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デイ・アフター・2


 招かれた城内の一室には、カジミールとエドミーだけではなく、子供が二名同席していた。バジル王子の弟妹、つまりレウカの姪や甥かとも思われたが、素直に二人の子供のようであった。

「セルヒーです!!!!三歳!!!こっちはマリヤ!!!!!」

 元気いっぱいな男の子のセルヒーは、じゅうたんの上に座る妹を紹介してきた。妹の方はおとなしいが兄同様人見知りもしないようで、しげしげとこちらを眺めている。


「バジル王子たちとは従弟にあたるからな、彼らにも親族はいることにはいるし多少は安心してもらえるかと思ったんだ」

 足を登る息子を気にせずカジミールは調査隊に話しかけた。

「お気遣い感謝いたします。こんにちわ二人とも」


「おはようござます!えっとね、これエビ!すっごく強い!それで青い!バーッて空から飛んできてぎゅーんって勝つ!」

 手に持っていた真っ黒な人形は一応甲殻類を模していた。青ではないしエビではないように見えるが、幼児はどうだと言わんばかりに外国人のお姉さんお兄さんたちを見上げていた。


「なんて?」と子供が苦手なコウジロウが首をかしげると、子供は好きでも嫌いでもないが仲良くなるのは得意なキノトが「なるほどね」と快活に笑った。

「わかるとも!最後にはぎゅいんぎゅいんだろ?」

「また適当な!」


「そうそれ!!!!!」

「えぇ……?」

「そうそれっていうのもなんかおっさんくさいですねぇ」

 目を輝かせてエビ?の話を続けるセルヒーと、適当に?返事をしては気に入られるキノトに、コウジロウとビカラはついていけないというようにため息をついた。


「多分父親の分も喋るタイプなんだろうな」

「凄い!正解よ!」

 一方シトロンとは”真実”にたどり着いていた。

「やかましい」とカジミールは不機嫌そうに眉をしかめながら、改めて調査隊に向き合った。


「……迷惑ばかりかけて大した歓迎もできぬままで申し訳ない。見送りはするが、それも盛大にはできない。貴殿らには一生かかっても返しきれない恩があるというのに」

「わかってる、落ち着いたらまた来るよ。その時に盛大なおもてなしをしてくれたらいいって」

「なんて浅ましいのかしら」

「うるせぇこれも気遣いの一環だって!」


「パンフェルちゃんにも声をかけたから出発前に会えると思うわ。まだ安静にさせてるんだけど、わりと元気で大変だったのよ」

「良かった、ミネオラも安心すると思うわ」

「お父様は気を失うくらい動揺してたけどね」

 無茶をした彼女を思い出し、あはは、と和やかな空気に包まれる中、ガラクテアはふと入口の気配に気がついて振り向く。


 そこにはこっそり顔を出してこちらを窺っているワイヤンがいた。

「何じゃあやつは」

「そしてまだその金庫背負ってるのか?」

 ガラクテアの声でみんなが彼に注目した。シトロンの言う通り、彼は礼の金庫を肌身離さず持ち歩いているようだった。


「いや、その……パパとママが帰ってくるの、二日後になるから、みんなを紹介できないって言いに来ただけで……すぐ帰るよ。でも女の子たちは一緒にボクと帰ってお茶するとかどうかな……」

「まぁデン家で大暴れしたからな。挨拶というか謝罪はちょっとしたかったんだけど仕方ないな」

 隙あらば女性陣をお茶に誘う彼の言動は完全に無視しながら、ある意味立役者であった夫妻と会えないままの帰還を素直に寂しがった。


 だが次の瞬間、いつの間にか人型でワイヤンの背後にいたソラールが、金庫をぶんどった。

「こら!何してるんですか!……え?ちょっとこれ」

 走り寄ったセレマリオンは、ソラールの持つ金庫を間近で見ると首をかしげた。

 それは何故かレウカもで、「あら?」と不思議そうにしていた。

「屋敷の時と何か違う、という印象を受けるわ。それ以上はわからないけれど……」


「角度同じだな」

「師弟だからかな」

「アルジェンもこの角度だった」とソラールは付け加えた。

「師弟だ……」


「僕は何も感じないけれど」と言いながらグロッグに目線を向けると、彼も首を振る。

「俺も、げほ、とくに……」

 しかしカジミールは剣の柄に手をかけて金庫を睨んでいた。

「ど、どうしたのあなた」


「いや……」

 上手く言葉にできないでいると、セルヒーはとことこと歩いてソラールの前に立った。

「言っただろ?五十年分」

 闇竜は全員が理解できていないと理解しないでいる。そして足元に来た子供の横に落ちるように金庫から手を離した。それはふわふわと浮かぶようにゆっくりと地面に落ちていった。


