」
雅稀は声を上げ、彼を一目見やる。
「わかってる! けどちょっと待ってくれ……」
利哉は小刻みに震える腕を左手で押さえる。
雅稀とクズハの剣が広場の中央で交差した。
額から汗がこめかみを伝い、力んだ目つきをする雅稀。余裕の笑みを見せるクズハ。
雅稀は何とか戦えているが、利哉と同じく限界を迎えている。肋骨が折れたような痛みを感じながらも、ヒカルを助け、無人島に伝わる逸話を終わらせるために我慢している。
「そんな面をしてあたしに勝とうと思ってんの!?」
不気味に嗤うクズハは彼を見下ろし、力任せに剣を振り回しながら前進する。
雅稀は一歩ずつ下がりながら抗精で防御する。
「遅い」
クズハは突如真面目な表情に変わり、切先を雅稀に向ける。
そこから激しく光る稲妻が剣身を覆う。
雅稀は反射的に顔面を守るように剣を横に向けたが、僅かに遅れてしまった。
「これで、貴様らもろとも串刺しにしてやるわ!!」
クズハは紫紺の双眸を見開き、真っ直ぐ剣を突き出した。
(しまった……動作が遅れてしまった――)
雅稀は真っ青になり、一瞬呼吸が止まった。
その時だった。雅稀が身につけているペンダントトップのパライバトルマリンがネオンブルーの光を放った。
「――!?」
雅稀は柔らかい光に包まれ、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする利哉もその光に覆われ、2人の視界は神々しく輝く蒼色に変化した。その世界は気持ちが良く、温かい。
ネオンブルーの光はクズハの目にも直撃したが、彼らを串刺しにすることに専念していた。
「死ねぇっ!!」
クズハは切先で彼らを覆っているネオンブルーの光の球体を突き破ろうしたが、強靱なそれは剣を弾じき飛ばした。
「!?」
驚きのあまり、3人とも言葉が口から出なかった。
刹那、クズハの背中に鋭い刃が斜めに入り、痺れと激痛が全身に走る。
「いやーーーーっ!」
クズハは痛みに耐えられずに叫び、地面に倒れ伏した。
雅稀と利哉はパライバトルマリンの蒼い光に包まれたまま、尻もちをついた。
神々しい光が収まると、クズハの後ろに剣を握った一翔が立っていた。
「今のは……」
雅稀は利哉に目を合わせるが、彼は突然の出来事に目を丸くしたまま返答しない。
「万が一の時に守ってくれるって――このことだったんだ――」
雅稀はパライバトルマリンを取り出し、それを優しく握った。
「俺らは危うく殺されるところだった。きっと、パライバトルマリンが光で体を守り、そして一翔を呼んでくれたんだ」
雅稀は立ち上がり、ひとまず「ありがとう」と一翔にお礼を伝えた。
一翔は首を左右に振り、
「僕はトスカらと別れてこっちに来た。クズハが遠く離れた僕の存在に気づいていないと思って、奥拉で背中を攻撃しただけだよ」
とどこか安心した表情を見せた。
「それが偶然にしてはできすぎているように思うけど……一翔がいてくれて助かった」
雅稀は蒼い宝石を握りしめたまま、視線を少し落とす。
「僕がいない間、戦ってくれてありがとう。ヒカルのことも、過去の失踪事件のことも、もう大丈夫だよ」
一翔は雅稀に歩み寄る。
「あの子は……宿舎に帰って行ったんだな……」
座り込んでいる利哉は顔を上げて尋ねると、一翔は首を縦に振った。
魔女が地面に転がった剣を拾い、立ち上がろうと体を動かす。
「2人は休んでて。ここからは僕が戦う」
魔女の動きを察した一翔は友人に下がってと合図すると、彼らは足を引きずらせながら木陰へ移動した。




