バック・トゥ
「まずローマンデルジェイ領内で謎のドラゴンに追われるレウカをオレが助けた。そこにガラクテアが降ってきた。これが始まりだな」
調査隊メンバーはブレアルネイソルの姫様の加入前に、会議室で今までの調査隊の歩みを振り返ることにした。新規メンバーのグロッグへの説明も兼ねていて、全員がいわゆる”お手元の資料”を持っていて大人たちの会議のように恰好をつけている。
「何もかも溶かす泥を吐き出すドラゴンだ。ガラクテアはそいつの言葉がわからなかったためそのドラゴンに関する情報はそれくらいしかない」
「うぅ……妾を責めるというのかこの卑劣漢ども……」
とくに何も言っていないというのに、ガラクテアは自分を抱きしめるように悲劇のヒロインの顔をする。時折みんなの様子をちらりと盗み見る。
「これだもんな」
「私の要請で二人はカレンシアへと来てくれることとなりました。以前から異常活性が見られた竜脈やドラゴンの異常行動を調べたいと考えていた私は、国王やイースの許可の下調査隊を結成を結成、みんなはそれに参加してくれたの」
「調査隊に初期メンバーとやらがあるのなら、この三人にあたしとアナトね」
「おほほほほ!!!いい響きですわね初期メンバー!」
「館を燃やしたのが初期メンバーだそうですねぇ」
ビカラの指摘に三人は気まずそうな顔を浮かべ、レウカは額を押さえ、ガラクテアは指をさして笑った。
「燃やしたんすか?」
「ごほ、ちょっと……見たかった……」
「見れるかもしれないぜ、バカとバカのマリアージュだからいつでも起こり得る」
「二度と起こさないで!」とレウカはきつく釘を刺した。
「そうは言うてもこやつらはやりおるぞ」
「爆発オチを巻き起こしたやつがよく言う」
「見たかった……げほげほっ」
「血を吐くほど?」
「やっぱりこの人暴力が好きなんじゃないですか?」
「最初の調査はビナ村よ。ちなみにここがカレンシアで唯一ライ麦畑がある村です」
シトロンもそれは知らなかったので、純粋に驚いた。
「へぇ、お世話になってるし、ごほっ、行ってみたいな」
村の様子も見に行きたい、落ち着いたら顔を見せようか、と口々に話していると、ハニーベルはこほん、と咳ばらいをした。
「ここでは竜脈からマナが生成されるところに立ち会ったわ。おまけにその近くには草を司るドラゴン・メドーがいた。あたしとレウカはメドーの最期を見届けたの」
「一方地上ではアナトが、マナから放出された過剰魔力によるビームを素手で跳ね返した」
「えぇ……?」とビカラは呆れ、「何やってんすか……」とコウジロウも引いていた。
「見たかった!!!ごばっ……」
グロッグだけはまたもや悔しがった。
「おほほほほ!八面六臂の大活躍というものですわ!!!」
「国内を行き来する商人たちなら変わったドラゴンや出来事の情報を持っているのではないか、ということでまた王宮のみんなに協力してもらい、商人に話を聞きました。商工会議所で関所周辺に野犬が集結していることと、その近くにいた外国人の少女を心配している方の話を聞いたの」
「わたしですね。ワンコローを陰謀により奪われた誇り高き孤高の少女……」
ビカラはここぞとばかりにキラキラとしたオーラを振りまき、彼女の思う孤高の少女を演出してみせた。ちなみにキラキラしたのは魔力で生成している光なため下手に触れると皮膚が焼ける。命がけの演出である。
「野草食って腹壊してた」
「そういう事実言うの止めてもらえます!?」
「本当のことなんだ……」
「わたくしたちは義憤に駆られ、監視の目をくぐり関所まで行きましたわ。そこでビカラ殿を保護し、近くの村でおばあ様と心温まる交流をいたしました」
「物は言いようが連続されると突っ込む気も無くすのう」
「この辺りは報告書読んでおくっす」
ガラクテアのボヤキを聞き、コウジロウはお手元の資料に目を通した。
「関所ではワンコロー様を餌に、野犬と野犬を率いるムドラをおびき寄せようと画策していた騎士アルダンがいました。彼の目論見は成功し、一時はムドラたちにワンコロー様を奪われてしまい、我々は二手に分かれて行動します。私とシトロンとビカラとガラクテア様はワンコロー様を追い、ベルとアナトには襲撃にあい混乱していた関所のことを任せたわ」