 セルヒーの前に音もなく降り立ってから扉が開く。だが金庫の内側の五面に銀の膜が貼ってあるだけで空っぽだった。

「だから軽かったわけだ」

「げほげほ、それに、トートが中身見て、ごふっ……置いて行ったわけだ」


「え!?寝てる間に見られてたのぉ!?」

「そうらしいっす。あ?????」

 全員の目の前で銀の膜が剥がれて一か所に集まって球体になり、転がって金庫から出てきた。

 それは回転する度に大きさが増して直径四十センチほどまで膨張するとやっと、セルヒーの前で止まった。そしてその次はカジミールの前に転がってくる。


「フーガー……?」

 カジミールがいなくなってしまった銀竜の名を呼ぶと、彼の前でぴたりと止まった。緊張する父の様子などおかまいなしに、セルヒーはその球体に笑いながら抱きついた。

「うにゃうにゃ言ってる!」

 どうやら彼には何か聞こえているようだが、それを言語化するスキルが無い。マリヤにも聞こえているのか、ハイハイしてきて銀球の前に座り込んでいる。


「卵を作ってたのね……」

 ハニーベルはそう直感した。ワイヤンはもう隠し切れないと踏んだのか、「なんでボクが説明しんなきゃいけないんだよぉ!」と喚きながらも言葉を続けた。

「ママが言ってた。フーガーが倒された後、王による調伏式が坑道で行われた。カジミール様はボイコットしてたから知らないだろうけどさ、その時にこの銀の球体を見つけたんだって」


 調伏式とは嫌な式典だな、とシトロンは悪態をつきそうになったが、今は我慢した。

「ママはフーガーの声を聞く一族の出だったから、死の直前に魔力を切り離して創った次のフーガーなんだって気づいて……。パーティドレスのスカートの中に隠してすり足で転がしながら持って帰ったんだって。持ち上げたら軽くてもっと早くにわかっていれば!って言ってた」

「ガッツがあるな……!?」


「これがあったからこそカジミール様を擁立して戦おうってなったのさ」

 ワイヤンもカジミールも、静かに銀球を見下ろしている。幼い子供たちは何故かなついているようで、ぺたぺたと触ってはきゃらきゃらと笑っている。


「でもフーガーは少なくとも五十年魔力を貯めなければ目覚めることはなかった、そういうこと?」

 セレマリオンの推察に、これはこれで歴史が動いたのでは、とレウカは危惧する。

 ソラールは無私公正なドラゴンであると言えるが、一秒先すら知らない人間にはその思惑は計り知れないために”思い付き””ワガママ””贔屓”に見えてしまう言動をとることがよくあった。

 あらゆる意味で深く考えたらいけない、と亡き母と長姉には言われたが、レウカは色々と考え込んでしまう性格であるために無理であった。


「その子供が剣を振わなければならなくなった時にそいつは復活する」


 闇竜はいつも通り人間たちの当惑などおかまいなしだった。セルヒーを指して発せられた言葉の重さにシトロンたちも眉をしかめた。

「それって」


「ドラゴンが欲しいのなら、戦うがいい。侵略待ちってのもあるけど」


 最悪で最低な戦略だ。シトロンは言葉にはしなかった。またもや我慢した。

 セドラの言っていた”大人になってしまった”という意味が、少し輪郭を持ち出した。

 カジミールは膝をついてフーガーの卵をまじまじと見つめ、肩を落とした。

「考えねばならないことが増えたな」



 カレンシアへの帰還準備が概ね終わったとの報告を受けて、調査隊は城前の馬車ターミナルに集まっていた。子供たちとフーガーはエドミーとワイヤンに任せたカジミールも同行し、兵士たちに様々な指示を出している。姫たちにやることはあまりない。


「あの」とビカラが小声でハニーベルに話かける。

「どうかした?」

「なんでみんな城での星竜とかグロッグさんが呼び出した氷の竜とかの話をしないんですかぁ?」

 不自然なほどに誰の話にも出てこない功労ドラゴン二柱のことをビカラは気にしていた。ハニーベルは周囲を見回してから、これまた小声で教える。


「あのね、見て見ぬふりってやっぱり必要な時はあるのよ」

「それはダメだよねって話をずっとしてたじゃないですかぁ」

「それはそうなんだけど……。あたしに言われても困るわよ!あんたも今は黙っておきなさい」

 はぁい、と返事しながらもビカラは不満そうにしている。


「そ、そういえば一緒に帰るのは遠征隊の半分じゃない?残りの半分は段階を追って帰国するって言ってたけど、賢者様はいつお帰りになるのかしら」

 ビカラにそれ以上の質問をさせないように、ハニーベルは別の話題をみんなに投げかけた。誰かが答えるより前に、本人がこちらに来て答えてくれるようだった。


「少なくとも特使団が来るまではここにいるよ。とはいっても三日ほどかな。先にイースたちに会っておいで。ユヴォークと話したいことだってあるだろうし」

 レウカを思いやる賢者に、レウカは複雑な表情で頭を下げた。

「心遣い、痛み入ります」


「待って待って!ちょっと待って!まだ出発しないよね!?」

 明るい声が遠くから聞こえてくる。パンフェルの声だ、と声が聞こえる方向へと目をやると、彼女は車いすを押してやってきていた。

 車いすに乗っているのは、ニーサと赤ちゃんであった。



次は明日の20時以降に更新予定

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