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レウカはまだ十五歳・前


 調査隊がカレンシアに帰還し、ジアンカの葬儀が行われてから三日が経過した。

 その間調査隊の活動は休みとされ、各々頭や身体をゆっくりと癒す時間にしていた。

 シトロンたちローマンデルジェイの人間は、王宮に手紙と使いを出し王家夫妻とセドラの家族に彼女の身に起こったことを告げた。


 使いとして国へ一時帰国したのはロッコとブーシュカと他数名の、そろそろホームシックになっていた兵士やメイドたちだ。国にいてもいいと言ったし、手紙にもその旨を書いておいた。後は自分より向いている誰かがどうにかしてくれるだろうとシトロンはゆっくりとセドラを悼む時間を得て、今はもう元気以外の何物でもなかった。


 そうしていると、ユヴォークに呼び出されたのだ。

 ガラクテアとレウカと共に、城の裏手にある離れの大屋敷へと赴いたシトロンは、城との連絡通路にあるベンチに座り約束の時間を待っていた。


「なんでオレら三人なんだ?」

「私と仲が良いからかしら」

「まぁ血の契約をしたトリオじゃからの。ようやく妾に個人的にひれ伏す気になったのかもしれんのう!なはははは!」


「それにしてもなんというか、この渡り廊下?になるのか。花が咲き過ぎじゃないか?」

 連絡通路の左右には延々と花壇が続いていて、見たこともないような花々が育てられている。そして上部にかけられたアーチにも花が咲き乱れている。

 正直花の香りが混ざり合い鼻が馬鹿になりそうだとシトロンには感じられていた。


「ライムが花を好きだって言ったからだそうよ」

「それと……レクエルドは、何?」

 城の高塔の屋根の上に、巨大な赤いドラゴンが鎮座してじっとこちらを見ている。近づくわけでもない。監視、抑止、そういった意味合いのようだった。


「彼女はお父様のことが好きじゃないから、私を守るためかも」

「妾もおるしな。そういえばあやつは三姉妹が物のように贈られたことと、その判断を下したユヴォークに愛想を付かしてカレンシアを出たんじゃったな」

「えぇ、その後私のために戻ってきてくれたの」


「気持ちはわかるけどな……あ、来たぜ」

 連絡通路のベンチに座る三人の元に、離れからユヴォークが歩いてきた。時間はぴったりだった。

「やぁやぁ待たせたね。レウカ、もう平気かい?」

「おかげ様で、なんとか」

 ユヴォークは悲し気に目を伏せた。


「ジアンカには可哀そうなことをした」

 レウカが言葉を探していると、王はそんなものは必要ないという様に話を続ける。

「パパは間違ってないよね?」

 ガラクテアは何より先に、シトロンの口を押さえた。年の功から来る経験則であったが、それは功を奏したようで、彼女は暴言を吐かずに済んだ。


「ブルトーヌと同盟が結べなければガレッドルが酷い目にあい続けたかもしれないよね?……ジアンカは可哀そうだったけど仕方が無かった。悪いのは帝国だよ……怖いよね」

「のじゃ?」とガラクテアから声が出たがユヴォークはそれは気にしていない様子だった。

「ライムのことは絶対にそんな目に合せない。家族で力を合わせて頑張ろう」

 そうしてユヴォークは父親の顔でレウカに向き合った。


 シトロンはガラクテアの手を外し、王の目を見た。

「レウカのことは?」

 彼女の視線と声の荒さには動揺したのか、王はおどおどとしながらも、話を変えようと明るくレウカに話しかけた。

「最近グロウグスヴィル王子とはどうだい?」


「は?答えろよ」という言葉の途中でまたガラクテアに口を塞がれた。子供の小さな手のはずなのに、銀河の女王は人の口の塞ぎ方を心得ているのか、シトロンの声はすぐにかき消された。

「仲良くしていただいています」

「それは良かった!王子はみんなにも好かれてるよ。貴族たちともすっごく仲が良いんだ」


 嬉しそうな父親の態度に、レウカはもう彼が何を望んでいて、何をする気なのかわかってしまっていた。もう訳も分からず上の三人が城を追い出されて行ったのを見送っていた頃とは違っていた。

