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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-36 記憶を消す能力を身につけた魔女

『日記其の弐』を読み始めてから、フェリウル歴8680年に辿り着いた。


 この頃、男子4人は小屋の中央に円陣を囲むように床に座っているが、暖炉の近くに座り込んでいる双子の女子学生は、意識を失っているヒカルと肩を寄せ合ってこんこんと眠りについている。


「さて、200年前にいなくなったA・Hのことが書かれてるはずだ」

 一翔は真剣な表情で、その年の日記を丁寧に読み進めた。


 日本人女子で光属性という組み合わせが100年ぶりに登場した。100年の間、その組み合わせが登場しなかったかを振り返ると、確かになかったと一翔は確信した。


 宿舎前に2人の学生が登場したのは、300年前の日記と同じだが、あの場にいた人物は男子学生の加藤頼柾と、ターゲットの人物と思われる広﨑(ひろさき)亞李栖(ありす)だった。

 A・Hは広﨑亞李栖のことだとわかったと共に、『マレソムディア島の逸話』で彼女と一緒にいた男子学生が加藤頼柾だったことが一致している。


 どのようにして彼女を呼び寄せたのか、魂を吸収させたのかは真田梨保をさらったときと全く同じだった。


 広﨑亞李栖の魂がフォーリン=クズハの中に入った後も、クズハは「強くなった」と感激の意を漏らしていたのも、あの時と一緒だった。


 その日の日記に書かれていた内容はここまでだったが、一翔が気に留めているのは、この時から『マレソムディア島の逸話』の表現方法が第三者視点に変わっていたことだ。


「利哉の言っていることが当たっていれば、クズハが手に入れた『記憶を消す能力』をこの後に駆使することになる」

 一翔は隣のページへ視線を移した。近くにいるルシフェルとアルファード、本を読み終えたトスカも彼に注目している。


「広﨑亞李栖をさらってから3日後の話だ。この日は無人島実習の最終日で、未だ彼女が見つかっていないことで騒いでいたって」

 一翔は冒頭の内容を口頭で説明した。


 その続きの内容に目を通していくが、息を呑んでしまいそうになる。



 あたしが真田をさらった時のように、広﨑の魂を我が物にした時もGFP学院の教員と学生どもは騒然としていた。


 その声を聞くと、耳を塞ぎたくなる程だった。

 もし、これ以降に奴らがこの無人島に来なくなったら、あたしが強くなるための餌が来なくなる。そっちの方が都合が悪い。


 一〇〇年前の時も、彼らの記憶を消してやれば良かったと思った。でも、彼らは毎年ここに来てくれたから、結果良かったけど。

 けれども、ここで身につけた記憶を消す能力を使わないと、二度と来なくなる可能性は大いにある。


 まだ夜の薄暗さが残る明け方に、宿舎前で騒いでいる大衆に広﨑が失踪した記憶を消してやろうと試みた。

 すると、奴らは一瞬静かになった。何の話をしていたのだろうか、と戸惑っていた。


 思い出せる訳がない。だって、あたしが記憶を消したんだから。

 これで、来年以降も大人しく来てくれるわ。



「でも、全員の記憶を消したと言っても、何で『マレソムディア島の逸話』に200年前の話が書かれてるんだ? 加藤って人もA・Hって人も日記と一致してるんだろ?」

 解せぬ、とトスカは考え込む仕草をする。


「僕の考えでは、記憶を消す能力は元々真田梨保が持っていた能力だ。すなわち、その能力は所詮クズハのものではないし、使いこなせている訳でもない。だから、大半の人の記憶を消すことに成功したけど、一部の人の記憶を消せなかったのだと思う」

 一翔は深くため息をついた。


「記憶が消されなかった人が、誰かに失踪した事件について概要を話して、それを聞いた人が逸話として執筆した、という考えか?」

 ルシフェルは一翔の表情を窺うように見つめると、「おそらく」との返事が返ってきた。


「おれらがいるマレソムディア島は、全部魔女の思うがままって感じか」

 やれやれ、とアルファードは肩をすくめた。


「多分、100年前に失踪した時も同じ手段で人をさらい、記憶を消したんだと思う」

 一翔は『日記其の弐』の最後のページを開けた。


 フェリウル歴8780年に書かれた日記も2日分あった。

 1日目は光属性かつ日本人女子学生の神戸(ごうど)紗千実(さちみ)を誘拐し魂を喰った。2日目は実習最終日に彼女が見つかっていないことで騒いでいるGFP学院の教員と学生らの記憶を消したという内容だった。


「100年前に失踪した人はS・Gだから、イニシャルからして神戸紗千実と同一人物と断定できる」

 一翔はふぅと息を吐く。フォーリン=クズハの手口が綴られた日記を読み進めていくうちに、恐怖より呆れの気持ちに変わっていった。


「101年前から199年前の間に、光属性の日本人女子はいたのか?」

 アルファードは日記に顔を少しだけ近づける。


 一翔は日記を遡って確認すると、その組み合わせを持つ人物は書かれていなかった。


「いない」

 一翔は首を左右に振る。


「100年に一度、魔女が女子に限ってさらっていくという逸話は、GFP学院の魔法戦士学科に在籍する光属性かつ日本人女子が100年に1人の周期だから、魔女がぴったり100年を狙っているように思われてるって解釈できるんじゃない?」

 トスカの鋭い考察に、3人の男子学生は目玉が飛び出そうになる。


「そういうこと!?」

 一翔は驚異の目を張り、最後となる『日記其の参』に手を着けた。


 トスカの考察が合っていれば、去年から99年前の日記に、日本人女子かつ光属性の人物が書かれていないことになる。


 指でなぞりながら、3冊目を読んでいくが、やはりそのような人物は登場しなかった。


(トスカの考えは正しかったみたい……)

 一翔は無表情で次々と読み続けていった。

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