表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/289

問答

 ペンが紙をなぞる

 カリカリという音が

 静かに部屋に響いている。

 少年は戸惑いながら

 声を上げた。


「何を、している?」


 黒騎士は顔を上げることもなく

 紙をめくる。


「領主の仕事というのは

 想像するほど華やかなものではない。

 報告を聞き、

 問題点を探し、

 解決策を考え、

 予算を付けて実行する。

 その繰り返しだ。

 己だけで見聞きできることには

 限度があるゆえ、

 必然的に書類仕事が多くなるのだよ」


 机に積まれた書類をよどみなく処理しながら

 黒騎士はやや渋い声音で言った。

 令嬢が意図をいぶかるように眉を寄せる。


「魔物が、

 統治の真似事を?」

「真似事をしているつもりはないな」


 怒る素振りもなく黒騎士は、

 手を止めて顔を上げた。

 令嬢は信じられぬと笑った。

 黒騎士は令嬢を見つめる。


「敵が常に自分たちよりも

 粗野で劣った存在だとみなすのは

 不見識であろうよ。

 そう思いたい気持ちは

 誰にでもあるとしても」


 魔物に見識を問われ、

 令嬢の顔色が変わる。

 詐欺師が口を開いた。


「この町を

 魔物の巣にでもするつもりか?」


 黒騎士は再び書類に目を落とし、

 何事か書き始める。


「魔物たちをこの町に住まわせるために

 必要な体制を作るのは任務の一つだ。

 だが、

 人間を追いだしたり、

 奴隷化したり、

 まして取って喰ったりなどせんよ。

 支配を受け入れた以上、

 人も等しく

 この町に住まう者だ」


 踊り子が白々しいと言わんばかりに

 鼻を鳴らした。


「宿の女の子を利用して、

 よく言うわ」


 黒騎士は再び顔を上げる。

 兜で隠したその顔から

 奇妙に生真面目さが伝わった。


「私が命じたのは監視のみだったが、

 配下の者が功を焦った。

 その点については

 後日当事者に謝罪するつもりだ。

 軍属でない者を巻き込むのは

 私の本意ではなかった」


 踊り子がポカンと口を開ける。

 少年は苦々しい表情で言った。


「何がしたい」

「領主の為すべきは一つだけだ。

 領民の安寧が末永く続くこと。

 そうでなければ

 領主とは搾取者の別名に過ぎん」


 黒騎士の言葉に

 強い矜持と自負が垣間見える。

 少年は答える言葉もなく

 口を閉ざした。

 処理に区切りがついたのだろう、

 黒騎士は几帳面に書類を整え、

 立ち上がって大剣を手に取った。


「さて、

 それでは、

 やろうか」


 大剣を抜き放ち、

 黒騎士は鞘を放る。

 少年は剣に手を掛け、

 それを抜くことができずにいた。

 黒騎士は幼い者を諭すように告げる。


「予言の勇者の討滅は我らの最優先事項だ。

 だがそれは憎しみからではない。

 立場の違いだ。

 ためらうな。

 我々は互いに

 役割を果たせばよい」


 そして黒騎士は大剣を振った。

 風を切る音が大きく響く。


「いくぞ」


 少年たちの返事を待たず、

 黒騎士は少年たちへと襲い掛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] Lowful-Goodな黒騎士! [気になる点] ……魔物、魔族、魔王は「別の正義」と言う事ですかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