第二十三羽:メグルの決断
少女の出した結論
出発の前夜。あの日のようにリタと二人っきりで空を眺める。
「早いものだね。もう出発だよ。もう少しくらいゆっくりしたかったな」
「延ばせないの?」
「フォウをサクラの父親に預けているからね。そろそろ戻って様子も見たいし。小鳥の内は一緒に旅が出来たけど、さすがに大きくなって目立ってきたから。父親の居る冬の地域なら色が変わる事もない。フォウも安心して暮らせる」
「そうだね……」
星は今日もキラキラと夜空に輝く。あの日のように。
「リタ、返事……しても良い……?」
「あぁ。何となく分かっているけどね」
頷く。
「ごめんなさい。一緒には行けない。私にはやりたいこと、やらなきゃいけないことがあるの……! だから、せっかくだけど……」
リタも頷く。
「うん。だろうと思った。そのやりたいこと、見守らせて貰うよ」
一緒に旅に出る。本当は憧れる。ずっと願った事だもん。でも、それはいつでも叶う。今しか出来ない事は、待ってはくれない。
「私ね、この町が好き。今はまだ助けられてばかりだけど、その分みんなに恩返しがしたい。貰った恩が多過ぎて返せるか分からないけど、でもやるよ!」
「それは……また途方もない目標だね。私なんて恩返しどころか仇で返しているのに」
それはきちんと改善して下さい……
「ちゃんと連絡くれたり、定期的に帰って来るだけでだいぶ違うよ。リタの場合、まず心配させないこと!」
「肝に命じておく。しかしフラれたなぁ。この町が相手では無理も無いけどね」
「行かない訳じゃないよ? もう少し大きくなって、一人前になったら考える。まだ子供だし、みんなに心配させるだけだもん」
リタは笑う。
「待っているよ。今度はメグルから誘ってくれるのを待つことにしよう」
「分かった。それまで無茶しないでね?」
「承知した……」
あの日のように輝く星を眺め、あの日とは違った気持でリタを送りだす。もう、不安は無いよ。きっと戻って来ると信じているから。
翌朝、日が昇る頃にリタとサクラさんは町を出た。
見送る時、サクラさんにフォウの羽を返そうと思ったけれど、サクラさんは受け取らずにこう言ってくれた。
「それはあなたが持っていて。いつか、フォウに会ってあげてね? 約束!」
私は頷く。また一つ、大事な繋がりが出来た。
それからいつも通りに準備を進め、いつも通りにお店を開き、いつも通りに時間は流れて行った。
開店してしばらく。お客さんはまだぽつぽつとしか居ない。
そっと控えめにドアが開き、一瞬、驚いた表情を浮かべてニックが入って来た。
「……お前、行かなかったのか?」
「ニック、おはよう。珍しいね、こんな時間に」
「いや、まぁ……別に良いだろ……?」
ニックはいつもの席に座る。うん、何だか安心する……
「ごめんね、確かめに来てくれたんでしょ? あの後会わなかったもんね」
「忙しかったんだよ……」
「アトラスさんは来てたよ?」
「っ!? あ、あいつとは担当が違うから! あっちは暇なんだよ!」
慌てるニックに思わず笑ってしまう。
「……なんだよ、ったく」
「ごめん、ごめん。でも、ちょうど良かった。話があるんだよ」
ニックは険しい顔をする。
「またあいつに妙な物でも押し付けられたか?」
「違うよ。私ね、好きな人が居るんだ」
ニックはポカーンと口を開けたまま硬直した。
「その人が側に居るのが当然で、今まで気付かないかったんだけど。いつも助けてくれて、励ましてくれて、時には叱ってくれて。たぶん、一番支えてくれてる」
「ま、まさか……」
「うん……」
やっぱり、恥ずかしいなぁ……
「いやいや! 何考えてんだよ! じいさんにはばあさんが居るだろ!? て言うか、年齢的にも無理だって!」
お客さんが全員机に突っ伏した。ニック、確かにおじいさんはいつも側に居るけどね……
「ニック、そろそろ仕事行きなよ。工場長やアトラスさんに怒られるよ」
「え、急に冷たくね?」
「知らないもん」
「意味分かんねぇよ!?」
いつものやり取り。今はまだこれでいいか。焦らず、大事にこの気持ちを育てて行こう。
「またお昼に来てね。待ってる」
「……言われなくても来るよ」
「うん! ありがとう!」
ニックはぶつぶつと呟きながら仕事へと向かった。誤解だけは解かなくては……
「さぁ、頑張ろう!」
恩返しにお仕事に、そしてこの気持ちに、やりたい事は沢山ある。
時間は掛かるかもしれない。苦しい事もあるかもしれない。
でも、この町でなら大丈夫。
カランとドアが開き、ベルが鳴る。
「いらっしゃいませ! レスト・パーチへようこそ!」
次回予告
エピローグ




