問い
すぐに門を開けなかったことを不快に思ったか、
領主は門衛を斬りつけて憂さを晴らし、
当然のように領主の館へと向かう。
魔物の一匹も斬ったことのないその剣は
領民に振るわれるためのもののようだった。
兵たちが領主の後ろに続く。
人々の憎悪の視線に気付きもせず、
領主は主の顔をして
領主の館へと入った。
少年たちが町の人々と共に作った
法も、
規則も、
組織も、
未来も、
すべてを下らぬと火にくべ、
領主が最初に命じたのは
領民の財産の没収だった。
「魔物どもに施しを受けるなど
恥を知れ!
そのような穢れた財は
私が集めて浄化せねばならん!」
町の代表の男は
その言葉に顔色を失って叫ぶ。
「お待ちください!
今そのようなことをされたら、
我らは飢え死にするしか――」
男の言葉の終わりを待たず、
領主は剣の鞘で男の胸を突いた。
男は呻き声を上げて床に倒れる。
「誰に口を利いている。
そもそも貴様ごときが
誰の許可を得て我が館に入り込んだ」
少年が代表の男に駆け寄り、
領主を厳しくにらんだ。
「なんだその目は。
身の程を弁えよ!」
剣を振りかぶろうとする領主に
側近が耳打ちした。
「彼らは
予言の勇者の一行かと」
「ほう?
この町を占拠していた魔物を
取り逃がした無能どもか」
領主は侮りを目に宿し
少年たちに告げる。
「魔物どもはもうおらぬ。
予言の勇者はこの町には不要だ。
早々に立ち去るがいい」
そして領主は
まるで当たり前のことを言うように
側近に告げた。
「魔物の支配を許し、
あろうことか進んで協力した
裏切り者がいる。
その者らをことごとく捕らえ、
広場にて処刑せよ。
二度とこのようなことが起こらぬように」
少年が剣の柄に手を掛ける。
令嬢が駆け寄り少年の手を抑え、
耳元で囁いた。
「待ってください。
どうかこらえて。
彼は草原の国の
正統な領主です」
少年が強く奥歯を噛む。
詐欺師と踊り子は
じっと少年と令嬢を見つめていた。
「何をするつもりだ?」
領主は馬鹿にしたように
少年を見下ろしている。
今にも斬りかかりそうな
少年の手を必死に抑え、
令嬢が祈るような表情で
首を横に振った。
「私を斬るのか?
予言の勇者であるお前が、
私を斬るのか?
魔物を逃したお前が、
人である私を斬るのか!」
領主のその言葉は
少年の動きを止めた。
その顔から血の気が引き、
目が大きく見開かれる。
領主はさらに言葉を続けた。
「予言の勇者は
人類の守護者ではなかったか?
予言の勇者は
魔物の敵ではなかったのか!
私を斬るというのなら
もはやお前は勇者ではない!
人間の敵、
許されざる背約者ぞ!」
少年の身体がかすかに震える。
領主は鼻を鳴らすと、
良いことを思いついたように
口の端を歪ませた。
「気が変わった。
予言の勇者よ。
今日は我が館に留まるがいい。
そして明日、
裏切り者の処刑を
お前たちが執行せよ。
予言の勇者は人類の守護者であると、
自らの手で証明するがいい」
領主は側近に何事か命じ、
部屋を出て行く。
側近は町の代表の男に縄を打ち、
部屋の外へと連れ去った。
令嬢が固く目をつむる。
剣に手を掛けたまま、
少年は動くこともできず
ただ震えていた。




