余裕
颶風を纏い
黒騎士が少年に迫る。
少年たちは大きく飛びずさり
四方に散った。
大剣が空を切り裂き、
触れず石床が砕ける。
少年の額に
じわりと冷や汗が滲んだ。
黒騎士はどこか
気落ちした様子で呟く。
「……床の修繕費が」
「心配するな。
これからもっと壊れる」
詐欺師の瞳が妖しく光り
無数のかまいたちが黒騎士を襲った。
黒騎士の大剣が閃き、
風の刃を斬り払う。
「マナよ。
万物の意味の器よ。
変質せしめよ。
石床をして
炎獄の蛇の赤き舌と為せ!」
黒騎士の足元から炎が迸り
蛇のように手足に巻き付く。
黒騎士は大剣を床に突き立て、
裂ぱくの気合を放った。
炎は怯えるように
空気に溶けて消える。
踊り子が驚愕を叫んだ。
「マナをかき消した!?」
「デタラメですわね」
令嬢が黒騎士に手をかざすと、
一瞬にしてその身体が
氷の棺に閉ざされる。
しかしそれはすぐに、
黒騎士の鎧が赤熱することで融解した。
発生した水蒸気で部屋が薄く煙る。
少年は剣を抜き放ち
黒騎士に肉薄する。
手甲で斬撃を打ち払い、
黒騎士の拳打が少年の腹を抉った。
後方に吹き飛び
少年が苦しげに咳き込む。
大剣を床から抜き、
黒騎士は事も無げに言った。
「予言の勇者も
存外大したことはないか?」
余裕を失わぬその態度に
詐欺師たちは厳しい表情を作った。