「レウカお姉様のご活躍でこちらはすんなりとワンコローを取り戻せました!結構ビビッてたんですよ、わたし。でもお姉様がなんとかしてくれました!」
「私だけの力じゃないわ。シトロンの助言があってこそよ」
「あら、何を言ったのです?気になりますわね」
「そのバリアだかシールドだか膨張させて敵にブチ当てられん?みたいなこと」
「あぁ……あんたの入れ知恵なの」
ハニーベルはため息をついた。お姫様に邪道を吹き込む邪悪なお姫様をどうしてやろうかという目であった。一応ビカラは苦笑いでフォローしてやった。
「この後役立つんですけどねぇこれ」
「オレらが大立ち回りをしていた頃、関所の二人は地面に転がっていたんだよなぁ」
「わたくしは負けておりません!!!!」
「ソラ・グラムを自らに投与したアルダンは瞬間的に爆発的な魔力を手にした化け物になったのよ。空を飛ぶ黒い塊って感じ。ただし、空を飛んでビームを撃つしかできないんだけど」
「みんなビーム撃つなぁ」
「光線とかなんちゃら波とか言いません?」
「大変だったんじゃぞ?適性の無いアホが手に追えぬ力で自滅するだけだというのに死なせたくないとか宣ってのう」
ガラクテアは大げさにはぁ~やれやれ、と肩をすくめて圧をかけた。
「私のワガママをみんなが聞いてくれたんです。あの時は本当にありがとう」
コウジロウは挙手する。みんながどうぞ、と手で合図した。
「この報告書要約すると……バリアブチ当てて焼いてシトロンのビーム当てて落として腹殴ってソラ・グラムを吐かせた、って」
「だいたいその通りね。あたしはシトロンをバリアに乗せたんだからね!」
「職人の技だったなあれ」
「アルダンは今も拘束中だけどきちんと療養もさせているわ。自分が裏切ろうとしたカレンシアという国がどれだけ寛大で素晴らしい国が思い知らせてやるんだから」
「騎士見習いがこんなに真っ黒だからなぁ」
「やかましい!次はコウジロウがカレンシアに来たわね。あたしとレウカで迎えに行ったわ」
「そんで潮竜に襲われたんすよね……あの時はほんとうちの爺さんが海を穢してすんませんでした……」
「ちょっとげろ吐いたぐらいで大げさだよな」
「ごほ、でもそこに住んでいるとなるとまぁ、嫌じゃないか?」
「王子の居合が潮竜の鬣を斬り落としてくれたの。そうしたらお帰りになっていただいてね……ひやひやしたわ。潮竜とは過去何度も交渉が決裂していて取り付く島もないらしいの。私が生まれる前からずっとあのお方は人も竜も拒んでいるのよ」
「筋金入りっすよ。奈の国にも悪名が届いているんすから」
「コウジロウが来た後はイース連れて王都ツアー……のはずだったんだけど、事故が起きて通行止めにあっちまったんだ」
「ガラクテアが馬車から飛んで行ってね。それを追いかけてみんなバラバラになっちゃったのよ」
「あーはいはい妾が悪うござんした~満足したか?」
「ワンコロー、ゴー!」
ビカラの号令でワンコローは宙に浮かぶガラクテアの腹部めがけて美しい軌道を描いて飛び立った。ミサイルのようなワンコローの攻撃を受けた銀河の女王は、
「のじゃっぼ!!!!」と叫び飛んで行った。
「本当に大変でしたわ!コウジロウ殿は風竜騎士、わたくしとビカラ殿は奈の国人、姫様たちはテロリストと遭遇しましたのよ」
「風竜騎士ってなんだい?」
「蜜柑戦争以後出現した極右組織よ。カレンシアを純血のカレンシア人のための国にすべく、帝国人のみならず外国人の排斥を掲げる一団なの。ミトロン、マニウスの両将軍によって大半が片づけられた、と授業では習ったのだけど……ここ半年でまた活動が活発になっているわ」
「カレンシアにも反政府組織があるんすね」
「なぁ、純血のカレンシア人っているのか?多民族国家だろ、何百年も前から」
「元々そんな人たちはいないわ。この地にいたイースのところに旅の巫子の一団が定住したことがカレンシアの始まりだから、最初から移民の国なのよ。勿論それは子供の頃から教えられていることなのだけれど……。ちなみに巫子たちは伝説の古王国の生き残りとされているわ」
