うつろの巫覡(ふげき)
研究室の静けさの中、差し出された紅茶から湯気が立ち上っていた。
秀青さんは向かいの席に腰を下ろすと、「あいつは元気だった?」と気負わない声で訊ねてくる。
「ハザマ様のことですか? ええ、今は巫覡をされていて……すごくキレッキレの霊視をしていただきましたよ。やっぱりお知り合いだったんですね」
「あの時は説明できる状況じゃなかったしね。時を改めた方が、こうやって二人きりで逢えるでしょ?」
(――やっぱこの人、人たらしだ)
心の中でそっと呟きながら、気になっていたことを口にする。「すごく似てらっしゃいますけど、ご兄弟ですよね?」
「外見はたまに見間違えられるから、一卵性の双子なんだろうね。でも、中身は全く違うんだ」
ーー中身が違うことくらい、言われなくてもよく知ってる。
「5、6歳で別れてから会ってないな。君、俺に『その節はお世話になりました』って声をかけたよね? なに、あいつ喋れるようになったの?」
「普通に、澱みなく喋っておられましたよ」
数ヶ月前の霊視の出来事を話すと、秀青さんは「へえ……」と感心したように声を漏らした。
彼が静かに語り出した過去は、にわかには信じがたいものだった。
幼い頃のハザマ様は、一日中ぼんやりと退屈もせずに景色を眺めているだけで、全く言葉を発しなかったこと。
それなのに5歳のある日、突然大人びた口調で父親の不倫を指摘したこと。言い当てられた父親は、そのまま不倫相手と蒸発してしまったという。
途方に暮れた母親が、お役目である御園様に相談したところ、父親のことは諦めるよう言われたそうだ。
そして莫大なお金と引き換えに、双子の兄を室生家の養子に出すことを提案され、母親はそれを受け入れた――。
「今でも不思議なんだ。母すら気付かなかったことを、なぜ兄が知っていたのか。そして、なぜあの時しか喋らなかったのか。……それも、子供の口調じゃなかった」
秀青さんは冷めかけたカップを見つめ、静かに続けた。
「兄は空っぽだった。御園様によると、空っぽだからこそ『器』の役割を果たすんだそうだ。……でも、兄と引き換えのお金で母は働かずに暮らせたし、俺も大学に行けた。全部あいつのおかげだから、ずっと気にはなっていたんだよ」
秀青さんの語る過去に驚かされ、すっかり紅茶は冷めてしまっていた。手に持っていたシュークリームの存在すら、すっかり忘れてしまっていた。




