月島家からの誘い
室生・本家の尽力のおかげで、安納先輩――安納 栞は不起訴処分となった。
本来であれば殺人罪として、無期懲役を求められてもおかしくない事件だ。
それを、被害者遺族の処罰感情がないことにして示談を成立させ、お役目様の威光とコネを最大限に利用することで、検察に「起訴猶予」の判断を下させたのだ。こんなこと普通ではあり得ない。
これにより、先輩に前科がつくことは回避された。
室生・本家、恐るべし。
未来ある若い女性の経歴に傷をつけないよう、できるだけの事をしてやりたい――それがハザマ様のお考えであった。(ちなみに、私を襲おうとしたあの雇われの男には、一切の容赦なく実刑判決が下った)
本当は、私は安納先輩と直接話がしたかった。が、なかなかきっかけが掴めずにいた。
私は秀青さんに振られ、自分でも別れていたと、そう思っていた。
なぜ彼女は、私を殺そうとするほど思い詰めたのか。
何故、旅行以降の秀青さんとの関係が彼女にバレてしまったのか。
聞きたいことは山ほどあるのだ。
そんな折、月島のお母様から電話で連絡があった。
安納先輩が、秀青さんの仏前に手を合わせに来るらしい。
「初音さん、もし怖くなければ、ご一緒にお話ししませんか? 栞さんが初音さんに直接謝りたいと言っているんですが……」
お母様は、例の手紙を読んだことで秀青さんが未だに存在していることをご存知であり、嫉妬が理由で我が子を巡って事件を起こした栞さんを恨んではいないようだった。
「私も昔、夫の不倫相手を殺したいほど憎んだことがあったから……嫉妬で身を焦がすような苦しみは、痛いほどわかるの」
電話越しに聞いたその静かな声には、深い実感がこもっていた。
お母様と約束したのはただ一つ。「透青様の正体については黙っておく」ということだけ。
初夏の爽やかな風を肌に浴びながら、歩を進める。
秀青さんと出会ってから、もう一年かぁ。本当に色んな事があったなあ……。
そんな感慨にふけりながら思案しているうちに、月島家に着いた。
「初音さん、ようこそいらっしゃいましたね。栞さんももう、いらっしゃってますよ」
門をくぐると、お母様が穏やかにお出迎えしてくれた。