古王国って確か授業で習ったな、とシトロンは思い出す。古王国の始まりは誰も知らない。だが三千年の歴史を持つブレアルネイソルよりも前に建国され、全世界を支配に置いていた国だったということは確かだ。それ以外彼女は知らないかった。
「国の位置はカレンシアとほぼ同じだとされているの。だから古王国の血筋を持つ者を純血のカレンシア人と言っているのかもしれないわね」
「それだけデカい国だと、普通に帝国とかにも古王国の血筋の者いそうだな」
「多分そういうこと考えないようにしているんじゃないかしら」
そう言ったハニーベルにわかっていないな、とでも言うようにビカラは笑った。
「ベルさんは意地が悪いけど高潔な所があるからダメですね。考えられる頭があったらそんな組織に参加しないですよぉ」
「あんたねぇ」
「テロリストの方は、カレンシアの同盟国レコメダの人間だった。これは今も尋問が続いている、だったな」
問いかけられたレウカは難しい表情を浮かべる。
「進展があったようなのだけれど、私には教えてくれないのよ」
「まぁ調査隊の活動外ではあるしね」
ハニーベルはなだめつつも、彼女自身納得できていないらしく悔しそうでもあった。
「その後はグロッグ殿を迎えにみんなでケブラフへ行きましたわ」
「死にかけたり殺したり色々あった。以上!」
「み、短い……げほっ」
「みんないましたしねぇ。唯一不在と言えるのはわたしだけじゃないですかぁ?そんなに面白いですか?仲間外れの女が……」
「落ち着け」
陰鬱モードに入りだしたビカラをなだめていると、会議室の扉がノックされた。「入って」とレウカの声のあと、イクシアとアエミリアが扉を開けて室内に入ってきた。
「会議中失礼いたします。イストリア様から火急の知らせです」
「とか言っちゃってヤバめなあれじゃないし~次の調査ポイント的な感じ」
二人が差し出した封書をざっと確認したレウカは、それを隣のシトロンに回した。復活したガラクテアはその後ろから盗み見る。
「読んだら隣に回してちょうだい。さて、ここに書かれているのは王都から東のチェイス砦の竜脈ね。キノト皇子については……何も書いてなかったわ」
「誰?」
「ブレアルネイソルのお姫様よ。ブレアルネイソルは王子や姫ではなく皇子と言うの。姫の方がカレンシアでは通りがいいからそう言いがちだけど、なるべく本人には皇子と呼びかけたいわ。彼女のことはまだ話し合っている最中みたいね。そうだ、イクシアから発表があるんでしょう?」
レウカに促され、どこかそわそわとしたイクシアはメンバーに向けて敬礼する。
「本日から正式な調査隊の護衛小隊長となりました!これからは兵士長ではなく小隊長とお呼びください。ちなみに所属は巡回騎士隊の護衛小隊、なので上官がマニウス将軍からミトロン将軍になります。移動についていける面子を揃えているので調査の際はお任せください」
みんなは拍手で彼女を歓迎した。そうしているとアエミリアが「はいはい!あーしも!」と挙手する。
「あーしもそこ所属になったんでよろしこ。イクシーが上官なのはマジ無理ぽだけんど、レウレウのおねーさん的存在として頑張るんで。ちなみに護衛隊のままなんで、あーしの一番上の上司はマニウス将軍のままなんよ」
「先輩たちが専任になってくれて心強いだろうけど、あたしも頼りにしなさいよね」
「えぇ。私の専属護衛騎士になってくれるのでしょう?」
「当然よ!今は先輩たちの胸を借りて学ばせてもらうわ」
「責任重大ですね……しかし、はぁはぁ……姫様は絶対にお守りしてみせます!……ふぅ」
「うん、あーしはね、このキモイのぶっ叩くのも仕事だかんね。任せろし」
そういってアエミリアは目にもとまらぬ手刀をイクシアの腰に叩き込んだ。イクシアははうぁ!と声を上げて正気に戻る。
楽しくなりそうだな、よりも、より無茶苦茶できそうだな、とシトロンは考えた。どうやらそれがわかっていたらしく、レウカはこほんと咳ばらいをした。
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