機会
執務室に取り残され、
少年はうつむき、
強く唇を噛んだ。
令嬢もまた
視線を床に落としたまま
少年に告げる。
「あの男に領主たる資格はない。
あのような者が支配者の顔をする
この国はおかしい。
しかし、
私たちにはそれに口を出す権利はないのです。
ここは草の国で、
私たちは草の国の人間ではない。
この国にはこの国の法があり、
秩序がある。
あの男を斬ると言うなら、
私たちはいったい
何を以て自らの正しさを証しするのですか?
あなたが気に入らぬ者は
すべて斬り捨てて構わないのですか?
そうではないでしょう?
予言の勇者は、
そうであってはならない――!」
令嬢の口調は今までにないほど
気弱げで懇願めいていた。
少年は固く目をつむり、
令嬢の言葉に何も答えることはなかった。
少年と令嬢の様子を
詐欺師と踊り子は少し離れた場所で見守る。
踊り子は詐欺師に囁いた。
「何を
考えているの?」
詐欺師は無言のまま
少年たちを見つめる。
踊り子はもう一度小さく囁いた。
「あなたは
あの領主を斬るかと思ってた」
「首を飛ばす準備はしてたさ。
あいつに刃を向けたときには、な」
詐欺師は肩をすくめ
囁きを返す。
「……いい、機会だと思ってな」
踊り子は怪訝そうに眉を寄せる。
詐欺師は少年から目を離さない。
「最初は憎しみだったろう。
だが、
旅の中であいつは
それ以外の理由をもう
見つけているはずだ。
だから――」
詐欺師の目に
厳しさと信頼とわずかな不安が同居する。
「――向き合わなきゃならんのさ。
自分が、
何のために、
誰のために、
戦うのか」
踊り子は詐欺師の横顔を見つめ、
「厳しいのね」
その瞳が優しく笑った。




