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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-37 2日間の出来事

 そして、遂に今年、フェリウル歴8880年1月12日に到達した。


「あぁ、やっと3日前に辿り着いた」

 一翔は疲れ切った表情で呆然とグリア=リーツで時刻を確認する。既に2時を過ぎている。


「1月12日と言えば……ゼロワン大会をした日だよな?」

 ルシフェルがアルファードに目線を合わせると、うんと短く返答した。


「ようやく、ヒカルをどのようにして連れ去ったのかがわかる時が来た」

 一翔は真剣な顔持ちで、3日前の日記を音読した。


「亥の刻、宿舎前を訪れたが、誰もいなかった。もう眠っているのだろうかと思い、学生用の宿舎の4階の窓を覗くと、力武ヒカルという名の日本人女子がいた。あたしと同じ光属性だ。そういう人と100年ぶりに出会えた。皆が寝静まっている中、音を立てないように窓を開け、あの小娘を抱えて連れ去った」


 途中まで日記の中身を聞いたルシフェルは怪訝そうに目を細め、

「一昨日、マサキが寝る前に、窓越から黒い物体が見えたって言ってたぞ」

 と親指と人差し指で顎を添える。


「本当!?」

 一翔はすかさずルシフェルへ目を向けると、彼は深く頷いた。


「でもよ、魔女は死んでて見えないはずだろ? どうなってんだ?」

 アルファードは片眉をひそめる。


「ちょっと待って。続きがある」

 一翔は両手で彼を落ち着かせるようなジェスチャーをした。


 アルファードは一瞬首をひねったが、一翔の話を聞く体勢に戻した。

 一翔は再度日記を読み上げる。


「今までと違うのは、あたしは肉体がある。だから、魔術を使っておびき寄せなくとも、直接連れ去ってしまえば我が物にできる。この無人島へ集う者の反応が楽しみでしょうがないわ」


