シュークリームの誘い
帰宅後、夕食の箸を進めながら、私は今日出会った不思議な人物について母に切り出した。 「今日ね、ハザマ様に瓜二つなのに、性格はまるで正反対な人に出会ったの」
それを聞いたら母の返事はどこか歯切れが悪かった。
「そう、そんなことがあったの……」 視線を泳がせ、あきらかに何かを隠している気まずさを漂わせている。直感的に、母は何かを知っていると感じた。
「何か、私に知られたらまずいことでもあるの?」 質問する私に、母は困ったように答えた。
「私も詳しくは知らないのだけれど……。ハザマ様はお役目様の実のお孫さんではなく、遠縁の、生まれつき口がきけない幼い子を養子として本家に迎えたらしいの。……ひょっとして、その遠縁の血筋にご兄弟でもいたのかもね」
驚きで、私は思わず箸を止めた。
「養子を取るなんて……! 直系のお孫さんたちがいるのに!?」
「そうなのよ。親戚の間では、余程の霊的な素養がある特別な子なのだと噂されていたわ」
初めて知る事実だった。だから親戚中の人々はハザマ様に対してどこかよそよそしく、「あの方は福虫だから……」などと陰で囁いていたのか。直系のお孫さんたちには恐れ多くて滅多なことも言えないはずだ。
――だが、「口がきけない」というのは何かの間違いではないだろうか。確かに寡黙ではあるけれど、話す時はきちんと会話をしていたはずだ。まったく、うちの親戚はわからないことだらけだ。
その後、この家系の事情が少しずつ見え始めてきたの、あのコミュニケーションお化け、秀青さんが私の学科のアトリエに突然遊びに来てからだ。手土産にシュークリームを持参して。
「えーっと、初音ちゃんだっけ? ここは蝉の声がうるさくて君の声がよく聞き取れないからさ、俺の研究室に来ない?」
秀青さんは片手でシュークリームの箱をオラオラと見せびらかしながら、軽やかに誘ってくる。
――私は犬じゃないっつーの!そんなエサみたいな見せ方に釣られたりはしない……と言いたいところだが。
どうやら彼は景観設計学科の助手をやっているらしい。助手という職業は忙しい時と暇な時の差が激しく、あいにく今は夏休みで暇なのだとか。
そんな軽妙な調子に言いくるめられ、私はつい彼の研究室へとついていってしまったのだった。
そこで秀青さんから、さらに驚愕の真実を聞かされることになるとも知らずに。




