03-35 300年前の失踪事件の真相
日付は実習最終日になり、深夜12時半を過ぎた。
意識が戻っていないヒカルの両脇にリサとサラが並び、三角座りをしたまま無言の時を過ごしている。
窓際に座っているトスカは一翔から渡された本を無我夢中で読み進め、一翔は床の上でシャドウ=リリスが残したとされている日記を黙読している。
ルシフェルとアルファードは日記の文字を読めず、一時は2人で会話をしていたが、睡魔に襲われて横になり、夢の世界へ行ってしまった。
(K・Cが死んでから数か月から1年おきに日記を書き残していたのか)
一翔はペラっと日記を1枚めくる。フェリウル歴8579年まで読み進めた。
これまでは毎年1月に行われる無人島実習の様子が綴られており、当時の実習を懐かしむ内容が多かった。
ところが、一翔が今開いている日記の日付を見ると「フェリウル歴八五八〇年一月一三日」と書かれていた。
「あっ……」
一翔は思わず手で口を押えた。
その声でトスカが振り返り、ルシフェルとアルファードは夢の世界から戻って体を起こす。
「300年前に失踪者が出た時に書かれた日記だ……」
一翔は声を震わせながら、見開きのページを読み上げる。
「あたしはもっと強くなりたい。どのようにすれば力が手に入るか、100年近く考えていた。昨日、また1年生が実習でこの無人島に到着した。丑の刻に宿舎を覗きに行ったら、あたしと同じ日本人で、光属性の女の子がいたではないか」
日記の内容が脳内に入っていく程、一翔は背筋から寒気を感じるようになった。
「おい、大丈夫か? 体が震えてるぞ」
ルシフェルは心配そうに彼の横顔を窺う。寒くて震えているよりは、恐怖心で震えているのが一翔の表情を見てわかった。
一翔は背中からゾクゾクと寒気に襲われるあまり、ルシフェルの声が届かなかった。
「あたしは自由自在に動ける。だから、あの子をあたしの元へ呼び寄せよう。そうすれば、もっと強くなれる」
あの日に書かれていた日記はここまでだが、流石にトスカもルシフェルもアルファードも顔色を失った。
男子学生4人が凍りついている中、暖炉の近くに座り込んでいるリサが声を出した。
「さっき、日本人で光属性って言ってたよね?」
「あ……あぁ」
一翔は曖昧な返事をした。
「ヒカルも日本人で光属性だよ」
リサは虚ろな目つきをしているヒカルに顔を向ける。
「も……もしかして……」
一翔はトスカと顔を見合わせた。どうやらトスカも同じことを考えているようだ。
「光属性かつ日本人女子を狙っていたってこと!?」
「多分。共通点があるなって思って」
仰天している一翔とは正反対に、リサは落ち着いた声で意見を述べた。
「自分と同性の日本人、同じ属性を選ぶとは……」
一翔は息を整え、その次の日の日記へ視線を移した。
そこには、300年前に失踪した時の真実が直筆で残されていた。
戌の刻に、学生用の宿舎の前に今回の狙いである真田梨保が現れた。彼女の近くにモニカ・ミュレーという女子がいた。
真田はあたしと同じ日本人かつ光属性で、ミュレーという子はフランス人で闇属性だ。
あたしは真田梨保の魂に波長を合わせることに成功し、「こちらにおいで」と念波を放った。
すると、彼女は「何かに導かれている気がする」と言ってミュレーの元を離れ、1人で夜空と同化した暗い森に入っていったわ。
しめしめと思い、あたしは東北東辺りで海が見える場所へ移動し、真田はあたしの念波に導かれ、時間はかかったけど、あたしの近くへ来たわ。
あたしの姿は真田には見えないから、あの子は困惑した顔で左右を見渡していた。その場所はあたしの肉体が流された場所と同じ。
両手を彼女に差し出し、魔術で気を失わせてた。真田は意識が朦朧とした状態で、虚ろな面をして倒れた。
