安納 栞という女
私が月島家の中に入ると、俯いた安納先輩が座っていた。私から挨拶をした。
「ご無沙汰しています。先輩。」
彼女は俯いたまま
「先輩と呼ばれるのは……もう、そんな資格は私にはない。」
「顔を上げて下さい。色々とどうしてもお聞きしたい事があるんです。」
やっと先輩は顔を上げた。酷くやつれている。
司法の罪は逃れても、世間の目や良心、秀青さんを失った悔恨が彼女を苛むのだろうか。
「どういった事?」
「表面上、私は秀青さんに振られて別れたように見えたはずです。私自身も振られたと本気で思っていたぐらいです。
どうして私を殺そうとするほど思い詰めたんですか?」
「あんなの秀青さんの演技だと見ればわかるわ。秀青さんと付き合った事のある子なら、周囲からの嫉妬を買うのはわかるでしょ?
だから彼はあなたを守るために振ったように見せたのよ。」
「それが悔しくて!本気だからこそ相手の為に身を引いた。秀青さんは私にはそんな演技してくれなかった。」
「男にあなたを襲わせた時、秀青さんは守ろうとして飛んで来た。確信したわ。それからは嫉妬で身がよじれる程苦しかった。」
「それに……旅行に行った後、お土産を配ってた初音ちゃんの姿がキラキラしてて……誰と旅行に行ったのかもわかってしまった。」
そう言うと先輩はパタパタと膝の上に涙をこぼす。
お母様が先輩を抱きしめた。
「…………」
女の勘は不幸を招く。鋭ければ鋭いほど……
私がここまで苦しまなかったのは透青様がほぼ毎日寄り添ってくれたからだわ…………随分変な寄り添い方だったけど。
「秀青さん、先輩の事を最期まで心配していましたよね。先輩が一生、罪悪感を持ち続けないように “ こんなことになったのは全て自分のせいだ。本当に悪かった……” って」
「恋愛とはまた違った愛ですよね。」
こう言うと先輩は号泣し、
「ごめんなさい!ごめんなさい!!振られたのは本当は自分の性格のせいだと知ってるの!それを認めると、生きていけなかったから!!」
その姿を見つつ、思った。
世間では人には笑顔で愛想よく接しろと。
それが全てを解決するかのように言われているけど、
自分を優しい人に見せかけて相手を依存させちゃだめだ。甘い言葉は罪だ。そんな関係が続く訳ないのだから。
でも、愛を貰って成長しない人はいない……
私と先輩がそうであるように。