「誕生パーティーは一か月後にしようと思う」

「少し早いですね。何かあったのですか?」


「お祝い事だし早い方がいいかなぁって。今はみんな深く悲しみに沈んでいるだろう?私たちでみんなを明るくしよう。それがきっと一番国やみんなのためになることなんだ」

 具体的なことは何も言わず、ユヴォークは立ち上がった。

「今日はレウカの顔が見たかったんだ。それだけなのに呼び出してごめんね。ライムのお勉強があるから、じゃあね」


 あっという間に王は離れに戻って行ってしまった。

「マジで何がしたかったんだよ……」

「……ちょっといいかしら」

 レウカは足早に連絡通路を進み、城へと戻った。そして迷いなくある部屋に行き、ノックをしてから入室する。


 そこは気のよさそうな老人とその部下たちが、数名で書類仕事をしている仕事部屋だった。

「おや姫様、いかがなされましたか?」

「郵便、いえ、お父様のことについて聞きたいの。お父様は最近ワジェンデイクと文のやり取りを活発にしていないかしら」

 老人はいきなりのことに目を丸くしながらも頷いた。


「えぇ、姫様の言う通り、王は近頃ワジェンデイクと親睦を深めようとしておられるご様子。あまり外交に積極的ではないと感じていましたが、どうやら思い違いだったようですな。かの国と何らかの同盟が結ばれたら帝国も大きな顔は出来ますまい。ブレアルネイソルは……何があってもあのスタンスでしょうから、やはりワジェンデイクと手を組むのが正解かと思われます」

 部下たちも同じ意見のようだった。


 レウカは「なるほど」と全く納得していない声で返事をした。

「ありがとう。そちらから何か私や調査隊に伝えたいことはあるかしら」

「いえ、それはとくに」

「南の物流が」と若い部下が挙手しようとすると、老人はそれを窘めた。


「それは姫様ではなく総監騎士に言うことだろう」

「あぁそれもそうですね、失礼しました……」

「南?構わないわ、一応私の方でも気にかけておくから」

「いやぁ申し訳ございません」


 手を振り部屋から出たレウカは悲し気に目を伏せた。

「……そういうことじゃろうな」

「流石のオレも予想ついた。どうする?暴れるか」


「阿呆。考え無しに暴れてどうするのじゃ」

「そうだな、考えてから暴れるか」

「暴れるのはひとまず置いておいて。話をするわ。お父様はちょっと……あれだから、別の方と」



 女子寮の黄昏館と男子寮の朝靄館の間には東屋がある。一見開放的なテラス席ではあるが、その実魔力のヴェールで覆われていて安全かつ密談にも都合が良かった。

「私あなたと結婚させられるのかしら」

 だから、このような会話がいとも簡単に可能であった。


 突然不可解な話を振られたグロッグは、レウカが何を言いたのか瞬時に把握した。彼は賢く、彼女もまたそうだったので。

「可能性としては一番高い。正直困る、ごほっ……」

「困るわ」


 お互い心底困っている。グロッグは友人への手紙を書く手を止めないし、レウカも館に飾るリースを編み続けている。それくらい気の置けない仲になっているのは確かではあるが、そういうことではないのだ。

「当事者同士はこれなのにな」とシトロンが本人たちよりよほど深刻な顔でいると、グロッグはそれを見て楽しそうに微笑んだ、


「でもうちのは多分……げほげほ、反対するから結婚とか無いと思う。ごっふ、お互い第一候補ではあり続けるだろうけど」

 レウカは少し安心した様子を見せる。とはいえ、ユヴォークのあの調子なら簡単には諦めない気がするとシトロンは警戒を緩められない。


「そういやお前から親の話を聞かないな」

 安心しきれない理由の一つにワジェンデイク王家の話を知らないという理由に行きついた。ブルトーヌでも多少話は触れたが、王家がどうというよりは宗主国だったし、何よりグロッグ本人のクレイジーさばかりが目立っていたからだ。


「……現国王は、ごほっ、血縁上は父であるけど、まぁそういう言い方をするような関係」

 何の感情も乗せない表情で告げられた言葉に、一同は「そう……」と返すしかない。だがこの中で唯一ワジェンデイクと同じ西側世界のキノトは少し違った。


「風の噂だけど、君父親を土下座させて頭踏みつけたって本当かい?」


 空気が凍る。東屋の中にはいかなる状態異常も起こらないはずであるのに、だ。

「あっははは」

 そんな中に吐血交じりの乾いた笑いを響かせるのはたった一人。


「本当みたいだな」

「じゃあカレンシアみたいな大国の姫と結婚させたら、更に力もりもりになるだろうから慎重にもなるでしょうね」

 ハニーベルの呆れたような指摘で、シトロンはようやく安心できた。



次は13日の20時以降に更新予定

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