「おれたちの反応が楽しみって、ふざけんな!!」

 アルファードは色をなして声を上げた。


 それに驚いたリサとサラが目を覚まし、「何事?」とアルファードとルシフェルの間に近寄った。


「魔女の日記に、ヒカルが連れ去った時のことが書かれてたんだ」

 アルファードの代わりに一翔が回答した。


「聞けば聞き腹で、怒りが込み上げてくる……」

 トスカは力んだ目つきで日記を凝視する。怒りを抑え込むのに精一杯であることが、彼の刃の如く鋭い眼光が語っている。


「どういう訳か、死んでいるはずの魔女が肉体を持っていて、宿舎の4階の窓から物音を立てずに侵入し、ヒカルを連れ去ったって」

「「えぇーっ!?」」

 一翔の話に、リサとサラは腰を抜かす。


「しかも、肉体を取り戻した経緯についてどこにも書かれていない。100年以内の出来事だと思うけど、わからない――」

 一翔は腕組みし、肺に溜まった空気を出し切るように長めの吐息を漏らす。


「で、その次のページを見れば、昨晩のことが書かれている。僕と雅稀と利哉の名前がはっきりと書かれてる」

 一翔は複雑な心境で日記をめくった。


 友人の名前を聞いたアルファードとルシフェルの表情は凍りついた。

 彼らはヒカルを取り戻すためにクズハと戦い、今日も戦っている。どのような戦いだったのかが気になるが、知りたくない気持ちも入り交じっている。


 昨晩――フェリウル歴8880年1月14日の日記が、現時点で書かれた最後の日記だった。



 力武ヒカルを連れ去ってから一日。誰かの足音で静寂なはずの夜の森が耳障りだった。

 誰かと思ったら、日本人男子が二人、南の方角へ走っていた。


 今年は日本人が力武以外に三人いる。

 一人が伯林青(べれんす)の髪色を持つ新條雅稀。二人目は紅に染まった髪色の榛名利哉。もう一人は髪の毛の先端が紫色をしている琉根一翔だが、彼の姿は無かった。


 邪魔だ、と思って猛烈な速さを誇る光の筋を放った。

 驚いたことに、榛名はその技に気づき、新條を庇うように地面に倒れた。


 その時から、夜明けまで戦いが始まった。

 特に新條は今まで戦った魔法戦士の中で一番強かった。それを率直に言ったら、あいつから「しょうもない」と呆れられた。


 さらに、あたしのことをゾンビだの何だの、癇に障ることばかりぬかしていた。


 怒りに満ちたあたしは、精神を集中させた状態で、後半は戦った。

 途中で戦闘不能になったはずの榛名が参戦し、あたしも新條も榛名も傷だらけの状態になり、決着は着かないまま卯の刻が訪れた。


 あたしは木陰で横たわっていた力武を抱えて、こう言い残してやった。


「この小娘を連れて帰りたくば、今日の子の刻にここにリベンジしにおいて。今度こそ、小娘とあたしの逆鱗に幾度と触れさせたお前たちを亡き者にしてやる」


 今宵も、彼らはあたしの前に現れる。

 今度こそ、痛い目に遭わせてやる。



「精神を集中させた状態で戦うってどういう状態?」

 ルシフェルは雅稀と魔女が戦闘していた時のシーンを思い浮かべようと尋ねる。


「心臓に精神を集中させることで力がみなぎり、自身の最高のパフォーマンスで素早く、力強く行動できるんだ。その状態を『心眼専心』と言う。GFP学院のカリキュラム上は2年の前期に登場する」

「心眼専心……おれもその状態になれるけど、それが正式名称だったんだ」

 トスカの解説を聞き、アルファードは納得したように首を若干上下に動かす。


「ただ、その状態で戦う弱点として、精神力はもちろん、集中力の消費が激しい。それに伴って体力も削られる。心眼専心した状態が持続する時間は、その人の精神力と集中力による」

 それだけではない、と言わんばかりにトスカは神妙な眼差しを一翔らに向ける。

「心眼専心の状態が維持できなくなった時、大きな反動が来る。だから、ここぞという時以外に使う魔法戦士は少ない」


「じ……じゃあ、マサキはその状態で魔女と戦ってたのか!?」

 ルシフェルは目を見開く。彼がその状態で戦い、その反動で苦しんでいたならば、昨日の実習の集合時間に間に合わなかったことが理解できる。


「これを読む限りはそういう解釈になる。今も雅稀と利哉はヒカルを取り戻すべく、魔女と戦っている。もし、心眼専心した状態で戦っているならば、2人が危ない!」

 一翔は拳を握りしめる。フォーリン=クズハがどのような心境で学生をさらい、そして昨晩の戦いについて調べきった。早く戦闘に参戦しなければ!


「一翔、もしや戦う気でいるのか?」

 トスカは止めようとする。


「もちろん。昨日から、僕がここで調べ物をしていた時からずっと戦っているんだ。2人を置いて帰ることはできない」

 一翔は決意の固まった、鋭い眼差しでトスカを見つめる。


「みんな、僕の調べ物やヒカルの捜索を手伝ってくれてありがとう。魔女がいつここに戻って来るかはわからない。みんなはヒカルを連れて宿舎へ帰って欲しい」

 彼はその表情のまま、トスカとルシフェル、アルファード、そしてリサとサラに伝えた。


 しばらく沈黙の空気が淀んだが、トスカは両手を叩くと、注目の視線が集まった。


「ヒカルはここで見つかったことだし、先生方にバレないように帰ろうぜ!」

 トスカは笑うと、ルシフェルもアルファードも「そうだな」とケラケラ笑った。


「帰るのは良いけど、ヒカルをどうやって……」

 リサはヒカルの肩を叩くが、案の定彼女は反応しない。


「そんなのは、魔術でどうにかなるのさ」

 トスカは人差し指を動かすと、担架が現れ、同時に暖炉が消滅した。


 小屋に暗闇が再び訪れた中、協力しながらヒカルを担架に乗せた。


「ここから宿舎へ帰れる?」

 小屋から外へ出た一翔はトスカに訊く。


「大丈夫さ。これがあるから」

 トスカは左手首に巻いている銀色のグリア=リーツを見せる。


「さすが!」

 一翔は親指をグッと突き出す。


「何だよ、すげーの持ってんじゃん!」

 アルファードの興奮した声が暗闇の迷宮にこだまする。


「グリア=リーツって言うんだ。歩きながら教えるよ」

 トスカは微笑むと、アルファードは目を輝かせた。


「カズトはこれからマサキらと合流するんだろ。気をつけて、必ず戻って来いよ!」

 ルシフェルは一翔の肩に手を載せる。


「ああ。必ず」

 一翔は真剣な表情でルシフェルの顔を焼きつけた。


 リサとサラは2人横に並んで一翔の前に立った。


「ヒカルを見つけてくれてありがとう」とサラは感謝の気持ちが込み上げ、思わず目の下に手を当て、「ヒカルを連れ去った張本人をやっつけてね!」とリサは胸の前で握り拳を構える。


 一翔は大きく首を縦に振って応えた。

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