今だ! と思って彼女の魂に手を漬け込み、魂を吸収した。
その直後、彼女の体は完全に力を失って海と無人島の境界付近の森で目を閉じ、命の炎は消えた。
それとは反対に、あたしの全身に力がみなぎり、体力はもちろん、魔力も集中力も上がったような気がした。
「あはは! 成功した! 強くなったわ!」
不意に本音が出てしまったけど大丈夫。あたしは肉体を脱いだ身。声なんて誰にも聞こえやしない。
これだけでは終わらなかった。驚いたことに、真田は「記憶を消す」という特殊能力の持ち主だった。
試しに、あたしの足枷となっている生前の記憶を消去してみた。
何と、生前の記憶はさらさらの砂がこぼれ落ちるように、綺麗に消えていったではないか。
生きていた頃の記憶、そんなものはもう要らない。生前の姿とは著しく変わり果てていたって良いわ。
これからは、あたしが強くなることだけを考えれば良い。
今日からあたしはフォーリン=クズハとして生まれ変わった。
「フォーリン=クズハという名前は、K・Cが失踪し、真田梨保の魂を吸収したあの日についたのか」
一翔は300年前の1月14日の日記を読み終えると、緊張した声で言った。
「あのさ……」
トスカが恐る恐る声を出すと、一翔は目だけ反応した。
「その時に失踪した女子の名は何だっけ?」とトスカは尋ねると「真田梨保」と一翔は怖じ気を抑えるように小さな声で答える。
「この本に、フェリウル歴8580年に失踪した女子がR・Sって書かれてたのは、真田梨保って人のことじゃないか?」
トスカは『マレソムディア島の逸話』と書かれた本を持ち上げ、表紙に印字されているタイトルを指さす。
「あっ――」
一翔は言葉を呑み、アルファードは
「確かに……!」
と驚異の目を瞠った。
「さらに、ここで初めてフォーリン=クズハの名前が出てきたから、この日記は間違いなく魔女が書いた日記だ!」
一翔は『日記其の壱』を両手で強く握りしめる。
この時になって、ようやく魔女の日記であることが断定できた。自身が強くなりたいが故に、魔女は光属性かつ日本人女子を狙って魂を吸収したのだ。
「ひとまず、わかったことは、一翔が読んでいる日記はレイラ・スレスタの友人であるK・Cが書いたものだということ。Kは日本人で光属性であり、フォーリン=クズハと名乗る魔女に変貌したってことだな」
トスカは腰に手を当てて整理する。
「K・Cが死に、この世の未練を断ち切れないまま時が流れ、真田梨保の魂を吸収した時を境に、魔女となったのか――」
一翔は日記を床に置き、見開きのページを呆然と眺める。
今回、フォーリン=クズハがヒカルをさらい、300年前に失踪したR・Sこと真田梨保をさらった理由が、強くなりたいから。
さらに、クズハが日本人で光属性だったことも明らかになった。
信じたくなかったけど、事実として受け止めるしかない。一翔はそう思って十数秒間目を閉じた。
ルシフェルは日記を手に取り、次のページをめくると何も書かれておらず、裏表紙へと続いていた。
「1冊目が終わったぞ」
彼はそう告げると、一翔は開眼した。
「ここからは2冊目か。生前の記憶を削除した後の魔女の動きが、とても興味深い」
一翔は2冊目となる『日記其の弐』を広げた。
パラパラとページをめくって日付を確認すると、1年おきにしか書かれておらず、GFP学院生が実習で無人島へ来た時期と重なっていた。
299年前以降の日記は日本人学生がいるか、いた場合、性別と属性が書かれていた。年によるが、日本人が魔法戦士学科に在籍していなかったり、在籍したとしても属性が光属性かつ女性という組み合わせでなかったりとした。
真田梨保をさらって以来、魔女の目立った動きがない年が続いた。




